咳と漢方薬

薬局に薬がない?

コロナウイルスやインフルエンザ、風邪の大流行により、今まで普通に貰えてたはずの咳止めや去痰薬、抗生物質などのいわゆる風邪薬と言われるお薬が薬局で手に入らないケースが多発しています。

ただ、これは単に風邪の大流行により生じている問題ではありません。今後、他の医薬品でも起きる可能性は十分にあり得ますので、少し脱線しますがその問題について最初に触れたいと思います。

医薬品の供給が不安定な理由は主に3つあります。

①製造の問題

事の発端は2020年に発覚した医薬品メーカーの不祥事です。ジェネリックメーカーである「小林化工」が製造した抗真菌薬(イトラコナゾール)に睡眠導入剤(リルマザホン)の成分が混入し、200名以上(そのうち死者2名)に意識消失などの健康被害が発生しました。(詳細は「https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/000919956.pdf」を参照ください。)
この事件を皮切りに他メーカーの製造工程や管理体制などの不正も発覚し、今まで製造していた多くのジェネリック医薬品が市場からなくなり、医薬品の供給不足の状態に陥りました。

②薬価の問題

日本では医薬品の価格(薬価)を国が定めており、定期的な薬価引き下げが行われています。
薬価改定により医薬品の価格が下がることは、私たちの医療費負担が軽減されるためメリットと思われる方も多いと思いますが、製薬会社側からすると利益が減るという問題が生じてしまいます。その結果、昔からあるような咳止めや去痰薬、抗生物質などの薬価の安い医薬品は、原材料や人件費が高騰する中で生産を維持することが難しく製造を縮小・中止してしまいます。

③需要過多の問題

生産量が減少している中でコロナウイルスやインフルエンザ、風邪の大流行がさらに追い討ちをかけ、特定の医薬品の需要が急激に高まったことにより薬局に行っても「適切な薬」が貰えないという状況に陥りました。

現時点では咳止めや去痰薬を中心に出荷調整となってますが、これから春にかけては花粉症患者が急増するため抗アレルギー薬の出荷調整も予想されます。このような状態の中で私たちが出来ることは、処方箋医薬品に頼るのではなく適切なOTC医薬品や漢方薬を選び使用することではないでしょうか。

病院でよく処方される咳止め

中医学で考える咳

中医学では、咳に限らず病因を「外感:がいかん」と「内傷:ないしょう」に分けて考えます。「外感」とはウイルスや細菌、花粉などのような体の外にある原因を指し、「内傷」とはストレスや飲食の不摂生、過労、運動不足などにより引き起こされる臓腑の働きの低下から生じる病態を指します。

「外感」による咳(外感咳嗽)

風邪やアレルギー症状の初期にみられるこのタイプは、大きく4つに分けられます。

1.冷えタイプ

・寒気がする
・痰が薄く透明で白っぽい
・頭痛、鼻づまりがする

体を温めながら寒邪をとばし咳を鎮める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯、麻黄湯など

2.熱タイプ

・寒気より熱が気になる
・黄色い痰や鼻水が出る
・喉が痛み、喉が渇く

肺の炎症を抑えるような熱を冷まし咳を落ち着かせる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:麻杏甘石湯、五虎湯、麻杏止咳顆粒、清肺湯など

3.痰タイプ

・多量の痰がでる
・胸がつかえる
・吐き気がする、体が重だるい

痰をさばき咳を鎮める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:二陳湯、半夏厚朴湯など

4.乾燥タイプ

・空咳がでる
・痰が切れにくく少量の痰 / 痰がでない
・喉が乾燥し、痒みや痛みが伴う

肺に潤いを与える漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:麦門冬湯、竹葉石膏湯、白龍散など

病院の咳止めが手に入らない、薬局で入荷するまでに時間がかかると言われた、病院に行く時間が取れないなどの時は漢方薬を選択肢にいれてみてはいかがでしょうか。咳のタイプに合う漢方薬を使用することで非常に良い効果を得ることができます。

「内傷」による咳(内傷咳嗽)

・風邪を引いた後に咳だけ残っている
・痰が絡んだ咳が頻繁にでる
・空咳が止まらない
・ストレスがかかる場面で咳き込んでしまう
など、原因が分からず咳が続いてしまうこのタイプは、上記で述べた「外感」による咳症状とは異なり、西洋薬を服用しても一時的には効果を得られるものの、根本の原因に対しての解決には至っていないため、薬の効果が切れると再び咳が出てしまいます。

呼吸は主に「肺」で行われますが、中医学では「肺」だけでなく「脾」や「腎」、「肝」などの臓腑も密接に関係しています。

1.呼吸力の低下(肺気虚:はいききょ)

中医学における「肺」は、 「宣発粛降:せんぱつしゅくこう」という働きを通し、息を吐くことで人体に必要な気や津液などの栄養を全身に送り出し(宣発)、息を吸うことで栄養を取り込み体内の奥深く(腎)まで届ける(粛降)働きをしています。この働きにより肺機能は維持され正常な呼吸へとつながります。

このタイプの特徴は
・力のない咳が続く
・息切れがする
・汗をよくかく、風邪をひきやすい

「肺」の働きを高め「肺気」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:麦味参、衛益顆粒、補中益気湯など

2.空咳が続く(肺陰虚:はいいんきょ)

中医学では「肺」は「潤いを好み、乾燥を嫌う」臓器といわれています。
正常な肺は多少の刺激や異物であれば簡単に受け流すことができますが、潤いを失った肺は少しの違和感でも刺激と感じ、体を守るための防御反応から空咳という症状へとつながります。

このタイプの特徴は
・空咳が続く
・口や喉が乾燥する
・痰に血が混じる

「肺」に潤いを与えるような漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:滋陰降火湯、滋陰至宝湯、瓊玉膏など

3.痰が絡む(脾虚痰湿:ひきょたんしつ)

中医学には「脾は生痰の源となし、肺は貯痰の器となす」という言葉があります。
飲食物の消化・吸収に関わる脾胃(胃腸)は、よく土に例えられますが、良質な土壌は水捌けが良く作物がすくすくと育ちますが、少しの雨でも水溜りがたくさんできてしまうような悪質な土壌では、なかなか作物は大きく成長しません。この水溜りが体内の余分な水分であり、中医学で言う「痰湿」にあたります。脾胃の状態が悪いと痰湿が作られ、それが肺へ届けられると痰が絡むという症状へとつながります。

このタイプの特徴は
・痰がよく出る
・食欲がなく、疲れやす
・下痢/軟便気味だ

「脾胃」の働きを立て直し「痰湿」を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。(水捌けの良い土壌を作る漢方薬)
漢方薬の例:健胃顆粒、健脾散など

4.加齢による咳(腎不納気:じんふのうき)

一般的に呼吸は「肺」だけの活動と思われていますが、中医学では「肺は呼気を主り、腎は納気を主る」と言われ、息を吐く力は「肺」に依存しますが、しっかり深く吸い込むには「肺」だけでなく「腎」のパワーも必要となります。
呼吸が浅く、咳き込んでいるおじいちゃんやおばあちゃんをよく目にすると思いますが、これは老化に関わる「腎」の働きが年齢とともに低下し、息を吸い込む力(納気)が落ちてしまったことによります。

このタイプの特徴は
・ある時を境に咳が増えた
・呼吸が浅い
・息切れ

「腎」の納気作用を高め「肺」の働きを助ける漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:八仙丸、双料参茸丸など

5.自律神経の乱れによる咳(肝火犯肺:かんかはんはい)

中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」や「血」の流れを調節し、精神面の安定に関与していると考えらています。ストレスにより精神的な負荷がかかり自律神経が乱れると「気」の流れが乱れ、やがて暴走した「肝気」が「肺」を攻撃し咳が発生します。これを中医学では「木火刑金(肝火が肺金を刑す)」といいます。

