不眠と漢方薬


不眠症は国民病!?

  • 寝付くまでに時間がかかる(入眠困難)
  • 深く眠りたいのに途中で何回も起きちゃう(中途覚醒)
  • もう少し長く眠っていたいのに朝早く起きる(早朝覚醒)
  • 長く寝たのに疲れが取れない(熟眠障害)

上記の様な睡眠に関するお悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
実際に薬局には、不眠で悩まれている方や慢性的に睡眠薬を服用されている方が多く来局されます。日本においては、一般成人の30~40%が何らかの不眠の悩みを抱えていると言われています。また、男性よりも女性に多く、年を重ねるごとにその数は増える傾向にあります。
「自分だけが眠れないのかな…?」と不安に思っている方は安心してください。
睡眠に関する問題は日本人の多くが悩んでいる、まさに「国民病」とも言える病です。

中医学で考える不眠

西洋薬では不眠のタイプ(入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害)をもとに睡眠薬を選択される傾向にありますが、漢方薬は上記の不眠のタイプに加えて、不眠に至った原因やその人の体質なども踏まえ漢方薬を考えます。

それでは、中医学で考える不眠のタイプをみていきましょう。

1.心脾両虚(しんぴりょうきょ)

心脾両虚(しんぴりょうきょ)とは、「心血虚」+「脾気虚」の状態を指します。

・心血虚(しんけっきょ)
心には「神志を主る」働きがあり、私たちの「精神活動」を担っています。
心は現代医学の心臓のイメージに近く、その働きである全身に血液を巡らせることで精神活動を良好に保ちます。しかし「心血虚(心血の不足)」の状態だと全身の血液が十分に巡らず、精神活動に問題が起こり、不眠や多夢、精神不安な状態へとつながります。

・脾気虚(ひききょ)
脾は現代医学で言う胃腸を指しており、私たちが普段から摂っている食事や飲み物から栄養素(気や血)を生み出し各臓腑へと運ぶ働きがあります。
「脾気虚(脾気の不足)」の状態では、胃腸の働きが低下し、気や血を生み出すことができないため、結果として心に血を届けることができず上記の心血虚の状態に繋がります。

このタイプの特徴は
・寝つきが悪い、夢が多い、眠りが浅い
・悩みことや考え込むことが多い
・動悸
・疲れやすい、倦怠感
・食欲不振、食後にお腹が張る・眠くなる
・下痢・軟便気味
「心脾両虚」タイプの不眠には、帰脾湯や加味帰脾湯、人参養栄湯などが使われます。

2.陰虚火旺(いんきょかおう)

中医学では「心」は火(陽)に、「腎」は水(陰)に属し体内の温度調節を行っていると考えます。

「陰虚火旺」の状態では、腎の働きの低下により体内を冷却する水(陰)が不足するため、相対的に心の力が増し、火(陽)の亢進が起こります。

このタイプの特徴は
・何だかソワソワして落ち着かない
・手足がほてる
・寝汗をかく
・足腰がだるい
・めまい、耳鳴りがする
「陰虚火旺」のタイプの不眠には、天王補心丹や黄連阿膠湯などが使われます。

3.肝鬱+血虚(かんうつ+けっきょ)

・肝鬱(肝気鬱結:かんきうっけつ)
肝は「疏泄:そせつ」を主り、全身の気の流れをコントロールしています。この「疏泄」機能は、現代医学の「自律神経」の働きに近いと言われています。
ストレスや憤りを強く感じたり、憂鬱な状態など精神的な負荷がかかると肝の「疏泄」機能は失調し、気の巡りが停滞します。これが「肝鬱」の状態です。

・血虚(肝血虚:かんけっきょ)
肝は「蔵血:ぞうけつ」を主り、血の貯蔵と全身の血流量を調節しています。
肝に貯蔵されている血は、活動時は全身に運ばれ、各組織に栄養を与えます。一方、安静時は血が肝に戻ることにより精神が安定し深い眠りへと繋がります。
「肝血虚(肝血の不足)」では、精神の安定や睡眠に必要な血が肝に戻らず、血が不足している状態のため、精神が安定せず不眠へと繋がります。

このタイプの特徴は
・寝つきが悪い、夢が多い、驚きやすい
・イライラする、怒りっぽい
・脇腹が張る、ため息が多い
・爪が割れやすい、髪がぱさつく
「肝鬱+血虚」タイプは、酸棗仁湯や逍遙散などが使われます。

4.痰熱内擾(たんねつないじょう)

「痰熱内擾」とは、身体に余分な水分と熱が滞り、心神が犯された状態を指します。
痰熱を生じやすい方は、以下のタイプに多い傾向にあります。
・脂っこい物や味の濃い物、甘いお菓子、飲酒を好む
・季節の影響(梅雨、夏)を受けやすい
・脾胃(胃腸機能)が低下している

このタイプの特徴としては
・寝つきが悪い、夢を多く見る
・不安感が強い
・めまい、頭重感
・胃がムカムカする、胸やけ
「痰熱内擾」タイプの不眠には、星火温胆湯、竹茹温胆湯などを使用します。

5.胃気不和(いきふわ)

食べ放題や飲み会などで暴飲暴食した後に、お腹が苦しくて眠れないという経験をされたことはありませんか?「胃気不和」とは、まさしくその状態と言えます。
このタイプは、胃の中に溜まった食べ物を消化すれば解決できますが、「胃気不和」の状態が長期間続くと上記で説明した「痰熱」へと繋がり、不眠のみならず精神不安やめまい等の症状を引き起こすことがあります。

このタイプの特徴は
・お腹が張る、痛みがある
・胃もたれ、悪心、吐き気
・下痢、軟便
「胃気不和」タイプの不眠には、加味平胃散や晶三仙(山査子・麦芽・神曲)などが使われます。

最後に

不眠の治療と言えば、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系、オレキシン受容体阻害薬など)をイメージされるかもしれません。
睡眠薬のメリットとして、飲み始めたその日から効果を期待できますが、睡眠の質が落ちたり、翌朝への眠気の持ち越し、依存性の問題点があります。

しかし、漢方薬は睡眠薬とは異なり
・自然の睡眠へと近づける
・不眠となった原因にアプローチする
・不眠にならない体質を作る
と睡眠薬ほど即効性はありませんが、良質な睡眠に近づける体作りを手助けします。

睡眠薬を飲み始めようと考えている、慢性的に睡眠薬を飲んでいる、睡眠薬をなかなか手放せない方は、一度漢方薬を試してはいかがでしょうか。
服用されている睡眠薬によっては、急激に量を減らしたり、服用をやめることで症状が悪化する薬もありますので、漢方薬との併用も含めぜひご相談ください。

薬剤師 中目 健祐