五臓六腑:腎の働き / 補腎のすすめ

はじめに

最も重要なことを「肝心要(かんじんかなめ)」と言いますが、この「肝心」は本来「肝腎」と書いていたそうです。
中医学における「腎」は、現代医学の「腎臓」の働きに加え、成長や発育、老化、免疫など幅広い役割を担っており、「腎」の働きの充実さが、その人の身体全体の健康と深く関わります。そのため、「腎」の働きが弱ると、発育が遅れたり、不妊症や更年期障害、骨粗鬆症、脱毛など様々な不調や老化現象の原因にも…。このことからも、「腎」は、まさしく人間の「要(かなめ)」の臓器と言えます。
「腎」の働きを補い、高める「補腎(ほじん)」。西洋医学にはない、中医学特有の「腎」の考えと「補腎」の魅力を少しでもお伝えできればと思います。

古来から伝わる人体のリズム

中国では、古くから「女性は7の倍数、男性は8の倍数」で身体の変化があると言われています。女性は28歳、男性は32歳で腎が最も充実して身体や生殖機能がピークを迎え、その後は徐々に腎の働きが弱くなり、様々な不調や老化現象が現れやすくなります。

■女性は7の倍数で変化する

■男性は8の倍数で変化する

「腎」の働き

 ①精を蔵する

「精(せい)」とは、人間の生命力の源であり、生命活動を維持する基本物質と考えらています。「腎精(じんせい)」は、生まれたときに両親から受け継いだ「先天の精(せんてんのせい)」と、日々の飲食物から得られる「後天の精(こうてんのせい)」の2つから作られます。

それぞれの働きについて

①生長・発育、生殖に関係する

「腎精」は生長・発育の基本物質であり、人間の一生をあらわす”生(生まれる)・長(成長する)・壮(盛りを迎える)・老(老いる)”と深い関係にあります。
そのため、「腎精」が不足すると、発育不良や老化に伴う症状が出やすくなります。
また、「腎精」は生殖器官の発達と生殖能力にも関係しているため、生理の不調や不妊、精力の減退にもつながります。

②髄を生みだし、骨や脳を栄養し管理する

「腎精」は髄(脳髄、脊髄、骨髄)を作り出します。
髄は骨を形成し、髄が集まって脳を形成し、また、骨髄とも関係があることから血液の生成にも関係します。高齢になるほど、骨がもろくなったり、記憶力が低下するのは、年齢を重ねるごとに「腎精」が減っていくためです。

③水と関係する

現代医学の「腎臓」の役割に近く、水分の代謝と排泄に関わり、身体の水分をコントロールしています。この働きが弱くなると、尿量の増えたり、減ったり、むくみの症状が生じやすくなります。

④気を納める

中医学には「肺は気の主、腎は気の根」という言葉があり、呼吸機能は主に「肺」が二枚ますが、息を深く吸い込むには「腎」の働きが必要になります。
呼吸が浅く、動くとすぐ呼吸困難になる方は、「腎」の力が低下している可能性があります

「腎」と五行の関係

⑤腎は耳及び二陰と関係がある

耳は「腎精」により養われることで、正常な聴覚が保たれます。老化の症状により耳が遠くなったり、耳鳴りがするのは、年齢とともに「腎精」が減ることが原因です。
また、二陰とは前陰(尿道や生殖器)、後陰(肛門)のことを指し、「腎」が弱ることで尿や便の不調、生殖系のトラブルが起こりやすくなります。

⑥腎の華は髪にある

美しい花を咲かせるためには、まず根がどっしり張っており、土からしっかり栄養分を吸収し、花に届ける必要があります。中医学では、この「根」にあたるのが「腎」、そして吸い上げられる「栄養分」が「精(せい)」です。「腎」がしっかりしていて、「精」がたっぷりと蓄えられていれば、髪は栄養を受けて、いつまでも若々しく、元気に保たれます。髪の健康は、腎の充実度を映す鏡とも言えるのです。

⑦腎と関係がある季節は冬である

動物たちが冬眠をして活動を控え、エネルギーを蓄えるように、年齢とともに自然に衰えていく「腎」は、冬に無駄な消耗を避け、しっかりと養う必要があります。
冬の時期に無理をしたり、過労や睡眠不足が続いたり、身体が冷えたりすると「腎」の働きは衰えやすくなります。

「補腎」とは?

先述のように「腎」は、私たちの生命活動において非常に重要な働きを担っています。「腎精」、燃えているロウソクのようなもので、加齢や過労などで少しずつ減っていき、新たに増やすことはできません。
また、その蝋(「腎精」)から立ちのぼる炎が「腎気」であり、蝋が減れば炎も小さくなってしまいます。つまり、「腎気」も年齢を重ねるごとに弱くなっていきます。

蝋そのものは増やすことはできませんが、蝋に油を足すことで、消費を抑えることはできます。この油を足す行為が「補腎」にあたり、「補腎」をすることで「腎」の衰えによる老化現象(更年期障害、物忘れ、耳が遠くなるなど)を予防・緩和したり、生殖機能の向上にもつながるため、妊活のサポートとしても有効とされています。

補腎薬について

「腎」には「腎陰(じんいん)」と「腎陽(じんよう)」が存在します。
💧腎陰:身体を潤し、冷ます役割
🔥腎陽:身体を動かし、温める役割

温泉に例えると、温泉の水源である地下水が「腎陰」、熱の根源であるマグマが「腎陽」に相当します。心地良い湯加減になるには、水と熱のバランスがとえれていなければなりませんが、中医学でも「腎陰」と「腎陽」のバランスを保つことが重要になります。
💧腎陰を補う漢方薬の例
→六味地黄丸、杞菊地黄丸、瀉火補腎丸(知柏地黄丸)など
🔥腎陽を補う漢方薬の例
→八味地黄丸、参茸補血丸、参馬補腎丸など

最後に

これまでお伝えしてきたように、「人生」を健康で豊かに過ごすには、「腎精」が豊富に充実していることが非常に重要になります。つまり、”人生”とは「腎精」そのものとも言えます。

以下のような症状に心当たりはありませんか?

✅足腰が痛い、だるい
✅若い頃に比べ疲れやすくなった 
✅頻尿・尿漏れが気になる
✅耳が遠くなった 
✅肌のシミ・シワが増えた 
✅更年期障害 
✅生理不順、不妊 
✅精力低下 など
これらは、もしかすると「腎」の働きが弱くなってきているサインかもしれません。

若々しさを保ち、いつまでも健康に過ごすためには「腎」を労わり、日々の生活の中でその働きを補うことが大切です。

漢方薬局では、植物性より効果が高いと言われている「鹿の角」や「亀板」、「スッポン」などの動物性の生薬が配合された補腎薬を多く取り扱っています。
⚠️動物性生薬を含む漢方薬は、ほとんどが保険適用外のため、病院では処方できないことが多いです。

お一人おひとりの体質に合わせた「補腎薬」のご提案をしておりますので、気になる方はぜひお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

頭痛と漢方薬

はじめに

誰もが経験したことのある「頭痛」。
実は日本人の4人に1人は慢性的な頭痛に悩まされているとされており、鎮痛剤をなかなか手放せない「頭痛もち」の方も少なくありません。

当薬局においても、「少しでも鎮痛剤の量を減らしたい」、「薬に頼らない生活を送りたい」といったご相談が日々寄せられています。

頭痛とは?

