五臓六腑:腎の働き / 補腎のすすめ

はじめに

最も重要なことを「肝心要(かんじんかなめ)」と言いますが、この「肝心」は本来「肝腎」と書いていたそうです。
中医学における「腎」は、現代医学の「腎臓」の働きに加え、成長や発育、老化、免疫など幅広い役割を担っており、「腎」の働きの充実さが、その人の身体全体の健康と深く関わります。そのため、「腎」の働きが弱ると、発育が遅れたり、不妊症や更年期障害、骨粗鬆症、脱毛など様々な不調や老化現象の原因にも…。このことからも、「腎」は、まさしく人間の「要(かなめ)」の臓器と言えます。
「腎」の働きを補い、高める「補腎(ほじん)」。西洋医学にはない、中医学特有の「腎」の考えと「補腎」の魅力を少しでもお伝えできればと思います。

古来から伝わる人体のリズム

中国では、古くから「女性は7の倍数、男性は8の倍数」で身体の変化があると言われています。女性は28歳、男性は32歳で腎が最も充実して身体や生殖機能がピークを迎え、その後は徐々に腎の働きが弱くなり、様々な不調や老化現象が現れやすくなります。

■女性は7の倍数で変化する

■男性は8の倍数で変化する

「腎」の働き

 ①精を蔵する

「精(せい)」とは、人間の生命力の源であり、生命活動を維持する基本物質と考えらています。「腎精(じんせい)」は、生まれたときに両親から受け継いだ「先天の精(せんてんのせい)」と、日々の飲食物から得られる「後天の精(こうてんのせい)」の2つから作られます。

それぞれの働きについて

①生長・発育、生殖に関係する

「腎精」は生長・発育の基本物質であり、人間の一生をあらわす”生(生まれる)・長(成長する)・壮(盛りを迎える)・老(老いる)”と深い関係にあります。
そのため、「腎精」が不足すると、発育不良や老化に伴う症状が出やすくなります。
また、「腎精」は生殖器官の発達と生殖能力にも関係しているため、生理の不調や不妊、精力の減退にもつながります。

②髄を生みだし、骨や脳を栄養し管理する

「腎精」は髄(脳髄、脊髄、骨髄)を作り出します。
髄は骨を形成し、髄が集まって脳を形成し、また、骨髄とも関係があることから血液の生成にも関係します。高齢になるほど、骨がもろくなったり、記憶力が低下するのは、年齢を重ねるごとに「腎精」が減っていくためです。

③水と関係する

現代医学の「腎臓」の役割に近く、水分の代謝と排泄に関わり、身体の水分をコントロールしています。この働きが弱くなると、尿量の増えたり、減ったり、むくみの症状が生じやすくなります。

④気を納める

中医学には「肺は気の主、腎は気の根」という言葉があり、呼吸機能は主に「肺」が二枚ますが、息を深く吸い込むには「腎」の働きが必要になります。
呼吸が浅く、動くとすぐ呼吸困難になる方は、「腎」の力が低下している可能性があります

「腎」と五行の関係

⑤腎は耳及び二陰と関係がある

耳は「腎精」により養われることで、正常な聴覚が保たれます。老化の症状により耳が遠くなったり、耳鳴りがするのは、年齢とともに「腎精」が減ることが原因です。
また、二陰とは前陰(尿道や生殖器)、後陰(肛門)のことを指し、「腎」が弱ることで尿や便の不調、生殖系のトラブルが起こりやすくなります。

⑥腎の華は髪にある

美しい花を咲かせるためには、まず根がどっしり張っており、土からしっかり栄養分を吸収し、花に届ける必要があります。中医学では、この「根」にあたるのが「腎」、そして吸い上げられる「栄養分」が「精(せい)」です。「腎」がしっかりしていて、「精」がたっぷりと蓄えられていれば、髪は栄養を受けて、いつまでも若々しく、元気に保たれます。髪の健康は、腎の充実度を映す鏡とも言えるのです。

⑦腎と関係がある季節は冬である

動物たちが冬眠をして活動を控え、エネルギーを蓄えるように、年齢とともに自然に衰えていく「腎」は、冬に無駄な消耗を避け、しっかりと養う必要があります。
冬の時期に無理をしたり、過労や睡眠不足が続いたり、身体が冷えたりすると「腎」の働きは衰えやすくなります。

「補腎」とは?

先述のように「腎」は、私たちの生命活動において非常に重要な働きを担っています。「腎精」、燃えているロウソクのようなもので、加齢や過労などで少しずつ減っていき、新たに増やすことはできません。
また、その蝋(「腎精」)から立ちのぼる炎が「腎気」であり、蝋が減れば炎も小さくなってしまいます。つまり、「腎気」も年齢を重ねるごとに弱くなっていきます。

蝋そのものは増やすことはできませんが、蝋に油を足すことで、消費を抑えることはできます。この油を足す行為が「補腎」にあたり、「補腎」をすることで「腎」の衰えによる老化現象(更年期障害、物忘れ、耳が遠くなるなど)を予防・緩和したり、生殖機能の向上にもつながるため、妊活のサポートとしても有効とされています。

補腎薬について

「腎」には「腎陰(じんいん)」と「腎陽(じんよう)」が存在します。
💧腎陰:身体を潤し、冷ます役割
🔥腎陽:身体を動かし、温める役割

温泉に例えると、温泉の水源である地下水が「腎陰」、熱の根源であるマグマが「腎陽」に相当します。心地良い湯加減になるには、水と熱のバランスがとえれていなければなりませんが、中医学でも「腎陰」と「腎陽」のバランスを保つことが重要になります。
💧腎陰を補う漢方薬の例
→六味地黄丸、杞菊地黄丸、瀉火補腎丸(知柏地黄丸)など
🔥腎陽を補う漢方薬の例
→八味地黄丸、参茸補血丸、参馬補腎丸など

最後に

これまでお伝えしてきたように、「人生」を健康で豊かに過ごすには、「腎精」が豊富に充実していることが非常に重要になります。つまり、”人生”とは「腎精」そのものとも言えます。

以下のような症状に心当たりはありませんか?

✅足腰が痛い、だるい
✅若い頃に比べ疲れやすくなった 
✅頻尿・尿漏れが気になる
✅耳が遠くなった 
✅肌のシミ・シワが増えた 
✅更年期障害 
✅生理不順、不妊 
✅精力低下 など
これらは、もしかすると「腎」の働きが弱くなってきているサインかもしれません。

若々しさを保ち、いつまでも健康に過ごすためには「腎」を労わり、日々の生活の中でその働きを補うことが大切です。

漢方薬局では、植物性より効果が高いと言われている「鹿の角」や「亀板」、「スッポン」などの動物性の生薬が配合された補腎薬を多く取り扱っています。
⚠️動物性生薬を含む漢方薬は、ほとんどが保険適用外のため、病院では処方できないことが多いです。

お一人おひとりの体質に合わせた「補腎薬」のご提案をしておりますので、気になる方はぜひお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