「土用」ってなに?

はじめに

今回は、いつもの「〇〇と漢方薬」といったテーマとは少し趣向を変えて、季節にまつわるお話をしてみたいと思います。

「土用の丑の日」と聞くと、「うなぎを食べる日!」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか?でも、そもそも「土用」とは何を意味するのでしょうか🤔

来月末からは、「”夏”の土用」の時期が始まります。
ということは、「夏」以外にも土用があるの!?

今回は、「土用」とは何か、そして土用の時期をどのように過ごすとよいのかを中医学の視点から、そのポイントをお伝えしていきます。

五行と季節の関係

「土用」の話に入る前に、中医学を理解するうえで欠かせない「五行学説」について少し触れておきたいと思います。

五行学説とは、自然界に存在するあらゆるものや現象は「木・火・土・金・水」の5つの要素から成り立っているという、古代中国の哲学的な思想です。

この考え方は中医学にも応用されており、五行を人体のはたらきにあてはめることで、体の構造や機能、病気の原因、治療の方向性などを読み解く手がかりとされています。

五行と季節の関係を見ると、
「春=木、夏=火、秋=金、冬=水」 に対応しています。

では、「土」はどこに当てはまるのか?(長夏とありますが、いまいちピンとこないですよね…。)
この「土」と深く関わるのが、「土用」という季節です。

季節の変わり目と「土用」

一年には春・夏・秋・冬という四つの季節がありますが、もし季節がいきなり春から夏、夏から秋へ…と切り替わったら、体がついていけず、びっくりしてしまいますよね。

こうした季節の変化に体をうまくなじませるために、古くから設けられているのが「土用」という期間です。

土用は、季節と季節の間にある「調整期間」・「中継地」のようなもので、次の季節の変化に対応できるように、心身のバランスを整える大切な時期とされています。

つまり「土用」は、春から夏、夏から秋…といった次の季節へと向かうための“橋渡し役”のような存在です。この時期をどう過ごすかによって、次の季節を元気に迎えられるかどうかが変わってきます。

この季節の変わり目である立春・立夏・立秋・立冬の直前18日間が、それぞれ「土用」の期間とされています。

2025年度の土用

●春の土用:4月17日(木)~5月4日(日) → 立夏:5月5日(月)
●夏の土用:7月19日(土)~8月6日(水) → 立秋:8月7日(木)
●秋の土用:10月20日(月)~11月6日(木) → 立冬:11月7日(金)
●冬の土用:2026年1月17日(土)~2月3日(火) → 立春:2月4日(水)

ところで「丑の日」ってなに?

「丑の日」とは、日にちを十二支で数えた時の「丑」にあたる日のことを指します。
十二支といえば、年賀状などでおなじみですが、本来は日や時刻、方角などを表すためにも使われてきました。
十二支:子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥

2025年の夏土用の「丑の日」は、7月19日(土)7月31日(木)の2回あります!

「土用」は”脾胃(ひい)”をいたわる期間!

上記で述べたように五行学説では、五臓の「脾」は「土」に属します。そのため、「土用」の期間は、「脾」が影響を受けやすくなる期間とされています。

中医学における「脾胃」は、現代医学における胃腸を指し、飲食物の消化や吸収を担っており、私たちの身体に必要な「気(エネルギー)」や「血(栄養)」を作る働きがあります。さらには、水分の調整も行っており、胃腸に余分な水分が溜まらないように、代謝を調整する役割も担っています。

「脾胃」の詳しい働き👉五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

ちょうど「土用」の時期、つまり季節の変わり目は、湿度が急激に変化したり、気温が不安定だったりと環境の変化が大きくなります。こうした変化は、「脾」にとって大きな負担となり、体調を崩す原因になります。

なんで「うなぎ」を食べるの?

さまざまな説がありますが、平賀源内の説を紹介したいと思います。

江戸時代、あるうなぎ屋の店主が、夏場になると旬を過ぎたうなぎの売り上げが落ちることに悩んでいました。そこで、蘭学者としても知られる平賀源内が、「丑の日に“う”のつく食べ物を食べると夏バテしない」という民間の言い伝えをヒントに、「本日 土用丑の日」と書いた張り紙をすすめたところ、これが話題となり、「土用の丑=うなぎ」という習慣が広まったとされています。

💡中医学の視点から見た「うなぎ」

ちなみに、中医学的に「うなぎ」は、「脾」の機能を高め、「気(エネルギー)」や「血(栄養)」を補う働きがあるとされています。

体力の消耗 / 食欲の低下 / だるさや疲れといった「脾胃(胃腸)」の弱りからくる夏の不調をサポートしてくれるため、ただの語呂合わせだけでなく、中医学的にも理にかなった養生法といえます。

💡実は「山椒」にも意味がある!

「山椒」は、お腹を温め、胃腸の働きを高める作用があり、冷たいものの摂りすぎや冷房による“お腹の冷え”が気になる夏にはぴったりの薬味です。
つまり、「うなぎ+山椒」の組み合わせは、夏に弱りやすい「脾胃」を助けるという点でも、非常に理にかなった中医学的な養生スタイルかもしれません。

「脾胃(胃腸)」を守る養生法

①冷たい物を避ける
→冷たい物は「脾胃」を傷つけます。

②肥甘厚味を避ける
→肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物は「脾胃」に負担をかけます。

③腹八分を心掛ける
→胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事が良いとされています

④一口30回を目安に噛む
→食べ過ぎ防止、消化を助けることにつながります。

🍴脾胃(胃腸)」に良い食材

・胃腸の働きを高める:お米、山いも類、豆類(大豆、枝豆など)

・水分代謝を促す:はと麦、キノコ類(しいたけ、えのきたけなど)、海藻類(昆布、わかめなど)

・胃腸を温める:生姜、ねぎ、シナモン

最後に

近年の日本では、気温の急激な変化や、まるで亜熱帯のように長く続く蒸し暑さなど、異常ともいわれる気象が目立ち、四季の移ろいを感じにくくなってきました。
その影響もあり、季節の変わり目に体調を崩す方や、自律神経のバランスを乱す方が増えているように感じます。

だからこそ、季節の変化が目まぐるしい今の時代には、「土用」だけでなく、日頃から胃腸(脾胃)をいたわる暮らしが、健やかに過ごすための大切なポイントなのかもしれませんね。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

腸活と漢方薬

はじめに

近年、「腸内細菌」「腸管免疫」「腸内フローラ」といった言葉を耳にする機会が増え、スーパーやコンビニエンスストアでも、”ヨーグルト”や”乳酸菌飲料”など腸内環境を意識した製品が多く見られるようになりました。

しかし、これらを取り入れている多くの方が、「何となく健康に良さそう…」という漠然としたイメージで”腸活”を行っているのではないでしょうか?

