起立性調節障害と漢方薬

はじめに

「学校に行きたいのに、行けない」
「どうして朝、体が動かないんだろう…」
「普通の生活がしたいだけなのに」

思春期の子どもたちに多く見られる「起立性調節障害」。
ある調査によると、中学生のおよそ10人に1人が経験すると言われ、不登校の背景にこの症状が関係しているケースも少なくありません。

最近では少しずつ認知されるようになってきましたが、それでもまだ「サボっているだけ」「甘えているんじゃないの?」といった誤解や心ない言葉に傷つく子も多くいます。

病院で検査をしても「異常なし」。薬を飲んでもあまり変化がない。
そんな状況に、どうしたらいいのか分からず、ただ時間が過ぎるのを待つしかない。そんな声もよく耳にします。

中医学(漢方)の視点から、少しでもこの症状に対する理解とサポートの糸口をご紹介できればと思います。

起立性調節障害とは?

💡どんな症状があるの?

起立性調節障害(OD)では、以下のような症状が見られます:

  • 朝、どうしても起きられない
  • 頭が痛い、立ちくらみやめまいがする
  • 体がだるくて、食欲もわかない
  • 時には失神してしまうことも…

このような症状は、
・午前中に強く、午後になると少し楽になる
・立ったり座ったりすると悪化し、横になると楽になる
・気圧の変化(特に雨の前など)にも敏感で、体調を崩しやすい
のも特徴です。

さらに、夜になると目が冴えてなかなか寝つけず、そのような生活が続き、だんだん昼夜が逆転してしまうこともあります。

🤔起立性調節障害の4つのタイプ

💊病院での治療は?

1.薬を使わない治療(非薬物療法)

  • 起きるときは頭を下げて、ゆっくり立ち上がる
  • 立ちっぱなしを避け、1〜2分以上の起立は控える
  • 水分を1.5~2L、塩分は普段+3gを目安に
  • 毎日30分程度のウォーキングで筋力を保つ
  • 早寝早起きで生活リズムを整える

(出典:日本小児心身医学会)

2. 薬を使った治療(薬物療法)

生活習慣の見直しを行ったうえで、必要に応じて血圧上昇作用のあるメトリジン(ミトドリン)やリズミック(アメジニウム)などが使われることがあります。

中医学で考える「起立性調節障害」

中医学では、「起立性調節障害(OD)」の背景に、昇降失調(しょうこうしっちょう)という状態があると考えます。

本来、私たちの体内では――

  • 清気(せいき):エネルギーや栄養は上へと昇り
  • 濁陰(だくいん):不要な水分や老廃物は下へと降りていく

という流れがうまく保たれていることで、心も体も健やかに働いています。

しかし、この上下のバランスが乱れてしまうと、本来届くはずの清気が頭部に行き渡らず、脳が“栄養不足”のような状態に。すると、

  • 頭がぼーっとする
  • めまいや立ちくらみ
  • 朝起きられない
  • 失神してしまうこともある

といった症状が現れます。

この「昇降の流れの乱れ」こそが、中医学で捉える起立性調節障害の根本原因とされています。

1.脾胃虚弱(ひいきょじゃく)

中医学でいう「脾(ひ)」と「胃(い)」は、現代医学でいうところの消化器系。つまり胃腸の働きにあたります。

「脾胃」は、食べたものを消化・吸収し、体に必要なエネルギー(=気)や栄養(=血)を生み出す役割を担っています。さらに、体内の水分代謝を整える働きもあり、「脾胃」がしっかりしていないと、余分な水分が体にたまりやすくなります。

「脾」と「胃」は表裏の関係にあり、お互いに協力しながら働いています:

  • 「脾」は、栄養をしっかり吸収し上へと運ぶ(上昇)
  • 「胃」は、食べ物を受け取り下へ送る(下降)

この“上昇”と“下降”のバランスが崩れる、いわゆる「昇降失調」の状態だと、本来上に届くはずの栄養が頭まで届かず、めまい・ふらつき・朝起きられない・疲れやすいといった「起立性調節障害」のような症状が現れます。

<主な特徴>
✅空腹感を感じない(特に朝)
✅食事量が少なく、すぐお腹いっぱいになる
✅元気がなく疲れやすい など

「脾胃」の働きを整える補中益気湯や黄耆建中湯、半夏白朮天麻湯などが使用されます。また、血虚(栄養不足)の傾向が見られる場合は、「脾胃」の状態を見ながら、婦宝当帰膠や十全大補湯などを使用することもあります。