頭痛は、下記のタイプに分類されます。その中でも、慢性的な頭痛で苦しんでいる方(頭痛持ち)の多くは「一次性頭痛」に該当します。

中医学における痛みの考え方

中医学では、頭痛や腰痛、生理痛など様々な痛みの原因を下記2つに分けて考えます。
🌀不通則痛(ふつうそくつう):通じざれば則ち痛む
気や血、津液の流れが悪くなり体内に詰まりが生じることで痛みが発生する。

🌀不栄則痛(ふえいそくつう):栄えざれば則ち痛む
気や血(栄養)の不足により、臓腑や経絡、組織、器官が滋養されず、痛みが発生する。

中医学で考える頭痛

中医学では、頭痛の起こる原因により大きく2つに分けて考えます。
①外感頭痛:外部の影響を受けて痛みが発生する。 (急性の痛み)
②内傷頭痛:臓腑の機能失調により痛みが現れる。(慢性的に続く痛み)

①外感頭痛

自然界の影響(風・寒・暑/熱・湿)により引き起こされる頭痛です。
外感頭痛の原因となる邪気については、別記事👇も参考にしてみてください。
カゼと漢方薬 – 日々の生活に漢方を

1.風寒頭痛(ふうかんずつう)

カゼの引き始めに悪寒とともに頭痛や首~後頭部のこわばりを感じたことはありませんか?
これは、寒さによって体の中の「気(エネルギー)」や「血(栄養)」の流れが滞り、痛みとして現れている状態です。ちょうど、気温が下がると川の水が凍って流れが悪くなるようなイメージです。

<🧊主なサイン>
✅頭痛(ゾクゾクする、こわばる)
✅首から後頭部のこわばり
✅カゼの症状(悪寒、発熱、鼻水など)

痛みの原因である「風寒」の邪気を発散させる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:頂調顆粒(川芎茶調散)、葛根湯、麻黄附子細辛湯など

💊川芎茶調散
「川芎茶調散」は頭痛の専門薬とも呼ばれ、後述する様々な頭痛のタイプに併用して使用することができます。

2.風熱頭痛(ふうねつずつう)

暖房を使用すると温かい空気が上へと上がっていきますよね。
これと同じように、「熱邪」も身体内の上部である頭部に影響を及ぼし、熱感を伴った頭痛へとつながります。
特に体温が高いと、心拍数が上がって血流が増えるため、ズキンズキンと拍動するような痛みを感じることがあります。

<🔥主なサイン>
✅ズキンズキン・ジンジンするような痛み
✅顔が熱い、口や喉が渇く
✅カゼの症状(発熱、咽頭痛)

頭部の「熱」を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:涼解楽(銀翹散)、銀翹解毒散、荊芥連翹湯など

3.風湿頭痛(ふうしつずつう)

「雨の前になると頭が重い…」「梅雨の時期や低気圧の日に頭が痛い」
こんな経験、ありませんか?

このような頭痛は、”自然界の湿気”=「湿邪(しつじゃ)」の影響が原因と考えられます。湿度の高い日に除湿器を使用すると、タンク内に水がたくさん溜まりまるように、身体の中にも余分な水=「湿」が溜まり、それが頭部にこもることで頭が重く痛い、体が重だるいといった症状がでます。

<☁️主なサイン>
✅頭痛(重く包み込まれる感じ、ドーンとする)
✅身体が重だるい
✅食欲不振、軟便

頭部に溜まった「湿」を追い出す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散など

💡ちなみに…
以前のブログ「五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を」でも触れましたが、脾胃(胃腸)の働きが弱い方は、体内に「湿」を溜めやすく、外界の「湿邪」の影響も受けやすいとされています。中医学では、これを「内湿が外湿を呼ぶ」と言います。
したがって、脾胃の働きが低下している方は、「湿」を処理しつつ、「脾胃」の機能を立て直すことも大切になります。(詳しくは、②内傷頭痛の「痰濁頭痛」を参照ください。)

②内傷頭痛

1.気虚頭痛(ききょずつう)/ 血虚頭痛(けっきょずつう)

中医学では、頭部を「清陽の府」といい、全身の陽気(エネルギーや栄養素)が集まる場所とされています。
そのため、エネルギーが不足している「気虚タイプ」や身体内の栄養や潤いに関わる「血」が不足している「血虚タイプ」は、頭部に十分な栄養が届かず、頭痛やふらつきといった症状を引き起こします。
食事を取らない時間が続いたり、空腹を我慢すると、「頭がぼーっとする」「フラフラする」することがありますが、「気虚」や「血虚」の頭痛はこの状態に近いと言えます。

🪫気虚頭痛
<主なサイン>
✅頭痛(疲れた時に酷くなる)
✅倦怠感、疲れやすい
✅食欲がない
✅下痢、軟便気味

「気」を補い、「気」の生成に関わる脾胃(胃腸)の働きを高める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:補中丸(補中益気湯)、健胃顆粒(香砂六君子湯)など
頭痛症状が強い時は、上記で述べた「頂調顆粒(川芎茶調散)」を併用するとより効果的です。

🩸血虚頭痛
<主なサイン>
✅頭がふらつく、ボーっとする、シクシク痛む
✅生理後の頭痛
✅顔が白い、青白い
✅動悸や不眠がある

不足している「血」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:婦宝当帰膠、心脾顆粒(帰脾湯)、人参養栄湯など

2.痰濁頭痛(たんだくずつう)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰濁」と呼びます。
水道管にヘドロが詰まって水の流れが悪くなるように、体内に「痰濁」がたまると「気」や「血」の巡りが滞り、頭痛やめまい、吐き気などの不調があらわれるのです。

<💧主なサイン>
✅頭が重く痛む、ズーンとする痛み
✅めまい
✅吐き気や嘔吐
✅身体が重く感じる
✅ 雨の日や気圧の変化に弱い

身体内にある「痰濁」を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、星火温胆湯など

💡ちょっと補足…
中医学では、「脾は生痰の源」という言葉があります。
これは、脾胃(胃腸)が弱いと、水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まり痰が生じやすくなるという考え方です。
つまり、「痰濁」が原因の頭痛では、単に「痰」を取るだけでなく、胃腸の働きを整えることが根本改善への第一歩。日々の食生活や生活リズムを見直すとより効果的かもしれません。

3.肝火頭痛(かんかずつう)

中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」や「血」の流れを調節し、精神面の安定に関与していると考えらています。
しかし、ストレスや精神的な負荷がかかり自律神経が乱れると、「肝」の働きが低下し、「気」や「血」が渋滞を引き起こし、イライラやのぼせ、拍動性の頭痛など、まるで「オーバーヒート」したような症状が現れます。

<🔥主なサイン>
✅ 頭痛(キリキリ、ズキンズキンと痛む)
✅耳鳴り、めまい
✅目の充血、赤ら顔、のぼせ
✅ストレスや緊張を感じやすい
✅生理前の頭痛

高ぶっている「肝火」を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:瀉火利湿顆粒(竜胆瀉肝湯)、釣藤散など

「肝火」になる要因としては、上記で説明した「気」の滞りがあるため、「気」の流れを良くする「加味逍遥散」や「大柴胡湯」などを併用することもあります。

5.瘀血頭痛(おけつずつう)

「瘀血」とは、血の巡りが滞ってドロドロとした状態を指します。
この状態になると、、血流がスムーズに流れず、まるで交通渋滞のように詰まり、「不通則痛」の原則により痛みを引き起こします。

<🌀主なサイン>
✅針で刺されたような痛み、ズキンとする
✅肩・首こり
✅生理痛が酷い
✅舌裏の血管が青紫色に浮き出ている

「血」の滞りを解消する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参、など

最後に

ひと口に「頭痛」と言っても、実はその原因や体質はさまざまです。
漢方薬は、西洋薬ほど痛みに対しシャープに効きませんが、痛みの原因や体質に対しアプローチすることができ、頭痛を引き起こさない身体作りをを目指すお手伝いができます。

ご自身の体質や頭痛の傾向を知ることは、セルフケアの第一歩。
「ただ痛みを止める」のではなく、頭痛が起きにくい身体を内側から整えていきましょう。頭痛でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