このタイプの特徴は
・ストレスや緊張で咳が誘発される
・こみ上げるような咳
・普段からイライラしやすい、怒りっぽい、顔が赤くなる

暴走気味の「肝気」の流れを落ち着かせる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:加味逍遙散、柴厚湯など

最後に

漢方薬は、風邪による咳の初期症状だけでなく、風邪の後に長引いている咳や慢性的に続いている症状へもアプローチできることが魅力の一つです。自身の体質に合った漢方薬を使用し、身体全体のバランスを整えることで、症状の完治へと近づけることができます。上記の考え方や漢方薬は、ほんの一例となります。咳や呼吸器のトラブルでお悩みを抱えておりましたら、ぜひ当店までご相談ください。


薬剤師 / 国際中医専門員(漢方の専門家) 中目 健祐

風邪の予防と漢方薬

はじめに

コロナウイルス(COVID-19)の流行がようやく落ち着き、やっと感染症の恐怖から逃れられたと思いきや冬の訪れとともにインフルエンザやマイコプラズマ肺炎など別の感染症が流行り始めました。

以前までは病院で処方箋を貰い薬局に行けば適切な薬が貰えましたが、医薬品の製造過程や薬価引き下げの問題等から医薬品の流通が不安定となり抗生剤や咳止めなどの風邪薬が相次いで欠品となっています。

薬局に行っても薬が貰えない環境の中で私たちが出来ることは症状を発症してからの対応ではなく、いかにしてコロナウイルスやインフルエンザ、風邪に感染しない身体を作ることではないでしょうか。

中医学には「未病先防:みびょうせんぼう」という言葉があり、病気が発症する前に体質をみながら対応するという予防医学に近い考え方があります。病気が発症する前の対応を得意とする中医学の考えを取り入れ感染症に負けない身体作りを目指しませんか?

感染症カレンダー

風邪を発症した時の「カゼと漢方薬 – 日々の生活に漢方を」対応はをご参照ください。

中医学で考える風邪の予防

1.ウイルスや細菌から身体を守る

板藍根(ばんらんこん)は別名「漢方の抗生物質・抗ウイルス薬」と呼ばれ、中国の家庭では風邪やインフルエンザの常備薬として古くから親しまれています。
中国では1989年から1990年の肝炎が広まった際に効果的な抗ウイルス薬がなかったことから「板藍根」の研究が進み治療と予防の中心的な薬剤として使用されました。そして、2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)が大流行した際には中国の衛生局が「板藍根」に予防効果があると発表し、中国全土のみならず日本でもその名が広く知られるようになりました。
漢方的な働きは、清熱解毒(せいねつげどく)や涼血利咽(りょうけつりいん)の効能があるとされ、熱による炎症や血中の熱を取り除き、喉の痛みや熱を下げる働きがあります。西洋医学的には上記で述べたように、多くのウイルスの働きを抑制する抗ウイルス作用や幅広い抗菌スペクトルを示し多種類の細菌に対し効果を示すといわれています。

こんな時にオススメ!
・周りで風邪が流行っている時に

・人混みに行く前/行った後に

・テストを控えた受験生や仕事を休めない時に

・疲れからヘルペスが出そうな時に

板藍根にはエキスを抽出した顆粒タイプと飴タイプがあるため、外出の前後には顆粒をお湯に溶かしお茶として飲み、外出中は飴で喉をケアしたりなど様々なシーンで使用できます。また、健康食品のため子供から年配の方まで幅広く服用できます。

2.バリア機能を高める

ウイルスや細菌、花粉などから身を守るには、これらを体内に侵入されないように防衛力や抵抗力をつける必要があります。この感染源から身体を守る力を中医学では「衛気:えき」と言い、皮膚や鼻・気管支などの粘膜細胞の強化と関係し、外的刺激から身体を守る働きをしています。いわば、衛気とは体表にバリアを張り巡らせ邪気(ウイルスや細菌など)の侵入を防いでいる力といえます。

衛気力のチェック!
・風邪をひきやすい

・冷房や冷たい風に弱い

・汗をかきやすい

・鼻水が出やすい、垂れる

「黄耆:おうぎ」や「白朮:びゃくじゅつ」は昔から「衛気」の力を高める生薬としてペアで用いられ、衛気力が弱い方はこの2つが含まれた漢方薬である衛益顆粒(玉屏風散)を使用すると良いとされています。
また「衛気」の力を高めることは花粉症の予防にもつながります。
詳細は「花粉と漢方薬 – 日々の生活に漢方を」をご参照ください。

3.乾燥を防ぐ

感染症の予防には上記で述べたように衛気の働きを高めることが大切ですが、皮膚や粘膜などのバリア機能を保つにはウイルスや細菌などの異物を洗い流すためにある程度の潤いも必要となります。

乾燥度のチェック!
・口を開けて寝ている

・空咳がよく出る

・喉や鼻の中が乾燥しやすい

・呼吸器系が弱く、風邪を引くと咳が止まらない

中医学では、「邪気(ウイルス、細菌など)」の侵入にかかわる皮膚や目/鼻/喉の粘膜は「肺」がコントロールしていると考えます。漢方薬では「肺」の働きを高め潤いを与える麦味参(生脈散)や「肺」や「胃」の潤いを補う百潤露などを使用すると効果的でしょう。

4.幻の茸シベリア霊芝(しべりあれいし)

シベリア霊芝(ロシア名:チャガ)が生息するシベリア地方の村々では癌の患者が滅多に見られないことから、多くの科学者が調査したところ、地元の人たちはシベリア霊芝をお茶として飲む習慣があることがわかりました。そこから多くの研究が行われ、免疫の調節や炎症の抑制、利尿などの効能があるということが分かりました。
漢方的な働きは、補気健脾(ほきけんぴ)や補肝益腎(ほかんえきじん)があるとされ胃腸や肝腎(西洋医学の肝と腎とは異なる)の働きを高め、ウイルスや細菌などと戦うために必要な気(抵抗力)を補う働きがあります。

こんな方にオススメ!
・ちょっとしたことで風邪を引く

・すぐ疲れる、体力の低下が気になる

・普段から食欲がない

・板藍根を服用するとお腹を下す

最後に

未病の段階からの予防を得意とする中医学、病気になってからの治療がベースにある西洋医学、それぞれの医学には長所と短所があります。
中医学ならではの長所を活かし体質に合った漢方薬でコロナやインフルエンザ、風邪などの予防、重症化しない身体作りのお手伝いができればと思います。感染症の予防、病気にならない身体作りに興味がありましたら、ぜひご来店ください。

薬剤師 / 国際中医専門員(漢方の専門家) 中目 健祐

口臭と漢方薬

はじめに

あれ?もしかして口臭いかも…。
自分ではなかなか気付きにくい口の臭い。誰かと話す前に手で口を覆って臭いを確認したり、マスクで口元を隠したり、話しながら相手の顔色を伺ったりと、もしかして口臭いのかな?大丈夫かな?と気にされている方も多いのではないでしょうか。
口臭で悩んでいる方の多くは、歯磨きや舌掃除、ガム/タブレットなど一通りの口腔ケアをしても一向に良くならない、一時的に落ち着いてもすぐに臭ってきてしまうという方がほとんどだと思います。
中医学における口腔ケアは上記の様なその場しのぎの対処ではなく、臭いの元となる体内で発生した「熱(詳しくは下記を参照)」をケアし根本的な解決を目指します。体質に合った漢方薬で臭いや他人の目を気にしない生活を送りませんか?

