メンタルと漢方薬

はじめに

仕事や人間関係、将来のこと…私たちは日々の生活の中で、多くのストレスやプレッシャー、不安を抱えながら生きています。特に日本人は、感情を表に出すことが苦手であり、自分の気持ちを抑え込むタイプが多く、心のモヤモヤやイライラを上手に発散できない方が多いと言われています。

さらに、この時期は、新社会人や新学期、新生活などの生活環境の変化に加えて、寒暖差が激しく、三寒四温と言われるように暖かい日が続いたと思ったら、急に気温が下がったりと気候面での変化も多く、自律神経が乱れやすい時期です。

「いつもよりイライラする」
「何だか不安感が強い」
「やる気がでない…」 

その行き場のないメンタルのお悩みを、中医学の力で改善してみませんか?

中医学におけるメンタルの考え方

西洋医学ではメンタルの不調を「脳と神経」の問題と考えますが、中医学では「心身一如:しんしんいちにょ」という考えがあり、心と体は切り離せすことができず一体であると捉え、精神と身体は互いに影響していると考えます。そのため、メンタルに不調がある時は、身体にその要因があると考え、体内を整えながら精神を落ち着かせます。

「七情」と「気・臓腑」の関係

人間が持つ基本的な感情を表す言葉として「喜怒哀楽」がありますが、中医学では七つの情緒「怒・喜・思・憂・悲・恐・驚」で考えます。これらの感情は、人間らしく生きるために必要不可欠ですが、精神的刺激が強過ぎたり、長期間続くと「気」や「臓腑」の活動に影響を与え、心身に不調をきたします。

肝:怒則気上(怒れば則ち気が上る)
心:喜則気緩(喜べば則ち気が緩む)
脾:思則気結(思えば則ち気を結ぶ)
肺:悲則気消(悲しめば則ち気が消える)
腎:恐則気下(恐れば則ち気が下りる)/ 驚則気乱(驚けば則ち気が乱れる)

上記の中でも特に「肝・心・脾」への影響が強く、メンタルの不調はそれらの臓腑のバランスを整えることが重要となります。

1.肝タイプ

中医学における「肝」は、現代医学でいう「自律神経」の働きに近く、ストレスや憤りを強く感じたり、憂鬱な状態など精神的な負荷がかかると肝の「疏泄」機能が失調し、気の巡りが停滞します。

「肝ってどんな働きがあるの?」という方はこちらのブログも参考になります👇
五臓六腑:肝の働きについて – 日々の生活に漢方を

<主な特徴>
✅イライラする、怒りっぽい
✅感情の波が激しい
✅ため息が多い
✅脇腹が張る

「肝気」の巡りを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:逍遥散、四逆散、大柴胡湯など

2.心タイプ

西洋医学では、「脳」が精神を主るとされ、セロトニンやドーパミンなどの脳内の伝達物質が、感情や思考、行動に影響を与えると考えます。
一方、中医学では、「心」が「脳(神明)」を支配していると考え、精神的な働きである「こころ」としての役割を担っています。
また、「心」は、「心」は血(けつ)によって養われる臓であるため、「血」が足りない状態になると、精神的に不安定になりやすく、心が落ち着かず眠りにも影響が出てきます。

<主な特徴>
✅不安感が強い
✅動悸がする
✅物忘れが多い
✅寝付けない、途中で起きる

「心血」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:心脾顆粒(帰脾湯)、天王補心丹、酸棗仁湯など

3.脾タイプ(脾=胃腸)

「はらわた(腸)煮えくり返る」「腹が立つ」「腹を決める」など、感情を表す言葉には”お腹”にまつわる表現がたくさんあるように、昔の人達は、腸と精神活動には何かしらの関係があると考えていました。

近年では、「脳腸相関」や「腸は第二の脳」という言葉も登場し、腸内環境がメンタルに大きく関与していることが科学的にも明らかになってきました。
実際、腸は「幸福ホルモン」と呼ばれるセロトニンや、「やる気ホルモン」とされるドパミンなどの神経伝達物質を数多く生産しいるとされています。

「脾」タイプは、上記の「肝」や「心」のタイプと結びつくことが多く、以下のような症状が現れやすいことが特徴です。

✅緊張するとお腹が痛くなる、下痢をする、お腹が張るなど
→「気」の巡りを良くしながら「脾胃」の働きを改善すると良いでしょう。
 漢方薬の例:開気丸、逍遥散、四逆散など

