夏バテ・夏の疲れと漢方薬

はじめに

岩手県は梅雨入りしたばかりですが、暦の上では夏至を迎え、いよいよ本格的な夏の訪れです。
ここ数年の夏は30度を超える真夏日が当たり前となり、酷暑による身体への負担が格段に増しています。

晴れの日が続くと気分は明るくなる一方で、

  • やる気が出ない
  • 体がだるい
  • 食欲がわかない
  • お腹の調子が悪い

といった“夏の不調”に悩まされている方も多いのではないでしょうか?

今回は、中医学の視点から「夏バテ」の原因や対処法についてお話ししていきます。

中医学で考える「夏バテ・夏の疲れ」

中医学では、夏の不調は「汗のかきすぎ」によって、体の大切なエネルギー(気)や潤い(陰液)が失われることが大きな原因と考えられています。

① 体内の熱を冷まそうと、必要以上に汗をかく
 ↓
② 汗とともにに「陰液(うるおい)」と「気(エネルギー)」が消耗する
 ・「気」が不足すると、だるさ・倦怠感・やる気の低下に
 ・「津液」が減ると、のぼせ・ほてり・口の渇きなどの症状に
 ↓
③冷却機能である「陰液」が不足し、 さらに暑さを感じやすくなり、また汗をかく
 ※「気」が足りなくなると、汗腺を閉じる力も弱まり、ますます汗が止まらなくなる
 ↓
④ 「気」と「津液」の消耗がどんどん進む悪循環に…

さらに、夏場は体内の熱を下げようと、冷たい飲食物を取りすぎる傾向にあります。その結果、胃腸の働きが低下し、食欲がわかない、お腹がゆるくなる、疲れがとれないなどの夏バテ特有の不調が現れやすくなります。

1.発汗の過多💦

上記の①~④の状態を中医学では「気陰両虚(きいんりょうきょ)」と呼び、夏バテや夏の疲れの大きな原因の一つとされています。

<気虚の主な特徴>

✅やる気がでない

✅疲れやすく体がだるい

✅少し動いただけで息切れする

<陰虚の主な特徴>

✅口や喉がよく渇く

✅顔や手足がほてる

✅寝汗をかきやすい

このような症状が気になる方は、「気(エネルギー)」を補いつつ、内側から「陰(潤い)」を養う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:麦味参(生脈散)、清暑益気湯、西洋人参など

⚠️「人より汗が多い気がする」「汗の臭いが気になる」「寝汗が止まらない」など、汗のお悩が強い方は、別記事「汗と漢方薬 – 日々の生活に漢方を」もぜひご覧ください。

🌿汗血同源(かんけつどうげん)の話

中医学では「汗(津)血同源:かん(しん)けつどうげん」という言葉があり、汗(津液≒水)と「血」は同じ源からできていると考えます。
つまり、大量の発汗は、体内の水分量の減少だけでなく、「血」の消耗も意味し、血液の循環に関わる心臓への負担も大きくなります。このことから「汗は心の涙」ともいわれています。

2.冷飲食の過多🍻

「冷たい飲み物をガブガブ飲みたい!」

「ビールの”のどごし”がたまらない」

「暑い夜には、アイス・かき氷が最高!」

など、暑い日には、冷たい飲食物が欠かせない!という方も多いと思います。しかし、中医学の観点では、冷たい物の摂りすぎは“夏バテ”を引き起こす一因になると考えられています。

●湿邪困脾(しつじゃこんぴ)

中医学では、胃腸の働きは「脾胃(ひい)」が担うと考え、中でも「脾」は、五行のうち“土”に属する臓腑です。

土が水を含みすぎるとぬかるんで、水はけが悪くなるように、大量の水分や冷たい飲食物がダイレクトに胃腸へ届くと、「脾」に「湿」がたまり、消化・吸収の力が低下してしまいます。このことから、中医学では「脾は湿を嫌う」臓腑とされています。

<主な特徴>

✅食欲がない

✅体や頭が重い

✅吐き気、下痢

「脾胃」に溜まった余分な水分を取り除き、湿をさばく漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:勝湿顆粒、平胃散、胃苓湯など

お酒の飲みすぎや脂っこいもの・甘いものを食べすぎて、「湿」に加えて「熱」がこもってる場合は、「茵蔯五苓散」や「温胆湯」などの熱を清ます漢方薬が適する場合もあります。

