五臓六腑:腎の働き / 補腎のすすめ

はじめに

最も重要なことを「肝心要:かんじんかなめ」と言いますが、この「肝心」は本来「肝腎」と書いていたそうです。
中医学での「腎」は、現代医学の「腎臓」の働きに加え、成長や発育、老化、免疫など幅広い役割を担っており、「腎」の働きの充実さが、その人の身体全体の健康と深く関わります。そのため、「腎」の働きが弱ると、発育が遅れたり、不妊症や更年期障害、骨粗鬆症、脱毛など様々な不調や老化現象の原因にも、、、。このことからも、「腎」は、まさしく人間の「要:かなめ」の臓器と言えます。
「腎」の働きを補い、高める「補腎:ほじん」。西洋医学にはない、中医学特有の「腎」の考えと「補腎」の魅力を少しでも皆さんに伝えることが出来たらと思います。

古来から伝わる人体のリズム

中国では、古くから「女性は7の倍数、男性は8の倍数」で身体の変化があると言われています。女性は28歳、男性は32歳で腎が最も充実して身体や生殖機能がピークを迎え、その後は徐々に腎の働きが弱くなり、様々な不調や老化現象が現れやすくなります。

■女性は7の倍数で変化する

■男性は8の倍数で変化する

「腎」の働き

 ①精を蔵する

「精:せい」とは、人間の生命力の源であり、生命活動を維持する基本物質と考えらています。「腎精:じんせい」は、私たちが生まれた時に両親から貰った命のもとである「先天の精:せんてんのせい」と、私たちが普段から食べている飲食物からの栄養から補給される「後天の精:こうてんのせい」の2つから作られます。

それぞれの働きについて

①生長・発育、生殖に関係する

「腎精」は生長・発育の基本物質であり、人間の一生をあらわす”生(生まれる)・長(成長する)・壮(盛りを迎える)・老(老いる)”と深い関係にあります。
そのため、「腎精」が不足すると、発育不良や老化に伴う症状が出やすくなります。
また、「腎精」は生殖器官の発達と生殖能力にも関係しているため、生理の不調や不妊、精力の減退にも繋がります。

②髄を生みだし、骨や脳を栄養し管理する

「腎精」は髄(脳髄、脊髄、骨髄)を作り出します。
髄は骨を形成し、髄が集まって脳を形成し、また、骨髄とも関係があることから血液の生成にも関係します。高齢になるほど、骨がもろくなったり、記憶力が低下するのは、年齢を重ねるごとに「腎精」が減っていくためです。

③水と関係する

現代医学の「腎臓」の役割に近く、水分の代謝と排泄に関わり、身体の水分をコントロールしています。
この働きが弱いと、尿量の増えたり、減ったり、またむくみの症状に繋がりやすくなります。

④気を納める

中医学には「肺は気の主、腎は気の根」という言葉があり、呼吸機能は主に「肺」の働きで行われるが、息を深く吸い込むには「腎」の働きが必要になります。
慢性的に呼吸が浅い、動くとすぐ呼吸困難になる方は、「腎」の働きが低下している可能性があります。

「腎」と五行の関係

⑤腎は耳及び二陰と関係がある

「腎精」が耳を滋養することで、正常な聴覚が保たれます。老化の症状に耳が遠くなったり、耳鳴りがあるのは、年齢とともに「腎精」が減ることが原因です。
また、二陰とは前陰(尿道や生殖器)、後陰(肛門)のことを指しており、腎が弱ることで尿や便の不調、生殖系のトラブルが起こりやすくなります。

⑥腎の華は髪にある

綺麗な花を咲かせるには、根がどっしりと安定しており、土からしっかり栄養分を吸収し、花に届ける必要がありますが、この根の部分が「腎」であり、栄養分が「精」にあたります。「腎」が強く、「精」が十分にあれば髪は、いつまでも元気にいられます。

⑦腎と関係がある季節は冬である

「腎」は寒さに弱いため、身体が冷えたり、身体を過度に消耗させたり、不摂生な生活を続けると、「腎」の働きは衰えやすくなります。
(動物たちが冬眠するように、冬はエネルギーを消費するのではなく、蓄える時期と言われています。)

「補腎」とは?

上記で述べたように「腎」は、私たちが生きるうえで非常に大きな働きをしていますが、「腎」は燃えているロウソクのようなもので、加齢や過労などの影響により「蝋=腎精」は、どんどん消耗され、増えることはありません。
また、その蝋から生み出される炎が「腎気」であり、少ない蝋では炎も小さくなるように、「腎気」も年齢を重ねるごとに弱くなっていきます。

蝋の消耗を防ぐことはできませんが、蝋に油を足すことで、消費を抑えることはできます。この油を足す行為が「補腎」にあたり、「補腎」をすることで「腎」の働き低下による老化現象(更年期障害、物忘れ、耳が遠くなるなど)の防止や生殖機能を高めることを利用し、妊活に応用することが可能となります。

補腎薬について

「腎」には「腎陰:じんいん」と「腎陽:じんよう」が存在します。「腎陰」とは、身体を潤し、冷ます働きをしており、「腎陽」は、身体を動かし温める働きを担っています。
温泉に例えると、温泉の水源である地下水が「腎陰」、熱の根源であるマグマが「腎陽」であり、心地良い湯加減になるには、熱過ぎず、冷た過ぎずのバランスを保つことが重要になります。
「腎陰」を補う漢方薬の例:六味地黄丸、杞菊地黄丸、瀉火補腎丸(知柏地黄丸)など
「腎陽」を補う漢方薬の例:八味地黄丸、参茸補血丸、参馬補腎丸など

最後に

上記で述べたように「人生」を健康で豊かに過ごすには、「腎精」が豊富に充実していることが非常に重要になります。つまり、人生とは「腎精」そのものとも言えます。

以下の症状でお悩みの方は、「腎」の衰えによるものかもしれません。
□足腰が痛い、だるい
□若い頃に比べ疲れやすくなった
□頻尿・尿漏れが気になる
□耳が遠くなった
□肌のシミ・シワが増えた
□更年期障害
□生理不順、不妊
□精力低下 など
若々しさを保ち、いつまでも健康に過ごすためにも「腎」を労わり、「腎」の働きを補う生活をしませんか?

漢方薬局では、植物性より効果が高いと言われている鹿の角や亀、スッポンなどの動物性の生薬が入った補腎薬を数多く取り扱っています。(残念ながら、動物性の生薬のほとんどは、保険適用外のため病院では処方できないことが多いです。)
自身の体質に合った「補腎薬」をお探しの方は、ぜひ当店までお越しください。

薬剤師 中目 健祐

頭痛と漢方薬

はじめに

誰もが経験したことのある頭痛。
日本人の4人に1人は慢性頭痛に悩んでいると言われ、鎮痛剤がなかなか手放せない「頭痛もち」の方も多いのではないでしょうか。当薬局においても、少しでも鎮痛剤の量を減らしたい、薬に頼らない生活を送りたいと訴える方など多くの方が来店されます。

頭痛とは?