そこで今回は、「腸」が私たちの健康にどのような役割を果たしているのか、そして中医学の視点から見た「腸活」について、分かりやすくお伝えします。

そもそも「腸」ってどんな役割?

私たちの体は、食べ物を口から取り込み、食道→胃→小腸→大腸の順番に運ばれ、必要な栄養を取り込み、不要なものを最終的に便として排泄しています。
つまり、人間の消化管は口から肛門までつながった一本の”ちくわ”のような構造をしてます。
この中でも、栄養の吸収と不要物の排泄を担っているのが「腸」です。腸は大きく「小腸」と「大腸」に分かれていて、それぞれ次のような働きをしています。

🔶 小腸

①栄養の吸収
胃や十二指腸で消化された食べ物は小腸に送られ、約5~8時間かけてさらに細かく分解されます。ここで、体に必要な水分と栄養の約80%を吸収します。
ちなみに、小腸は体の中で一番長い臓器で、全長は6~7メートルの長さにもなり、さらに内側の粘膜を広げると、テニスコート1面くらいになるとも言われています。

②不要物を大腸へ
必要な栄養素を吸収し、残った不要物(カス)を大腸へ送ります。

🔶大腸

①水分やミネラルの吸収
小腸から送られてきた内容物から、さらに水分やミネラルを吸収し、便としての形を整えていきます。

②便を体の外へ
最終的に、排出された便を体の外に排出します。

💡「腸」の7つの働き

「腸内細菌」って何?

私たちの腸内には、およそ100兆個以上、500〜1000種類もの腸内細菌が住んでおり、総重量はおよそ1kg程度になると言われています。
これらの細菌は、種類ごとにまとまって腸内に分布しており、その様子がまるでお花畑(flora)のように見えることから、「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれています。

腸内細菌は大きく3つのグループに分類されます。

🔴善玉菌:乳酸菌、ビフィズス菌など
<主な働き>
・身体に必要な栄養素を効率よく吸収する
・ビタミン、たんぱく、体内酵素を産生する
・腸内を酸性に近づけ悪玉菌が増殖しにくい環境にする
・腸の蠕動運動が活発になり老廃物をいち早く体外へ排出する
・免疫機能を高める

🟣悪玉菌:大腸菌(毒性株)、ウェルシュ菌、ブドウ球菌など
<主な働き>
・腸内を腐敗させる
・有害物質(毒素や発がん物質)を作り出す
・有害物質が腸管から吸収され、血管を通って全身をめぐる

🟡日和見菌:バクテロイデス、大腸菌(無毒株)、連鎖球菌など
「善玉菌」「悪玉菌」のどちらにも加勢する中立的な菌。
善玉菌が多ければ善い働きをし、悪玉菌が優勢になると一緒になって悪影響を及ぼすため、常に善玉菌を優位に保つことが腸内環境のカギとなります。

腸内細菌の黄金比

食生活の乱れや運動不足、ストレス、老化などで腸内の環境が乱れると、悪玉菌が作り出した有害物質が増えたり、病原菌が臓器に侵入して様々な病気を引き起こす原因となります。

「腸」は人体最大の免疫器官管?

私たちの消化管は、口から肛門までが一本の管のようにつながった構造をしており、食べ物だけでなく、ウイルスや細菌など外界からの異物にも常にさらされています。つまり、「腸」は外部からの刺激を最も受けやすい臓器の一つと言えます。

このような環境から体を守るために、腸には免疫機能が集中しており、全身の約70%の免疫細胞が腸に存在しているとも言われています。まさに腸は、“最大の免疫器官”とも呼べる存在です。

そのため、腸内環境を良好な状態に保つことは、免疫力の維持・強化に直結する大切な要素。腸の調子が整えば、体全体の健康バランスも自然と整いやすくなるります。

中医学で考える「腸活」

腸内環境を整えるためには、善玉菌そのものを摂取する「プロバイオティクス」と、その善玉菌のエサとなって腸内での定着や増殖を助ける「プレバイオティクス」の2つのアプローチが重要とされています。

ただし、腸内にはすでに100兆個以上の細菌が存在しているため、いくら善玉菌(プロバイオティクス)を摂っても、それらが腸内に定着するのは難しいという見解もあります。そのため、より重要とされているのが”腸内の土台を整える「プレバイオティクス」”です。

中医学では、消化吸収の働きは「脾胃(ひい)」が主ると考え、中でも「脾」は、五行のうち“土”に属する臓腑です。栄養豊富な土壌が植物を育てるように、「脾」が健やかであれば、腸内の菌たち(腸内フローラ)も良いバランスで保たれます。

つまり、中医学的に見ると、

  • プロバイオティクス=種(乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌)
  • プレバイオティクス=土(「脾」の働きを整えること)

と捉えることができます。

いくら良い種をまいても、土壌がやせ細っていては芽は出ません。中医学では古くから「脾こそが万物の生みの親」とされており、腸内環境の改善にも「脾」の健やかさが欠かせません。

「脾」の詳しい解説は👉五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

タイプ別の「腸活」

①胃腸の弱り=脾虚たタイプ

✅疲れやすい、やる気が出ない
✅食欲がない
✅食後にお腹が張る、眠くなる
✅下痢・軟便気味

これらのサインは、中医学でいう「脾虚(ひきょ)=脾の弱り」の状態と考えられます。「脾」の働きを補うことで、胃腸の機能を底上げし、腸内フローラが整いやすくなります。
漢方薬の例:健脾散(参苓白朮散)、人参湯、小建中湯など