めまいと漢方薬

はじめに

日常生活に大きな影響を及ぼしかねないめまい。
目がぐるぐる回るような感覚や、ふわふわとした浮遊感…。
「また起きるかもしれない」という不安は、日常生活に支障をきたすだけでなく、精神的なストレスにもつながります。
🟡症状がなかなか改善しない、検査しても異常が見つからない
🟡雨の日や気圧が下がるとめまいを引き起こす
🟡季節の変わり目、とくに春先にふらつきが出る
そんなお悩みを抱える方は少なくありません。

今回は中医学の視点から、「めまい」のタイプや原因を分かりやすくご紹介しながら、体質に応じた漢方的アプローチをお伝えします。

めまいの分類

一口に「めまい」といっても、様々な種類に分類されます。

■めまいの自覚症状

■末梢性めまいの特徴

中医学で考えるめまい

中医学では、古くから”めまい”について以下のような言葉があります。
①無虚不作眩:身体に必要なものが不足していなければ、めまいは起きない
②無痰不作眩:痰(余分な水分)がなければ、めまいは起きない
③諸風掉眩、皆属於肝:風によって生じる、めまいやふるえは、みな肝と関係がある

①無虚不作眩:身体に必要なものが不足していなければ、めまいは起きない
 

1.気血不足(きけつぶそく)

中医学では、頭部は「清陽の府」とされ、全身の陽気(エネルギーや栄養素)が集まる場所とされています。
エネルギーが不足している「気虚タイプ」や、身体内の栄養や潤いに関わる「血」が不足している「血虚タイプ」は、頭部に必要な「清陽(陽気=栄養素)」を脳に届けられず、栄養不足を引き起こすことでめまいを引き起こします。

<主な特徴>
✅動くとめまいが酷くなる
✅疲れやすい、倦怠感
✅食欲がない
✅動悸・不眠

不足している「気」や「血」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:婦宝当帰膠、十全大補湯、補中益気湯など

2.腎精不足(じんせいぶそく)

中医学では、「腎」は骨や脳を作る「精(せい)」というエネルギーを蓄えていると考えます。この「精」が集まってできたのが「髄(ずい)」であり、それが集まることで脳が形作られます。
そのため、脳は「髄の海」とも呼ばれ、「腎」の「精」がしっかりしていれば、脳もしっかり働くことができます。

しかし、加齢や疲労などで「腎精(じんせい)」が足りなくなると、脳の栄養が不足し、めまいや物忘れ、耳鳴りといった症状が出やすくなります。

<主な特徴>
✅物忘れが酷い
✅足腰がだるく、力が入らない
✅耳鳴り
✅精力の減退
✅更年期に伴う不調

「腎精」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:六味地黄丸、八味地黄丸、海馬補腎丸など

②無痰不作眩:痰(余分な水分)がなければ、めまいは起きない
 

●痰濁中阻(たんだくちゅうそ)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰濁」と呼びます。
例えば、水道管にヘドロが溜まると水が流れにくくなるように、「痰濁」が頭部や身体内に溜まると、「気」や「血」が脳に十分に届かずめまいを生じます。

<主な特徴>
✅頭・身体が重だるい
✅胸がムカムカする
✅浮腫む、下痢・軟便気味
✅食欲がない

身体内に溜まった余分な水分を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、星火温胆湯など

また、中医学では、「脾は生痰の源」という言葉があり、脾胃(胃腸)が弱っていると、水分代謝がうまく働かず、体内に「痰」が生じやすくなります。
「痰」が原因による症状の場合は、まずは脾胃(胃腸)の状態や生活習慣を見直すことから始めると良いかもしれません。

③諸風掉眩、皆属於肝:風によって生じる、めまいやふるえは、みな肝と関係がある

●肝陽上亢(かんようじょうこう)

五行学説では、「肝」は「風」や「木」と関連があると考えます。
木々が風にあたるとゆらゆらと揺れるように、身体内に「風」が生じると、めまいやふらつきの症状がでやすくなります。

身体内に「風」が生じる原因としては、以下のようなものがあります。
✔️慢性的なストレスや心配事を抱えている:「肝」は自律神経と深く関係していて、ストレスがたまると乱れやすくなります
✔️体内の潤い(陰血)が減り、エネルギー(陽気)が相対的に強まっている:自然界でも乾燥した木は燃えやすく、炎が立ちのぼると風を巻き起こしますよね。体の中でも同じような現象が起こると考えます。

春先に”めまい”や”ふらつき”などを訴える方が多いのは、春は「春一番」と言われるように、冬から春へ季節の変わり目で強い風が吹くことで「風」の影響を受けやすくなるためです。風により草木が揺れるように、身体内が風の影響を受けることで体内も揺れ、”めまい”や”ふらつき”などの症状を生じしやすくなります。

<主な特徴>
✅耳鳴りや頭痛がある
✅怒りっぽい、赤ら顔、目が充血しやすい
✅血圧が高い
✅不眠や夢をよくみる

身体内で生じた「風」を鎮める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:釣藤散、抑肝散、星火睛明丹(石決明、白僵蚕含有食品)など

④その他

上記以外にも血の滞りが原因の「瘀血(おけつ)タイプ」や冷えが原因の「陽虚(ようきょ)タイプ」などもあります。

最後に

漢方薬に頼ることも大事ですが、それ以上に日々の養生が症状改善の近道となります。日頃の食事や運動、睡眠、ストレスなども合わせて見直してみましょう。

<おすすめ食養生>
🟡気血不足タイプ
・気の不足:米類、芋類、豆類、肉類
・血の不足:レバー、鶏肉、小松菜、ほうれん草

🟡腎精不足タイプ:山芋、長芋、枸杞の実、黒豆、黒ゴマ

🟡痰濁中阻タイプ:キノコ類、海藻類、はと麦、はるさめ

🟡肝陽上亢タイプ
・ストレス過多:セロリ、春菊、柑橘類、酢の物
・潤い不足:れんこん、きゅうり、トマト、豆乳、豚肉

「なかなか原因がわからない…」
「いろんな対策をしても改善しない…」

そんな厄介な“めまい”こそ、漢方の得意分野です✨
体質を見極めて、その方に合った漢方薬を選ぶことで、根本からの改善が期待できます。
めまいの治療で悩んでいる、症状が改善しない、体質に合わせた漢方薬を服用してみたいという方は、お気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

胃痛と漢方薬

胃痛のメカニズム

私たちの胃は、胃の粘膜を守る「防御因子」と胃酸などの「攻撃因子」のバランスが保たれていることで、正常に働いています。しかし、何らかの原因で「攻撃因子」の働きが強まったり、「防御因子」が弱まり、相対的に「攻撃因子」の比重が高くなると胃痛が発生します。

バランスを崩す原因としては、以下のような生活習慣や心理的ストレスが挙げられます。
🟡脂っこい物/辛い物/甘い物の過食
🟡アルコールの過飲
🟡寝不足
🟡精神的なストレスや疲労
🟡喫煙

機能性ディスペプシアとは?

最近では、病院で検査を行っても炎症や潰瘍などの異常見つからないにも関わらず、胃の不調(胃の痛み、胃もたれ、胸やけなど)が続いている方が増えているようです。このような状態を「機能性ディスペプシア:Functional Dyspepsia : FD)」と言い、下記の通り定義されています。

1.症状

機能性ディスペプシア(FD)の診断基準(RomeⅣ基準)
下記の症状のいずれかが診断の少なくとも6か月以上前に始まり、かつ直近の3か月間に上記症状がある。
1.つらいと感じる心窩部痛(みぞおちの痛み)
2.つらいと感じる心窩部灼熱感(みぞおち辺りが焼けるような感じがする)
3.つらいと感じる食後のもたれ感
4.つらいと感じる早期飽満感(食べ始めてすぐに満腹感、膨満感を感じる)
及び症状を説明しうる器質的疾患はない。

食後愁訴症候群(PDS)の診断基準
少なくとも週に3日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。
1.つらいと感じる食後のもたれ感
2.つらいと感じる早期飽満感

心窩部痛症候群(EPS)の診断基準
少なくとも週に1日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。
1.つらいと感じる心窩部痛
2.つらいと感じる心窩部灼熱感

2.原因

機能性ディスペプシアを引き起こす詳しい原因は明らかになっていませんが、
・胃の運動機能が正常に働いてない
・胃酸が過剰に出ている
・胃腸の知覚過敏(胃酸の刺激に敏感になっている)
・ストレスによる自律神経の乱れ
・生活習慣や食生活の変化
・ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)への感染
などが考えられています。

中医学における胃腸(脾胃)の働きについて

「脾胃」の詳しい働きは👇から
五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

中医学で考える胃痛

1.❄️胃寒(いかん)
~冷えによる胃の痛み~

お酒の席などで、冷たいビールやお刺身などをたくさん摂った後に、急にお腹が痛くなった経験はありませんか?