頭痛は下記の通り分類され、慢性的な頭痛で苦しんでいる方(頭痛持ち)の多くは「一次性頭痛」に該当します。

中医学における痛みの考え方

中医学では、頭痛や腰痛、生理痛など様々な痛みの原因を下記2つに分けて考えます。
・不通則痛(ふつうそくつう):通じざれば則ち痛む
気や血、津液の流れが悪くなり体内に詰まりが生じることで痛みが発生する。

・不栄則痛(ふえいそくつう):栄えざれば則ち痛む
気や血(栄養)の不足により、臓腑や経絡、組織、器官が滋養されず、痛みが発生する。

中医学で考える頭痛

中医学では、頭痛の起こる原因により大きく2つに分けて考えます。
①外感頭痛:外部の影響を受けて痛みが発生する。 (急性の痛み)
②内傷頭痛:臓腑の機能失調により痛みが現れる。(慢性的に続く痛み)

①外感頭痛

自然界の影響(風・寒・暑/熱・湿)により引き起こされる頭痛です。
邪気に関する詳しい説明は「カゼと漢方薬」で述べてますので、そちらを参照ください。(カゼと漢方薬 – 日々の生活に漢方を)

1.風寒頭痛(ふうかんずつう)

カゼの引き始めに悪寒とともに頭痛や首~後頭部のこわばりを感じたことはないでしょうか。この痛みは、気温が下がると川の水が凍り、流れが悪くように、身体内の気や血の流れが寒邪の影響により滞ることで痛みが発生します。

このタイプの特徴は
□頭痛(ゾクゾクする、こわばる)
□首から後頭部のこわばり
□カゼの症状(悪寒、発熱、鼻水など)

痛みの原因である「風寒」の邪気を発散させる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:頂調顆粒(川芎茶調散)、葛根湯、麻黄附子細辛湯など

「川芎茶調散」は頭痛の専門薬とも呼ばれ、後述する様々な頭痛のタイプに併用して使用することができます。

2.風熱頭痛(ふうねつずつう)

暖房を使用すると温かい空気が上へ上へとにいくように、「熱邪」は身体内の上部である頭部に影響を及ぼし、熱感を伴った頭痛へとつながります。体温が高い場合は、心拍数が増加するためドクンドクンと拍動痛を起こすこともあります。

このタイプの特徴は
□頭痛(ズキンズキンする、ジンジンする)
□顔が熱い、口や喉が渇く
□カゼの症状(発熱、咽頭痛)

頭部の「熱」を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:涼解楽(銀翹散)、銀翹解毒散、荊芥連翹湯など

3.風湿頭痛(ふうしつずつう)

雨の日の前後や気圧が下がると、頭が痛く、重だるくなるという方がいますが、これは自然界の「湿邪(湿気)」が大きく影響しています。
湿度が高い梅雨の時期や夏のジメジメした時期に除湿器を使用すると、タンク内に水がたくさん溜まりますが、この水(湿気)の溜まりが頭の中で起こるため、頭が重く痛い、体が重だるいといった症状がでます。

このタイプの特徴は
□頭痛(重く包み込まれる感じ、ドーンとする)
□身体が重だるい
□食欲不振、軟便

頭部に溜まった「湿」を追い出す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散など

「五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を」で述べましたが、脾胃(胃腸)の働きが弱っている方は、身体内に「湿:余分な水」を溜めやすいことから、外界の「湿邪」の影響も受けやすいとされています。中医学では、これを「内湿が外湿を呼ぶ」と言います。したがって、脾胃の働きが低下している方は、「湿」を処理しつつ、「脾胃」の立て直しが必要となります。(詳しくは、②内傷頭痛の「痰濁頭痛」をご参照ください。)

②内傷頭痛

1.気虚頭痛(ききょずつう)/ 血虚頭痛(けっきょずつう)

中医学では、頭部を「清陽の府」と言い、全身の陽気(エネルギーや栄養素)が集まる場所とされています。
エネルギーが不足している「気虚タイプ」や身体内の栄養や潤いに関わる「血」が不足している「血虚タイプ」は、頭部に必要な「清陽(陽気=栄養素)」を脳に届けられため頭痛を引き起こします。
イメージ的には、食事を取らない時間が続いたり、空腹を我慢すると低血糖となり、頭痛になったり、頭がぼーっとすることがありますが、気虚や血虚の頭痛はこの状態に近いと言えます。

●気虚頭痛
このタイプの特徴は
□頭痛(疲れた時に酷くなる)
□倦怠感、疲れやすい
□食欲不振
□下痢、軟便気味

「気」を補い、「気」の生成に関わる脾胃(胃腸)の働きを高める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:補中丸(補中益気湯)、健胃顆粒(香砂六君子湯)など
頭痛症状が強い時は、上記で述べた「頂調顆粒(川芎茶調散)」を併用するとより効果的です。

●血虚頭痛
このタイプの特徴は
□頭痛(頭がふらつく、ボーっとする、シクシク痛む)
□生理後の頭痛
□顔が白い(蒼白)
□動悸、不眠

不足している「血」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:婦宝当帰膠、心脾顆粒(帰脾湯)、人参養栄湯など

2.痰濁頭痛(たんだくずつう)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰濁」と呼びます。水道管がヘドロまみれだと水詰まりを起こすように、「痰濁」が身体内に溜まると気や血の流れが滞り痛みが生じます。

このタイプの特徴は
□頭痛(頭が重く痛む、ズーンとする痛み)
□めまい
□悪心・嘔吐
□身体が重い
□雨の日や気圧が低い日は調子が悪い

身体内にある「痰濁」を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、星火温胆湯など

中医学では、「脾は生痰の源」という言葉があり、脾胃(胃腸)が弱いと水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まり痰が生じやすくなると考えます。「痰」が原因による症状の場合は、まずは脾胃(胃腸)の状態や生活習慣を見直すことから始めると良いかもしれません。

3.肝火頭痛(かんかずつう)

中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」や「血」の流れを調節し、精神面の安定に関与していると考えらています。ストレスや精神的な負荷がかかり自律神経が乱れると、「肝」の働きが低下し、「気」や「血」が渋滞を引き起こし、オーバーヒートすることで痛みにつながります。

このタイプの特徴は
□頭痛(キリキリ、ズキンズキンと痛む)
□耳鳴り、めまい
□目の充血、赤ら顔、のぼせ
□ストレスや緊張を感じやすい
□生理前の頭痛

高ぶっている「肝火」を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:瀉火利湿顆粒(竜胆瀉肝湯)、釣藤散など

「肝火」になる要因としては、上記で説明した「気」の滞りがあるため、「気」の流れを良くする「加味逍遥散」や「大柴胡湯」などを併用することもあります。

5.瘀血頭痛(おけつずつう)

「瘀血」とは、血の巡りが悪くなり、血液がドロドロとした状態を言い、血管中の血流を塞ぐと上記で述べた「不通則痛」の状態となり、痛みを引き起こします。

このタイプの特徴は
□頭痛(針で刺されたような痛み、ズキンとする)
□肩・首こり
□生理痛が酷い
□舌裏の血管が青紫色に浮き出ている

「血」の滞りを解消する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参、など

最後に

1つに痛みと言っても、上記のように痛みを引き起こす要因は様々あります。漢方薬は、西洋薬ほど痛みに対しシャープに効きませんが、痛みが起きている原因や体質に対しアプローチすることができ、頭痛を引き起こさない身体へ導くことができます。自身の体質を理解し、身体の中から頭痛を予防する体質を一緒に目指しませんか。
頭痛に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

めまいと漢方薬

日常生活に大きな影響を及ぼしかねないめまい。
目がグルグルする、フワフワする、またいつどこで起こるか分からないめまいは、ストレスに繋がったり、気持ちが憂鬱になるなど、日々のQOL(生活の質)を低下させる症状の1つかと思います。