●脾胃虚弱(ひいきょじゃく)/ 脾陽虚(ひようきょ)

私たちの胃腸(「脾胃」)は、人間の体温と同じくらいの温度で最もよく働くとされているため、夏の間、冷たい飲食物を摂り続けると、胃腸の温度は徐々に下がっていき、その働きが低下してしまいます。
その結果、中医学では以下のような状態に移行しやすくなると考えられています:
・脾胃虚弱(ひいきょじゃく)(胃腸の消化吸収の力そのものが弱っている状態)

・脾陽虚(ひようきょ)(胃腸の「陽気(温める力)」が失われている状態)

さらに、一度冷えた胃腸は、元の働きやすい温度に戻そうとして余分なエネルギーを使うため、結果的に「だるさ」や「疲労感」がなかなか抜けず、悪循環に陥りやすくなります。

<主な特徴>

✅食欲がない

✅疲れやすく、やる気が出ない

✅下痢・軟便が続く

「脾胃」の働きを高める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:健脾散(参苓白朮散)、健胃顆粒(香砂六君子湯)、人参湯など

養生

🟡中国のことわざ冬は大根、夏は生姜、医者いらず」

上記で述べたように夏こそ胃腸を労わることが大切です。胃腸を温めるような食材(生姜、紫蘇、みょうがなど)を少しずつ取り入れましょう。香りの良い食材は食欲アップにもつながります。

🟡「気」と「陰」を補う食材
豚肉、長いも、豆乳、豆腐、れんこん など

🟡「熱」を冷ます食材
きゅうり、トマト、ナス、ゴーヤ、冬瓜など

🟡余分な水分を代謝する食材
ごぼう、大根、海藻類、キノコ類

🟡脾胃(胃腸)を養う食材
お米、豆類、キノコ類、鶏肉など

最後に

ここまでご紹介したような養生法を、すべて完璧に実践する必要はありません。
例えば、暑い日にお酒をたくさん飲んでしまった時は、寝る前に白湯を一杯飲んで締める。そして、翌日は、胃腸にやさしい食事を心がける。

このように、身体に負担をかけた日は、その分だけ少し体を労わる。この「引き算と足し算のバランス」が、夏を元気に乗り切るコツです。
勉強と同じで、全部やろうとすると、なかなかやる気が出ず、それ自体がストレスになると思います。だからこそ、まずはできることから少しずつ、中医学の知恵を日々の暮らしのヒントとして、無理なく取り入れてみましょう。

夏バテや夏の疲れでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

「土用」ってなに?

はじめに

今回は、いつもの「〇〇と漢方薬」といったテーマとは少し趣向を変えて、季節にまつわるお話をしてみたいと思います。

「土用の丑の日」と聞くと、「うなぎを食べる日!」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか?でも、そもそも「土用」とは何を意味するのでしょうか🤔

来月末からは、「”夏”の土用」の時期が始まります。
ということは、「夏」以外にも土用があるの!?

今回は、「土用」とは何か、そして土用の時期をどのように過ごすとよいのかを中医学の視点から、そのポイントをお伝えしていきます。

五行と季節の関係

「土用」の話に入る前に、中医学を理解するうえで欠かせない「五行学説」について少し触れておきたいと思います。

五行学説とは、自然界に存在するあらゆるものや現象は「木・火・土・金・水」の5つの要素から成り立っているという、古代中国の哲学的な思想です。

この考え方は中医学にも応用されており、五行を人体のはたらきにあてはめることで、体の構造や機能、病気の原因、治療の方向性などを読み解く手がかりとされています。

五行と季節の関係を見ると、
「春=木、夏=火、秋=金、冬=水」 に対応しています。

では、「土」はどこに当てはまるのか?(長夏とありますが、いまいちピンとこないですよね…。)
この「土」と深く関わるのが、「土用」という季節です。

季節の変わり目と「土用」

一年には春・夏・秋・冬という四つの季節がありますが、もし季節がいきなり春から夏、夏から秋へ…と切り替わったら、体がついていけず、びっくりしてしまいますよね。

こうした季節の変化に体をうまくなじませるために、古くから設けられているのが「土用」という期間です。

土用は、季節と季節の間にある「調整期間」・「中継地」のようなもので、次の季節の変化に対応できるように、心身のバランスを整える大切な時期とされています。

つまり「土用」は、春から夏、夏から秋…といった次の季節へと向かうための“橋渡し役”のような存在です。この時期をどう過ごすかによって、次の季節を元気に迎えられるかどうかが変わってきます。

この季節の変わり目である立春・立夏・立秋・立冬の直前18日間が、それぞれ「土用」の期間とされています。

2025年度の土用

●春の土用:4月17日(木)~5月4日(日) → 立夏:5月5日(月)
●夏の土用:7月19日(土)~8月6日(水) → 立秋:8月7日(木)
●秋の土用:10月20日(月)~11月6日(木) → 立冬:11月7日(金)
●冬の土用:2026年1月17日(土)~2月3日(火) → 立春:2月4日(水)

ところで「丑の日」ってなに?