胃腸は、体温と同程度の温度で正常に機能すると考えられています。
そのため、冷たい飲食物を摂りすぎると、胃腸が急激に冷やされて働きが低下し、痛みを引き起こすことがあります。

この冷えの影響を「寒邪(かんじゃ)」と呼び、寒邪により気血の流れが滞ると、「不通則痛(ふつうそくつう)」=“流れなければ痛む”という状態になります。

さらに、今回の痛みの原因である「寒邪」には「凝滞(ぎょうたい)」と「収斂(しゅうれん)」という特徴あるため、痛み方はギューッと引きつるような激しい痛みになります。

<主な特徴>
✅冷たい物の過食・過飲により引き起こされる痛み
✅痛みは激しく、絞られるような痛み
✅温めると痛みが和らぐ

胃を温めながら痛みを抑える漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:安中散、勝湿顆粒(藿香正気散)/香蘇散+芍薬甘草湯など

💊大正漢方胃腸薬
漢方の胃腸薬として有名な「大正漢方胃腸薬」は、上記の安中散と芍薬甘草湯を組み合わせた漢方薬になります。したがって、「寒邪」が原因の胃痛に対しては、非常に効果的といえるでしょう。
ただし、後述するような「熱」や「ストレス」、「胃の潤い不足」など、別の要因による胃の痛みには、異なるアプローチが必要です。症状の特徴に応じて、適切な漢方薬を選ぶことが大切です。

2.🔥胃熱(いねつ)
~食べ過ぎ・ストレスで胃に熱がこもる~

「食べたばかりなのに、すぐにお腹が空いてしまう」「しっかり食べたのに満足できない」「満腹になるまで食べないと落ち着かない」――そんな経験はありませんか?

中医学では、このような状態を「胃」に熱がこもり、働きが亢進している状態と考え、辛い物・脂っこい物・甘い物などの過食や精神的なストレスにより引き起こされると考えます。

<主な特徴>
✅胃が焼けるように痛む
✅胸やけがする
✅酸っぱい水や苦い胃液が出る
✅口臭が酷い
✅食べてもすぐお腹がする

「胃」に停滞している熱を清ましてあげる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:三黄瀉心湯、黄連解毒湯など

3.💢肝気犯胃(かんきはんい)
~ストレスや緊張が胃に影響~

緊張する場面(テストや面接、プレゼンの前など)やちょっとした不安(電車に乗った時や学校、会社に行く前)でお腹(胃)が痛くなったことはないでしょうか?

中医学では自律神経を主る「肝」の気が高ぶることで「脾胃」が攻撃され、その影響により胃の痛みが引き起こされると考えます。

<主な特徴>
✅精神が緊張状態の時に痛みがでる
✅ストレスを抱えやすい、緊張に弱い
✅お腹(胃)が張ったような痛み
✅よく脇腹が張る、ゲップをする

「肝」の気の流れを良くしながら、「脾胃」を守る漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:開気丸、四逆散、逍遥顆粒など

4.🩸瘀血阻絡(おけつそらく)
~血の巡りが悪くて痛む~

上記で述べた「寒邪」や「気滞」などが長期間続くと血の流れが停滞し「瘀血」が生じます。瘀血により「気血」の流れが塞がれ、「不通則痛」という状態を引き起こすため胃痛が生じます。

<主な特徴>
✅差し込むような痛み(針で刺されたような痛み)
✅痛みの箇所が固定している(瘀血は1か所に留まる)
✅お腹を擦ったり、触れたりすると痛みが増す(拒按)
✅吐血、便血がみられる

「気」と「血」の巡りを良くすると漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:加味逍遥散、桂枝茯苓丸など

5.💧胃陰不足(いいんぶそく)
~潤い不足による胃の不快感~

胃には、上記で述べたように胃粘液などの「防御因子」がありますが、この胃を守る粘液が不足している状態を「胃陰不足」と言います。(地面に潤いがなく、干からびてひび割れているような状態です。)
上記2で述べた「胃熱」が慢性的に続くと、胃内にある潤いが蒸発し「胃陰不足」へとつながります。また、長年胃の不調に苦しんでおり、胃酸を止める薬を飲んでも症状が一向に改善しない方にもこのタイプが多く見られます。

<主な特徴>
✅胃が焼けるように痛む
✅胸やけがする、上腹部の不快感
✅満腹感を感じやすい
口や舌が乾燥する
✅便秘気味でコロコロしている

「胃」に潤いを与えてくれる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:麦門冬湯、艶麗丹、百潤露など

6. 🥶脾胃虚寒(ひいきょかん)
~体質的な胃腸虚弱~

物心ついた時から胃腸が弱い、慢性的に胃痛が続いている場合は、このタイプにあたります。「脾胃」を温めるエネルギーが不足するとお腹の冷えを感じやすくなり、先に紹介した「胃寒」とは異なり、慢性的にシクシクという痛みが続きます。
「脾胃」が弱い方は、下記の特徴に加え、疲れやすかったり、下痢・軟便、食後にお腹が張る・眠くなるという症状を伴うことが多いです。

<主な特徴>
✅シクシクとお腹(胃)が痛む
✅お腹を擦ったり、おさえると痛みが和らぐ(気持ちが良い)
✅食後に痛みが緩和する
✅食欲があまりない、食事量が少ない

胃腸の働きを高めながら、お腹を温める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:小建中湯、人参湯、四君子湯類など

また、「脾胃」の機能が弱ると、水分代謝がうまくいかずに胃腸に余分な水分(湿)がたまります。その結果、胃痛だけでなく、胃のむかつきや吐き気(悪心)などの症状を伴うことがあります。このような場合は、半夏瀉心湯や黄連湯などの使用も考えられます。

最後に

以前「下痢と漢方薬 – 日々の生活に漢方を」の記事でもお話ししたように、日本人は胃腸が弱い体質の方が多い傾向があります。

しかし、胃の不調を「たまたま調子が悪いだけ」と軽く捉えてしまっていませんか?
中医学では、「脾胃(胃腸)」の健康の土台と考えます。「人間の体は食べたもので出来ている」とよく言いますが、健康への第一歩は「脾胃」の働きを良くすることが非常に重要になります。

長年続く胃の不調や、胃酸を止める薬(ファモチジンやオメプラゾールなど)を飲んでも症状が改善しない。あるいは、機能性ディスペプシアのように原因がはっきりせず西洋薬を飲んでも効果がいまひとつという場合は、漢方薬を選択肢にいれてみてはいかがでしょうか😌

漢方薬は、上記で述べたようにその症状のタイプに合わせて様々な漢方薬があります。ご自身の胃腸症状に合う漢方薬をお探しの方は、ぜひ一度ご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