「脾胃」の詳しい働きは👉五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

2.肝気鬱結(かんきうっけつ)

起立性調節障害の方に多く見られるのが、朝、体が動かない・目覚めてもスイッチが入らないという症状です。これは、医学的には「副交感神経から交感神経への切り替えがうまくいかない」と説明されますが、中医学ではこのような自律神経の調節を「肝(かん)」が担っていると考えます。

精神的なストレスやプレッシャー、不安が続くと、「肝」が我慢の限界を迎え、「気」の滞りを生じます。すると、体や心にさまざまな不調が現れ、この状態を中医学では「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と呼びます。

また、「ストレスを抱えると食欲がなくなる」「緊張するとお腹が痛くなる」といったように「肝」と「脾胃」は密接に関係しており、「肝気鬱結」が起きると、「脾胃」の働きも乱れてしまい、
🔼清気を上へ
🔽濁陰を下へ
という本来の昇降の流れも乱れてしまいます。

<主な特徴>
✅精神的ストレスを抱えている
✅緊張に弱い
✅イライラしやすい など

「肝」の働きを整え「気」の流れを良くする逍遥顆粒や四逆散、開気丸などが使用されます。

「肝」の詳しい働きは👉五臓六腑:肝の働きについて – 日々の生活に漢方を

3.痰飲(たんいん)

「痰飲」とは、体の中に停滞した余分な水分を指します。
体内の水分は、「肺」や「脾」、「腎」の働きによって巡回し、必要な分は吸収され、不要なものは尿や汗として排出されますが、「脾胃」が弱っていたり、水分代謝のバランスが崩れると、余分な水が溜まりやすくなり「痰飲」が形成されます。

この「痰飲」があることで、「気」の流れを妨げられ、身体の“通り道”をふさいでしまうため、清気(栄養やエネルギー)が頭部に届かなくなります。

<主な特徴>
✅体が重だるく、すっきりしない
✅頭が重く、時にはめまいがする
✅ 雨の日や湿度の高い日に体調が悪化する など

余分な水分(痰飲)を処理する苓桂朮甘湯や五苓散、温胆湯などが使用されます。

🦉フクロウ体質って?

「フクロウ」は夜に活動し、昼間は眠っている夜行性の鳥ですね。
そんなフクロウのように…

  • 朝はどうしても起きられない
  • 起きても頭がぼーっとして働かない
  • 朝食も食べる気がしない
  • 午前中は全体的にスローペース
  • でも午後になるとだんだん調子が上がってきて
  • 夜になると頭も体も冴えてくる!

そんな特徴を持つ人を、山本巌先生は「フクロウ体質」と表現しました。

このタイプは、上記でも述べたように、「起立性調節障害」によく見られる体質パターンでもあります。夜になると元気になる一方で、朝に弱く、生活リズムが乱れやすい。まさに「体内時計のズレ」が根っこにあるような状態です。
山本巌先生は、このような「フクロウ体質」に、よく”苓桂朮甘湯”という漢方薬を使用していました。

養生

🍭控えたい栄養素

血糖値を急激に上昇させる食品は、できるだけ控えたいものです。
脳はブドウ糖を唯一のエネルギー源としていますが、血糖が急激に上下すると、エネルギーの供給が不安定になり、集中力や気分の安定に影響を及ぼします。

特に以下のような食品は注意が必要です。

  • ケーキやクッキーなどの砂糖たっぷりのお菓子
  • 炭酸飲料や清涼飲料水などのジュース類
  • 白い小麦粉でできたパンやパスタ(菓子パン・白パン・うどん など)

これらは「高GI食品」とも呼ばれ、食後すぐに血糖値を急上昇させます。

すると、体は血糖を下げるために大量のインスリンを分泌しますが、これが効きすぎると血糖が急降下することもあります。この状態を「反応性低血糖」といい、血糖の乱高下は、脳にとって大きなストレスになります。

🧠摂取すべき栄養素

上記で述べたように、脳の唯一のエネルギー源は「ブドウ糖」ですが、それだけでは脳は正常に働きません。
脳の健やかな働きを支えるためには、ブドウ糖に加えて、ミネラル(マグネシウム・亜鉛・鉄など)も欠かせません。

