はじめに
今回は、いつもの「〇〇と漢方薬」といったテーマとは少し趣向を変えて、季節にまつわるお話をしてみたいと思います。
「土用の丑の日」と聞くと、「うなぎを食べる日!」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか?でも、そもそも「土用」とは何を意味するのでしょうか🤔
来月末からは、「”夏”の土用」の時期が始まります。
ということは、「夏」以外にも土用があるの!?
今回は、「土用」とは何か、そして土用の時期をどのように過ごすとよいのかを中医学の視点から、そのポイントをお伝えしていきます。
五行と季節の関係
「土用」の話に入る前に、中医学を理解するうえで欠かせない「五行学説」について少し触れておきたいと思います。
五行学説とは、自然界に存在するあらゆるものや現象は「木・火・土・金・水」の5つの要素から成り立っているという、古代中国の哲学的な思想です。
この考え方は中医学にも応用されており、五行を人体のはたらきにあてはめることで、体の構造や機能、病気の原因、治療の方向性などを読み解く手がかりとされています。
五行と季節の関係を見ると、
「春=木、夏=火、秋=金、冬=水」 に対応しています。
では、「土」はどこに当てはまるのか?(長夏とありますが、いまいちピンとこないですよね…。)
この「土」と深く関わるのが、「土用」という季節です。

季節の変わり目と「土用」
一年には春・夏・秋・冬という四つの季節がありますが、もし季節がいきなり春から夏、夏から秋へ…と切り替わったら、体がついていけず、びっくりしてしまいますよね。
こうした季節の変化に体をうまくなじませるために、古くから設けられているのが「土用」という期間です。
土用は、季節と季節の間にある「調整期間」・「中継地」のようなもので、次の季節の変化に対応できるように、心身のバランスを整える大切な時期とされています。
つまり「土用」は、春から夏、夏から秋…といった次の季節へと向かうための“橋渡し役”のような存在です。この時期をどう過ごすかによって、次の季節を元気に迎えられるかどうかが変わってきます。
この季節の変わり目である立春・立夏・立秋・立冬の直前18日間が、それぞれ「土用」の期間とされています。

2025年度の土用
●春の土用:4月17日(木)~5月4日(日) → 立夏:5月5日(月)
●夏の土用:7月19日(土)~8月6日(水) → 立秋:8月7日(木)
●秋の土用:10月20日(月)~11月6日(木) → 立冬:11月7日(金)
●冬の土用:2026年1月17日(土)~2月3日(火) → 立春:2月4日(水)
ところで「丑の日」ってなに?
「丑の日」とは、日にちを十二支で数えた時の「丑」にあたる日のことを指します。
十二支といえば、年賀状などでおなじみですが、本来は日や時刻、方角などを表すためにも使われてきました。
十二支:子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥
2025年の夏土用の「丑の日」は、7月19日(土)と7月31日(木)の2回あります!
「土用」は”脾胃(ひい)”をいたわる期間!
上記で述べたように五行学説では、五臓の「脾」は「土」に属します。そのため、「土用」の期間は、「脾」が影響を受けやすくなる期間とされています。
中医学における「脾胃」は、現代医学における胃腸を指し、飲食物の消化や吸収を担っており、私たちの身体に必要な「気(エネルギー)」や「血(栄養)」を作る働きがあります。さらには、水分の調整も行っており、胃腸に余分な水分が溜まらないように、代謝を調整する役割も担っています。
「脾胃」の詳しい働き👉五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を
ちょうど「土用」の時期、つまり季節の変わり目は、湿度が急激に変化したり、気温が不安定だったりと環境の変化が大きくなります。こうした変化は、「脾」にとって大きな負担となり、体調を崩す原因になります。

なんで「うなぎ」を食べるの?
さまざまな説がありますが、平賀源内の説を紹介したいと思います。
江戸時代、あるうなぎ屋の店主が、夏場になると旬を過ぎたうなぎの売り上げが落ちることに悩んでいました。そこで、蘭学者としても知られる平賀源内が、「丑の日に“う”のつく食べ物を食べると夏バテしない」という民間の言い伝えをヒントに、「本日 土用丑の日」と書いた張り紙をすすめたところ、これが話題となり、「土用の丑=うなぎ」という習慣が広まったとされています。
💡中医学の視点から見た「うなぎ」
ちなみに、中医学的に「うなぎ」は、「脾」の機能を高め、「気(エネルギー)」や「血(栄養)」を補う働きがあるとされています。
体力の消耗 / 食欲の低下 / だるさや疲れといった「脾胃(胃腸)」の弱りからくる夏の不調をサポートしてくれるため、ただの語呂合わせだけでなく、中医学的にも理にかなった養生法といえます。
💡実は「山椒」にも意味がある!
「山椒」は、お腹を温め、胃腸の働きを高める作用があり、冷たいものの摂りすぎや冷房による“お腹の冷え”が気になる夏にはぴったりの薬味です。
つまり、「うなぎ+山椒」の組み合わせは、夏に弱りやすい「脾胃」を助けるという点でも、非常に理にかなった中医学的な養生スタイルかもしれません。
「脾胃(胃腸)」を守る養生法
①冷たい物を避ける
→冷たい物は「脾胃」を傷つけます。
②肥甘厚味を避ける
→肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物は「脾胃」に負担をかけます。
③腹八分を心掛ける
→胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事が良いとされています
④一口30回を目安に噛む
→食べ過ぎ防止、消化を助けることにつながります。
🍴脾胃(胃腸)」に良い食材
・胃腸の働きを高める:お米、山いも類、豆類(大豆、枝豆など)
・水分代謝を促す:はと麦、キノコ類(しいたけ、えのきたけなど)、海藻類(昆布、わかめなど)
・胃腸を温める:生姜、ねぎ、シナモン
最後に
近年の日本では、気温の急激な変化や、まるで亜熱帯のように長く続く蒸し暑さなど、異常ともいわれる気象が目立ち、四季の移ろいを感じにくくなってきました。
その影響もあり、季節の変わり目に体調を崩す方や、自律神経のバランスを乱す方が増えているように感じます。
だからこそ、季節の変化が目まぐるしい今の時代には、「土用」だけでなく、日頃から胃腸(脾胃)をいたわる暮らしが、健やかに過ごすための大切なポイントなのかもしれませんね。
薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