・症状がなかなか改善しない、検査しても異常が見つからない
・雨の日や気圧が下がるとめまいを引き起こす
・毎年、春になると何だかめまいやふらつきが気になる
など、めまいに関する悩みを抱えてる方は非常に多い印象です。

めまいの分類

一口に「めまい」といっても、様々な種類に分類されます。

■めまいの自覚症状

■末梢性めまいの特徴

中医学で考えるめまい

中医学では、古くから”めまい”について以下のような言葉があります。
①無虚不作眩:身体に必要なものが不足していなければ、めまいは起きない
②無痰不作眩:痰(余分な水分)がなければ、めまいは起きない
③諸風掉眩、皆属於肝:風によって生じる、めまいやふるえは、みな肝と関係がある

①無虚不作眩:身体に必要なものが不足していなければ、めまいは起きない
 

1.気血不足(きけつぶそく)

中医学では、頭部を「清陽の府」と言い、全身の陽気(エネルギーや栄養素)が集まる場所とされています。
エネルギーが不足している「気虚タイプ」や身体内の栄養や潤いに関わる「血」が不足している「血虚タイプ」は、頭部に必要な「清陽(陽気=栄養素)」を脳に届けられず、栄養不足を起こすことでめまいを引き起こします。

このタイプの特徴は
□動くとめまいが酷くなる
□疲れやすい、倦怠感
□食欲不振
□動悸・不眠
不足している「気」や「血」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:婦宝当帰膠、十全大補湯、補中益気湯など

2.腎精不足(じんせいぶそく)

中医学での「腎」は、「髄(骨)」を生み出し、その「髄」が集まることで脳を形成すると考えます。そのため、脳は「髄の海」といわれ、髄が満たされていれば、脳は正常に活動を維持することができますが、「腎精」が不足し「髄海(脳)」が空虚になると、めまいや物忘れ、耳鳴りといった症状がでやすくなります。

このタイプの特徴は、加齢とともに現れる以下のような症状を伴うことが多いです。
□物忘れが酷い
□足腰がだるく、力が入らない
□耳鳴り
□精力の減退
□更年期に伴う不調
「腎精」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:六味地黄丸、八味地黄丸、海馬補腎丸など

②無痰不作眩:痰(余分な水分)がなければ、めまいは起きない
 

●痰濁中阻(たんだくちゅうそ)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰濁」と呼びます。水道管がヘドロまみれだと水詰まりを起こすように、「痰濁」が頭部や身体内に溜まると、気や血が脳に十分に届かずめまいを生じます。

このタイプの特徴は
□頭・身体が重だるい
□胸がムカムカする
□浮腫む、下痢・軟便気味
□食欲不振

身体内に溜まった余分な水分を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、星火温胆湯など

中医学では、「脾は生痰の源」という言葉があり、脾胃(胃腸)が弱いと水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まり痰が生じやすくなると考えます。「痰」が原因による症状の場合は、まずは脾胃(胃腸)の状態や生活習慣を見直すことから始めると良いかもしれません。

③諸風掉眩、皆属於肝:風によって生じる、めまいやふるえは、みな肝と関係がある

●肝陽上亢(かんようじょうこう)

五行学説では、「肝」は「風」や「木」と関連がありますが、木々が風にあたるとゆらゆらと揺れるように、身体内に「風」が生じると、めまいやふらつきの症状がでやすくなります。

身体内に「風」が生じる原因としては、以下のようなものがあります。
・慢性的なストレスや心配事を抱えている:「肝」は自律神経の働きと関係があります。
・体内の潤い(陰血)が減り、エネルギー(陽気)が相対的に強まっている:自然界では周囲が乾燥すると木々が燃えやすくなり、炎が燃え上がると風を生じます。

春先にめまいやふらつきなどを訴える方が多いのは、春は「春一番」と言われるように、冬から春へ季節の変わり目で強い風が吹くことで「風」の影響を受けやすくなるためです。風により草木が揺れるように、身体内が風の影響を受けることで体内も揺れ、めまいやふらつきなどの症状へとつながりやすくなります。

このタイプの特徴は
□耳鳴り、頭痛
□怒りっぽい、赤ら顔、目が充血しやすい
□血圧が高い
□不眠、夢をよくみる
身体内で生じた「風」を鎮める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:釣藤散、抑肝散、星火睛明丹(石決明、白僵蚕含有食品)など

④その他

上記以外にも血の滞りが原因の「瘀血(おけつ)タイプ」や冷えが原因の「陽虚(ようきょ)タイプ」などもあります。

最後に

漢方薬に頼ることも大事ですが、それ以上に日々の養生が症状改善の近道となります。日頃の食事や運動、睡眠、ストレスなども合わせて見直してみましょう。

<おすすめ食養生>
●気血不足タイプ
・気の不足:米類、芋類、豆類、肉類
・血の不足:レバー、鶏肉、小松菜、ほうれん草

●腎精不足タイプ:山芋、長芋、枸杞の実、黒豆、黒ゴマ

●痰濁中阻タイプ:キノコ類、海藻類、はと麦、はるさめ

●肝陽上亢タイプ
・ストレス過多:セロリ、春菊、柑橘類、酢の物
・潤い不足:れんこん、きゅうり、トマト、豆乳、豚肉

原因がなかなか特定しづらい「めまい」は漢方が得意とする分野です。
めまいの治療で悩んでいる、症状が改善しない、体質に合わせた漢方薬を服用してみたいという方は、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

胃痛と漢方薬

胃痛のメカニズム

胃は、胃の粘膜を守る「防御因子」と胃酸などの「攻撃因子」のバランスが正常であると健康な状態に保たれますが、何らかの原因で「攻撃因子」の働きが強まったり、「防御因子」が弱まり、相対的に「攻撃因子」の比重が高くなると胃痛が発生します。

「防御因子」と「攻撃因子」のバランスを崩す要因には、生活習慣の乱れ(脂っこい物/辛い物/甘い物の過食やアルコールの過飲、寝不足など)やストレス、疲労、喫煙など様々あります。

機能性ディスペプシアとは?

近年、病院で検査(内視鏡検査など)を行っても炎症や潰瘍などの異常はないが、胃の不調(胃の痛み、胃もたれ、胸やけなど)が慢性的に続いている方が増えているようです。このような状態を「機能性ディスペプシア:Functional Dyspepsia : FD)」と言い、下記の通り定義されています。

1.症状

機能性ディスペプシア(FD)の診断基準(RomeⅣ基準)
下記の症状のいずれかが診断の少なくとも6か月以上前に始まり、かつ直近の3か月間に上記症状がある。
1.つらいと感じる心窩部痛(みぞおちの痛み)
2.つらいと感じる心窩部灼熱感(みぞおち辺りが焼けるような感じがする)
3.つらいと感じる食後のもたれ感
4.つらいと感じる早期飽満感(食べ始めてすぐに満腹感、膨満感を感じる)
及び症状を説明しうる器質的疾患はない。

食後愁訴症候群(PDS)の診断基準
少なくとも週に3日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。
1.つらいと感じる食後のもたれ感
2.つらいと感じる早期飽満感

心窩部痛症候群(EPS)の診断基準
少なくとも週に1日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。
1.つらいと感じる心窩部痛
2.つらいと感じる心窩部灼熱感

2.原因

機能性ディスペプシアを引き起こす詳しい原因は明らかになっていませんが、
・胃の運動機能が正常に働いてない
・胃酸が過剰に出ている
・胃腸の知覚過敏(胃酸の刺激に敏感になっている)
・ストレスによる自律神経の乱れ
・生活習慣や食生活の変化
・ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)への感染
などが考えられています。

中医学における胃腸(脾胃)の働きについて

詳しくは「五臓六腑:脾胃の働き 」をご参照ください。

中医学で考える胃痛

1.胃寒(いかん)

お酒の席でお酒やお刺身などの冷たい物を食べ飲み過ぎた時に急にお腹が痛くなったことはないでしょうか?