五臓六腑:脾胃の働き

はじめに

中医学を勉強し始め約2年が経ちました。当時を思い返すと、日本人は外見や表面的な清潔さ・美しさには敏感でも、体の内側、つまり「内臓の健康」にはあまり目を向けていない傾向があると感じます。
最近では、テレビやCM、本などで、「腸内細菌」や「腸内フローラ」という言葉をよく聞くようになり、身体の内部にスポットが集まるようになってきました。しかし、中医学では2000年前も昔から「胃腸の健康=身体の健康」という考え方が重視されてきました。
「ご飯を食べると元気になる!」「人間の体は食べたもので出来ている!」という言葉があるように、胃腸の状態の良さがその人の身体の元気や健康へとつながります。言わば、胃腸が私たちの身体を作っているのです。

身体の根本とも言える胃腸(脾胃)の働きを理解し、健康的な生活の第一歩を歩み始めませんか。

「脾胃:ひい」の働き

「脾胃:ひい」は、現代医学の胃腸の働きに近く、私たちが摂取した飲食物を消化吸収し、身体に必要な栄養素(気・血・津液)を全身に届ける働きをしています。

「脾」と「胃」のそれぞれの詳しい働きは下記に記載してますので、気になる方はご参照ください。

「脾:ひ」の働き

■「脾」の生理機能
①運化(うんか)を主る
運化の「運」は運送や輸送、「化」は消化吸収を意味しており、運化には2つの働きがあります。

1.精微物質の運化:飲食物から人間の生命活動に必要な気(エネルギー)・血(血液)・津液(水)を作り出し、心肺に運び全身に届ける働きをしています。
そのため、「脾」は「気と血を生む源」と言われています。

2.水液の運化:水液を吸収して心肺に運び、全身に送り出します。

「脾」の働きが弱まり運化機能が失調すると、
1.精微物質の運化の失調:エネルギーを作り出すことができない
👉疲れやすい、やる気がでない

2.水液の運化の失調:水液代謝が機能しない
👉下痢や軟便、浮腫

という症状に陥りやすくなります。

②統血(とうけつ)を主る
「脾」は、血液を血管の中にとどめておく働きもあります。
中国の古典には「五臓六腑の血は全て脾気の統摂に頼る」と記されており、「脾」の働きが弱まると、血液が漏れ出しやすくなり、女性の不正出血や皮下出血(青あざができやすい)、鼻血、血便などの症状が現れやすくなります。

「胃:い」の働き

■「胃」の生理機能
「胃」の働きは、現代医学の機能と近いとされており、以下の働きがあります。
①受納(じゅのう):飲食物を受け入れる

②腐熟(ふじゅく):飲食物を消化しやすい状態にする

③降濁(こうだく):消化した飲食物を小腸へ降ろす

胃の働きが弱まると、上記の①→③の流れが機能しないため、食欲が減退したり、飲食物が小腸へ送ることができず逆流し悪心や嘔吐、ゲップ、お腹(胃)が張って痛むというような症状が出やすくなります。

「脾」と「胃」の関係

「脾」と「胃」は表裏関係にあり、お互いに協力しながら消化・吸収を担っています。
「胃」が食べ物を受け取り下へ送る「下降」の働きを担い、「脾」は栄養を吸収し上に運ぶ「上昇」の働きをします。この“上昇”と“下降”のバランスが崩れると、消化吸収全体の流れが滞り、体調不良へとつながります。

「脾」と五行の関係性


①脾は口に開竅(かいきょう)し、その華は唇にある
口と唇は「脾」と深い関係にあり、脾の働きが弱まると以下の症状が出やすくなります。

✅味覚が変化する(口が淡く味を感じない)
✅口が粘つく
✅唇が乾燥する、唇の色が薄くなる
✅口やその周辺にできものができる

②脾は肌肉(きにく)を主り、四肢を主る
肌肉とは、私たちの筋肉や脂肪、皮下組織を指します。
「脾」の運化機能が正常に働くと、生成された「気」や「血」が身体のすみずみ(四肢)まで巡らせ、筋肉や脂肪に届き運動の原動力となります。そのため、「脾」が弱ると、肌肉や四肢に栄養がいかず、筋肉が落ちる、痩せる、倦怠無力といった症状へと繋がります。

③脾の志は思である
中医学では、「思(考え事をしたり、何かを深く考え込んだり)」という感情は、「脾」と関連性が深いとされ、思慮過多(深く考え過ぎると)になると、「脾」が傷つけられ、その働きが低下します。また、「心」は精神・メンタルと関係があるため、「思は心脾から発する」とも言われています。
考え事や悩み事が続くと、食欲が低下したり、眠れない日々が続くのは、「脾」が損傷され、「気・血」が生み出されず、同時に「血」が消耗されることが原因になります。この時に使用される代表的な漢方薬が帰脾湯になります。

④脾の液は涎(よだれ)である
涎は、唾液中の希薄な液体を指します。働きは唾液と同様で、口腔粘膜の保護や消化の補助をしています。唾液が何だか粘つく、話している最中に唾液が溢れるなどの症状がみられる場合は、「脾」が弱っている可能性があります

⑤脾は燥を喜び、湿を悪む / 胃は湿を好む
~「脾胃」の働きは、家を建てる工程に似ている?~

家を建てる時の工程を想像してみてください。

まず、山から木を伐り出し、それを建築用の木材として加工し、それらの加工された木材を使って家を組み立てていきます。この一連の流れは、中医学でいう「脾胃(ひい)」の働きにとてもよく似ています。

たとえば、「胃」は、飲食物を受け入れて、消化しやすいように分解する役割を担います。これは、伐り出された木を整えるために加工される工程と似ています。
木材を加工する際、完全に乾いてしまっていると割れや反りが生じて使いにくくなります。そのため、木材にはある程度の「潤い」が必要です。同じように、胃も消化のためには「湿(しめり)」、つまり胃液のような体液が必要となります。

一方、「脾」は、胃で消化されたものを栄養として吸収し、それを身体全体に運ぶ働きをします。これは、大工が加工した木材を使って家を建てていく作業にあたります。
しかし、大工の仕事も、雨の日や地面がぬかるんでいる状況では、作業がはかどらないように、脾も「湿(しめり)」が多い環境ではその機能が鈍ってしまいます。「脾」は「乾燥を好み、湿を嫌う」臓器なのです。

つまり、「脾」と「胃」はともに「湿」と関わりがありますが、「胃」は適度な湿潤を必要とし、「脾」は過剰な湿を嫌う。このバランスが崩れると、脾胃の働きに支障が出てしまいます。

最後に

健康への第一歩は「脾胃」の状態から始まると言っても過言ではありません。

「毎日しっかり食べているから大丈夫」「サプリも摂ってるし安心」と思っている方も多いかもしれません。しかし、「脾胃」が正常に機能しなければ、栄養を吸収することも全身に届けることもできません。
✅何だか疲れやすい
✅やる気がでない
✅食後の眠気が気になる など

その不調の裏には、「脾胃」の弱りが隠れているかもしれません。
毎日を健康で快適に暮らすためにも自身の生活を見直し、少しでも「脾胃」に思いやりのある暮らしを心掛けましょう。

<脾胃を守る養生法😌>
🟡冷たい物を避ける
→冷たい物は脾胃を傷つけます。

🟡肥甘厚味を避ける
→肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物は脾胃に負担をかけます。

🟡腹八分を心掛ける
→胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事が良いとされています。

🟡一口30回を目安に噛む
→食べ過ぎ防止、消化を助けることにつながります。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

花粉と漢方薬

はじめに

立春を迎え暦的には春になりました。まだまだ寒い日は続きますが、春のぽかぽか陽気は少しずつ近づいています。春の訪れが待ち遠しい一方で、辛いのが花粉による鼻水と目のかゆみ…

日本人における花粉症の有病率は詳細に出ていませんが、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした調査では、花粉症の有病率は約42%、そのうち約3人に1人(約38%)は2~4月に飛散するスギ花粉に悩まされているという結果が出ています。

※参考:花粉症環境保健マニュアル 
https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/2022_full.pdf

