頭痛と漢方薬

はじめに

誰もが経験したことのある頭痛。
日本人の4人に1人は慢性頭痛に悩んでいると言われ、鎮痛剤がなかなか手放せない「頭痛もち」の方も多いのではないでしょうか。当薬局においても、少しでも鎮痛剤の量を減らしたい、薬に頼らない生活を送りたいと訴える方など多くの方が来店されます。

頭痛とは?

頭痛は下記の通り分類され、慢性的な頭痛で苦しんでいる方(頭痛持ち)の多くは「一次性頭痛」に該当します。

中医学における痛みの考え方

中医学では、頭痛や腰痛、生理痛など様々な痛みの原因を下記2つに分けて考えます。
・不通則痛(ふつうそくつう):通じざれば則ち痛む
気や血、津液の流れが悪くなり体内に詰まりが生じることで痛みが発生する。

・不栄則痛(ふえいそくつう):栄えざれば則ち痛む
気や血(栄養)の不足により、臓腑や経絡、組織、器官が滋養されず、痛みが発生する。

中医学で考える頭痛

中医学では、頭痛の起こる原因により大きく2つに分けて考えます。
①外感頭痛:外部の影響を受けて痛みが発生する。 (急性の痛み)
②内傷頭痛:臓腑の機能失調により痛みが現れる。(慢性的に続く痛み)

①外感頭痛

自然界の影響(風・寒・暑/熱・湿)により引き起こされる頭痛です。
邪気に関する詳しい説明は「カゼと漢方薬」で述べてますので、そちらを参照ください。(カゼと漢方薬 – 日々の生活に漢方を)

1.風寒頭痛(ふうかんずつう)

カゼの引き始めに悪寒とともに頭痛や首~後頭部のこわばりを感じたことはないでしょうか。この痛みは、気温が下がると川の水が凍り、流れが悪くように、身体内の気や血の流れが寒邪の影響により滞ることで痛みが発生します。

このタイプの特徴は
□頭痛(ゾクゾクする、こわばる)
□首から後頭部のこわばり
□カゼの症状(悪寒、発熱、鼻水など)

痛みの原因である「風寒」の邪気を発散させる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:頂調顆粒(川芎茶調散)、葛根湯、麻黄附子細辛湯など

「川芎茶調散」は頭痛の専門薬とも呼ばれ、後述する様々な頭痛のタイプに併用して使用することができます。

2.風熱頭痛(ふうねつずつう)

暖房を使用すると温かい空気が上へ上へとにいくように、「熱邪」は身体内の上部である頭部に影響を及ぼし、熱感を伴った頭痛へとつながります。体温が高い場合は、心拍数が増加するためドクンドクンと拍動痛を起こすこともあります。

このタイプの特徴は
□頭痛(ズキンズキンする、ジンジンする)
□顔が熱い、口や喉が渇く
□カゼの症状(発熱、咽頭痛)

頭部の「熱」を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:涼解楽(銀翹散)、銀翹解毒散、荊芥連翹湯など

3.風湿頭痛(ふうしつずつう)

雨の日の前後や気圧が下がると、頭が痛く、重だるくなるという方がいますが、これは自然界の「湿邪(湿気)」が大きく影響しています。
湿度が高い梅雨の時期や夏のジメジメした時期に除湿器を使用すると、タンク内に水がたくさん溜まりますが、この水(湿気)の溜まりが頭の中で起こるため、頭が重く痛い、体が重だるいといった症状がでます。

このタイプの特徴は
□頭痛(重く包み込まれる感じ、ドーンとする)
□身体が重だるい
□食欲不振、軟便

頭部に溜まった「湿」を追い出す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散など

「五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を」で述べましたが、脾胃(胃腸)の働きが弱っている方は、身体内に「湿:余分な水」を溜めやすいことから、外界の「湿邪」の影響も受けやすいとされています。中医学では、これを「内湿が外湿を呼ぶ」と言います。したがって、脾胃の働きが低下している方は、「湿」を処理しつつ、「脾胃」の立て直しが必要となります。(詳しくは、②内傷頭痛の「痰濁頭痛」をご参照ください。)

②内傷頭痛

1.気虚頭痛(ききょずつう)/ 血虚頭痛(けっきょずつう)

中医学では、頭部を「清陽の府」と言い、全身の陽気(エネルギーや栄養素)が集まる場所とされています。
エネルギーが不足している「気虚タイプ」や身体内の栄養や潤いに関わる「血」が不足している「血虚タイプ」は、頭部に必要な「清陽(陽気=栄養素)」を脳に届けられため頭痛を引き起こします。
イメージ的には、食事を取らない時間が続いたり、空腹を我慢すると低血糖となり、頭痛になったり、頭がぼーっとすることがありますが、気虚や血虚の頭痛はこの状態に近いと言えます。