胃腸は体温と同じぐらいの温度で正常に機能すると言われており、急激に胃腸が冷えると本来の働きができなくなります。冷え(寒邪)により機能が低下した胃腸は、気や血が停滞してしまい、この滞りにより痛みが発生します。中医学では、このことを「不通則痛:ふつうそくつう」と言い、滞ると痛みが起きると考えます。また、今回の痛みの原因である「寒邪」には凝滞と収斂という特徴あるため、痛み方はギューッと引き攣るような痛みになります。

このタイプの特徴は
・冷たい物の過食・過飲により引き起こされる痛み
・痛みは激しく、絞られるような痛み
・温めると痛みが和らぐ

胃を温めながら痛みを抑える漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:安中散、勝湿顆粒(藿香正気散)/香蘇散+芍薬甘草湯など

漢方の胃腸薬として有名な「大正漢方胃腸薬」は、上記の安中散と芍薬甘草湯を組み合わせた漢方薬になります。したがって、冷たい飲食物などの寒邪が原因により引き起こさる胃の痛みには非常に効果的ですが、下記で述べるような熱やその他原因による胃痛については、他の漢方薬を使用することが望ましいです。

2.胃熱(いねつ)

食べても食べても直ぐにお腹が空く、いっぱい食べたのに満腹感を感じられない、お腹いっぱいにならないと気が済まないなど、食欲が異常に亢進して困ったことはないでしょうか?

このような状態を中医学では、胃に熱がこもり、働きが亢進している状態と考え、辛い物や脂っこい物、甘い物などの過食や精神的なストレスにより引き起こされると考えます。

このタイプの特徴は
・胃が焼けるように痛む
・胸やけがする
・酸っぱい水や苦い胃液が出る
・口臭が酷い
・食べてもすぐお腹がする

胃に停滞している熱を清ましてあげる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:三黄瀉心湯、黄連解毒湯など

3.肝気犯胃(かんきはんい)

緊張する場面(テストや面接、プレゼンの前など)やちょっとした不安(電車に乗った時や学校、会社に行く前)でお腹(胃)が痛くなったことはないでしょうか?

中医学では自律神経を主る「肝」の気が高ぶることで「脾胃」が攻撃され、その影響により胃の痛みが引き起こすと考えます。

このタイプの特徴は
・精神が緊張状態の時に痛みがでる
・ストレスを抱えやすい、緊張に弱い
・お腹(胃)が張ったような痛み
・よく脇腹が張る、ゲップをする

「肝」の気の流れを良くしながら、「脾胃」を守る漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:開気丸、四逆散、逍遥顆粒など

4.瘀血阻絡(おけつそらく)

「瘀血:おけつ」とは、血の滞りを指します。上記で述べた寒邪や気滞などが長期間続くと血の流れが停滞し「瘀血」が生じます。瘀血により経絡中の気血の流れをふさぎ「不通則痛」を引き起こすため胃痛が生じます。

このタイプの特徴は
・差し込むような痛み(針で刺されたような痛み)
・痛みの箇所が固定している(瘀血は1か所に留まる)
・お腹を擦ったり、触れたりすると痛みが増す(拒按)
・吐血、便血がみられる

「気」と「血」の巡りを良くすると漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:加味逍遥散、桂枝茯苓丸など

5.胃陰不足(いいんぶそく)

胃には、上記で述べたように胃粘液などの「防御因子」がありますが、この胃を守る粘液が不足している状態を「胃陰不足」と言います。(地面に潤いがなく、干からびてひび割れているような状態です。)
上記2で述べた「胃熱」が慢性的に続くと、胃内にある潤いが蒸発し「胃陰不足」へと繋がります。また、長年胃の不調に苦しんでおり、胃酸を止める薬を飲んでも症状が一向に改善しない方にもこのタイプが多く見られます。

このタイプの特徴は
・胃が焼けるように痛む
・胸やけがする、上腹部の不快感
・満腹感を感じやすい
・口や舌が乾燥する
・便秘気味でコロコロしている

「胃」に潤いを与えてくれる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:麦門冬湯、艶麗丹、百潤露など

6. 脾胃虚寒(ひいきょかん)

物心ついた時から胃腸が弱い、慢性的に胃痛が続いている場合はこのタイプが多いでしょう。脾胃を温めるエネルギーが不足するとお腹の冷えを感じやすくなり、上記1で述べた「胃寒」とは異なり、慢性的にシクシクという痛みが続きます。「脾胃」が弱い方は、下記の特徴に加え、疲れやすかったり、下痢・軟便、食後にお腹が張る・眠くなるという症状を伴うことが多いです。

このタイプの特徴は
・シクシクとお腹(胃)が痛む
・お腹を擦ったり、おさえると痛みが和らぐ(気持ちが良い)
・食後に痛みが緩和する
・食欲があまりない、食事量が少ない

胃腸の働きを高めながら、お腹を温める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:小建中湯、人参湯、四君子湯類など

また、「脾胃」の弱りにより水分代謝が低下すると、不要な水分が胃腸内で停滞するため、胃痛だけでなく胃のむかつきや悪心などの症状がみられることがあります。このような場合は、半夏瀉心湯や黄連湯などの使用も考えられます。

最後に

「下痢と漢方薬」で述べたように日本人は胃腸が弱い方が多いように思います。
(詳しくは「下痢と漢方薬」をご参照ください。)

日本人は胃腸の状態を軽視していますが、中医学では「脾胃(胃腸)」の状態が健康の要と考えます。「人間の体は食べたもので出来ている」とよく言いますが、健康への第一歩は「脾胃」の働きを良くすることが非常に重要になります。

長期的に胃の不調が続いており、胃酸を止める薬(ファモチジンやオメプラゾールなど)を飲んでも症状が改善しない、また機能性ディスペプシアのように原因がはっきりせず西洋薬を飲んでも効果がいまひとつという場合は、漢方薬を選択肢にいれてみてはいかがでしょうか。

漢方薬は、上記で述べたようにその症状のタイプに合わせて様々な漢方薬があります。ご自身の胃腸症状に合う漢方薬をお探しの方は、ぜひ一度ご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

五臓六腑:脾胃の働き

はじめに

中医学を勉強し始め約2年が経ちました。当時を思い返すと、私も含め日本人は外面はしっかり整えるが、外から見えない部分(内側)は軽視する傾向にあると強く感じました。
最近では、テレビやCM、本などの媒体で、腸内細菌や腸内フローラという言葉が出始め、身体の内部にスポットが集まるようになってきましたが、中医学では2000年前も昔から胃腸と健康の関係性について述べています。
「ご飯を食べると元気になる!」「人間の体は食べたもので出来ている!」という言葉があるように、胃腸の状態の良さがその人の身体の元気や健康へと繋がります。言わば、胃腸が私たちの身体を作っているのです。身体の根本とも言える胃腸(脾胃)の働きを理解し、健康的な生活の第一歩を歩み始めませんか。