脳は「電気信号」によって情報を伝え合っています。
たとえば、

  • 何かを見たとき
  • 考えたとき
  • 感情が動いたとき

このような瞬間、神経細胞(ニューロン)同士が微細な電気信号を送り合っているのです。この電気信号のやりとりをスムーズに行うためには、ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムといったミネラル(電解質)が必要不可欠です。

また、鉄は脳へ酸素を運ぶ役割を、亜鉛は記憶や感情に関わる神経伝達物質の合成を助けています。

食材の例
・鉄:黒ゴマ、黒豆、なつめ、ほうれん草
・亜鉛:牡蛎、牛肉、枸杞の実
・カルシウム:小魚、干しエビ、昆布
・マグネシウム:海藻類(昆布、わかめ、ひじき)

最後に

今回ご紹介した3つのタイプ(脾胃虚弱・肝気鬱結・痰飲)は、あくまで中医学的に見た一例にすぎません。
実際には、体温調節が苦手なタイプや、発育や成長過程に起因するタイプなど、さまざまな要因が複雑に絡み合って、現在の症状が現れていることがほとんどです。

「◯◯を飲んだら元気になったらしいから自分も…」
「SNSで話題の漢方がいいと聞いたから試してみよう…」

そんな気持ちもよくわかります。ですが、顔立ちが人それぞれ異なるように、体の内側=体質は十人十色です。同じような症状でも、原因や体質は全く異なるということも珍しくありません。

だからこそ、悩みを抱えている方には、自分自身の体質に合ったケアや漢方薬を見つけていただきたいと思っています。

僕のような存在が、少しでもそのお手伝いができたら何より嬉しいです。
「起立性調節障害」でお悩みがありましたら、お気軽にぜひご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

腸活と漢方薬

はじめに

近年、「腸内細菌」「腸管免疫」「腸内フローラ」といった言葉を耳にする機会が増え、スーパーやコンビニエンスストアでも、”ヨーグルト”や”乳酸菌飲料”など腸内環境を意識した製品が多く見られるようになりました。

しかし、これらを取り入れている多くの方が、「何となく健康に良さそう…」という漠然としたイメージで”腸活”を行っているのではないでしょうか?

そこで今回は、「腸」が私たちの健康にどのような役割を果たしているのか、そして中医学の視点から見た「腸活」について、分かりやすくお伝えします。

そもそも「腸」ってどんな役割?

私たちの体は、食べ物を口から取り込み、食道→胃→小腸→大腸の順番に運ばれ、必要な栄養を取り込み、不要なものを最終的に便として排泄しています。
つまり、人間の消化管は口から肛門までつながった一本の”ちくわ”のような構造をしてます。
この中でも、栄養の吸収と不要物の排泄を担っているのが「腸」です。腸は大きく「小腸」と「大腸」に分かれていて、それぞれ次のような働きをしています。

🔶 小腸

①栄養の吸収
胃や十二指腸で消化された食べ物は小腸に送られ、約5~8時間かけてさらに細かく分解されます。ここで、体に必要な水分と栄養の約80%を吸収します。
ちなみに、小腸は体の中で一番長い臓器で、全長は6~7メートルの長さにもなり、さらに内側の粘膜を広げると、テニスコート1面くらいになるとも言われています。

②不要物を大腸へ
必要な栄養素を吸収し、残った不要物(カス)を大腸へ送ります。

🔶大腸

①水分やミネラルの吸収
小腸から送られてきた内容物から、さらに水分やミネラルを吸収し、便としての形を整えていきます。

②便を体の外へ
最終的に、排出された便を体の外に排出します。

💡「腸」の7つの働き

「腸内細菌」って何?

私たちの腸内には、およそ100兆個以上、500〜1000種類もの腸内細菌が住んでおり、総重量はおよそ1kg程度になると言われています。
これらの細菌は、種類ごとにまとまって腸内に分布しており、その様子がまるでお花畑(flora)のように見えることから、「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれています。

腸内細菌は大きく3つのグループに分類されます。

🔴善玉菌:乳酸菌、ビフィズス菌など
<主な働き>
・身体に必要な栄養素を効率よく吸収する
・ビタミン、たんぱく、体内酵素を産生する
・腸内を酸性に近づけ悪玉菌が増殖しにくい環境にする
・腸の蠕動運動が活発になり老廃物をいち早く体外へ排出する
・免疫機能を高める