💡「膠飴(こうい)」が腸を整える!?
小建中湯に含まれる「膠飴(麦芽糖)」は、オリゴ糖の一種で、腸内の善玉菌のエサとなる”プレバイオティクス”としての働きがあります。中医学では、「脾」の働きを高める漢方薬として古くから使われてきましたが、現代の栄養学的観点から見ても、腸内環境を整える作用が期待できる、まさに伝統と科学が重なる”漢方の知恵”の一つといえるでしょう。

②老廃物の停滞=痰湿・湿熱タイプ

✅脂っこい物、甘い物、味の濃い物やお酒が好き
✅口が苦い、臭い、粘る
✅メタボ体型
✅舌に苔がべっとりついてる

このような状態は、中医学では「痰湿(たんしつ)」や「湿熱(しつねつ)」と呼ばれる、体内の老廃物や余分な水分・熱が滞っている状態と捉えられます。

悪玉菌の原因となる老廃物を取り除くことで、腸内環境のバランスも整いやすくなります。
漢方薬の例:平胃散、温胆湯、五行草(馬歯莧)など

💡老廃物が溜まると…

中医学では「脾は湿を嫌う」と言われています。
たとえば、水はけの悪いグランドでは、足が取られ体の動きが悪くなりますよね?「脾」も同じで、体の中に「湿(老廃物)」がたまると「脾」の機能は低下し、腸内環境のバランスが乱れてしまいます。

③暴飲暴食=食積タイプ

✅お腹いっぱいじゃないと満足できない
✅胃がもたれる・げっぷやガスが多い
✅排便してもスッキリしない
✅便やおならのにおいがきつい

このような状態は、中医学では「食積(しょくせき)」と呼ばれ、食べすぎ・飲みすぎによる消化不良が起きている状態です。

「脾胃」の消化容量を超えた食べ物は、胃腸に負担をかけ、「痰湿」や「湿熱」といった老廃物の原因となります。漢方薬の例:晶三仙、加味平胃散など

💡発酵食品の入った漢方!?

晶三仙に含まれている「神曲」は、フスマや大麦などを発酵させた生薬です。発酵食品は、腸内の善玉菌を増やす“プロバイオティクス”としても注目されており、消化を助けながら腸内環境を整えるという、「神曲」には一石二鳥の働きがあります。

最後に

<脾胃を守る養生法😌>

🟡冷たい物を避ける
→冷たい物は脾胃を傷つけます。

🟡肥甘厚味を避ける
→肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物は脾胃に負担をかけます。

🟡腹八分を心掛ける
→胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事が良いとされています。

🟡一口30回を目安に噛む
→食べ過ぎ防止、消化を助けることにつながります。

現代では、「腸活」が一大ブームとなっていますが、中医学では、はるか昔から胃腸=「脾胃」を整えることが健康のカギとされてきました。

乳酸菌や整腸剤などの現代的アプローチも、こうした先人の知恵と組み合わせることで、より理想的な腸=*「栄養豊富でバランスの良い“土壌”」へと近づけるかもしれません。

体質や症状に合わせた中医学的「腸活」にご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

ダイエットと漢方薬

はじめに

誰でも一度は「ダイエット」のことで悩んだことがあるのではないでしょうか?

・健康や美容のためにダイエットをしようかな
・ダイエット⇔リバウンドを繰り返してしまう
・色々な○○ダイエットを試したけど、思うような効果が得られなかった
・今年こそは痩せる!が口癖になっている

巷では、簡単!すぐに痩せられる!と謳い様々な〇〇ダイエット法がありふれてますが、体質や体のバランスを無視した方法では、十分な効果が得られないばかりか、逆に体調を崩してしまうこともあります。

無理な食事制限や過度な運動により、たしかに体重は減ったけれど、疲れやすくなったり、便秘・貧血・肌荒れなどの不調が出てしまったという声も少なくありません。

中医ダイエットとは?

「中医ダイエット」とは、中医学の理論に基づくダイエット方法です。
単に体重を減らすことを目的とするのではなく、「太りやすい体質」の原因を考え、身体で起きている細かな不調を整えながら、健康的に「痩せやすい体質」へと導くことを目標にしています。

体質を改善しながら進めるため、肥満の解消や体重を落とすことと同時に肩こりや頭痛、疲れやすい、浮腫みなどの身近な不調を改善できるのが魅力の一つです。
中医ダイエットで自身の体質を理解しながら、無理のないダイエットで身体の中から”痩せる”身体づくりを目指しませんか?

中医学で考えるダイエット

中医学では、太りやすくなる体質や肥満になる原因として下記の4つのタイプに分けて考えます。

1.🪫脾胃虚弱(ひいきょじゃく)

「脾胃」は現代医学で言う「胃腸」に相当します。
私たちが食事から得た栄養をもとに、生命活動に必要なエネルギー(気)や、血液・体液のもとになる「血」や「津液(しんえき)」を生成する重要な働きを担っています。

「脾胃虚弱」の状態では、胃腸機能の低下により下記の状態へと陥りやすくなり、太りやすい体質へと繋がります。

🔍 脾胃虚弱によって起こる主な問題
1.気や血を作り出すことができない
→ 基礎代謝の低下、疲れやすい、やる気の低下

2.水分代謝が機能せず、体内に余分な水分が溜まる
→ 浮腫、下痢や軟便

<主な特徴>
✅疲れやすい、やる気がでない
✅食欲不振
✅汗をかきやすい、風邪を引きやすい
✅下痢・軟便気味
✅身体が重い

「脾胃」の働きを高めながら、「気」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:健胃顆粒(香砂六君子湯)、健脾散(参苓白朮散)、防己黄耆湯など

2.🗑️痰湿/湿熱内蘊(たんしつ/しつねつないうん) 
本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰湿」と呼び、この「痰湿」が長期的に体内にとどまると、次第に“熱”を帯び「湿熱」という状態へと変化します。

🌱 痰湿・湿熱が溜まる背景とは?
「痰湿」や「湿熱」は食生活と深い関係があり、肥甘厚味(肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物)の多い食事を摂り過ぎると、胃腸に負担がかかり身体に余分な老廃物が蓄積されやすくなります。