「脾胃:ひい」の働き

「脾胃:ひい」は、現代医学の胃腸の働きに近く、私たちが摂取した飲食物を消化吸収し、身体に必要な栄養素(気・血・津液)を全身に届ける働きをしています。

「脾」と「胃」のそれぞれの詳しい働きは下記に記載してますので、気になる方はご参照ください。

「脾:ひ」の働き

■「脾」の生理機能
①運化(うんか)を主る
運化の「運」は運送や輸送、「化」は消化吸収を意味しており、運化には2つの働きがあります。
1.精微物質の運化:飲食物から人間の生命活動に必要な気(エネルギー) / 血(血液) / 津液(水)を作り、心肺に運び全身に届ける。そのため、脾は「気と血を生む源」と言われています。
2.水液の運化:水液を吸収して心肺に運び、全身に輸送・散布する

脾の働きが弱まり運化機能が失調すると、
1.精微物質の運化の失調:エネルギーを作り出すことができない
→ 疲れやすい、やる気がでない
2.水液の運化の失調:水液代謝が機能しない
→ 下痢や軟便、浮腫
という症状に陥りやすくなります。

②統血(とうけつ)を主る
脾は血液が血管から漏れ出さないようにコントロールする働きがあります。
中国の古典には「五臓六腑の血は全て脾気の統摂に頼る」と記されています。
脾の働きが弱まり血液をコントロール出来なくると、女性の不正出血や皮下出血(青あざができやすい)、鼻血、血便などの症状が現れやすくなります。

「胃:い」の働き

■「胃」の生理機能
「胃」の働きは、現代医学の機能と近いとされており、以下の働きがあります。
①受納(じゅのう):飲食物を受け入れる

②腐熟(ふじゅく):飲食物を消化しやすい状態にする

③降濁(こうだく):消化した飲食物を小腸へ降ろす

胃の働きが弱まると、上記の①→③の流れが機能しないため、食欲が減退したり、飲食物が小腸へ送ることができず逆流し悪心や嘔吐、ゲップ、お腹(胃)が張って痛むというような症状が出やすくなります。

「脾」と「胃」の関係

「脾」と「胃」は表裏関係にあり、脾と胃が協力し合ってはじめて上記で述べた一連の働きが機能します。
また、脾と胃はその働きから脾は上昇、胃は下降の性質があり、それぞれ反対方向の動きをしていますが、相互の調和が保たれてることで胃の飲食物を受け入れ(受納)、脾の必要なものに作り変える(運化)機能が正常に働きます。

「脾」と五行の関係性


①脾は口に開竅(かいきょう)し、その華は唇にある
口と唇は脾と深い関係にあり、脾の働きが弱まると以下の症状が出やすくなります。
・味覚が変化する(口が淡く味を感じない)
・口が粘つく
・唇が乾燥する、唇の色が薄くなる
・口やその周辺にできものができる

②脾は肌肉(きにく)を主り、四肢を主る
肌肉とは、私たちの筋肉や脂肪、皮下組織を指します。
脾の運化機能が正常に働くと、生成された気や血が身体のすみずみ(四肢)まで巡らせ、筋肉や脂肪に届き運動の原動力となります。そのため、脾が弱ると、肌肉や四肢に栄養がいかず、筋肉が落ちる、痩せる、倦怠無力といった症状へと繋がります。

③脾の志は思である
思とは、考え事をしたり、何かを深く考え込んだりするなどの感情を指します。脾と思は、関連性が深いとされ、思慮過多(深く考え過ぎると)になると、脾が傷つけられ、その働きが低下します。また、「心」は精神/メンタルと関係があるため、「思は心脾から発する」と言われています。
考え事や悩み事が続くと、食欲が低下したり、眠れない日々が続くのは、脾が損傷され、気・血が生み出されたず、また同時に血が消耗されることが原因になります。この時に使用される代表的な漢方薬が帰脾湯になります。

④脾の液は涎(よだれ)である
涎は、唾液中の希薄な液体を指します。働きは唾液と同様で、口腔粘膜の保護や消化の補助をしています。
唾液が何だか粘つく、話している最中に唾液が溢れるなどの症状がみられる場合は、脾が弱っている可能性があります。

⑤脾は燥を喜び、湿を悪む / 胃は湿を好む

家を建てる際は、木を伐り建築用の木材に加工し、加工された木材が組み立てられることで家が完成しますが、この一連の流れが「脾胃」の働きに近いと言えます。
木材が乾燥するとひび割れが起きたり、そりが目立ち加工しにくいように木にはある程度の潤いが必要ですが、胃も飲食物を消化するには胃酸(湿)が必要になります。
一方で脾は、摂取した飲食物を栄養素に変化させ、全身に運搬させる働きを担っています。変化と運搬を担うこの働きは、大工が木材を加工し、家を建てる動きに近いと言え、雨の中や地面がぬかるむと作業が遅れるように脾は乾いた状態を好みます。

脾が湿の影響を受けると、上記で述べた運化の働きが低下するため、食欲不振や軟便・下痢、腹痛、むくみなどの症状がでやすくなります。

最後に

冒頭でも述べたように中医学では「脾胃(胃腸)」の状態が健康の要であり、健康への第一歩は「脾胃」の状態から始まると言っても過言ではありません。
自分は毎日ご飯をしっかり食べているし、プロテインやサプリも摂っているから大丈夫!と考えている方も多いと思いますが、脾胃が正常に機能しなければ、栄養を吸収することも全身に届けることもできません。
何だか疲れやすい、やる気がでない、食後の眠気が気になるなどの不調は、実は脾胃の弱りが原因ということもあります。
毎日を健康で快適に暮らすためにも自身の生活を見直し、少しでも脾胃に思いやりのある暮らしを心掛けましょう。

<脾胃を守る養生法>
●冷たい物を避ける(冷たい物は脾胃を傷つける)
●肥甘厚味を避ける(肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物は脾胃に負担をかける)
●腹八分を心掛ける(胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない
、眠くならない程度の食事)
●一口30回を目安に噛む(食べ過ぎ防止、消化を助ける)

薬剤師 中目 健祐

花粉と漢方薬

はじめに

立春を迎え暦的には春になりました。まだまだ寒い日は続きますが、春のぽかぽか陽気は少しずつ近づいています。春の訪れが待ち遠しい一方で、辛いのが花粉による鼻水と目のかゆみ…

日本人における花粉症の有病率は詳細に出ていませんが、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした調査では、花粉症の有病率は約42%、そのうち約3人に1人(約38%)は2~4月に飛散するスギ花粉に悩まされているという結果が出ています。

※参考:花粉症環境保健マニュアル 
https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/2022_full.pdf

花粉カレンダー

中医学で考える花粉症

花粉症の予防と発症後で漢方薬での対応が異なります。

①花粉の予防

予防のポイントは「衛気:えき」を強化すること。
「衛気」とは、名前の通り「防衛の気」
いわゆる、現代医学の免疫の働きに近く、身体に悪影響を与える邪気から身体を守るバリア的な役割をしています。
そのため、「衛気」が不足すると、邪気の侵入口である皮膚や目/鼻/喉の粘膜のバリア機能が低下し、花粉や細菌、ウイルスなどが侵入しやすくなります。

このタイプの特徴は

□カゼを引きやすい

□汗をかきやすい(体を動かさなくても自然と汗がでる)

□息切れをしやすい

□肌が弱い

「衛気」を強化し、バリア機能を高めてくれる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:衛益顆粒(玉屏風散)