口臭の原因

口臭の原因は①生理的原因と②病的原因、そして③飲食物や嗜好品による外因的要因の3つに分類されます。

中医学で考える口臭

上記でも述べたように中医学では、臭いの原因を体内で発生した「熱」によるものと考え主に以下の3つ分類されます。

1.胃熱(いねつ)

中医学における「胃」の働きは、現代医学の機能と近いとされており以下の働きがあります。

①受納(じゅのう):飲食物を受け入れる

②腐熟(ふじゅく):飲食物を消化しやすい状態にする

③降濁(こうだく):消化した飲食物を小腸へ降ろす

「胃熱」とは、読んで字の如く胃がオーバーヒートを起こしている状態です。「胃熱」の状態では上記①〜③の働きが活発となり、食べても食べてもどんどん空腹感を感じるようになります。処理(腐熟)能力を超えた胃の中は、消化されずに残った飲食物が蓄積し悪臭を漂わせるようになります。まさにゴミ収集車に回収されず残ったゴミが悪臭を放つイメージです。

このタイプの特徴は
・食べてもすぐ空腹になる
・冷たい飲み物を好む、口・喉が渇く
・便秘
・舌全体が紅い

「胃」の熱を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:黄連解毒湯、三黄瀉心湯、半夏瀉心湯など

「胃」に熱がこもる原因としては以下のようなことが考えられます。
・食生活の問題
→肥甘厚味(肥:脂っこいもの、甘:甘いもの、厚:味の濃いもの)やアルコールを過食過飲すると徐々に「胃」に熱が帯び始めます。

・ストレスの問題
→精神的なストレスを受けると自律神経を主る「肝」の働きが乱れ、隣の臓腑である「胃」に影響を及ぼします。「肝」より攻撃を受けた「胃」は上記①〜③の働きが亢進し「胃熱」の状態へと変化していきます。ストレスを感じたり、生理前(PMS)になると過食気味になる人は、このような「肝」から「胃」への攻撃が原因とされています。

2.湿熱(しつねつ)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰湿」と呼び、この「痰湿」が長く停滞すると、熱を帯び「湿熱」という状態へと変わります。上記の「胃熱」と同様で、胃内に蓄積された飲食物が腐敗し蒸されることで口臭の原因となります。

このタイプの特徴は
・口が粘る
・暑がりで汗っかき
・胸焼けがする、胃酸が逆流する
・舌に苔がべっとりついてる

口臭の原因でる「湿熱」を除去する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:星火温胆湯、黄連解毒湯、瀉火利湿顆粒など

舌の掃除しても無駄…?
口臭対策の代表的なものに舌掃除がありますが、舌に苔がつく理由は上記で述べたように余分な水分や老廃物である「痰湿」や「湿熱」が胃腸に停滞することが原因です。逆に言えば、胃腸に「痰湿」や「湿熱」が存在する限り苔は永遠に発生し続けるということです。そう考えると、舌掃除は一時的な効果はありますが、苔を完全に綺麗にするには体内の環境を変えるしか方法はないと言えます。

3.虚熱(きょねつ)

「虚熱」とは身体の潤い(冷却水)が不足し相対的に熱が発生している状態をいいます。
口の中の潤いである唾液には様々な働きがありますが、その中には食べ物の消化を促したり、食べかすや汚れを洗い流し口内を清潔に保つ働きがあります。また、胃内の潤いである胃液は、食べ物の消化や栄養の吸収に関わっています。したがって、これらの潤いが不足すると、口内や胃内が乾燥し消化されずに残った飲食物と体内の冷却水の減少から発生した「虚熱」が口内にこもり口臭へとつながります。

このタイプの特徴は
・ドライマウス
・空腹感はあるが食欲はない
・胃の灼熱痛、痞え
・舌の苔が少ない

身体に潤いを補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:甘露飲、麦門冬湯/百潤露+清熱剤など

最後に

上記で述べたように口臭は普段の食生活と密接に関わっています。特にお悩みの方は和食中心のヘルシーな食事を心掛け以下の食材を取り入れるとより効果的です。

▪️胃熱/湿熱タイプ
・野菜:苦瓜、きゅうり、チンゲンサイ、ゴボウ
・お肉:豚肉
・果実:スイカ、キウイフルーツ、バナナ
・その他:緑茶、お蕎麦、海藻類

▪️虚熱タイプ
・野菜:レンコン、ゆり根、大根、トマト
・お肉:豚肉
・果実:梨、ブドウ、マスカット
・その他:豆乳、蜂蜜、白キクラゲ

また、口臭のお悩みの中には、実際は全く臭いがしていないのに自分の口臭や体臭が酷いと思い込んでいる場合(自臭症)もあります。この場合は、上記で述べた「熱」による問題ではなく「こころ=精神面」へのアプローチが必要となります。

漢方薬や養生を通じて口臭を気にせず少しでも笑顔で過ごせる時間が増やせたらと思います。口臭や体臭などの臭いでお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

耳鳴りと漢方薬

はじめに

耳はその複雑な構造から治療が非常に難しいと言われています。

特に耳鳴りは原因が分からないものが多く、日本人全体の10~15%が耳鳴りに苦しでおり、特に65歳以上に限ると約30%に耳鳴りがあると考えられています。

薬局でもビタミン剤(メコバラミン:ビタミンB12)や血行改善薬(カリジゲノナーゼ、アデノシン三リン酸)などを服用したが、期待できるほどの効果に至らなかったという方を多く目にします。

・年齢のせいか聴力が落ち、「ジー」という音が気になり始めた
・仕事のストレスや疲れがピークに達すると「キーン」と高い音がする
・耳が塞がったような感じがして音がしっかり聞き取れない、「ゴー」と重い音がする
など耳鳴りが生じる原因や音の違いは様々です。まずはカウンセリングを通して自身の体質を知ることが症状改善の近道かもしれません。

耳鳴りの分類

耳鳴りは大きく分けて2つに分類されます。

1.自覚的耳鳴:周囲に音がないのに耳の中で「キーン」や「ピー」など本人しか聞こえない耳鳴り
2.他覚的耳鳴:耳の中で音が鳴り、外にも聞こえることがある耳鳴り

参考:病気がみえる(耳鼻咽喉科)

中医学で考える耳鳴り

中医学では、耳鳴りを耳の病変として捉えるのではなく、身体全体(特に五臓の肝、脾、腎)や気血水(津液)のバランスが影響していると考えます。

1.肝タイプ

中医学の古典には「木(肝)鬱之発・・・甚則耳鳴、眩転」(肝鬱を発し・・・、甚だしい時は耳鳴し、眩暈する)と記されています。

ストレスを強く感じたり、憂鬱や怒りなどの精神的な負荷がかかると自律神経を司る「肝」が我慢の限界を迎えオーバーヒートを起こし、その熱は頭部へと上昇します。さらに「肝胆」の経絡は、耳をまとう形で分布しているため「肝」により発生した熱は頭部の中でも特に耳に伝わります。

怒りが込み上げると顔や耳が赤くなる方がいますが、「肝タイプ」の耳鳴りはまさにこのイメージです。

このタイプの特徴は
□「キーン」と高い耳鳴り

□感情の変化で症状が悪化する

□頭痛、めまい

□赤ら顔、目が赤い

「肝」のオーバーヒートを抑える漢方薬や「肝気」の流れを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:竜胆瀉肝湯、加味逍遙散、 柴胡加竜骨牡蛎湯など

2.脾胃タイプ

中医学では、頭部を「清陽の府」といい、全身の陽気(栄養素)が集まる場所とされています。「脾胃:ひい」は、現代医学の胃腸に近い役割をしており、私たちが普段食べている食事から身体に必要な栄養素(気・血)を作り出し、頭部へ栄養素を運ぶ働きをしています。したがって、「脾胃」が弱っている状態だと頭部や耳の機能が保たれなくなり、脳の働きの低下や耳鳴りの症状を引き起こします。

このタイプの特徴は
□疲れると耳鳴りがする

□よく立ち眩みをする

□食欲がない、疲れやすい

□下痢、軟便気味

「脾胃」の働きを高め、「気・血」を上部へ運ぶ漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:補中益気湯