<主な特徴>
✅悪心、胸やけ
✅下痢・軟便気味
✅身体が重い、浮腫む
✅肥甘厚味の過食、アルコールの多飲
✅肌が荒れやすい
✅口が苦い、粘つく

余分な水分や老廃物を除去する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:星火温胆湯、胃苓湯、茵蔯五苓散など

食べ過ぎや夜遅い食事が習慣になっている方は、食べ物を消化を促す「晶三仙(山査子、麦芽、神曲)」を併用するとより効果的です。

🔁 脾胃虚弱タイプとの関係性
「脾胃虚弱」の体質がベースにある方は、飲食物の消化吸収や水分代謝の機能が低下しているため、老廃物である「痰湿」や「湿熱」が溜め込みやすい傾向んいあります。また、中医学では「脾は湿を嫌う」という言葉があり、「湿」が溜まることで「脾」の機能が低下し、さらに「湿」が発生しやすくなります。

3.🌀肝気鬱結(かんきうっけつ)
 中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」や「血」の流れを調節しているとともに精神面の安定にも関与していると考えらています。

通常、「肝」が正常に機能している場合では、精神的な負荷に対して一定の耐性があり、受け流すことができますが、ストレス負荷が強い場合や長期間ストレスを受けている場合は、自身の「肝」の閾値を超えてしまい自律神経のバランスが大きく乱れへます。
このような状態を中医学では「肝鬱」と呼び、発散することのできないストレスが鬱々と蓄積し、「気」や「血」の滞り(気滞、瘀血)を引き起こします。

<主な特徴>
✅イライラしやすい
✅脇腹や胸が張る
✅ストレスが原因で食べ過ぎる
✅PMS(月経前症候群)がある
✅月経不順
✅下痢と便秘を繰り返す

「肝」の働きを整え、「気」の巡りを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:逍遥顆粒、開気丸、大柴胡湯など

「気」の巡りが良くなると基礎代謝も上がるため、上記症状の改善とともに体重の減少へとつながります。

4.🩸瘀血(おけつ)
 「瘀血」とは、血の巡りが悪くなり、血液がドロドロとした状態を指します。このドロドロとした血液には、中性脂肪やコレステロールが含まれており、体内に「瘀血」が蓄積されると内臓脂肪や皮下脂肪がつきやすくなるため、メタボ体系のような肥満の身体へとつながります。

🌊 川の流れにたとえる「瘀血」の原因

瘀血の形成にはいくつかの原因が複雑に関与しており、これを川の流れに例えると以下のように説明できます:

①痰湿や湿熱:川に土砂やゴミが溜まり、水の流れが阻害される状態
②肝気鬱結(気滞):岩が多く、水の流れがせき止めらている状態
③気血不足:水の流れに勢いがなく、石や土砂が溜まりやすい状態
④冷え:川の水が凍り、流れが悪い状態

このように、「瘀血」の改善には単に巡りを良くするだけではなく、その流れを妨げている根本原因にもアプローチする必要があります。

<主な特徴>
✅肌くすみやシミ、そばかすが気になる
✅肩こりや首こり、頭痛が酷い
✅月経不順
✅生理痛がある(出血時にレバー状の塊が出る)
✅舌裏の血管が太く怒張している

漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参など

5.その他(防風通聖散)
ダイエットの漢方薬として非常に有名な「防風通聖散」。
その高い有効性と速効性から肥満症に使われることが多いですが、そもそもはダイエットの目的の薬ではなく、カゼを引いたときに使用する漢方薬です。

🔍 防風通聖散の主な働き

✔体表の邪気を汗とともに発散させる
→カゼ症状(悪寒、発熱、頭痛など)の軽減

✔体内にこもった熱を便や尿とともに出す
→口渇、便秘、尿黄短少の改善

⚠️ 注意すべき体質
無理やり発汗させ、身体(特に胃腸)を冷やし便通や排尿を促すため、気が不足しているタイプや脾胃虚弱タイプ、冷え体質の方は向いていない漢方薬となります。

最後に

中国では、昔から「養生七分、治三分」という言葉があり、健康で暮らす上では日々の養生(生活習慣)が何よりも重要と考えます。
逆に言えば、効果のあるお薬を飲んだところで養生を疎かにしていたら、一向に症状は良くならないということです。(一時的に症状が改善しても、すぐに再燃する方が多いのは、養生の影響かもしれません。)

太る一番の原因は、”食事の内容”とよく言われますが、太りにくい体質を作るには、食事内容の見直しに加え、脾胃(胃腸)に負担をかけず、身体内に老廃物を溜めないような習慣が重要になります。
また、漢方薬を吸収する臓腑は脾胃のため、胃腸の状態を健康に保つことは、漢方薬の吸収を高めることにもがつなります。

📝 毎日の生活に取り入れたい習慣

✅食事の比率は「穀類4~5割、野菜4割、動物性食品1~2割」を目安に
→穀類:米、小麦、大豆など / 野菜:葉物野菜を中心に旬のもの / 動物性の食品:肉、魚介類、卵、乳製品など

✅腹八分を心掛ける(胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事)

✅一口30回を目安に噛む

✅生のもの、冷たい飲食物を控える

✅脂っこい物、甘い物、味の濃い物を控える

✅20時以降に食事をしない

当店では、漢方相談に加えて、薬局併設の施設にて運動機器を用いたフィジカルサポートも行っております。

漢方薬による体質改善と、適切な運動・ストレッチを組み合わせることで、ダイエットはもちろん、病気になりにくい「健康な身体づくり」をトータルでサポートいたします。

ご興味がある方は、ぜひ当店までご連絡ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐


 

下痢と漢方薬

日本人は胃腸が弱い!?

日本人は胃腸が弱い」と耳にすることはありませんか?
実際、多くの方が下痢や軟便、食欲不振などの胃腸トラブルに悩んでいます。
では、なぜ日本人はこのような症状を起こしやすいのでしょうか?

本題に入る前に、中医学的な視点からから紐解いてみましょう。

🌿 中医学の基本「天人合一(てんじんごういつ)」とは?