※花粉症を悪化させやすいタイプ

上記で述べた「衛気」は「脾胃」で作られ、「肺」の働きで全身に運ばれます。
「脾胃」とは、現代医学で言う胃腸を指し、私たちが普段から摂っている食事や飲み物から栄養素を受け取り、強い「衛気」を生み出します。

また、中医学での「肺」は、一般的にイメージされる呼吸器系の働きに加え、「邪気」の侵入にかかわる皮膚や目/鼻/喉の粘膜も「肺」がコントロールしていると考えます。

「脾」と「肺」は、五行学説において「脾(土)は肺(金)を生む」と考え、母子関係にあるため「脾」の働きが低下していると、「肺」の働きも落ちてしまいます。

そのため、「脾」の働きが弱っている方や「脾」に負担をかけるような生活習慣をしている方は、花粉症を悪化させやすいと言えます。

●脾の働きが低下しているタイプの特徴
□疲れやすい

□食欲がない

□食後、お腹が張ったり、眠くなる

□軟便・下痢気味

●脾に負担をかける生活習慣
□肥甘厚味の食べ過ぎ(肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物)

□生もの(刺身や生野菜)の食べ過ぎ

□乳製品の食べ過ぎ

□体温より低いものの摂り過ぎ(冷たい飲み物、アイス)

これらの生活習慣は、「脾」の働きが低下し、花粉から身体を守る「衛気」が作られにくくなります。また、「脾」には身体内の水分代謝にも関係しているため、「脾」が弱ると身体内に余分な水が溜まり、ダラダラと垂れる鼻水や水っぽい鼻水へと繋がります。

②発症した場合の対応

鼻水のタイプにより以下のように分類されます。

●風寒タイプ
□透明で水っぽい鼻水

□鼻づまり

□身体が冷えると酷くなる

身体を温め、鼻水の原因となる余分な水分を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。漢方薬の例:小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯、葛根湯加川芎辛夷など

●風熱タイプ
□黄色く、粘り気のある鼻水

□目の充血や痒み

□口や喉が渇く

炎症(熱)が生じているので、炎症を清ましあげる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:涼解楽(銀翹散)、荊芥連翹湯、五涼華など
目の痒みには、心サージ(サージフラボノイド含有食品)も効果的です。

最後に

花粉症状を抑える治療薬は下記のように様々あります。
・くしゃみ、鼻水:抗ヒスタミン薬、化学伝達物質遊離抑制薬
・鼻づまり:抗ロイトコリエン薬、ステロイド薬(点鼻、経口)
・花粉への抵抗を高める:舌下免疫療法、アレルゲン免疫療法

副作用(眠気、口渇など)が少なく効果の強い薬剤も出ていますが、それでも症状がなかなか良くらない、症状の悪化に伴い病院で貰う薬が増えている、新薬を試したみたけど効果がいまいちなど、花粉症の治療に悩まれている方は非常に多いと思います。
体質改善を行いながら、花粉に負けない身体作りを一緒に目指しませんか。
花粉症に関するお悩みや体質改善に興味がありましたら、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

不眠と漢方薬

不眠症は国民病!?

  • 寝付くまでに時間がかかる(入眠困難)
  • 深く眠りたいのに途中で何回も起きちゃう(中途覚醒)
  • もう少し長く眠っていたいのに朝早く起きる(早朝覚醒)
  • 長く寝たのに疲れが取れない(熟眠障害)

上記の様な睡眠に関するお悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
実際に薬局には、不眠で悩まれている方や慢性的に睡眠薬を服用されている方が多く来局されます。日本においては、一般成人の30~40%が何らかの不眠の悩みを抱えていると言われています。また、男性よりも女性に多く、年を重ねるごとにその数は増える傾向にあります。
「自分だけが眠れないのかな…?」と不安に思っている方は安心してください。
睡眠に関する問題は日本人の多くが悩んでいる、まさに「国民病」とも言える病です。

中医学で考える不眠

西洋薬では不眠のタイプ(入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害)をもとに睡眠薬を選択される傾向にありますが、漢方薬は上記の不眠のタイプに加えて、不眠に至った原因やその人の体質なども踏まえ漢方薬を考えます。

それでは、中医学で考える不眠のタイプをみていきましょう。

1.心脾両虚(しんぴりょうきょ)

心脾両虚(しんぴりょうきょ)とは、「心血虚」+「脾気虚」の状態を指します。

・心血虚(しんけっきょ)
心には「神志を主る」働きがあり、私たちの「精神活動」を担っています。
心は現代医学の心臓のイメージに近く、その働きである全身に血液を巡らせることで精神活動を良好に保ちます。しかし「心血虚(心血の不足)」の状態だと全身の血液が十分に巡らず、精神活動に問題が起こり、不眠や多夢、精神不安な状態へとつながります。

・脾気虚(ひききょ)
脾は現代医学で言う胃腸を指しており、私たちが普段から摂っている食事や飲み物から栄養素(気や血)を生み出し各臓腑へと運ぶ働きがあります。
「脾気虚(脾気の不足)」の状態では、胃腸の働きが低下し、気や血を生み出すことができないため、結果として心に血を届けることができず上記の心血虚の状態に繋がります。

このタイプの特徴は
・寝つきが悪い、夢が多い、眠りが浅い
・悩みことや考え込むことが多い
・動悸
・疲れやすい、倦怠感
・食欲不振、食後にお腹が張る・眠くなる
・下痢・軟便気味
「心脾両虚」タイプの不眠には、帰脾湯や加味帰脾湯、人参養栄湯などが使われます。

2.陰虚火旺(いんきょかおう)

中医学では「心」は火(陽)に、「腎」は水(陰)に属し体内の温度調節を行っていると考えます。

「陰虚火旺」の状態では、腎の働きの低下により体内を冷却する水(陰)が不足するため、相対的に心の力が増し、火(陽)の亢進が起こります。

このタイプの特徴は
・何だかソワソワして落ち着かない
・手足がほてる
・寝汗をかく
・足腰がだるい
・めまい、耳鳴りがする
「陰虚火旺」のタイプの不眠には、天王補心丹や黄連阿膠湯などが使われます。

3.肝鬱+血虚(かんうつ+けっきょ)

・肝鬱(肝気鬱結:かんきうっけつ)
肝は「疏泄:そせつ」を主り、全身の気の流れをコントロールしています。この「疏泄」機能は、現代医学の「自律神経」の働きに近いと言われています。
ストレスや憤りを強く感じたり、憂鬱な状態など精神的な負荷がかかると肝の「疏泄」機能は失調し、気の巡りが停滞します。これが「肝鬱」の状態です。

・血虚(肝血虚:かんけっきょ)
肝は「蔵血:ぞうけつ」を主り、血の貯蔵と全身の血流量を調節しています。
肝に貯蔵されている血は、活動時は全身に運ばれ、各組織に栄養を与えます。一方、安静時は血が肝に戻ることにより精神が安定し深い眠りへと繋がります。
「肝血虚(肝血の不足)」では、精神の安定や睡眠に必要な血が肝に戻らず、血が不足している状態のため、精神が安定せず不眠へと繋がります。

このタイプの特徴は
・寝つきが悪い、夢が多い、驚きやすい
・イライラする、怒りっぽい
・脇腹が張る、ため息が多い
・爪が割れやすい、髪がぱさつく
「肝鬱+血虚」タイプは、酸棗仁湯や逍遙散などが使われます。

4.痰熱内擾(たんねつないじょう)