3.腎タイプ

中医学の古典には「髄海不足、則脳転耳鳴(髄海不足すれば、則ち脳転がり耳鳴りす)」、「察耳之枯潤、知腎之強弱(耳の枯潤を察て、腎の強弱を知る)」と記されています。

中医学での「腎」は、「髄(骨)」を生み出し、その「髄」が集まることで脳を形成すると考えます。脳に「髄」が十分に満たされていれば脳は正常に働き、耳の機能を維持することができますが、加齢とともに「腎精」が不足すると「髄」が空っぽになり耳の働きが弱まります。また、中医学では「腎は耳に開竅する」という言葉もあり、「腎」と「耳」は切ってもきれない関係にあります。

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 このタイプの特徴は

□「ジー」という蝉の音のような低い音が続く

□物忘れを頻繁に起こす

□足腰がだるい、腰が痛い

□頻尿、夜トイレで起きることが多い

不足した「腎精」を補う漢方薬や「腎」の働きを高める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:六味地黄丸、滋腎通耳湯、亀鹿仙など

4.その他

①水溜まりタイプ
中医学の古典には「痰火上昇、鬱於耳中為耳鳴(痰火が上昇して、耳中に鬱滞すると耳鳴する)」と記されています。

風邪を引いた時に痰が詰まったり、痰を吐き出すことがあると思いますが、あのネバネバした塊(余分な水分や老廃物)が耳を塞ぐことで耳鳴りや難聴を引き起こすイメージです。

このタイプの特徴は
□耳が塞がったような感じがする

□頭が重い、めまいがする

□胃や胸がムカムカする

□口が苦い、粘る

「痰」の原因である余分な水分や老廃物を除去する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:星火温胆湯、竹茹温胆湯、半夏白朮天麻湯など

中医学では「脾は生痰の源」といわれ「脾胃」の働きが弱っていると水液代謝がうまく機能せず、「痰湿:たんしつ」といわれる余分な水が生じやすくなります。そのため、上記2で述べた「脾胃」が弱っているタイプは、健胃顆粒(香砂六君子湯)や半夏白朮天麻湯のような痰を取り除きながら胃腸の働きを高める漢方薬を併用すると良いかもしれません。

 ②血の滞りタイプ
中医学における「血」は栄養を運ぶ働きをしており、各臓腑の機能維持に「血」は必要不可欠な物質です。身体の中でも特に頭部は脳内血管や脳内血流という言葉があるように多くの「血」が流れているため、血の巡りが悪い「瘀血:おけつ」の状態だと脳疾患(脳梗塞や脳血栓)を引き起こす原因になったり、耳の働きを低下させ耳鳴りの症状へとつながります。
また、中国には「通竅活血湯」という漢方薬がありますが、その原文には「耳孔内の小管が脳に通じており、管内に血があれば管は閉塞され、耳聾する」とあり、難聴や耳鳴りの症状における活血(血の巡りを良くする)の重要性が記されています。

漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参など

最後に

耳鳴りや難聴を「治らない」「年齢のせいだからしょうがない」「上手く付き合っていくしかない」と諦めている方も多いと思います。病院では「この症状にはこの薬!」と病名治療が行われ、なぜ症状が発生したのか、何が原因なのかをあまり考慮しない傾向にあります。
漢方相談では、お客様一人一人のお話をじっくり聞きながら、上記のような漢方薬や耳鳴り・難聴に付随する症状(メンタルや睡眠状態も耳鳴りや難聴に関係しているといわれています。)に合わせて漢方薬をご提案させていただきます。耳鳴りや難聴の症状でお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

ダイエットと漢方薬

はじめに

誰でも一度は「ダイエット」のことで悩んだことがあるのではないでしょうか?

・健康や美容のためにダイエットをしようかな
・ダイエット⇔リバウンドを繰り返してしまう
・色々な○○ダイエットを試したけど、思うような効果が得られなかった
・今年こそは痩せる!が口癖になっている

巷では、簡単!すぐに痩せられる!と謳い様々な〇〇ダイエットがありますが、体質に合った漢方薬を使わないと効果が得られないように、それが万人に合うダイエット法とは限りません。また、ダイエットには成功したが、無理な食事制限やオーバーワークなどから、疲れやすくなったり、貧血や便秘などの別の不調がでたということも聞きます。

中医ダイエットとは?

「中医ダイエット」とは、中医学の理論に基づくダイエット方法であり、「太る体質」の原因を考え、身体で起きている細かな不調を整えながら、健康的に「痩せる体質」に変えていくことを目標にしています。

体質を改善しながら進めるため、肥満の解消や体重を落とすことと同時に肩こりや頭痛、疲れやすい、浮腫みなどの身近な不調を改善できるのが魅力の一つです。
中医ダイエットで自身の体質を理解しながら、無理のないダイエットで身体の中から”痩せる”身体づくりを目指しませんか?

中医学で考えるダイエット

中医学では、太りやすくなる体質や肥満になる原因として下記の4つのタイプに分けて考えます。

1.脾胃虚弱(ひいきょじゃく)
 「脾胃」は現代医学で言う胃腸を指しており、私たちが普段から摂っている食事や飲み物から身体のエネルギー源である「気」や身体の栄養や潤いに関係する「血」を生成させ、各臓腑へ届ける働きをしています。

「脾胃虚弱」の状態では、胃腸機能の低下により下記の状態へと陥りやすくなり、太りやすい体質へと繋がります。
1.気や血を作り出すことができない
→ 基礎代謝の低下、疲れやすい、やる気の低下

2.水分代謝が機能せず、体内に余分な水分が溜まる
→ 浮腫、下痢や軟便

このタイプの特徴は
□疲れやすい、やる気がでない
□食欲不振
□汗をかきやすい、風邪を引きやすい
□下痢・軟便気味
□身体が重い

「脾胃」の働きを高めながら、「気」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:健胃顆粒(香砂六君子湯)、健脾散(参苓白朮散)、防己黄耆湯など

2.痰湿/湿熱内蘊(たんしつ/しつねつないうん) 
本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰湿」と呼び、この「痰湿」が長く停滞すると老廃物が腐敗するように熱を帯び「湿熱」という状態へと変わります。

「痰湿」や「湿熱」は食生活と深い関係があり、肥甘厚味(肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物)の多い食事を摂り過ぎると、胃腸に負担がかかり身体に余分な老廃物が蓄積されやすくなります。

このタイプの特徴は
□悪心、胸やけ
□下痢・軟便気味
□身体が重い、浮腫む
□肥甘厚味の過食、アルコールの多飲
□肌が荒れやすい
□口が苦い、粘つく

余分な水分や老廃物を除去する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:星火温胆湯、胃苓湯、茵蔯五苓散など

普段から食べ過ぎてしまう、夕食の時間が遅い(20時以降)という方は、食べ物を消化を促す「晶三仙(山査子、麦芽、神曲)」を併用するとより効果的です。

上記1で述べた「脾胃虚弱」タイプの方は、飲食物の消化吸収や水分代謝の機能が低下しているため、老廃物である「痰湿」や「湿熱」が溜まりやすく蓄なります。また、中医学では「脾は湿を嫌う」という言葉があり、「湿」がたまることで「脾」の働きが低下し、さらに「湿」が発生しやすくなります。

3.肝気鬱結(かんきうっけつ)
 中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」や「血」の流れを調節しているとともに精神面の安定にも関与していると考えらています。

通常、「肝」が正常に機能している場合では、精神的な負荷に対して一定の耐性があり、受け流すことができますが、ストレス負荷が強い場合や長期間ストレスを受けている場合は、自身の「肝」の閾値を超えてしまい自律神経のバランスが大きく乱れへます。このような状態を中医学では「肝鬱」と呼び、発散することのできないストレスが鬱々と蓄積し、「気」や「血」の滞り(気滞、瘀血)を引き起こします。

このタイプの特徴は
□イライラしやすい
□脇腹や胸が張る
□ストレスが原因で食べ過ぎる
□PMS(月経前症候群)がある
□月経不順
□下痢と便秘を繰り返す

「肝」の働きを整え、「気」の巡りを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:逍遥顆粒、開気丸、大柴胡湯など