✅心配事や不安なことがあると食欲がなくなる、眠れないなど
→「心血」を補いながら「脾胃」を建て直すと良いでしょう。
 漢方薬の例:心脾顆粒、加味帰脾湯、人参養栄湯など

また、日ごろから
✔下痢・軟便が多い
✔食欲がない、食生活が悪い
✔疲れやすい

などの症状がある方は、胃腸の働きを整える健脾散(参茯白朮散)や、消化を助ける晶三仙、腸内環境のバランスをサポートする五行草などを活用して、体の内側からケアしてあげると良いでしょう🌿

4.その他(腎タイプ)

最近では、男性更年期という言葉を耳にする機会も増え、女性だけでなく、ある年齢を境に生じる心身の不調が注目されています。

中医学では、こうした更年期や加齢による不調を老化に関わる「腎」の衰えと考え、「腎」に貯蔵されている「腎精」の減少をいかにゆるかにするかが症状改善のポイントとなります。

このタイプに該当する方は、「腎」の力を補う漢方薬(補腎薬)を中心にメンタルの症状に合わせて漢方薬を併用すると良いでしょう。
補腎薬の例:瓊玉膏、亀鹿仙、海馬補腎丸など

「腎ってどんな働きがあるの?」という方はこちらのブログも参考になります👇
五臓六腑:腎の働き / 補腎のすすめ – 日々の生活に漢方を

最後に

現代人は、誰しもが何らかのストレスや不安を抱えており、精神疲労やうつ状態を生じやすい環境の中で過ごしています。
だからこそ、日常的に発生するストレスを「気のせい」と我慢せず、体のバランスを整えることで心を軽くしていくアプローチが重要です。
中医学の考えや漢方薬をうまく活用して、少しでも「こころ」の負担を軽くできるようなお手伝いができたらと思います。
「自分はどのタイプだろう?」「どの漢方が合っているの?」と迷った方は、お気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐


 

不眠と漢方薬

不眠症は国民病!?

「布団に入ってもなかなか眠れない…」
「夜中に何度も目が覚めてしまう…」
「もっと寝たいのに朝早く目が覚めてしまう…」
「たっぷり寝たはずなのに疲れが取れない…」

このような睡眠のお悩み、あなたにも思い当たることはありませんか?

実は、成人の約30~40%が何らかの「不眠」の悩みを抱えていると言われています。特に女性に多く、加齢とともにその割合は増える傾向にあります。また、男性よりも女性

「私だけが眠れないのかな…?」と不安に思っている方は安心してください。
睡眠の悩みは、まさに「現代の国民病」ともいえる症状なのです。

中医学で考える不眠

西洋薬では不眠のタイプ(入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害)をもとに睡眠薬を選択される傾向にありますが、漢方薬は上記の不眠のタイプに加えて、不眠に至った原因やその人の体質なども踏まえ漢方薬を考えます。

ここからは、中医学で考える「5つの不眠タイプ」とその特徴をご紹介します。

1.心脾両虚(しんぴりょうきょ)

心脾両虚(しんぴりょうきょ)とは、「心血虚」+「脾気虚」の状態を指します。

・心血虚(しんけっきょ)
心には「神志を主る」働きがあり、私たちの「精神活動」を担っています。
心は現代医学の心臓のイメージに近く、その働きである全身に血液を巡らせることで精神活動を良好に保ちます。しかし「心血虚(心血の不足)」の状態だと全身の血液が十分に巡らず、精神活動に問題が起こり、不眠や多夢、精神不安な状態へとつながります。

・脾気虚(ひききょ)
脾は現代医学で言う胃腸を指しており、私たちが普段から摂っている食事や飲み物から栄養素(気や血)を生み出し各臓腑へと運ぶ働きがあります。
「脾気虚(脾気の不足)」の状態では、胃腸の働きが低下し、気や血を生み出すことができないため、結果として心に血を届けることができず上記の心血虚の状態に繋がります。

<主な特徴>
✅寝つきが悪い、夢が多い、眠りが浅い
✅悩みことや考え込むことが多い
✅動悸がする
✅疲れやすい、倦怠感
✅食欲不振、食後にお腹が張る・眠くなる
✅下痢・軟便気味
漢方薬の例:帰脾湯や加味帰脾湯、人参養栄湯などが