「痰熱内擾」とは、身体に余分な水分と熱が滞り、心神が犯された状態を指します。
痰熱を生じやすい方は、以下のタイプに多い傾向にあります。
・脂っこい物や味の濃い物、甘いお菓子、飲酒を好む
・季節の影響(梅雨、夏)を受けやすい
・脾胃(胃腸機能)が低下している

このタイプの特徴としては
・寝つきが悪い、夢を多く見る
・不安感が強い
・めまい、頭重感
・胃がムカムカする、胸やけ
「痰熱内擾」タイプの不眠には、星火温胆湯、竹茹温胆湯などを使用します。

5.胃気不和(いきふわ)

食べ放題や飲み会などで暴飲暴食した後に、お腹が苦しくて眠れないという経験をされたことはありませんか?「胃気不和」とは、まさしくその状態と言えます。
このタイプは、胃の中に溜まった食べ物を消化すれば解決できますが、「胃気不和」の状態が長期間続くと上記で説明した「痰熱」へと繋がり、不眠のみならず精神不安やめまい等の症状を引き起こすことがあります。

このタイプの特徴は
・お腹が張る、痛みがある
・胃もたれ、悪心、吐き気
・下痢、軟便
「胃気不和」タイプの不眠には、加味平胃散や晶三仙(山査子・麦芽・神曲)などが使われます。

最後に

不眠の治療と言えば、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系、オレキシン受容体阻害薬など)をイメージされるかもしれません。
睡眠薬のメリットとして、飲み始めたその日から効果を期待できますが、睡眠の質が落ちたり、翌朝への眠気の持ち越し、依存性の問題点があります。

しかし、漢方薬は睡眠薬とは異なり
・自然の睡眠へと近づける
・不眠となった原因にアプローチする
・不眠にならない体質を作る
と睡眠薬ほど即効性はありませんが、良質な睡眠に近づける体作りを手助けします。

睡眠薬を飲み始めようと考えている、慢性的に睡眠薬を飲んでいる、睡眠薬をなかなか手放せない方は、一度漢方薬を試してはいかがでしょうか。
服用されている睡眠薬によっては、急激に量を減らしたり、服用をやめることで症状が悪化する薬もありますので、漢方薬との併用も含めぜひご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

便秘と漢方薬

快便は、快食、快眠と並び健康的な生活を支える三原則の一つとされていますが、2022年(令和4年)の国民生活基礎調査によると男性が約28%(65歳以上:約68%)、女性が約43.7%(65歳以上:約74%)と女性や高齢者の多くが便秘に悩まれています。

便秘は直接的に大きな病気へは繋がりませんが、「便秘は万病の元」や「一日一便、乃ち常度なり(中国古典の言葉)」という言葉があるように健康的に暮らすためには、日々の快便が非常に重要になります。

便秘とは?

便秘の定義

慢性便秘症診療ガイドライン2017では次のように定義されています。
「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」
また、便秘症とは「便秘による症状が現れ、検査や治療を必要とする状態」であり、診断基準は以下の通り定められています。

1.「便秘症」の診断基準

以下の6項目のうち、2項目以上を満たす。
a. 排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある。
b. 排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便(※BSFSでタイプ1か2)である。
c. 排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる。
d. 排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある。
e. 排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など)。
f. 自発的な排便回数が、週に3回未満である。

2.「慢性」の診断基準
・6ヵ月以上前から症状があり、最近3ヵ月間は上記の基準を満たしていること。

便の状態は、下記の※BSFS(ブリストルスケール)を参考にすると良いでしょう。

上記の通り、毎日排便があったとしても排便までに時間がかかる、排便後もスッキリしない等の違和感を感じる場合は便秘にあたります。逆に2~3日に1回のペースの排便でもお腹の不調や排便の苦痛などを感じなければ便秘ではありません。

中医学で考える便秘

中医学では体質や症状の特徴に合わせて次の通りに考えます。

1.熱結便秘(ねっけつべんぴ)

大腸に熱がこもることで排便を促す腸内の潤いが蒸発し、乾燥することで起こる便秘です。

このタイプの特徴は
・便が乾燥して硬い
・暑がり、汗っかき
・尿の量が少なく、色が濃い
・口が渇く
・口臭や体臭が気になる
・顔が赤い、ニキビや吹き出物ができやすい
・普段からお酒をよく飲む、脂っこい物や辛い物を好む

このタイプには、腸内の乾燥の原因である熱を冷ましながら便を促す漢方薬を使用します。
漢方薬の例:大黄甘草湯、承気湯類(大承気湯、小承気湯、調胃承気湯、桃核承気湯)、防風通聖散など

桃核承気湯は、以下のような瘀血(血の滞り)症状を伴う便秘に適しています。
・生理痛(出血に塊が混じる)
・腹痛、頭痛、肩こり
・舌が暗く紫色で舌の裏の血管が怒張している(青紫色の血管が見える)

便秘の代表的な生薬として「センナ」がありますが、便が出ないからと言ってこの生薬を慢性的に使用することはお勧めできません。
「センナ(生薬名:番瀉葉)」は、苦・寒の性質で排便を促す力が非常に強いという特徴を持っているので、そもそもが熱結便秘のタイプ向きであり、長期間の服用を目的とした生薬ではありません。長期間使用することにより胃腸を冷やし、嘔吐・悪心・腹痛・消化機能の減退へと繋がる可能性があるので注意が必要となります。

2.気滞便秘(きたいべんぴ)

体内の「気」の巡りが滞る(気滞)ことで胃腸の動きが低下し生じる便秘です。

精神的なストレスや緊張、憂鬱・不安感を感じやすい方、運動不足の方は「気滞」を生じやすくなります。

このタイプの特徴は
・排便に時間がかかる
・便秘と軟便をくり返す
・お腹が張り膨満感がある
・ゲップが多い
・イライラしやすい、憂鬱感を感じる

このタイプには、気の巡りを良くしながら排便を促す漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:通導散、大柴胡湯、開気丸+通便薬など
PMS(生理前症候群)の症状で便秘になる方もこの「気滞」によるものですので、「気」の流れを良くする漢方薬を使うと良いでしょう。

3.気虚便秘(ききょべんぴ)

便を推し出すために必要な「気」が不足(気虚)することで起こる便秘です。
主に「脾」や「肺」による気虚が考えられます。
①脾気虚(ひききょ)
「脾」は現代医学で言う胃腸を指します。脾の気(エネルギー)が不足することで腸の蠕動運動が低下し、便を推し出すことができないために便秘へと繋がります。

②肺気虚(はいききょ)
「肺」は津液(身体に必要な水)を全身に散布する体内のスプリンクラー的な役割を担っています。「肺気虚」の状態では、全身に津液を巡らすことができず、肺と表裏関係にある腸の潤いが失われることで便秘が起こります。

このタイプの特徴は
・排便に時間がかかる
・排便後に残便感がある(スッキリしない)
・排便後の疲労感

+①脾気虚の場合
疲れやすい、食欲がない、食後に眠くなる、お腹が張る等
慢性疾患や術後・産後の方は、脾気を消耗するので気虚による便秘が起こりやすいです。

+②肺気虚の場合
呼吸器症状(咳、息切れ)、汗をかきやすい、風邪を引きやすい等

このタイプには、脾や肺の働きを立て直しつつ、気を補う漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:補中益気湯、六君子湯、衛益顆粒など
お腹が慢性的に冷えて腸管の動きが悪い場合は、人参湯や附子理中湯などお腹を温める漢方薬を使う場合もあります。

4.血虚便秘(けっきょべんぴ)、陰虚便秘(いんきょべんぴ)