「気」の巡りが良くなると基礎代謝も上がるため、上記症状の改善とともに体重の減少へと繋がります。

4.瘀血(おけつ)
 「瘀血」とは、血の巡りが悪くなり、血液がドロドロとした状態を言います。このドロドロとした血液には、中性脂肪やコレステロールが含まれており、体内に「瘀血」が蓄積されると内臓脂肪や皮下脂肪がつきやすくなるため、メタボ体系のような肥満の身体へと繋がります。

川の流れが悪くなる原因が下記①〜④にあるように「瘀血」が発生する原因に対しても同様なことが言えます。
①痰湿や湿熱:川に土砂やゴミが溜まり水の流れが悪い状態
②肝気鬱結(気滞):岩場が多く、川の水がせき止めらている
③気血不足:水の流れに勢いがなく、川に石や土砂が溜まりやすい
④冷え:川の水が凍り、流れが悪い状態
よって、「瘀血」の改善には、川の流れを良くする漢方薬と合わせて、水の流れを悪くしている原因を解消させる必要があります。

このタイプの特徴は
□肌くすみやシミ、そばかすが気になる
□肩こりや首こり、頭痛が酷い
□月経不順
□生理痛がある(出血時にレバー状の塊が出る)
□舌裏の血管が太く怒張している

漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参など

5.その他(防風通聖散)
ダイエットの漢方薬として非常に有名な「防風通聖散」。その高い有効性と速効性から肥満症に使われることが多いですが、そもそもはダイエットの目的の薬ではなく、カゼを引いたときに使用する漢方薬です。

防風通聖散の主な働きは下記になります。
・体表の邪気を汗とともに発散させる
→カゼ症状(悪寒、発熱、頭痛など)の軽減

・体内にこもった熱を便や尿とともに出す
→口渇、便秘、尿黄短少の改善

無理やり発汗させ、身体(特に胃腸)を冷やし便通や排尿を促すため、気が不足しているタイプや上記1の脾胃虚弱タイプ、冷え体質の方は向いていない漢方薬となります。

最後に

中国では、昔から「養生七分、治三分」という言葉があり、健康で暮らす上では日々の養生(生活習慣)が何よりも重要と考えます。逆に言えば、効果のあるお薬を飲んだところで養生を疎かにしていたら、一向に症状は良くならないということです。(一時的に症状が改善しても、すぐに再燃する方が多いのは、養生の影響かもしれません。)

太る一番の原因は、”食事の内容”とよく言われますが、太りにくい体質を作るには、食事内容の見直しに加え、脾胃(胃腸)に負担をかけず、身体内に老廃物を溜めないような日々の習慣が重要になります。
また、漢方薬を吸収する臓腑は脾胃のため、胃腸の状態を健康に保つことは、漢方薬の吸収を高めることにも繋がります。

<毎日の習慣にしてほしいこと>
・食事の比率は、穀類4~5割、野菜4割、動物性の食品1~2割を心掛ける
→穀類:米、小麦、大豆など / 野菜:葉物野菜を中心に旬のもの / 動物性の食品:肉、魚介類、卵、乳製品など

・腹八分を心掛ける(胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事)

・一口30回を目安に噛む

・生のもの、冷たい飲食物を控える

・肥甘厚味の多い食事を控える(肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物)

・20時以降に食事をしない

当店では、薬局の隣に運動機器を備えた施設をオープンしました。漢方の専門家による体質改善とトレーナーのによる適切な運動とストレッチにより、ダイエットのみならず病気にならない身体づくりをサポートします。ご興味がある方は、ぜひ当店までご連絡ください。

薬剤師 中目 健祐


 

紫外線・日焼けと漢方薬

はじめに

梅雨が明け、気温の上昇とともに気になるのが日焼けやくすみの原因となる紫外線ではないでしょうか。
特に最近の日本は、全国で亜熱帯のような気温が続き、紫外線の強さが年々強くなっているような気がします。紫外線から肌を守る様々な日焼け止めが販売されていますが、肌荒れや乾燥の原因になったり、何度も塗り直さないと効果を発揮しないなどメリットばかりではないのが現状です。
日焼け止めクリームのデメリットを補い、内面から紫外線を守る「中医式 紫外線対策」で日焼けやくすみの対策をしてみませんか?

紫外線について

日光(紫外線)を浴びることは、骨密度や免疫力の維持、体内時計のリセットなどのメリットがある一方で、紫外線を浴びすぎると肌の日焼けやシミ、たるみの原因となります。

紫外線にはUV-A、UV-B、UV-Cがありますが、地上に届く主な紫外線は「UV-A」「UV-B」の2種類です。

◆UV-A:シワ、タルミの原因となる
波長の長いUV-Aは、肌のより深く(真皮)まで侵入し、皮膚を構成するコラーゲンやエラスチンなどにダメージを与えます。このダメージが蓄積されると、肌は弾力を失いシワやタルミを引き起こす原因となります。また、日差しを浴びた後にすぐ黒くなるのはUV-Aの影響といわれています。

◆UV-B:シミ、ソバカスの原因となる
UV-BはUV-Aより波長が短いため肌の奥深くには届きませんが、その分ダメージが強く、肌の炎症を引き起こすため、肌が赤くなったり、メラニン色素が沈着してシミやソバカスの原因になります。

日焼け止めのPA、SPFって?

◆PA:Protection Grade of UVA
UV-Aに対する防止効果を示しています。「+」「++」「+++」「++++」の4段階で表示され、+の数が多いほどUV-Aに対する防止効果が高いです。

◆SPF:Sun Protection Factor
UV-Bに対する防止効果を示しています。1~50(50を超える場合は50+)で表示され、数値が大きいものほどUV-Bに対する防止効果が高いです。

中医学で考える紫外線対策

1.補陰(潤いを補う)
 真夏の暑さと紫外線のダメージにより水分を失ったお肌は、干物のお魚と同じように少しの熱であっという間に黒く焦げてしまいます。

 保湿クリームは皮膚表面の乾燥を守ることができますが、クリームに含まれている有効成分は残念ながら皮膚内部まで届かないため、お肌の潤い補給にはつながりません。紫外線の対策には、外用剤でしっかりと皮膚表面を守りつつ、身体内部から潤いを補給するような漢方薬を併用するとより良い対策になるでしょう。

漢方薬の例:艶麗丹(哈士蟆油含有製剤)、亀鹿仙、婦宝当帰膠など

2.補気(バリアを作る)
 「気」が不足した状態では、身体を守るバリアや汗腺(中医学では「腠理:そうり」)が緩みやすくなるため、体内の水分が蒸発し、日焼けしやすいお肌へとつながります。

日焼けのしやすさに関わらず、普段から「風邪を引きやすい、汗をかきやすい、疲れやすい、すぐ息がきれる など」がみられる方は「気」が不足している傾向にあるため、「気」を補いバリア力を高める漢方薬を使用すると良いでしょう。

漢方薬の例:西洋人参、衛益顆粒、補中益気湯など

3.活血(血流を良くする)
補給した栄養(陰血・気)をお肌に届けるには血流の良さが何より重要になります。お肌に栄養が行き渡らないと、皮膚の新陳代謝や再生が低下し、お肌を健康でみずみずしく美しい状態に維持することが難しくなります。また、中医学ではシミやクスミ、そばかすは血の滞りが原因と考えるため、血流を良い状態にすることが美肌への近道となります。

漢方薬の例:紅棘沙(ホンサージ)、冠元顆粒、水快宝など

棘沙(サージ)は、皮膚粘膜の修復や抗酸化作用のあるビタミンEやシワ改善効果のあるビタミンA、メラニン色素の生成を抑えるビタミンCなど様々なビタミンが多量に含まれており、中国では「ビタミンの宝庫」、「美容の果実」と呼ばれ皮膚や美容領域では非常に重宝されています。