中医学には「天人合一:てんじんごういつ」という考えがあります。
これは、「人の体は自然と切り離せず、環境の影響を受けながら生きている」という考えで、自然界の変化(気候や湿度など)は、体の中にも影響を及ぼします。

日本の風土は“湿”が多い
日本は、海に囲まれた島国で雨が多く、特に梅雨から夏の終わりまでの数ヶ月間は高温多湿の環境が続きます。さらに、一年を通して湿度の高い日が多いのが特徴です。

また、日本人の食生活の特徴として、生物(刺身や生肉など)や冷水(暑さや寒さに関わらず、飲食店ではお冷がでますよね。)を好む人種でもあります。
こうした環境や食生活から、「天人合一」の考え方を踏まえる、日本人は他の人種に比べて身体内に「湿気(湿)」を溜め込みやすいと考えられます。

「脾胃(ひい)」と「湿」の関係

さて、中医学における胃腸(脾胃)の働きをみてみましょう。

「脾胃:ひい」の働きに1つ「運化」というものがあります。
運化の「運」は運送や輸送、「化」は消化吸収を意味しており、運化には2つの働きがあります。

1.精微物質の運化:気・血・津液(水)を作り、全身に届ける
2.水液の運化:水液を吸収して全身に輸送・散布する

水はけの悪いグランドだと、足が取られ体の動きが悪くなるように、エネルギーや水を運ぶ脾には「湿を嫌う」という特徴があります。

よって、「湿」が体内にあると「脾胃」の働きが低下してしまい…

1.精微物質の運化の失調:エネルギーを作り出すことができない
→ 疲れやすい、やる気がでない

2.水液の運化の失調:水液代謝が機能しない
→ 下痢や軟便、浮腫

という状態に陥りやすくなります。

上記の「天人合一」で述べたように、日本人は気候や食生活から「脾胃」が嫌う「湿」を溜めやすく、作りやすい環境下にいます。そのため、気付かない間に「脾胃」に負担がかかっており、徐々に胃腸が弱っていくことで下痢や軟便、腹部膨満感などの胃腸のトラブルが起こしやすい身体になっていきます。

💡中医学で考える下痢

中医学では下痢のことを泄瀉 (せっしゃ)と呼び、下記の5つタイプに分けて考えます。

1.外感泄瀉(がいかんせっしゃ)
~風邪やウイルスが原因の急な下痢~

カゼのように「外から邪気(悪い影響)」が体に侵入し、「脾胃」に影響を及ぼすことで起こります。いわゆる“胃腸風邪”のような症状です。

【「邪気」や「風邪」って何?】という方はこちらのブログも参考になります👇
カゼと漢方薬 – 日々の生活に漢方を

カゼ(外感表証)に加えて、「寒」や「熱」の邪が体内に侵入し、脾胃の働きを妨げることで下痢が起こるタイプです。そのため、 カゼ症状(表証)を和らげつつ、体内に侵入した“湿”をさばく(取り除く) 漢方薬を用います。

<🤧外感表証(カゼの症状)の主な症状>
✅悪寒
✅発熱
✅頭痛 など

このカゼ症状に加えて、以下のように「寒湿タイプ」「湿熱タイプ」に分かれる下痢の症状が現れます。

<❄️寒湿タイプ>
✅下痢(水様便、臭いが少ない)
✅腹痛、お腹が張る
✅お腹がゴロゴロとなる
✅食欲不振
漢方薬の例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散、胃苓湯など

<🔥湿熱タイプ>
✅下痢(悪臭が強い、便器にこびりつく、急に激しい下痢)
✅肛門の灼熱感
✅口の渇き
✅尿の色が濃い
漢方薬の例:葛根黄芩黄連湯、黄連解毒湯、五行草(馬歯莧)など

⚠️ 外感表証がない場合でも…
カゼ症状が見られない場合でも、急性の下痢であれば「寒湿」か「湿熱」かを見極め、それぞれに適した漢方薬を使用することが大切です。

2.食傷泄瀉 (しょくしょうせっしゃ)
~食べ過ぎ・飲み過ぎにより生じる下痢~

脂っこいものや味の濃いもの、お酒のとりすぎなどで「脾胃」に負担がかかることで起こります。

<🍶主な特徴>
✅便に未消化物が混じり悪臭がする
✅悪心・嘔吐がする
✅胃がもたれる
✅腐臭のあるゲップをする
「脾胃」に溜まっている食積の消化を促すような漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:晶三仙(山査子、麦芽、神曲)など

3.肝鬱泄瀉 (かんうつせっしゃ)
~ストレスや緊張でお腹を下すタイプ~

緊張する場面(テストや面接、プレゼンの前など)やちょっとした不安(電車に乗った時や学校、会社に行く前)でお腹を下したことはないでしょうか?

中医学では自律神経を主る「肝」の気が高ぶることで「脾胃」が攻撃され、その影響により引き起こされると考えます。

<主な特徴>
✅下痢(精神が緊張状態の時)
✅ストレスを抱えやすい、緊張に弱い
✅脇腹が張る、お腹が張る
✅ゲップをする
「肝」の気の流れを良くしながら、脾胃を守る漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:逍遥顆粒(逍遥散)、四逆散、柴苓湯など

4.気虚泄瀉 (脾胃虚弱)(ききょせっしゃ(ひいきょじゃく))
~胃腸がもともと弱い体質タイプ~

「幼少期から胃腸のトラブルが多い」
「食後すぐに下痢をする」
「お腹を下すから脂物は食べない」など
一般的に胃腸が弱いと言われる方に多いタイプです。

「脾胃」の働きが低下すると水液代謝が低下するため、腸で吸収されなかった水分が便と混じることで下痢を引き起こします。

【脾胃」の詳しい解説は👇】
五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

<主な特徴>
✅下痢、軟便、便秘と様々なタイプに変化する
✅便中に未消化物が混じる
✅食後にお腹が張る、眠くなる
✅疲れやすい、やる気がでない
✅食べても太れない(痩せやすい)

「脾胃」の働きを補いながら、下痢の原因である「湿」をさばく(水分代謝を改善する)漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:健脾散(参苓白朮散)、健胃顆粒(香砂六君子湯)など