●気虚頭痛
このタイプの特徴は
□頭痛(疲れた時に酷くなる)
□倦怠感、疲れやすい
□食欲不振
□下痢、軟便気味

「気」を補い、「気」の生成に関わる脾胃(胃腸)の働きを高める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:補中丸(補中益気湯)、健胃顆粒(香砂六君子湯)など
頭痛症状が強い時は、上記で述べた「頂調顆粒(川芎茶調散)」を併用するとより効果的です。

●血虚頭痛
このタイプの特徴は
□頭痛(頭がふらつく、ボーっとする、シクシク痛む)
□生理後の頭痛
□顔が白い(蒼白)
□動悸、不眠

不足している「血」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:婦宝当帰膠、心脾顆粒(帰脾湯)、人参養栄湯など

2.痰濁頭痛(たんだくずつう)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰濁」と呼びます。水道管がヘドロまみれだと水詰まりを起こすように、「痰濁」が身体内に溜まると気や血の流れが滞り痛みが生じます。

このタイプの特徴は
□頭痛(頭が重く痛む、ズーンとする痛み)
□めまい
□悪心・嘔吐
□身体が重い
□雨の日や気圧が低い日は調子が悪い

身体内にある「痰濁」を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、星火温胆湯など

中医学では、「脾は生痰の源」という言葉があり、脾胃(胃腸)が弱いと水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まり痰が生じやすくなると考えます。「痰」が原因による症状の場合は、まずは脾胃(胃腸)の状態や生活習慣を見直すことから始めると良いかもしれません。

3.肝火頭痛(かんかずつう)

中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」や「血」の流れを調節し、精神面の安定に関与していると考えらています。ストレスや精神的な負荷がかかり自律神経が乱れると、「肝」の働きが低下し、「気」や「血」が渋滞を引き起こし、オーバーヒートすることで痛みにつながります。

このタイプの特徴は
□頭痛(キリキリ、ズキンズキンと痛む)
□耳鳴り、めまい
□目の充血、赤ら顔、のぼせ
□ストレスや緊張を感じやすい
□生理前の頭痛

高ぶっている「肝火」を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:瀉火利湿顆粒(竜胆瀉肝湯)、釣藤散など

「肝火」になる要因としては、上記で説明した「気」の滞りがあるため、「気」の流れを良くする「加味逍遥散」や「大柴胡湯」などを併用することもあります。

5.瘀血頭痛(おけつずつう)

「瘀血」とは、血の巡りが悪くなり、血液がドロドロとした状態を言い、血管中の血流を塞ぐと上記で述べた「不通則痛」の状態となり、痛みを引き起こします。

このタイプの特徴は
□頭痛(針で刺されたような痛み、ズキンとする)
□肩・首こり
□生理痛が酷い
□舌裏の血管が青紫色に浮き出ている

「血」の滞りを解消する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参、など

最後に

1つに痛みと言っても、上記のように痛みを引き起こす要因は様々あります。漢方薬は、西洋薬ほど痛みに対しシャープに効きませんが、痛みが起きている原因や体質に対しアプローチすることができ、頭痛を引き起こさない身体へ導くことができます。自身の体質を理解し、身体の中から頭痛を予防する体質を一緒に目指しませんか。
頭痛に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

めまいと漢方薬

日常生活に大きな影響を及ぼしかねないめまい。
目がグルグルする、フワフワする、またいつどこで起こるか分からないめまいは、ストレスに繋がったり、気持ちが憂鬱になるなど、日々のQOL(生活の質)を低下させる症状の1つかと思います。

・症状がなかなか改善しない、検査しても異常が見つからない
・雨の日や気圧が下がるとめまいを引き起こす
・毎年、春になると何だかめまいやふらつきが気になる
など、めまいに関する悩みを抱えてる方は非常に多い印象です。

めまいの分類

一口に「めまい」といっても、様々な種類に分類されます。

■めまいの自覚症状

■末梢性めまいの特徴

中医学で考えるめまい

中医学では、古くから”めまい”について以下のような言葉があります。
①無虚不作眩:身体に必要なものが不足していなければ、めまいは起きない
②無痰不作眩:痰(余分な水分)がなければ、めまいは起きない
③諸風掉眩、皆属於肝:風によって生じる、めまいやふるえは、みな肝と関係がある

①無虚不作眩:身体に必要なものが不足していなければ、めまいは起きない
 

1.気血不足(きけつぶそく)