全身に栄養や潤いを与える「陰血」が不足することで腸内が乾燥し生じる便秘です。

このタイプの特徴は
<血虚>
・便が乾燥して出にくい、コロコロしている
・顔が青白い、唇や爪の色が薄い
・動悸、めまいがする
・不眠
・月経量が少ない

<陰虚>
・便が乾燥して出にくい、コロコロしている
・痩せ型
・口や喉が乾燥する
・手足がほてる
・寝汗をかく

このタイプには、「血」を補い排便を促す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:潤腸湯、麻子仁丸、婦宝当帰膠など

女性は毎月の生理出血があるため、男性に比べてどうしても血が不足しやすく血虚タイプの便秘になりやすいです。また、年齢を重ねるほど陰血が少なくなる傾向にあるため、高齢者は上記の気虚便秘に加えてこのタイプの便秘が多くみられます。

最後に

便秘は日頃の生活習慣が原因になってる場合が多くあります。上記で述べた体質に合う漢方薬を服用されるのも良いですが、食事や運動などの生活面を見直すことで便秘が改善する場合もあります。

<快便のポイント>
・肥甘厚味や暴飲暴食を避ける(肥:脂っこいもの、甘:甘い物、厚:味が濃い物、身体に余分な熱が生じます。)
・十分な睡眠をとる(気虚、血虚の原因になります。)
・起床後に白湯を飲む(冷水や常温では胃腸に負担がかかるので白湯が良いです。)
・空腹感を感じ食事する(腸が刺激され快便へと繋がります。)
・ストレスを溜めない(気の滞りの原因になります。)
・適度に運動をする(腸の動きが活性化されます。)
・食物繊維や発酵食品を摂る(便の状態や上記のタイプにより適している食物繊維(水溶性/不溶性)が異なるので注意が必要です。)

生活習慣を見直してもなかなか改善されない場合や慢性的な便秘に悩んでいる、身体に合う漢方薬を試してみたい方は、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

カゼに使う漢方薬

「カゼの漢方薬=葛根湯」と思っている方が多いのではないでしょうか。
病院でもよく処方される漢方薬の代表ですし、ドラッグストアでもカゼの「予防や初期症状に!」という宣伝をよく目にします。
しかし、全てのカゼの症状に「葛根湯」が使えるわけではありません。
ご自身の体調や症状の特徴に合わせ適切な漢方薬を使いましょう。

カゼの考え方

カゼは「邪気」が体内に侵入したことが原因です。邪気とは私達の身体にとって悪いもの、現代医学で言うウイルスや細菌などを指します。
中医学では、カゼは自然界の「風邪(ふうじゃ)」が体内に侵入することで起こると考え、寒や熱などの性質から以下の4つのタイプに分けられます。
(昔はウイルスや細菌などの具体的な病原菌は分からなかったため、風のように襲来する邪気を風邪と呼びました。)

  1. 風寒(ふうかん)
  2. 風熱(ふうねつ)
  3. 風湿(ふうしつ)
  4. 風燥(ふうそう)

1.風寒

症状の特徴は
・悪寒が強い
・発熱が軽い
・汗がでない
・口や喉が渇かない
・その他:頭痛・身体の痛み / 鼻水(透明)・鼻づまり / 咳や痰(白い)  

このタイプは身体を温めて汗をかかせ、汗とともに風寒の邪気を追い払う漢方薬を使います。
漢方薬の例:麻黄湯、葛根湯

既に汗がしっとり出ている場合は、上記の漢方薬よりも発汗の作用が弱い「桂枝湯」を使います。
鼻水や咳の症状が酷い時は「小青竜湯」を使うのも良いでしょう。
ただし、麻黄湯・葛根湯+小青竜湯の併用は、麻黄の摂取量が増え発汗過多や動悸、全身の脱力感に繋がる可能性があるので飲み合わせには注意しましょう。

2.風熱

症状の特徴は
・悪寒が軽い
・熱が高い
・汗がでる
・口や喉が渇く
・その他:喉の痛み / 鼻水(黄色)・鼻づまり / 咳・痰(黄色く粘り気がある)

このタイプは身体内に熱(炎症)が発生している状態なので、熱を冷やしつつ邪気を追い払う漢方薬を使用します。
漢方薬の例:涼解楽(銀翹散)、銀翹解毒散

熱が高い:+「白虎加人参湯」
喉の痛みが強い:+「板藍茶」や「五味消毒飲」
咳症状が酷い:+「麻杏甘石湯」や「五虎湯」 との併用も効果的です。

3.風湿

症状の特徴は
・寒気、微熱
・体が重だるい、頭が重く痛い
・胃腸症状(食欲不振、下痢・軟便)・その他:痰の多い咳、胸が重苦しい

湿邪は「重く濁り、粘着して停滞する」という性質がありますが、
湿と身体内の関係を理解するには、除湿機をイメージしてみてください。
梅雨や夏場のジメジメとした湿度が高い時期に活躍する除湿機ですが、空気中の湿気を吸うことでタンク内に水が溜まります。
この水(湿気)の溜まりが身体内で起きているため、体が重だるく感じたり、頭が重く痛むという症状がでます。

また、中医学における胃腸である「脾」には「燥を好み、湿を嫌う」という言葉があります。そのため、湿邪が体内の脾(胃腸)に影響を及ぼすと、食欲がなくなったり、下痢や軟便などの症状がでます。

このタイプには、余分な水分(湿邪)を乾燥させ、邪気を追い払う漢方薬を使います。
漢方薬の例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散
湿度が高い梅雨時期や雨の日、低気圧の際に体調が悪くなる方は、上記の漢方薬を飲むと症状が楽になることもあります。

痰が多くでたり、咳が伴う場合は「二陳湯」や「平喘顆粒(蘇子降気湯)」
胸が重苦しい場合は「半夏厚朴湯」 などを使用すると効果的です。

4.風燥

症状の特徴は
・微熱
・空咳
・痰の切れにくい咳

肺は「燥を悪み、潤を喜ぶ」という特徴があるため、風燥の邪気が体内に侵入すると肺に影響が及び、呼吸器系を中心に症状がでます。

このタイプは肺を潤し咳を鎮める漢方薬を使用します。
漢方薬の例:麦門冬湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、白龍散など
熱感が強ければ、竹葉石膏湯や清肺湯を使用しても良いでしょう。

最後に

上記以外にも
・カゼが治りにくい方
・カゼを頻繁に引かれる方
・コロナの後遺症によりカゼの様な症状が続いている方
など様々なタイプがあるかと思います。

漢方薬は病名に対しお出しするものではありません。
お客様の症状の特徴や症状に至った経緯、体質などを伺い、お客様に合った適切な漢方薬を提案させていただきます。
カゼに限らず何か症状でお困りのことがありましたら、いつでもご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

汗のはなし その1

漢方では、汗は心(しん)の液とも言われ、体温維持や皮膚を健康に保つために必要な物です。しかし、気温や湿度など外的環境に関係なく、発汗し、身体を動かすことで更に激しく汗をかくことは、病的と考えます。この状態を自汗(じかん)と言います。

自汗は、疲れやすい、冷え症の方に多く見られます。また舌の形が大きく、歯型が残るような人にも見られます。このような体質を漢方では、気虚(ききょ)と言いますが、風邪を引きやすい、皮膚にトラブルを生じやすい人を肺気虚、下痢をしやすく、食後の眠気が強い人は脾気虚と区別します。