5.陽虚泄瀉 (ようきょせっしゃ)
一般的に胃腸が働きやすい温度は、人間の体温(36~37℃)に近い温度と言われており、お腹が常に冷えてる方や慢性的に冷えが強い方は胃腸の機能が低下しやすくなります。

特に高齢の方や生まれつき虚弱体質の方は、全身の臓腑を温める「腎陽」の働きが低下していることが多く、その結果「脾」を温めることができないため、胃腸機能の低下することがあります。

<主な特徴>
✅下痢、水様便(特に明け方に下痢をすることが多い)
✅便に未消化物が混じる
✅手足や腰、お腹の冷え
✅足腰がだるい
✅排尿困難・浮腫み

「腎陽」を補いつつ、「脾」を温めながら働きを建て直す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:人参湯+真武湯、参馬補腎丸など

最後に

中国の古典には「無湿不成瀉:湿がなければ下痢はない」という言葉があります。つまり、「湿」を体内に溜めないことが下痢を防ぐカギとなります。

<「湿💦」を溜めやすい+「胃腸」に負担をかける食事>
🟡甘い物(チョコレート、菓子パン、コンビニスイーツ)

🟡脂物(お肉、揚げ物、ポテトチップス)

🟡乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)

🟡冷たい飲食物(ジュース、お酒、刺身、アイスクリーム)

巷では身体に良いと言われているものが、実は胃腸に負担をかけていることもあります。身体に良いものを積極的に摂るよりも、自身の生活を見直し、身体に不要なものを1つ1つ取り除く方が症状改善の近道かもしれません。

体質に合う漢方薬と食養生を通し症状を改善しませんか?
ご興味がある方は、いつでも当店にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

胃痛と漢方薬

胃痛のメカニズム

私たちの胃は、胃の粘膜を守る「防御因子」と胃酸などの「攻撃因子」のバランスが保たれていることで、正常に働いています。しかし、何らかの原因で「攻撃因子」の働きが強まったり、「防御因子」が弱まり、相対的に「攻撃因子」の比重が高くなると胃痛が発生します。

バランスを崩す原因としては、以下のような生活習慣や心理的ストレスが挙げられます。
🟡脂っこい物/辛い物/甘い物の過食
🟡アルコールの過飲
🟡寝不足
🟡精神的なストレスや疲労
🟡喫煙

機能性ディスペプシアとは?

最近では、病院で検査を行っても炎症や潰瘍などの異常見つからないにも関わらず、胃の不調(胃の痛み、胃もたれ、胸やけなど)が続いている方が増えているようです。このような状態を「機能性ディスペプシア:Functional Dyspepsia : FD)」と言い、下記の通り定義されています。

1.症状

機能性ディスペプシア(FD)の診断基準(RomeⅣ基準)
下記の症状のいずれかが診断の少なくとも6か月以上前に始まり、かつ直近の3か月間に上記症状がある。
1.つらいと感じる心窩部痛(みぞおちの痛み)
2.つらいと感じる心窩部灼熱感(みぞおち辺りが焼けるような感じがする)
3.つらいと感じる食後のもたれ感
4.つらいと感じる早期飽満感(食べ始めてすぐに満腹感、膨満感を感じる)
及び症状を説明しうる器質的疾患はない。

食後愁訴症候群(PDS)の診断基準
少なくとも週に3日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。
1.つらいと感じる食後のもたれ感
2.つらいと感じる早期飽満感

心窩部痛症候群(EPS)の診断基準
少なくとも週に1日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。
1.つらいと感じる心窩部痛
2.つらいと感じる心窩部灼熱感

2.原因

機能性ディスペプシアを引き起こす詳しい原因は明らかになっていませんが、
・胃の運動機能が正常に働いてない
・胃酸が過剰に出ている
・胃腸の知覚過敏(胃酸の刺激に敏感になっている)
・ストレスによる自律神経の乱れ
・生活習慣や食生活の変化
・ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)への感染
などが考えられています。

中医学における胃腸(脾胃)の働きについて

「脾胃」の詳しい働きは👇から
五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

中医学で考える胃痛

1.❄️胃寒(いかん)
~冷えによる胃の痛み~

お酒の席などで、冷たいビールやお刺身などをたくさん摂った後に、急にお腹が痛くなった経験はありませんか?

胃腸は、体温と同程度の温度で正常に機能すると考えられています。
そのため、冷たい飲食物を摂りすぎると、胃腸が急激に冷やされて働きが低下し、痛みを引き起こすことがあります。

この冷えの影響を「寒邪(かんじゃ)」と呼び、寒邪により気血の流れが滞ると、「不通則痛(ふつうそくつう)」=“流れなければ痛む”という状態になります。

さらに、今回の痛みの原因である「寒邪」には「凝滞(ぎょうたい)」と「収斂(しゅうれん)」という特徴あるため、痛み方はギューッと引きつるような激しい痛みになります。

<主な特徴>
✅冷たい物の過食・過飲により引き起こされる痛み
✅痛みは激しく、絞られるような痛み
✅温めると痛みが和らぐ

胃を温めながら痛みを抑える漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:安中散、勝湿顆粒(藿香正気散)/香蘇散+芍薬甘草湯など

💊大正漢方胃腸薬
漢方の胃腸薬として有名な「大正漢方胃腸薬」は、上記の安中散と芍薬甘草湯を組み合わせた漢方薬になります。したがって、「寒邪」が原因の胃痛に対しては、非常に効果的といえるでしょう。
ただし、後述するような「熱」や「ストレス」、「胃の潤い不足」など、別の要因による胃の痛みには、異なるアプローチが必要です。症状の特徴に応じて、適切な漢方薬を選ぶことが大切です。

2.🔥胃熱(いねつ)
~食べ過ぎ・ストレスで胃に熱がこもる~

「食べたばかりなのに、すぐにお腹が空いてしまう」「しっかり食べたのに満足できない」「満腹になるまで食べないと落ち着かない」――そんな経験はありませんか?