中医学では、頭部を「清陽の府」と言い、全身の陽気(エネルギーや栄養素)が集まる場所とされています。
エネルギーが不足している「気虚タイプ」や身体内の栄養や潤いに関わる「血」が不足している「血虚タイプ」は、頭部に必要な「清陽(陽気=栄養素)」を脳に届けられず、栄養不足を起こすことでめまいを引き起こします。

このタイプの特徴は
□動くとめまいが酷くなる
□疲れやすい、倦怠感
□食欲不振
□動悸・不眠
不足している「気」や「血」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:婦宝当帰膠、十全大補湯、補中益気湯など

2.腎精不足(じんせいぶそく)

中医学での「腎」は、「髄(骨)」を生み出し、その「髄」が集まることで脳を形成すると考えます。そのため、脳は「髄の海」といわれ、髄が満たされていれば、脳は正常に活動を維持することができますが、「腎精」が不足し「髄海(脳)」が空虚になると、めまいや物忘れ、耳鳴りといった症状がでやすくなります。

このタイプの特徴は、加齢とともに現れる以下のような症状を伴うことが多いです。
□物忘れが酷い
□足腰がだるく、力が入らない
□耳鳴り
□精力の減退
□更年期に伴う不調
「腎精」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:六味地黄丸、八味地黄丸、海馬補腎丸など

②無痰不作眩:痰(余分な水分)がなければ、めまいは起きない
 

●痰濁中阻(たんだくちゅうそ)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰濁」と呼びます。水道管がヘドロまみれだと水詰まりを起こすように、「痰濁」が頭部や身体内に溜まると、気や血が脳に十分に届かずめまいを生じます。

このタイプの特徴は
□頭・身体が重だるい
□胸がムカムカする
□浮腫む、下痢・軟便気味
□食欲不振

身体内に溜まった余分な水分を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、星火温胆湯など

中医学では、「脾は生痰の源」という言葉があり、脾胃(胃腸)が弱いと水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まり痰が生じやすくなると考えます。「痰」が原因による症状の場合は、まずは脾胃(胃腸)の状態や生活習慣を見直すことから始めると良いかもしれません。

③諸風掉眩、皆属於肝:風によって生じる、めまいやふるえは、みな肝と関係がある

●肝陽上亢(かんようじょうこう)

五行学説では、「肝」は「風」や「木」と関連がありますが、木々が風にあたるとゆらゆらと揺れるように、身体内に「風」が生じると、めまいやふらつきの症状がでやすくなります。

身体内に「風」が生じる原因としては、以下のようなものがあります。
・慢性的なストレスや心配事を抱えている:「肝」は自律神経の働きと関係があります。
・体内の潤い(陰血)が減り、エネルギー(陽気)が相対的に強まっている:自然界では周囲が乾燥すると木々が燃えやすくなり、炎が燃え上がると風を生じます。

春先にめまいやふらつきなどを訴える方が多いのは、春は「春一番」と言われるように、冬から春へ季節の変わり目で強い風が吹くことで「風」の影響を受けやすくなるためです。風により草木が揺れるように、身体内が風の影響を受けることで体内も揺れ、めまいやふらつきなどの症状へとつながりやすくなります。

このタイプの特徴は
□耳鳴り、頭痛
□怒りっぽい、赤ら顔、目が充血しやすい
□血圧が高い
□不眠、夢をよくみる
身体内で生じた「風」を鎮める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:釣藤散、抑肝散、星火睛明丹(石決明、白僵蚕含有食品)など

④その他

上記以外にも血の滞りが原因の「瘀血(おけつ)タイプ」や冷えが原因の「陽虚(ようきょ)タイプ」などもあります。

最後に

漢方薬に頼ることも大事ですが、それ以上に日々の養生が症状改善の近道となります。日頃の食事や運動、睡眠、ストレスなども合わせて見直してみましょう。

<おすすめ食養生>
●気血不足タイプ
・気の不足:米類、芋類、豆類、肉類
・血の不足:レバー、鶏肉、小松菜、ほうれん草

●腎精不足タイプ:山芋、長芋、枸杞の実、黒豆、黒ゴマ

●痰濁中阻タイプ:キノコ類、海藻類、はと麦、はるさめ

●肝陽上亢タイプ
・ストレス過多:セロリ、春菊、柑橘類、酢の物
・潤い不足:れんこん、きゅうり、トマト、豆乳、豚肉

原因がなかなか特定しづらい「めまい」は漢方が得意とする分野です。
めまいの治療で悩んでいる、症状が改善しない、体質に合わせた漢方薬を服用してみたいという方は、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