最後に

中医学では「肌は内臓の鏡」といいます。つまり、どんなに高価な日焼け止めやスキンケア商品を使っていても、身体内部の状態が良くなければ健康で綺麗なお肌を維持することは難しいです。上記のような漢方薬や食生活を見直しながら、お客様一人一人の内面をケアするお手伝いを出来たらと思います。
紫外線対策や皮膚の乾燥、痒みなどのお悩みを抱えておりましたら、ぜひ当店までご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

高血圧と漢方薬

はじめに

高血圧は、別名「サイレントキラー」とも呼ばれ、血圧が高い状態のままでいると、脳卒中や心筋梗塞、腎不全など重大な合併症を引き起こす可能性が高くなります。実際に日本人の死因の第2位:心疾患と第4位:脳血管疾患は高血圧と関連があり、血管に大きな負荷をかけないことが非常に重要になります。

中医学には、病気の発症や病状が悪化する前に未然に防ぐ「未病先防:みびょうせんぼう」という考え方があります。高血圧を指摘された時点では、自覚症状はあまりないかもしれませんが、事態が大きくなる未病の段階でケアすることが合併症の予防へとつながります。

血圧の基礎知識

血圧とは?
血圧とは、心臓から送り出された血流が血管(動脈)の内壁を押す力(圧力)を指し、心臓から拍出される血液量(心拍出量)と末梢血管での血液の流れにくさ(末梢血管抵抗)により決まります。

血圧の「上」と「下」って?
血圧を測定すると上が130で下が80と表示されますが、そもそも「上」と「下」の違いは何でしょうか。

・上=収縮期血圧(最高血圧)
心臓が収縮して血液を全身に送り出すときの血圧

・下=拡張期血圧(最低血圧)
心臓がポンプするために血液をためて膨らんでいる(拡張している)時の血圧

高血圧の診断基準
日本高血圧学会の「ガイドライン2019」によると、病院などの医療機関で測定した血圧(診察室血圧)では「収縮期血圧は140mmHg、拡張期血圧は90mmHg」以上を高血圧としています。
家庭で測定した「家庭血圧」は医療機関での測定より低い数値が出る傾向にあるため、それぞれ5mmHgを引いた数値となります。

また、降圧目標は下記のように設定されています。

中医学で考える高血圧

1.瘀血阻絡(おけつそらく)

「瘀血」とは、血管に溜まった汚れや血液がドロドロした血の巡りを悪い状態を指します。
一般に血管というと、動脈や静脈といった太い血管をイメージされますが、太い血管は全体の1%程度で、その他は太さ6μm程の目に見えない毛細血管が99%を占めています。
身体のほとんどを占める毛細血管の血液の流れが悪いと、血管の抵抗性が高まり血圧の上昇へとつながります。また、血液の流れが悪いことで心臓が血液を流そうと頑張ってポンプするため血圧が高くなります。

このタイプの特徴は
□頭痛・めまいがある

□首や肩のこりがある

□手足の静脈が浮き出ている

□生理痛がある、生理に塊が混じる

□舌裏の血管が青紫色に怒張している

血の巡りを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参など

2.湿熱内停(しつねつないてい)

血の巡りを悪くする要因は上記の「瘀血」だけではありません。
本来代謝・排泄されるべき余分な水分を中医学では「痰湿」といい、「痰湿」が体内に長く停滞するとやがて熱を帯びた老廃物のような「湿熱」という状態へと変化します。

「湿熱」が血管内に溜まると、ヘドロまみれの水道管が水詰まりを起こすように血管内の血流の流れが悪くなり高血圧の原因となります。

このタイプの特徴は
□脂っこいもの、味の濃いもの、お酒が好き

□ぽっちゃり体型(メタボ体型)

□身体が重だるい、胃がむかむかする

□口が苦い、臭い、粘る

□舌に苔がべっとりついてる

余分な老廃物である「痰湿」や「湿熱」を解消する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:星火温胆湯、瀉火利湿顆粒(竜胆瀉肝湯)、黄連解毒湯など

3.肝陽上亢(かんようじょうこう)

「肝陽上亢」とは、体内の潤い(陰血)が減り、熱(陽気)が相対的に強まっている状態をいいます。

やかんでお湯を沸かす時に水が十分にあるとすぐには沸騰せず水と熱のバランスが保たれますが、水が少ない状態だとすぐに沸騰し湯気が噴き出します。
この水が少なく湯気(熱)が上に昇るような状態がまさに「肝陽上亢」です。

このタイプの特徴は
□のぼせて顔が赤くなる

□頭痛、めまい、耳鳴りがする

□足腰がだるい

□寝汗をかく

上部へ上昇した「陽」を抑える漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:釣藤散、降圧丸など

また、上記に合わせてやかんの水の部分(中医学では「陰」といいます。)を補給するような漢方薬を使用するとより効果的です。
漢方薬の例:双料杞菊顆粒(杞菊地黄丸)、瀉火補腎丸(知柏地黄丸)、亀鹿仙など

4.その他:沙棘(サージ)製品

上記で述べたように血圧が上がる要因の一つとして血管壁の弾性がなくなり血管が硬くなることで起きる場合があります。
このような時に血管を柔らかくしたり、微小循環の改善や抗酸化作用のある沙棘(サージ)製品を使用すると血圧が下がる場合があります。

最後に

漢方薬は、西洋薬のように薬を服用したらガクッと血圧を下げるものではありませんが、冒頭で述べた様に未病の段階でケアできることや高血圧の原因に対しアプローチできることが強みです。
自身の体質を理解し、漢方薬で病気になりにくい体を作りませんか。血圧や血流に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐

気象病と漢方薬

はじめに

・雨の日は頭痛や浮腫みがする

・気圧が下がったり、台風が近づくとめまいや古傷が痛む

・梅雨の時期は身体が重だるくなったり、気分が落ち込む

など気候や気圧、湿度などの変化により生じる不調を「気象病」といいます。

「気象病」の代表的な症状として以下のものがありますが、自然の影響により生じる不調だからと諦めている方も多いのではないでしょうか。

□頭痛、めまい、耳鳴り

□疲労、倦怠感、眠気

□腹痛、下痢

□関節痛、しびれ、古傷が痛む

□気分の落ち込み、憂鬱感

中医学には「天人合一:てんじんごういつ」という考えがあります。
「天人合一」とは、人間は自然界の影響を受けて生活しているため、人体と自然界を分けて考えることはできないという考えをいいます。
このように古くから自然との調和を一番に考えている中医学は、西洋医学とは異なり気候の移り変わりに対応できるような漢方薬が数多くあり、非常に得意な分野といえます。

これから梅雨に入り1年の中でも「気象病」に苦しむ方が多くなる季節。中医学の考えを取り入ることで、少しでも不調から抜け出すきっかけを作ることができたらと思います。

中医学で考える気象病

「気象病」に関わらず、中医学では体内の「気・血・津液」のバランスを非常に重要と考え、これらが過不足なく、そして滞りなく巡っていることで健康な状態が保たれます。

1.津液(水)の滞りタイプ(痰湿タイプ)

梅雨の時期や雨の日など湿度が高い日は、水を吸った除湿剤のように身体内の水が増え、水の滞りによる不調が生じます。

このタイプの特徴は
□頭や身体が重だるい

□めまい、耳鳴りがする

□むくみやすい

□関節が痛む

□軟便や下痢になりやすい

身体内にある余分な水分を解消する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:勝湿顆粒、平胃散、五苓散など

普段から生冷飲食(冷たい飲み物やサラダ、お刺身、アイスクリームなど)や肥甘厚味(脂っこい物、甘い物、味の濃い物)を多く摂るような方は、身体内に余分な水分を溜めやすくなります。

身体内に湿(水)が溜まっている人は、外の湿の影響を受けやすいと言われ、中医学ではこれを「内湿が外湿を呼ぶ」といいます。

湿度の変化による不調を生じやすいタイプは、日頃から身体内に余分な水を溜め込まないことが重要になります。

また、中医学では「脾は生痰の源」という言葉があり、脾胃(胃腸)の働きが低下していると水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まりやすくなると考えます。