中医学では、このような状態を「胃」に熱がこもり、働きが亢進している状態と考え、辛い物・脂っこい物・甘い物などの過食や精神的なストレスにより引き起こされると考えます。

<主な特徴>
✅胃が焼けるように痛む
✅胸やけがする
✅酸っぱい水や苦い胃液が出る
✅口臭が酷い
✅食べてもすぐお腹がする

「胃」に停滞している熱を清ましてあげる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:三黄瀉心湯、黄連解毒湯など

3.💢肝気犯胃(かんきはんい)
~ストレスや緊張が胃に影響~

緊張する場面(テストや面接、プレゼンの前など)やちょっとした不安(電車に乗った時や学校、会社に行く前)でお腹(胃)が痛くなったことはないでしょうか?

中医学では自律神経を主る「肝」の気が高ぶることで「脾胃」が攻撃され、その影響により胃の痛みが引き起こされると考えます。

<主な特徴>
✅精神が緊張状態の時に痛みがでる
✅ストレスを抱えやすい、緊張に弱い
✅お腹(胃)が張ったような痛み
✅よく脇腹が張る、ゲップをする

「肝」の気の流れを良くしながら、「脾胃」を守る漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:開気丸、四逆散、逍遥顆粒など

4.🩸瘀血阻絡(おけつそらく)
~血の巡りが悪くて痛む~

上記で述べた「寒邪」や「気滞」などが長期間続くと血の流れが停滞し「瘀血」が生じます。瘀血により「気血」の流れが塞がれ、「不通則痛」という状態を引き起こすため胃痛が生じます。

<主な特徴>
✅差し込むような痛み(針で刺されたような痛み)
✅痛みの箇所が固定している(瘀血は1か所に留まる)
✅お腹を擦ったり、触れたりすると痛みが増す(拒按)
✅吐血、便血がみられる

「気」と「血」の巡りを良くすると漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:加味逍遥散、桂枝茯苓丸など

5.💧胃陰不足(いいんぶそく)
~潤い不足による胃の不快感~

胃には、上記で述べたように胃粘液などの「防御因子」がありますが、この胃を守る粘液が不足している状態を「胃陰不足」と言います。(地面に潤いがなく、干からびてひび割れているような状態です。)
上記2で述べた「胃熱」が慢性的に続くと、胃内にある潤いが蒸発し「胃陰不足」へとつながります。また、長年胃の不調に苦しんでおり、胃酸を止める薬を飲んでも症状が一向に改善しない方にもこのタイプが多く見られます。

<主な特徴>
✅胃が焼けるように痛む
✅胸やけがする、上腹部の不快感
✅満腹感を感じやすい
口や舌が乾燥する
✅便秘気味でコロコロしている

「胃」に潤いを与えてくれる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:麦門冬湯、艶麗丹、百潤露など

6. 🥶脾胃虚寒(ひいきょかん)
~体質的な胃腸虚弱~

物心ついた時から胃腸が弱い、慢性的に胃痛が続いている場合は、このタイプにあたります。「脾胃」を温めるエネルギーが不足するとお腹の冷えを感じやすくなり、先に紹介した「胃寒」とは異なり、慢性的にシクシクという痛みが続きます。
「脾胃」が弱い方は、下記の特徴に加え、疲れやすかったり、下痢・軟便、食後にお腹が張る・眠くなるという症状を伴うことが多いです。

<主な特徴>
✅シクシクとお腹(胃)が痛む
✅お腹を擦ったり、おさえると痛みが和らぐ(気持ちが良い)
✅食後に痛みが緩和する
✅食欲があまりない、食事量が少ない

胃腸の働きを高めながら、お腹を温める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:小建中湯、人参湯、四君子湯類など

また、「脾胃」の機能が弱ると、水分代謝がうまくいかずに胃腸に余分な水分(湿)がたまります。その結果、胃痛だけでなく、胃のむかつきや吐き気(悪心)などの症状を伴うことがあります。このような場合は、半夏瀉心湯や黄連湯などの使用も考えられます。

最後に

以前「下痢と漢方薬 – 日々の生活に漢方を」の記事でもお話ししたように、日本人は胃腸が弱い体質の方が多い傾向があります。

しかし、胃の不調を「たまたま調子が悪いだけ」と軽く捉えてしまっていませんか?
中医学では、「脾胃(胃腸)」の健康の土台と考えます。「人間の体は食べたもので出来ている」とよく言いますが、健康への第一歩は「脾胃」の働きを良くすることが非常に重要になります。

長年続く胃の不調や、胃酸を止める薬(ファモチジンやオメプラゾールなど)を飲んでも症状が改善しない。あるいは、機能性ディスペプシアのように原因がはっきりせず西洋薬を飲んでも効果がいまひとつという場合は、漢方薬を選択肢にいれてみてはいかがでしょうか😌

漢方薬は、上記で述べたようにその症状のタイプに合わせて様々な漢方薬があります。ご自身の胃腸症状に合う漢方薬をお探しの方は、ぜひ一度ご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

五臓六腑:脾胃の働き

はじめに

中医学を勉強し始め約2年が経ちました。当時を思い返すと、日本人は外見や表面的な清潔さ・美しさには敏感でも、体の内側、つまり「内臓の健康」にはあまり目を向けていない傾向があると感じます。
最近では、テレビやCM、本などで、「腸内細菌」や「腸内フローラ」という言葉をよく聞くようになり、身体の内部にスポットが集まるようになってきました。しかし、中医学では2000年前も昔から「胃腸の健康=身体の健康」という考え方が重視されてきました。
「ご飯を食べると元気になる!」「人間の体は食べたもので出来ている!」という言葉があるように、胃腸の状態の良さがその人の身体の元気や健康へとつながります。言わば、胃腸が私たちの身体を作っているのです。

身体の根本とも言える胃腸(脾胃)の働きを理解し、健康的な生活の第一歩を歩み始めませんか。

「脾胃:ひい」の働き

「脾胃:ひい」は、現代医学の胃腸の働きに近く、私たちが摂取した飲食物を消化吸収し、身体に必要な栄養素(気・血・津液)を全身に届ける働きをしています。

「脾」と「胃」のそれぞれの詳しい働きは下記に記載してますので、気になる方はご参照ください。

「脾:ひ」の働き

■「脾」の生理機能
①運化(うんか)を主る
運化の「運」は運送や輸送、「化」は消化吸収を意味しており、運化には2つの働きがあります。

1.精微物質の運化:飲食物から人間の生命活動に必要な気(エネルギー)・血(血液)・津液(水)を作り出し、心肺に運び全身に届ける働きをしています。
そのため、「脾」は「気と血を生む源」と言われています。