🟣悪玉菌:大腸菌(毒性株)、ウェルシュ菌、ブドウ球菌など
<主な働き>
・腸内を腐敗させる
・有害物質(毒素や発がん物質)を作り出す
・有害物質が腸管から吸収され、血管を通って全身をめぐる

🟡日和見菌:バクテロイデス、大腸菌(無毒株)、連鎖球菌など
「善玉菌」「悪玉菌」のどちらにも加勢する中立的な菌。
善玉菌が多ければ善い働きをし、悪玉菌が優勢になると一緒になって悪影響を及ぼすため、常に善玉菌を優位に保つことが腸内環境のカギとなります。

腸内細菌の黄金比

食生活の乱れや運動不足、ストレス、老化などで腸内の環境が乱れると、悪玉菌が作り出した有害物質が増えたり、病原菌が臓器に侵入して様々な病気を引き起こす原因となります。

「腸」は人体最大の免疫器官管?

私たちの消化管は、口から肛門までが一本の管のようにつながった構造をしており、食べ物だけでなく、ウイルスや細菌など外界からの異物にも常にさらされています。つまり、「腸」は外部からの刺激を最も受けやすい臓器の一つと言えます。

このような環境から体を守るために、腸には免疫機能が集中しており、全身の約70%の免疫細胞が腸に存在しているとも言われています。まさに腸は、“最大の免疫器官”とも呼べる存在です。

そのため、腸内環境を良好な状態に保つことは、免疫力の維持・強化に直結する大切な要素。腸の調子が整えば、体全体の健康バランスも自然と整いやすくなるります。

中医学で考える「腸活」

腸内環境を整えるためには、善玉菌そのものを摂取する「プロバイオティクス」と、その善玉菌のエサとなって腸内での定着や増殖を助ける「プレバイオティクス」の2つのアプローチが重要とされています。

ただし、腸内にはすでに100兆個以上の細菌が存在しているため、いくら善玉菌(プロバイオティクス)を摂っても、それらが腸内に定着するのは難しいという見解もあります。そのため、より重要とされているのが”腸内の土台を整える「プレバイオティクス」”です。

中医学では、消化吸収の働きは「脾胃(ひい)」が主ると考え、中でも「脾」は、五行のうち“土”に属する臓腑です。栄養豊富な土壌が植物を育てるように、「脾」が健やかであれば、腸内の菌たち(腸内フローラ)も良いバランスで保たれます。

つまり、中医学的に見ると、

  • プロバイオティクス=種(乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌)
  • プレバイオティクス=土(「脾」の働きを整えること)

と捉えることができます。

いくら良い種をまいても、土壌がやせ細っていては芽は出ません。中医学では古くから「脾こそが万物の生みの親」とされており、腸内環境の改善にも「脾」の健やかさが欠かせません。

「脾」の詳しい解説は👉五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

タイプ別の「腸活」

①胃腸の弱り=脾虚たタイプ

✅疲れやすい、やる気が出ない
✅食欲がない
✅食後にお腹が張る、眠くなる
✅下痢・軟便気味

これらのサインは、中医学でいう「脾虚(ひきょ)=脾の弱り」の状態と考えられます。「脾」の働きを補うことで、胃腸の機能を底上げし、腸内フローラが整いやすくなります。
漢方薬の例:健脾散(参苓白朮散)、人参湯、小建中湯など

💡「膠飴(こうい)」が腸を整える!?
小建中湯に含まれる「膠飴(麦芽糖)」は、オリゴ糖の一種で、腸内の善玉菌のエサとなる”プレバイオティクス”としての働きがあります。中医学では、「脾」の働きを高める漢方薬として古くから使われてきましたが、現代の栄養学的観点から見ても、腸内環境を整える作用が期待できる、まさに伝統と科学が重なる”漢方の知恵”の一つといえるでしょう。

②老廃物の停滞=痰湿・湿熱タイプ

✅脂っこい物、甘い物、味の濃い物やお酒が好き
✅口が苦い、臭い、粘る
✅メタボ体型
✅舌に苔がべっとりついてる

このような状態は、中医学では「痰湿(たんしつ)」や「湿熱(しつねつ)」と呼ばれる、体内の老廃物や余分な水分・熱が滞っている状態と捉えられます。

悪玉菌の原因となる老廃物を取り除くことで、腸内環境のバランスも整いやすくなります。
漢方薬の例:平胃散、温胆湯、五行草(馬歯莧)など

💡老廃物が溜まると…

中医学では「脾は湿を嫌う」と言われています。
たとえば、水はけの悪いグランドでは、足が取られ体の動きが悪くなりますよね?「脾」も同じで、体の中に「湿(老廃物)」がたまると「脾」の機能は低下し、腸内環境のバランスが乱れてしまいます。