2.陰虚火旺(いんきょかおう)

中医学では「心」は火(陽)に、「腎」は水(陰)に属し体内の温度調節を行っていると考えます。

「陰虚火旺」の状態では、腎の働きの低下により体内を冷却する水(陰)が不足するため、相対的に心の力が増し、火(陽)の亢進が起こります。

<主な特徴>
✅何だかソワソワして落ち着かない
✅手足がほてる
✅寝汗をかく
✅足腰がだるい
✅めまい、耳鳴りがする
漢方薬の例:天王補心丹や黄連阿膠湯など

3.肝鬱+血虚(かんうつ+けっきょ)

・肝鬱(肝気鬱結:かんきうっけつ)
肝は「疏泄:そせつ」を主り、全身の気の流れをコントロールしています。この「疏泄」機能は、現代医学の「自律神経」の働きに近いと言われています。
ストレスや憤りを強く感じたり、憂鬱な状態など精神的な負荷がかかると肝の「疏泄」機能は失調し、気の巡りが停滞します。これが「肝鬱」の状態です。

・血虚(肝血虚:かんけっきょ)
肝は「蔵血:ぞうけつ」を主り、血の貯蔵と全身の血流量を調節しています。
肝に貯蔵されている血は、活動時は全身に運ばれ、各組織に栄養を与えます。一方、安静時は血が肝に戻ることにより精神が安定し深い眠りへと繋がります。
「肝血虚(肝血の不足)」では、精神の安定や睡眠に必要な血が肝に戻らず、血が不足している状態のため、精神が安定せず不眠へと繋がります。

<主な特徴>
✅寝つきが悪い、夢が多い、驚きやすい
✅イライラする、怒りっぽい
✅脇腹が張る、ため息が多い
✅爪が割れやすい、髪がぱさつく
漢方薬の例:酸棗仁湯や逍遙散など

4.痰熱内擾(たんねつないじょう)

「痰熱内擾」とは、身体に余分な水分と熱が滞り、心神が犯された状態を指します。
痰熱を生じやすい方は、以下のタイプに多い傾向にあります。
・脂っこい物や味の濃い物、甘いお菓子、飲酒を好む
・季節の影響(梅雨、夏)を受けやすい
・脾胃(胃腸機能)が低下している

<主な特徴>
✅寝つきが悪い、夢を多く見る
✅不安感が強い
✅めまい、頭重感
✅胃がムカムカする、胸やけ
漢方薬の例:星火温胆湯、竹茹温胆湯など

5.胃気不和(いきふわ)

食べ放題や飲み会などで暴飲暴食した後に、お腹が苦しくて眠れないという経験をされたことはありませんか?「胃気不和」とは、まさしくその状態と言えます。
このタイプは、胃の中に溜まった食べ物を消化すれば解決できますが、「胃気不和」の状態が長期間続くと上記で説明した「痰熱」へと繋がり、不眠のみならず精神不安やめまい等の症状を引き起こすことがあります。

<主な特徴>
✅お腹が張る、痛みがある
✅胃もたれ、悪心、吐き気
✅下痢、軟便
漢方薬の例:加味平胃散や晶三仙(山査子・麦芽・神曲)など

最後に

不眠の治療と言えば、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系、オレキシン受容体阻害薬など)をイメージされるかもしれません。

睡眠薬のメリットとして、飲み始めたその日から効果を期待できますが、睡眠の質が落ちたり、翌朝への眠気の持ち越し、依存性の問題点があります。

しかし、漢方薬は睡眠薬とは異なり
●自然の睡眠へと近づける
●不眠となった原因にアプローチする
●不眠にならない体質を作る
と睡眠薬ほど即効性はありませんが、良質な睡眠に近づける体作りを手助けします。

「そろそろ睡眠薬を使ってみようかな…」
「ずっと飲んでいて、やめたいけど不安…」
そんな方こそ、ぜひ一度ご相談ください。
漢方は睡眠薬との併用も可能ですし、減薬のサポートとしても活用できます。

服用されている睡眠薬によっては、急激に量を減らしたり、服用をやめることで症状が悪化する薬もありますので、漢方薬との併用も含めぜひご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