花粉カレンダー

中医学で考える花粉症

花粉症の予防と発症後で漢方薬での対応が異なります。

①花粉の予防

予防のポイントは「衛気:えき」を強化すること。
「衛気」とは、名前の通り「防衛の気」
いわゆる、現代医学の免疫の働きに近く、身体に悪影響を与える邪気から身体を守るバリア的な役割をしています。
そのため、「衛気」が不足すると、邪気の侵入口である皮膚や目/鼻/喉の粘膜のバリア機能が低下し、花粉や細菌、ウイルスなどが侵入しやすくなります。

このタイプの特徴は

□カゼを引きやすい

□汗をかきやすい(体を動かさなくても自然と汗がでる)

□息切れをしやすい

□肌が弱い

「衛気」を強化し、バリア機能を高めてくれる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:衛益顆粒(玉屏風散)

※花粉症を悪化させやすいタイプ

上記で述べた「衛気」は「脾胃」で作られ、「肺」の働きで全身に運ばれます。
「脾胃」とは、現代医学で言う胃腸を指し、私たちが普段から摂っている食事や飲み物から栄養素を受け取り、強い「衛気」を生み出します。

また、中医学での「肺」は、一般的にイメージされる呼吸器系の働きに加え、「邪気」の侵入にかかわる皮膚や目/鼻/喉の粘膜も「肺」がコントロールしていると考えます。

「脾」と「肺」は、五行学説において「脾(土)は肺(金)を生む」と考え、母子関係にあるため「脾」の働きが低下していると、「肺」の働きも落ちてしまいます。

そのため、「脾」の働きが弱っている方や「脾」に負担をかけるような生活習慣をしている方は、花粉症を悪化させやすいと言えます。

●脾の働きが低下しているタイプの特徴
□疲れやすい

□食欲がない

□食後、お腹が張ったり、眠くなる

□軟便・下痢気味

●脾に負担をかける生活習慣
□肥甘厚味の食べ過ぎ(肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物)

□生もの(刺身や生野菜)の食べ過ぎ

□乳製品の食べ過ぎ

□体温より低いものの摂り過ぎ(冷たい飲み物、アイス)

これらの生活習慣は、「脾」の働きが低下し、花粉から身体を守る「衛気」が作られにくくなります。また、「脾」には身体内の水分代謝にも関係しているため、「脾」が弱ると身体内に余分な水が溜まり、ダラダラと垂れる鼻水や水っぽい鼻水へと繋がります。

②発症した場合の対応

鼻水のタイプにより以下のように分類されます。

●風寒タイプ
□透明で水っぽい鼻水

□鼻づまり

□身体が冷えると酷くなる

身体を温め、鼻水の原因となる余分な水分を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。漢方薬の例:小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯、葛根湯加川芎辛夷など

●風熱タイプ
□黄色く、粘り気のある鼻水

□目の充血や痒み

□口や喉が渇く

炎症(熱)が生じているので、炎症を清ましあげる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:涼解楽(銀翹散)、荊芥連翹湯、五涼華など
目の痒みには、心サージ(サージフラボノイド含有食品)も効果的です。

最後に

花粉症状を抑える治療薬は下記のように様々あります。
・くしゃみ、鼻水:抗ヒスタミン薬、化学伝達物質遊離抑制薬
・鼻づまり:抗ロイトコリエン薬、ステロイド薬(点鼻、経口)
・花粉への抵抗を高める:舌下免疫療法、アレルゲン免疫療法

副作用(眠気、口渇など)が少なく効果の強い薬剤も出ていますが、それでも症状がなかなか良くらない、症状の悪化に伴い病院で貰う薬が増えている、新薬を試したみたけど効果がいまいちなど、花粉症の治療に悩まれている方は非常に多いと思います。
体質改善を行いながら、花粉に負けない身体作りを一緒に目指しませんか。
花粉症に関するお悩みや体質改善に興味がありましたら、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

不眠と漢方薬

不眠症は国民病!?

「布団に入ってもなかなか眠れない…」
「夜中に何度も目が覚めてしまう…」
「もっと寝たいのに朝早く目が覚めてしまう…」
「たっぷり寝たはずなのに疲れが取れない…」

このような睡眠のお悩み、あなたにも思い当たることはありませんか?

実は、成人の約30~40%が何らかの「不眠」の悩みを抱えていると言われています。特に女性に多く、加齢とともにその割合は増える傾向にあります。また、男性よりも女性

「私だけが眠れないのかな…?」と不安に思っている方は安心してください。
睡眠の悩みは、まさに「現代の国民病」ともいえる症状なのです。

中医学で考える不眠

西洋薬では不眠のタイプ(入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害)をもとに睡眠薬を選択される傾向にありますが、漢方薬は上記の不眠のタイプに加えて、不眠に至った原因やその人の体質なども踏まえ漢方薬を考えます。

ここからは、中医学で考える「5つの不眠タイプ」とその特徴をご紹介します。

1.心脾両虚(しんぴりょうきょ)

心脾両虚(しんぴりょうきょ)とは、「心血虚」+「脾気虚」の状態を指します。

・心血虚(しんけっきょ)
心には「神志を主る」働きがあり、私たちの「精神活動」を担っています。
心は現代医学の心臓のイメージに近く、その働きである全身に血液を巡らせることで精神活動を良好に保ちます。しかし「心血虚(心血の不足)」の状態だと全身の血液が十分に巡らず、精神活動に問題が起こり、不眠や多夢、精神不安な状態へとつながります。

・脾気虚(ひききょ)
脾は現代医学で言う胃腸を指しており、私たちが普段から摂っている食事や飲み物から栄養素(気や血)を生み出し各臓腑へと運ぶ働きがあります。
「脾気虚(脾気の不足)」の状態では、胃腸の働きが低下し、気や血を生み出すことができないため、結果として心に血を届けることができず上記の心血虚の状態に繋がります。

<主な特徴>
✅寝つきが悪い、夢が多い、眠りが浅い
✅悩みことや考え込むことが多い
✅動悸がする
✅疲れやすい、倦怠感
✅食欲不振、食後にお腹が張る・眠くなる
✅下痢・軟便気味
漢方薬の例:帰脾湯や加味帰脾湯、人参養栄湯などが

2.陰虚火旺(いんきょかおう)

中医学では「心」は火(陽)に、「腎」は水(陰)に属し体内の温度調節を行っていると考えます。

「陰虚火旺」の状態では、腎の働きの低下により体内を冷却する水(陰)が不足するため、相対的に心の力が増し、火(陽)の亢進が起こります。

<主な特徴>
✅何だかソワソワして落ち着かない
✅手足がほてる
✅寝汗をかく
✅足腰がだるい
✅めまい、耳鳴りがする
漢方薬の例:天王補心丹や黄連阿膠湯など

3.肝鬱+血虚(かんうつ+けっきょ)

・肝鬱(肝気鬱結:かんきうっけつ)
肝は「疏泄:そせつ」を主り、全身の気の流れをコントロールしています。この「疏泄」機能は、現代医学の「自律神経」の働きに近いと言われています。
ストレスや憤りを強く感じたり、憂鬱な状態など精神的な負荷がかかると肝の「疏泄」機能は失調し、気の巡りが停滞します。これが「肝鬱」の状態です。

・血虚(肝血虚:かんけっきょ)
肝は「蔵血:ぞうけつ」を主り、血の貯蔵と全身の血流量を調節しています。
肝に貯蔵されている血は、活動時は全身に運ばれ、各組織に栄養を与えます。一方、安静時は血が肝に戻ることにより精神が安定し深い眠りへと繋がります。
「肝血虚(肝血の不足)」では、精神の安定や睡眠に必要な血が肝に戻らず、血が不足している状態のため、精神が安定せず不眠へと繋がります。