③暴飲暴食=食積タイプ

✅お腹いっぱいじゃないと満足できない
✅胃がもたれる・げっぷやガスが多い
✅排便してもスッキリしない
✅便やおならのにおいがきつい

このような状態は、中医学では「食積(しょくせき)」と呼ばれ、食べすぎ・飲みすぎによる消化不良が起きている状態です。

「脾胃」の消化容量を超えた食べ物は、胃腸に負担をかけ、「痰湿」や「湿熱」といった老廃物の原因となります。漢方薬の例:晶三仙、加味平胃散など

💡発酵食品の入った漢方!?

晶三仙に含まれている「神曲」は、フスマや大麦などを発酵させた生薬です。発酵食品は、腸内の善玉菌を増やす“プロバイオティクス”としても注目されており、消化を助けながら腸内環境を整えるという、「神曲」には一石二鳥の働きがあります。

最後に

<脾胃を守る養生法😌>

🟡冷たい物を避ける
→冷たい物は脾胃を傷つけます。

🟡肥甘厚味を避ける
→肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物は脾胃に負担をかけます。

🟡腹八分を心掛ける
→胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事が良いとされています。

🟡一口30回を目安に噛む
→食べ過ぎ防止、消化を助けることにつながります。

現代では、「腸活」が一大ブームとなっていますが、中医学では、はるか昔から胃腸=「脾胃」を整えることが健康のカギとされてきました。

乳酸菌や整腸剤などの現代的アプローチも、こうした先人の知恵と組み合わせることで、より理想的な腸=*「栄養豊富でバランスの良い“土壌”」へと近づけるかもしれません。

体質や症状に合わせた中医学的「腸活」にご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

目の不調と漢方薬

はじめに

現代では、小さな子から年配の方までスマホやタブレット、パソコンの使用が日常の一部になっています。ある調査によると、日本人が1日に画面を見ている時間は7〜10時間といわれ、1日の1/3は何らかのデジタルデバイスの画面と向き合っている計算になります。

この「長時間の画面接触」が原因で、目の乾き・かすみ・疲れ・視力の低下といった“目の不調”を訴える人が年々増えています。
目のトラブルは単なる疲労だけではなく、頭痛や肩こり、集中力の低下、さらには睡眠の質の悪化など、さまざまな不調を引き起こす引き金にもなります。

「目」の仕組み

・水晶体:角膜を通して張ってきた光を屈折させて網膜に映し出す。
・前房:房水によって角膜や水晶体に酸素や栄養を供給し、眼圧を一定に保って眼球に張りを持たせる。
・硝子体:コラーゲンと水でできたゼリー状の組織。内側から適度な圧力をかけて眼球の形状を保つ。
・網膜:角膜から入ってきた光が像を結ぶ場所。

(「読む目ぐすり」参照)

中医学で考える「目」

中医学では、目は五臓の働きや精気の状態が現れる場所であり、五臓や精気が充実していれば、物がよく見えると考えられています。

<目と五臓の関係:五輪学説>

・肉輪(上下の眼瞼):「脾」は筋肉(肌肉)と関係があることから、眼瞼は「脾」に属します。まぶたがたるむ(眼瞼下垂)や眼瞼の浮腫みは、「脾」が弱っているサインかもしれません。
漢方の例:補中益気湯、五苓散など

・血輪(目頭、目尻):「心」は血液(血脈)と関係があり、眼角の充血には「心」が原因とされることがあります。
漢方薬の例:黄連解毒湯や三黄瀉心湯など

・気輪(結膜):肺は白色と関係があることから、白目の部分(結膜)は「肺」と関係があります。細菌やウイルス、花粉などによる急性結膜炎は、「肺熱(はいねつ)」と呼ばれる状態で、肺に熱がこもっているときに起こりやすいです。
漢方薬の例:銀翹散、越婢加朮湯など

・風輪(角膜):黒目の部分である角膜は「肝」と深く関係しています。中医学では「肝は目に開竅(かいきょう)する」といわれ、目のトラブル=肝の働きと直結すると考えられています。詳しくは下記で説明します。