「丑の日」とは、日にちを十二支で数えた時の「丑」にあたる日のことを指します。
十二支といえば、年賀状などでおなじみですが、本来は日や時刻、方角などを表すためにも使われてきました。
十二支:子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥

2025年の夏土用の「丑の日」は、7月19日(土)7月31日(木)の2回あります!

「土用」は”脾胃(ひい)”をいたわる期間!

上記で述べたように五行学説では、五臓の「脾」は「土」に属します。そのため、「土用」の期間は、「脾」が影響を受けやすくなる期間とされています。

中医学における「脾胃」は、現代医学における胃腸を指し、飲食物の消化や吸収を担っており、私たちの身体に必要な「気(エネルギー)」や「血(栄養)」を作る働きがあります。さらには、水分の調整も行っており、胃腸に余分な水分が溜まらないように、代謝を調整する役割も担っています。

「脾胃」の詳しい働き👉五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

ちょうど「土用」の時期、つまり季節の変わり目は、湿度が急激に変化したり、気温が不安定だったりと環境の変化が大きくなります。こうした変化は、「脾」にとって大きな負担となり、体調を崩す原因になります。

なんで「うなぎ」を食べるの?

さまざまな説がありますが、平賀源内の説を紹介したいと思います。

江戸時代、あるうなぎ屋の店主が、夏場になると旬を過ぎたうなぎの売り上げが落ちることに悩んでいました。そこで、蘭学者としても知られる平賀源内が、「丑の日に“う”のつく食べ物を食べると夏バテしない」という民間の言い伝えをヒントに、「本日 土用丑の日」と書いた張り紙をすすめたところ、これが話題となり、「土用の丑=うなぎ」という習慣が広まったとされています。

💡中医学の視点から見た「うなぎ」

ちなみに、中医学的に「うなぎ」は、「脾」の機能を高め、「気(エネルギー)」や「血(栄養)」を補う働きがあるとされています。

体力の消耗 / 食欲の低下 / だるさや疲れといった「脾胃(胃腸)」の弱りからくる夏の不調をサポートしてくれるため、ただの語呂合わせだけでなく、中医学的にも理にかなった養生法といえます。

💡実は「山椒」にも意味がある!

「山椒」は、お腹を温め、胃腸の働きを高める作用があり、冷たいものの摂りすぎや冷房による“お腹の冷え”が気になる夏にはぴったりの薬味です。
つまり、「うなぎ+山椒」の組み合わせは、夏に弱りやすい「脾胃」を助けるという点でも、非常に理にかなった中医学的な養生スタイルかもしれません。

「脾胃(胃腸)」を守る養生法

①冷たい物を避ける
→冷たい物は「脾胃」を傷つけます。

②肥甘厚味を避ける
→肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物は「脾胃」に負担をかけます。

③腹八分を心掛ける
→胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事が良いとされています

④一口30回を目安に噛む
→食べ過ぎ防止、消化を助けることにつながります。

🍴脾胃(胃腸)」に良い食材

・胃腸の働きを高める:お米、山いも類、豆類(大豆、枝豆など)

・水分代謝を促す:はと麦、キノコ類(しいたけ、えのきたけなど)、海藻類(昆布、わかめなど)

・胃腸を温める:生姜、ねぎ、シナモン

最後に

近年の日本では、気温の急激な変化や、まるで亜熱帯のように長く続く蒸し暑さなど、異常ともいわれる気象が目立ち、四季の移ろいを感じにくくなってきました。
その影響もあり、季節の変わり目に体調を崩す方や、自律神経のバランスを乱す方が増えているように感じます。

だからこそ、季節の変化が目まぐるしい今の時代には、「土用」だけでなく、日頃から胃腸(脾胃)をいたわる暮らしが、健やかに過ごすための大切なポイントなのかもしれませんね。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