□疲れやすい

□食欲がない

□食後、お腹が張ったり、眠くなる

□軟便気味、下痢しやすい

などがみられる方は、まずは脾胃(胃腸)の状態を改善させることや上記で述べた生冷飲食や肥甘厚味を控えるなどの生活習慣を見直すことから始めると良いかもしれません。

2.気の滞りタイプ(気滞タイプ)

自律神経には、交感神経と副交感神経があり、内臓の働きや代謝、体温、メンタルなど私たちの身体の様々な機能をコントロールしています。

自律神経が乱れる主な要因は、精神的/肉体的なストレスなどがありますが、気温や気圧、湿度の変動も私たちの身体にはストレスと感じ、自律神経がバランスを乱れる要因となります。

このタイプの特徴は
□イライラしやすい、怒りっぽい

□抑うつ、憂鬱感がある

□ため息が多い、胸や脇腹が張る

□生理前症候群(PMS)がある

気の巡りを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:逍遥顆粒、柴胡疏肝湯、開気丸など

3.血の滞りタイプ(瘀血タイプ)

上記で述べた「水(津液)」や「気」が滞ると、血管内の「血」の巡りも悪くなります。人間の身体は血液が運ぶ酸素や栄養によっていきいきと健康な状態が保たれますが、この大切な役割を担っている血液の流れが悪くなると酸欠や栄養不足となり様々な不調の原因になります。

また、気圧の変化も「血流」に大きく影響します。山に登るとお菓子の袋がパンパンに膨らむように、私たちの血管も低血圧の時は血管が拡張し、普段に比べ血の巡りが悪くなります。

このタイプの特徴は
□首/肩こりがする

□頭痛、関節が痛む、手足がしびれる

□手足の末端が冷える

□生理痛が酷い、経血に塊が混じる

「血」の流れを改善する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、芎帰調血飲第一加減など

最後に

中医学は「中和(調和)の医学」。
ある先生の言葉ですが、気象病への対処はまさにこの通りだと思います。
自然に対し無理に抗うのではなく、自然と身体を中和(調和)することが症状改善への近道です。
漢方薬や養生など通しお客様一人一人に合った中和(調和)のヒントをお伝えできればと思います。気象病でお悩みの方はお気軽にお越しください。

薬剤師 中目 健祐

汗と漢方薬

はじめに

汗には、体内の不要な老廃物や毒素の排出(デトックス)や体温調節、皮膚の保湿など様々なメリットがありますが、

・少し動いただけで汗がダラダラ
・更年期に入り汗が気になるようになった
・寝汗が酷く、パジャマやシーツがびっしょり
・手や足、脇の下の汗・臭いが気になる
・緊張すると汗が止まらない

などの不快な汗は、悩んでいる人にとってはただの汗っかきでは済まされない辛い症状かと思います。
病院に行くほどではないけど、他人にも相談できないし、どう対処すべきか良いかお困りの方は多いのではないでしょうか。

中医学で考える汗

中医学では次の5つのタイプで汗の異常を考えます。

1.肺気不足(はいきふそく)
中医学における「肺」には、呼吸系の働き以外に体表にある汗腺の開閉をコントロールする役割を担っています。
そのため、肺の力が弱っている方は、汗腺(中医学では「腠理:そうり」)が緩んだ状態のため、少しの動きで汗が漏れ出たり、邪気が入りやすく頻繁に風邪を発症します。 

このタイプの特徴は

□活動後に汗が出やすくなる
□風邪を引きやすい、冷気(冷房)を嫌がる
□疲れやすい
□すぐ息が切れる

「肺」の働きを高める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:衛益顆粒(玉屛風散)、補中益気湯など

2.営衛不和(えいえいふわ)

「営衛不和」とは、「営気:えいき」と「衛気:えき」のバランスが崩れた状態をいいます。
●営気:血管中にある気で津液(水)を血に作り変え、全身を栄養し潤す働きをしています。
●衛気:名前の通り「防衛の気」であり、身体に悪影響を与える邪気から身体を守るバリア的な役割をしています。邪気の侵入口である皮膚や汗腺の開閉に関わります。
営気と衛気のバランスが崩れた状態だと、衛気が営気をとどめておくことができず営気が漏れ出し、汗となり外に出ます。

このタイプの特徴は

□発汗後、風に当たるとゾクゾクと嫌な感じがする
□半身や局所的に汗がでる
□カゼの様な症状を伴う(軽い発熱、悪寒、だるい)

「営衛」のバランスを整える漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:桂枝湯、桂枝加竜骨牡蛎湯など

3.陰虚火旺(いんきょかおう)

中医学では「心」は火(陽)に、「腎」は水(陰)に属し体内の温度調節を行っていると考えます。

「陰虚火旺」の状態では、体内を冷却する水(陰)が不足することで、相対的に心の力が増すため、火(陽)の亢進が起こり汗をかきやすくなります。

このタイプの特徴は

□寝汗をかく
□手の平や足の裏がほてる、微熱
□口が渇く
□便秘気味

冷却水(腎陰)を増やし、火を鎮める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:瀉火補腎丸(知柏地黄丸)、六味地黄丸など

4.湿熱鬱蒸(しつねつうつじょう)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰湿」と呼び、この「痰湿」が長く停滞すると、熱を帯び「湿熱」という状態へと変わります。
生ゴミを放置すると腐敗し蒸されるように、身体の中で熱を帯びた「湿熱」は汗の原因となります。

このタイプの特徴は

□蒸すように汗が出る
□口が苦い、臭い、粘る
□舌に苔がべっとりついてる
□飲食の不摂生(脂もの、甘いもの、味の濃いもの、お酒など)

余分な水分や老廃物を除去するとともに熱を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:瀉火利湿顆粒、茵蔯五苓散など

5.肝気鬱結(かんきうっけつ)

面接や大事なプレゼンなどの精神的な緊張やストレスがかかる場面で額や脇、手の平などから汗が噴き出してしまうことはないでしょうか。
中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」の流れを調節し、精神面の安定に関与していると考えらています。過度なストレスなどにより「肝」の働きが乱れると「気」の流れが滞り、「肝気鬱結」という状態になります。

このタイプの特徴は

□精神的な負荷がかかった場面で汗が出る
□普段からストレスを感じやすい
□情緒が不安定になりやすい

「肝」の働き正常化し気の流れを良くする漢方薬を使用すると効果的です。
漢方薬の例:加味逍遥散、柴胡加竜骨牡蛎湯など

最後に

一般的に汗を大量にかくこと=デトックスだと考えられ、サウナやホットヨガなど不自然に大量の汗をかくことがブームになっていますが、これらは万人に合うものではなく、特に上記「1.肺気不足」「2.営衛不和」「3.陰虚火旺」のタイプにはあまりオススメできない発汗方法になります。

中医学では「汗(津)血同源:かん(しん)けつどうげん」という言葉があり、汗(津液≒水)と血は同じ源からできていると考えます。つまり、汗を大量にかくことは、体内の水分量の減少だけでなく、血の消耗も意味し、血液の循環に関わる心臓への負担も大きくなります。このことから「汗は心の涙」ともいわれています。
サウナで「心が整う」はひょっとしたら暑さに耐えた達成感からくるものであり、実際には「心はもうやめてくれー!」と悲鳴を上げているかもしれません。

上記で述べたように汗が出てしまう原因は人それぞれです。体質に合う漢方薬と食養生を通し症状を改善しませんか?不快な汗の症状でお悩みの方は、ぜひ当店までお越しください。

薬剤師 中目 健祐

下痢と漢方薬

日本人は胃腸が弱い!?