<主な特徴>
✅寝つきが悪い、夢が多い、驚きやすい
✅イライラする、怒りっぽい
✅脇腹が張る、ため息が多い
✅爪が割れやすい、髪がぱさつく
漢方薬の例:酸棗仁湯や逍遙散など

4.痰熱内擾(たんねつないじょう)

「痰熱内擾」とは、身体に余分な水分と熱が滞り、心神が犯された状態を指します。
痰熱を生じやすい方は、以下のタイプに多い傾向にあります。
・脂っこい物や味の濃い物、甘いお菓子、飲酒を好む
・季節の影響(梅雨、夏)を受けやすい
・脾胃(胃腸機能)が低下している

<主な特徴>
✅寝つきが悪い、夢を多く見る
✅不安感が強い
✅めまい、頭重感
✅胃がムカムカする、胸やけ
漢方薬の例:星火温胆湯、竹茹温胆湯など

5.胃気不和(いきふわ)

食べ放題や飲み会などで暴飲暴食した後に、お腹が苦しくて眠れないという経験をされたことはありませんか?「胃気不和」とは、まさしくその状態と言えます。
このタイプは、胃の中に溜まった食べ物を消化すれば解決できますが、「胃気不和」の状態が長期間続くと上記で説明した「痰熱」へと繋がり、不眠のみならず精神不安やめまい等の症状を引き起こすことがあります。

<主な特徴>
✅お腹が張る、痛みがある
✅胃もたれ、悪心、吐き気
✅下痢、軟便
漢方薬の例:加味平胃散や晶三仙(山査子・麦芽・神曲)など

最後に

不眠の治療と言えば、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系、オレキシン受容体阻害薬など)をイメージされるかもしれません。

睡眠薬のメリットとして、飲み始めたその日から効果を期待できますが、睡眠の質が落ちたり、翌朝への眠気の持ち越し、依存性の問題点があります。

しかし、漢方薬は睡眠薬とは異なり
●自然の睡眠へと近づける
●不眠となった原因にアプローチする
●不眠にならない体質を作る
と睡眠薬ほど即効性はありませんが、良質な睡眠に近づける体作りを手助けします。

「そろそろ睡眠薬を使ってみようかな…」
「ずっと飲んでいて、やめたいけど不安…」
そんな方こそ、ぜひ一度ご相談ください。
漢方は睡眠薬との併用も可能ですし、減薬のサポートとしても活用できます。

服用されている睡眠薬によっては、急激に量を減らしたり、服用をやめることで症状が悪化する薬もありますので、漢方薬との併用も含めぜひご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

便秘と漢方薬

便秘とは?

「快便・快食・快眠」は、健康を支える三大要素ですが、現代人の多くがその「快便」に悩んでいます。

厚生労働省の『令和4年国民生活基礎調査』によると、便秘に悩む人の割合は、
🔹 男性:約28%(65歳以上では約68%)
🔹 女性:約43.7%(65歳以上では約74%)
特に女性や高齢者に多く見られます。

便秘は直接的に大きな病気へは繋がりませんが、「便秘は万病の元」や「一日一便、乃ち常度なり(中国古典の言葉)」という言葉があるように健康的に暮らすためには、日々の快便が非常に重要になります。

🧐そもそも便秘とは?

便秘の定義

慢性便秘症診療ガイドライン2017では次のように定義されています。
「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」
また、便秘症とは「便秘による症状が現れ、検査や治療を必要とする状態」であり、診断基準は以下の通り定められています。

1.「便秘症」の診断基準

以下の6項目のうち、2項目以上を満たす。
a. 排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある。
b. 排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便(※BSFSでタイプ1か2)である。
c. 排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる。
d. 排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある。
e. 排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など)。
f. 自発的な排便回数が、週に3回未満である。

2.「慢性」の診断基準
・6ヵ月以上前から症状があり、最近3ヵ月間は上記の基準を満たしていること。

便の状態は、下記の※BSFS(ブリストルスケール)を参考にすると良いでしょう。

上記の通り、毎日排便があったとしても排便までに時間がかかる、排便後もスッキリしない等の違和感を感じる場合は便秘にあたります。逆に2~3日に1回のペースの排便でもお腹の不調や排便の苦痛などを感じなければ便秘ではありません。

中医学で考える便秘

中医学では体質や症状の特徴に合わせて次の通りに考えます。

1.熱結便秘🔥(ねっけつべんぴ)

大腸に熱がこもることで排便を促す腸内の潤いが蒸発し、乾燥することで起こる便秘です。

<主な特徴>
✅便が乾燥して硬い
✅暑がり、汗っかき
✅尿の量が少なく、色が濃い
✅口が渇く
✅口臭や体臭が気になる
✅顔が赤い、ニキビや吹き出物ができやすい
✅普段からお酒をよく飲む、脂っこい物や辛い物を好む

腸内の乾燥の原因である熱を冷ましながら便を促す漢方薬を使用します。
漢方薬の例:大黄甘草湯、承気湯類(大承気湯、小承気湯、調胃承気湯、桃核承気湯)、防風通聖散など

桃核承気湯は、以下のような瘀血(血の滞り)症状を伴う便秘に適しています。
・生理痛(出血に塊が混じる)
・腹痛、頭痛、肩こり
・舌が暗く紫色で舌の裏の血管が怒張している(青紫色の血管が見える)

⚠️注意⚠️

便秘の代表的な生薬として「センナ」がありますが、便が出ないからと言ってこの生薬を慢性的に使用することはお勧めできません。
「センナ(生薬名:番瀉葉)」は、苦・寒の性質で、排便を促す力が非常に強いという特徴を持っているので、そもそもが「熱結便秘タイプ」向きであり、長期間の服用を目的とした生薬ではありません。長期間使用することにより胃腸を冷やし、嘔吐・悪心・腹痛・消化機能の減退へと繋がる可能性があるので注意が必要です。

2.気滞便秘😣(きたいべんぴ)

体内の「気」の巡りが滞る(気滞)ことで胃腸の動きが低下し生じる便秘です。

精神的なストレスや緊張、憂鬱・不安感を感じやすい方、運動不足の方は「気滞」を生じやすくなります。

<主な特徴>
✅排便に時間がかかる
✅便秘と軟便をくり返す
✅お腹が張り膨満感がある
✅ゲップが多い
✅イライラしやすい、憂鬱感を感じる
「気」の巡りを良くしながら排便を促す漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:通導散、大柴胡湯、開気丸+通便薬など

PMS(生理前症候群)の症状で便秘になる方もこの「気滞」によるものですので、「気」の流れを良くする漢方薬を使うと良いでしょう。

3.気虚便秘🪫(ききょべんぴ)

便を推し出すために必要な「気」が不足(気虚)することで起こる便秘です。
主に「脾」や「肺」による気虚が考えられます。
🔸脾気虚(ひききょ)
「脾」は現代医学で言う胃腸を指します。脾の気(エネルギー)が不足することで腸の蠕動運動が低下し、便を推し出すことができないために便秘へと繋がります。

🔸肺気虚(はいききょ)
「肺」は津液(身体に必要な水)を全身に散布する体内のスプリンクラー的な役割を担っています。「肺気虚」の状態では、全身に津液を巡らすことができず、肺と表裏関係にある腸の潤いが失われることで便秘が起こります。

<主な特徴>
✅排便に時間がかかる
✅排便後に残便感がある(スッキリしない)
✅排便後の疲労感

+①脾気虚の場合
疲れやすい、食欲がない、食後に眠くなる、お腹が張る等
慢性疾患や術後・産後の方は、脾気を消耗するので気虚による便秘が起こりやすいです。

+②肺気虚の場合
呼吸器症状(咳、息切れ)、汗をかきやすい、風邪を引きやすい等

「脾」や「肺」の働きを立て直しつつ、気を補う漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:補中益気湯、六君子湯、衛益顆粒など
お腹が慢性的に冷えて腸管の動きが悪い場合は、人参湯や附子理中湯などお腹を温める漢方薬を使う場合もあります。