2.水液の運化:水液を吸収して心肺に運び、全身に送り出します。

「脾」の働きが弱まり運化機能が失調すると、
1.精微物質の運化の失調:エネルギーを作り出すことができない
👉疲れやすい、やる気がでない

2.水液の運化の失調:水液代謝が機能しない
👉下痢や軟便、浮腫

という症状に陥りやすくなります。

②統血(とうけつ)を主る
「脾」は、血液を血管の中にとどめておく働きもあります。
中国の古典には「五臓六腑の血は全て脾気の統摂に頼る」と記されており、「脾」の働きが弱まると、血液が漏れ出しやすくなり、女性の不正出血や皮下出血(青あざができやすい)、鼻血、血便などの症状が現れやすくなります。

「胃:い」の働き

■「胃」の生理機能
「胃」の働きは、現代医学の機能と近いとされており、以下の働きがあります。
①受納(じゅのう):飲食物を受け入れる

②腐熟(ふじゅく):飲食物を消化しやすい状態にする

③降濁(こうだく):消化した飲食物を小腸へ降ろす

胃の働きが弱まると、上記の①→③の流れが機能しないため、食欲が減退したり、飲食物が小腸へ送ることができず逆流し悪心や嘔吐、ゲップ、お腹(胃)が張って痛むというような症状が出やすくなります。

「脾」と「胃」の関係

「脾」と「胃」は表裏関係にあり、お互いに協力しながら消化・吸収を担っています。
「胃」が食べ物を受け取り下へ送る「下降」の働きを担い、「脾」は栄養を吸収し上に運ぶ「上昇」の働きをします。この“上昇”と“下降”のバランスが崩れると、消化吸収全体の流れが滞り、体調不良へとつながります。

「脾」と五行の関係性


①脾は口に開竅(かいきょう)し、その華は唇にある
口と唇は「脾」と深い関係にあり、脾の働きが弱まると以下の症状が出やすくなります。

✅味覚が変化する(口が淡く味を感じない)
✅口が粘つく
✅唇が乾燥する、唇の色が薄くなる
✅口やその周辺にできものができる

②脾は肌肉(きにく)を主り、四肢を主る
肌肉とは、私たちの筋肉や脂肪、皮下組織を指します。
「脾」の運化機能が正常に働くと、生成された「気」や「血」が身体のすみずみ(四肢)まで巡らせ、筋肉や脂肪に届き運動の原動力となります。そのため、「脾」が弱ると、肌肉や四肢に栄養がいかず、筋肉が落ちる、痩せる、倦怠無力といった症状へと繋がります。

③脾の志は思である
中医学では、「思(考え事をしたり、何かを深く考え込んだり)」という感情は、「脾」と関連性が深いとされ、思慮過多(深く考え過ぎると)になると、「脾」が傷つけられ、その働きが低下します。また、「心」は精神・メンタルと関係があるため、「思は心脾から発する」とも言われています。
考え事や悩み事が続くと、食欲が低下したり、眠れない日々が続くのは、「脾」が損傷され、「気・血」が生み出されず、同時に「血」が消耗されることが原因になります。この時に使用される代表的な漢方薬が帰脾湯になります。

④脾の液は涎(よだれ)である
涎は、唾液中の希薄な液体を指します。働きは唾液と同様で、口腔粘膜の保護や消化の補助をしています。唾液が何だか粘つく、話している最中に唾液が溢れるなどの症状がみられる場合は、「脾」が弱っている可能性があります

⑤脾は燥を喜び、湿を悪む / 胃は湿を好む
~「脾胃」の働きは、家を建てる工程に似ている?~

家を建てる時の工程を想像してみてください。

まず、山から木を伐り出し、それを建築用の木材として加工し、それらの加工された木材を使って家を組み立てていきます。この一連の流れは、中医学でいう「脾胃(ひい)」の働きにとてもよく似ています。

たとえば、「胃」は、飲食物を受け入れて、消化しやすいように分解する役割を担います。これは、伐り出された木を整えるために加工される工程と似ています。
木材を加工する際、完全に乾いてしまっていると割れや反りが生じて使いにくくなります。そのため、木材にはある程度の「潤い」が必要です。同じように、胃も消化のためには「湿(しめり)」、つまり胃液のような体液が必要となります。

一方、「脾」は、胃で消化されたものを栄養として吸収し、それを身体全体に運ぶ働きをします。これは、大工が加工した木材を使って家を建てていく作業にあたります。
しかし、大工の仕事も、雨の日や地面がぬかるんでいる状況では、作業がはかどらないように、脾も「湿(しめり)」が多い環境ではその機能が鈍ってしまいます。「脾」は「乾燥を好み、湿を嫌う」臓器なのです。

つまり、「脾」と「胃」はともに「湿」と関わりがありますが、「胃」は適度な湿潤を必要とし、「脾」は過剰な湿を嫌う。このバランスが崩れると、脾胃の働きに支障が出てしまいます。

最後に

健康への第一歩は「脾胃」の状態から始まると言っても過言ではありません。

「毎日しっかり食べているから大丈夫」「サプリも摂ってるし安心」と思っている方も多いかもしれません。しかし、「脾胃」が正常に機能しなければ、栄養を吸収することも全身に届けることもできません。
✅何だか疲れやすい
✅やる気がでない
✅食後の眠気が気になる など

その不調の裏には、「脾胃」の弱りが隠れているかもしれません。
毎日を健康で快適に暮らすためにも自身の生活を見直し、少しでも「脾胃」に思いやりのある暮らしを心掛けましょう。

<脾胃を守る養生法😌>
🟡冷たい物を避ける
→冷たい物は脾胃を傷つけます。

🟡肥甘厚味を避ける
→肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物は脾胃に負担をかけます。

🟡腹八分を心掛ける
→胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事が良いとされています。

🟡一口30回を目安に噛む
→食べ過ぎ防止、消化を助けることにつながります。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