日本人は他の人種に比べ胃腸が弱いとよく言われますが、なぜ胃腸のトラブルを起こしやすいのでしょうか?
本題に入る前に中医学的な考えからその理由を説明したいと思います。

中医学には「天人合一:てんじんごういつ」という考えがあります。
「天人合一」とは、人間は自然界の影響を受けて生活しているため、人体と自然界を分けて考えることはできない。つまり、自然界で起こる様々な現象は、人体にも同じく現れるという考えを言います。

日本の環境はどうでしょうか?
海に囲まれた島国であることから雨が多く、また梅雨の時期から夏の終わりまでの約4か月間は、亜熱帯のような高温多湿と1年を通して「湿気」が多いという特徴があります。また、日本人の食生活の特徴として、生物(刺身や生肉など)や冷水(暑さや寒さに関わらず、飲食店ではお冷がでますよね。)を好む人種でもあります。これらは、「天人合一」の考え方からすると、日本人は他の人種に比べて身体内に「湿気(湿)」を溜めやすいタイプと言えます。

日本の環境はどうでしょうか?
海に囲まれた島国であることから雨が多く、また梅雨の時期から夏の終わりまでの約4か月間は、亜熱帯のような高温多湿と1年を通して「湿気」が多いという特徴があります。また、日本人の食生活の特徴として、生物(刺身や生肉など)や冷水(暑さや寒さに関わらず、飲食店ではお冷がでますよね。)を好む人種でもあります。これらは、「天人合一」の考え方からすると、日本人は他の人種に比べて身体内に「湿気(湿)」を溜めやすいタイプと言えます。

さて、中医学における胃腸(脾胃)の働きをみてみましょう。
「脾胃:ひい」の働きに1つ「運化」というものがあります。
運化の「運」は運送や輸送、「化」は消化吸収を意味しており、運化には2つの働きがあります。

1.精微物質の運化:気・血・津液(水)を作り、全身に届ける
2.水液の運化:水液を吸収して全身に輸送・散布する

水はけの悪いグランドだと足が取られ体の動きが悪くなるように、エネルギーや水を運ぶ脾には「湿を嫌う」という特徴があります。
よって、「湿」が体内にあると「脾胃」の働きが低下し

1.精微物質の運化の失調:エネルギーを作り出すことができない
  → 疲れやすい、やる気がでない
2.水液の運化の失調:水液代謝が機能しない
  → 下痢や軟便、浮腫
という状態に陥りやすくなります。

上記の「天人合一」で述べたように、日本人は気候や食生活から「脾胃」が嫌う「湿」を溜めやすく、作りやすい環境下にいます。そのため、気付かない間に「脾胃」に負担がかかっており、徐々に胃腸が弱っていくことで下痢や軟便、腹部膨満感などの胃腸のトラブルが起こしやすい身体になっていくのだと考えられます。

中医学で考える下痢

中医学では下痢のことを泄瀉 (せっしゃ)と呼び、下記の5つタイプに分けて考えます。

1.外感泄瀉(がいかんせっしゃ)
外感の邪気が湿と絡み、体内に侵入することで下痢を引き起こします。言わば、胃腸型のカゼのような症状をイメージしてください。 邪気とは、私達の身体にとって悪いもの、現代医学で言うウイルスや細菌などを指します。
詳細は「カゼと漢方薬 – 日々の生活に漢方を」をご参照ください。
このタイプは、外感表証(カゼの症状)に加え、「寒」と「熱」により下記のような症状がでます。よって、カゼの症状を緩和させながら体内に侵入し脾胃に影響を及ぼしている湿をさばく漢方薬を使用します。

<外感表証(カゼの症状)>
・悪寒、発熱、頭痛など


<寒湿タイプ>
・下痢(水様便、臭いが少ない)
・腹痛、お腹が張る
・お腹がゴロゴロとなる
・食欲不振
漢方薬の例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散、胃苓湯など

<湿熱タイプ>
・下痢(悪臭が強い、便器にこびりつく、急に激しい下痢)
・肛門の灼熱感
・腹痛
・口渇
・尿の色が濃い
漢方薬の例:葛根黄芩黄連湯、黄連解毒湯、五行草(馬歯莧)など

外感表証(カゼの症状)がない場合でも急性的な下痢の場合は、上記の「寒湿」タイプと「湿熱」タイプの症状に合わせて漢方薬を使用すると良いでしょう。

2.食傷泄瀉 (しょくしょうせっしゃ)
肥甘厚味の過食やお酒の飲み過ぎなどにより、食積が脾胃に溜まることで脾胃の働きが低下し引き起こされる下痢です。(肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物)

このタイプの特徴は
・便に未消化物が混じり悪臭がする
・悪心・嘔吐がする
・胃がもたれる
・腐臭のあるゲップをする

このタイプには、脾胃に溜まっている食積の消化を促すような漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:晶三仙(山査子、麦芽、神曲)など

3.肝鬱泄瀉 (かんうつせっしゃ)
緊張する場面(テストや面接、プレゼンの前など)やちょっとした不安(電車に乗った時や学校、会社に行く前)でお腹を下したことはないでしょうか?

中医学では自律神経を主る「肝」の気が高ぶることで「脾胃」が攻撃され、その影響により引き起こされると考えます。

このタイプの特徴は
・下痢(精神が緊張状態の時)
・ストレスを抱えやすい、緊張に弱い
・脇腹が張る、お腹が張る
・ゲップをする

「肝」の気の流れを良くしながら、脾胃を守る漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:逍遥顆粒(逍遥散)、四逆散、柴苓湯など

4.気虚泄瀉 (脾胃虚弱)(ききょせっしゃ(ひいきょじゃく))
幼少期から胃腸のトラブルが多い、食後すぐに下痢をする、下痢をするから脂物は食べないなどの一般的に胃腸が弱いと言われる方に多いタイプです。

脾胃の働きが低下すると水液代謝が低下するため、腸で吸収されなかった水分が便と混じることで下痢を引き起こします。(詳細は上記の「胃腸(脾胃)の働き」をご参照ください。)

このタイプの特徴は
・下痢、軟便、便秘と様々なタイプに変化する
・便中に未消化物が混じる
・食後にお腹が張る、眠くなる
・疲れやすい、やる気がでない
・食べても太れない(痩せやすい)

「脾胃」の働きを補いながら、下痢の原因である「湿」をさばく(水分代謝を改善する)漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:健脾散(参苓白朮散)、健胃顆粒(香砂六君子湯)など

5.陽虚泄瀉 (ようきょせっしゃ)
一般的に胃腸が働きやすい温度は、人間の体温(36~37℃)に近い温度と言われているため、お腹が常に冷えてる方や慢性的に冷えが強い方は胃腸の機能が低下し下痢を引き起こしやすくなります。
特に高齢の方や生来の虚弱体質の方は、全身の臓腑を温める「腎陽」の働きが低下していることが多く、その結果「脾」を温めることができないため、胃腸機能の低下することがあります。

このタイプの特徴は
・下痢、水様便(特に明け方に下痢をすることが多い)
・便に未消化物が混じる
・手足や腰、お腹の冷え
・足腰がだるい
・排尿困難・浮腫み

このタイプには、腎陽を補いつつ、脾を温めながら働きを立て直す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:人参湯+真武湯、参馬補腎丸など

最後に

中国の古典には「無湿不成瀉:湿がなければ下痢はない」という言葉がありますが、下痢症状で悩まれている方は体内に「湿」を溜めないことが非常に重要になります。

「湿」を溜めやすく胃腸に負担をかける食事として下記のようなものがあります。
・甘い物(チョコレート、菓子パン、コンビニスイーツ)
・脂物(お肉、揚げ物、ポテトチップス)
・乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)
・冷たい飲食物(ジュース、お酒、刺身、アイスクリーム)

巷では身体に良いと言われているものが、実は胃腸に負担をかけていることもあります。身体に良いものを積極的に摂るよりも、自身の生活を見直し身体に不要なものを1つ1つ取り除く方が症状改善の近道かもしれません。

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薬剤師 中目 健祐