4.血虚便秘🩸(けっきょべんぴ)、陰虚便秘💧(いんきょべんぴ)

全身に栄養や潤いを与える「陰血」が不足することで腸内が乾燥し生じる便秘です。

<主な特徴>
【血虚🩸】
✅便が乾燥して出にくい、コロコロしている
✅顔が青白い、唇や爪の色が薄い
✅動悸、めまいがする
✅不眠
✅月経量が少ない

【陰虚💧】
✅便が乾燥して出にくい、コロコロしている
✅痩せ型
✅口や喉が乾燥する
✅手足がほてる
✅寝汗をかく

「陰血」を補い排便を促す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:潤腸湯、麻子仁丸、婦宝当帰膠など

女性は毎月の生理出血があるため、男性に比べてどうしても血が不足しやすく血虚タイプの便秘になりやすいです。また、年齢を重ねるほど陰血が少なくなる傾向にあるため、高齢者は上記の気虚便秘に加えてこのタイプの便秘が多くみられます。

最後に

便秘は日頃の生活習慣が原因になってる場合が多くあります。上記で述べた体質に合う漢方薬を服用されるのも良いですが、食事や運動などの生活面を見直すことで便秘が改善する場合もあります。

【快便を促す7つの習慣】
1.🍟肥甘厚味や暴飲暴食を避ける
→肥:脂っこいもの、甘:甘い物、厚:味が濃い物、身体に余分な熱が生じます。

2.🛌十分な睡眠をとる
→気虚、血虚の原因になります。

3.☕起床後に白湯を飲む
→冷水や常温では胃腸に負担がかかるので白湯が良いです。

4.🍽 空腹感を感じ食事する
→腸が刺激され快便へと繋がります。

5.😌ストレスを溜めない
→気の滞りの原因になります。

6.🚶‍♂️適度に運動をする
→腸の動きが活性化されます。

7.🥬食物繊維や発酵食品を摂る
→便の状態や上記のタイプにより適している食物繊維(水溶性/不溶性)が異なるので注意が必要です。

慢性的な便秘は、身体からの「助けて」のサインかもしれません。
「体質に合った漢方薬を試してみたい」「生活を見直しても改善しない」
そんなときは、どうぞお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

カゼに使う漢方薬

「カゼのときには葛根湯!」
そう思っている方も多いのではないでしょうか。実際、病院で処方されることも多く、ドラッグストアでは「カゼの初期に」「予防に」といった宣伝も目にします。

しかし、すべてのカゼに葛根湯が適しているわけではありません。
漢方では、症状だけでなく「体質」や「発症のきっかけ」なども含めて総合的に判断し、個々に合った処方を選びます。

では、カゼにはどのようなタイプがあり、それぞれにどんな漢方薬が使われるのでしょうか。

中医学における「カゼ」の考え方

中医学では、カゼは「邪気」が体内に侵入することで発症すると考えます。この邪気とは、私達の身体にとって悪いもの、現代医学で言うウイルスや細菌などを指します。

特にカゼは、自然界の「風(ふう)」に乗って体内へ侵入すると考えられていたため、「風邪(ふうじゃ)」と呼ばれます。これは、風のように突然やってくることから名付けられました。

風邪には寒や熱、湿気や乾燥といった性質が加わることで、以下の4つのタイプに分類されます。

  1. 風寒(ふうかん)
  2. 風熱(ふうねつ)
  3. 風湿(ふうしつ)
  4. 風湿(ふうしつ)
  5. 風燥(ふうそう)

1.風寒❄️

<症状の特徴>
✅悪寒が強い
✅発熱が軽い
✅汗がでない
✅口や喉が渇かない
✅その他:頭痛・身体の痛み / 鼻水(透明)・鼻づまり / 咳や痰(白い)  

身体を温めて汗をかかせ、汗とともに風寒の邪気を追い払う漢方薬を使います。
漢方薬の例:麻黄湯、葛根湯など
既に汗がしっとり出ている場合は、上記の漢方薬よりも発汗の作用が弱い「桂枝湯」を使います。鼻水や咳の症状が酷い時は「小青竜湯」を使うのも良いでしょう。

⚠️注意点:麻黄を含む処方を複数併用すると、発汗過多・動悸・脱力感などの副作用が出る可能性があるため、併用には注意が必要です。

2.風熱☀️

<症状の特徴>
✅悪寒が軽い
✅熱が高い
✅汗がでる
✅口や喉が渇く
✅その他:喉の痛み / 鼻水(黄色)・鼻づまり / 咳・痰(黄色く粘り気がある)

身体内に熱(炎症)を冷やしつつ邪気を追い払う漢方薬を使用します。
例:涼解楽(銀翹散)、銀翹解毒散など

熱が高い:+「白虎加人参湯」
喉の痛みが強い:+「板藍茶」や「五味消毒飲」
咳症状が酷い:+「麻杏甘石湯」や「五虎湯」 との併用も効果的です。

3.風湿💦

<症状の特徴>
✅寒気、微熱
✅体が重だるい、頭が重く痛い
✅胃腸症状(食欲不振、下痢・軟便)
✅その他:痰の多い咳、胸が重苦しい

余分な水分(湿邪)を乾燥させ、邪気を追い払う漢方薬を使います。
例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散など

💡湿邪をもっと詳しく💡
湿邪には「重く濁り、粘着して停滞する」という性質があります。

この湿邪と体の関係をイメージするには、「除湿機」を思い浮かべてみてください。
梅雨や夏のジメジメした時期、空気中の湿気を吸い取ってタンクに水を溜めていくのが除湿機ですよね。実は、これと似たようなことが体の中でも起こり、湿気が体内にたまると、水が溜まったように重くなり、体がだるく感じたり、頭が重く痛んだりします。

さらに、中医学では「脾(=胃腸)」は「乾いた状態を好み、湿った状態を嫌う」という言葉があり、湿邪の影響がが脾に及ぶと、食欲がなくなったり、下痢や軟便といった胃腸の不調へとつながります。

4.風燥🍂

<症状の特徴>
✅微熱
✅空咳
✅痰の切れにくい咳

肺には「燥を悪み、潤を喜ぶ」という性質があるため、風燥の邪気が体内に侵入すると肺に影響が及び、呼吸器系を中心に症状がでます。

肺を潤し咳を鎮める漢方薬を使用します。
例:麦門冬湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、白龍散など
熱感が強ければ、竹葉石膏湯や清肺湯を使用しても良いでしょう。

最後に

「なかなか治らないカゼ」
「何度も風邪を繰り返してしまう」
「コロナ後遺症のような症状が続いている」

こうしたケースでは、体質的な弱りやバランスの乱れが背景にあることが少なくありません。

漢方では、単に「病名」や「症状」に応じて薬を出すのではなく、その症状がどんな背景で起きているか、どんな体質と関係しているかを総合的に考えたうえで処方を決めます。

カゼ一つをとっても、人によって原因や現れ方は異なります。だからこそ「葛根湯だけ」に頼るのではなく、ご自身に合った漢方薬を選ぶことが大切です。

風邪の症状でお困りの方、また体質改善を含めたご相談をご希望の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

汗のはなし その1

漢方では、汗は心(しん)の液とも言われ、体温維持や皮膚を健康に保つために必要な物です。しかし、気温や湿度など外的環境に関係なく、発汗し、身体を動かすことで更に激しく汗をかくことは、病的と考えます。この状態を自汗(じかん)と言います。

自汗は、疲れやすい、冷え症の方に多く見られます。また舌の形が大きく、歯型が残るような人にも見られます。このような体質を漢方では、気虚(ききょ)と言いますが、風邪を引きやすい、皮膚にトラブルを生じやすい人を肺気虚、下痢をしやすく、食後の眠気が強い人は脾気虚と区別します。