・水輪(瞳孔):中医学における「腎」は「生命力の源」であることから、加齢や老化とも関係が深いとされます。白内障や緑内障など、加齢による目の症状は「腎」の弱りと結びついて考えられています。
漢方薬の例:杞菊地黄丸、亀鹿仙など

「肝」と「目」は深い関係

上記で述べたように「肝」と「目」には、非常に深い関係があります。
中医学の古い書物には、目は「肝」に属する器官であり、目の機能は「肝」の働きが調和し正常であれば良く見える状態が保たれ、五色を見分けることができると記されています。

1.肝血虚

昔から、貧血の人にはレバーが良いと言われるように、「肝」には「血」を貯蔵する働きがあり、この「血」が十分に貯蔵されていることで「肝」の働きは正常に保たれます。また、中医学には「久しく視れば血を傷る」という言葉もあり、現代のように長時間スマホやPCを見る生活は「肝」の栄養源である「血」を著しく消耗させます。

<主な特徴>
✅目がかすむ、ぼんやり見える
✅目が乾燥する
✅目、瞼が痙攣する

「肝血」を補う漢方薬の例:婦宝当帰膠、心脾顆粒、十全大補湯など

2.肝腎陰虚

中医学には、「肝腎同源(精血同源)」という考えがあり、「肝」が「血」を蓄えて全身の血液量を調節し、「腎」はその「血」のもととなる「精」を生み出します。「肝」と「腎」、そして「精」と「血」は、それぞれが支え合いながらバランスを保ち、私たちの生命活動を支えています。
そのため、目の酷使により「血」が消耗すると、「血」や「生命の根源」である「精」も徐々に枯渇していき、目の不調だけでなく、体力が低下したり、疲れが取れにくくなったりと老化現象のような症状を生じやすくなります。

<主な特徴>
✅ドライアイ、目薬が手ばせない
✅視力が落ちてピントが合わない
✅加齢に伴う目の不調(老眼、緑内障、白内障、加齢黄斑変性症)

「肝腎」を強化し「精血陰液」を補う漢方薬の例:杞菊地黄丸、亀鹿仙、二至丹など

3.瘀血

目の健康を保つには、上記で述べたように「肝」に「血」が豊富にあること、そして「血」が滞ることなくスムーズに目まで行き届けることが重要となります。

「血」の巡りを改善する漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、桂枝茯苓丸など

4.目の不調によく使われる生薬

中医学特有の表現に「明目」という言葉があります。字の如く、目を明るくはっきり見せるという意味で、目の機能を高め、疲れやかすみを改善することを指します。

<代表的な生薬>
🟡菊花(きくか):爽やかな香りから「気」の巡りを良くし、ストレスや目の酷使により高ぶった「肝気」を鎮めます。中国では、目の疲れた時にお茶としてよく飲まれています。」

🟡枸杞子(くこし):スーパーフードの「ゴジベリー」。古来より補腎の生薬として知られ、精を補い視力を改善する働きがあります。漢方薬の杞菊地黄丸にも入ってます。

🟡決明子(けつめいし):目の炎症を抑え良く見えるようになることから「決明」と名付けられました。日本では、よく便通の改善にも使われます。

🟡石決明(せっけつめい):アワビの貝殻の生薬。別名「千眼光」よ呼ばれ、「肝」の高ぶりを抑え、目の酷使による頭痛や飛蚊症などに使われます。

最後に

<質の良い睡眠が目を守る!💤>

中学では、午前1~3時は「肝」が活発に働く時間帯とされています。
この時間にきちんと熟睡できてると、全身の「血」が「肝」に集まり、老廃物を解毒・浄化し、栄養豊富な「血」へと生まれ変わります。

「目が疲れやすい」「視力が落ちてきた」「寝ても疲れが取れない」
そんな方は、寝る前のスマホやタブレットを手放して、質の良い睡眠を意識してみましょう。

「目を使ことが増えた」「最近、見えにくくなってきたかも」
そんな時、中医学の視点で体の内側を見直してみると、良い効果が得られるかもしれません。目のトラブルは、単なる疲労ではなく、「肝」「腎」など五臓からの悲鳴のサインかもしれません。体質に合わせた漢方薬や食事、生活習慣を整えることで、目だけでなく、全身のバランスも整っていきます。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