腸活と漢方薬

はじめに

近年、「腸内細菌」「腸管免疫」「腸内フローラ」といった言葉を耳にする機会が増え、スーパーやコンビニエンスストアでも、”ヨーグルト”や”乳酸菌飲料”など腸内環境を意識した製品が多く見られるようになりました。

しかし、これらを取り入れている多くの方が、「何となく健康に良さそう…」という漠然としたイメージで”腸活”を行っているのではないでしょうか?

そこで今回は、「腸」が私たちの健康にどのような役割を果たしているのか、そして中医学の視点から見た「腸活」について、分かりやすくお伝えします。

そもそも「腸」ってどんな役割?

私たちの体は、食べ物を口から取り込み、食道→胃→小腸→大腸の順番に運ばれ、必要な栄養を取り込み、不要なものを最終的に便として排泄しています。
つまり、人間の消化管は口から肛門までつながった一本の”ちくわ”のような構造をしてます。
この中でも、栄養の吸収と不要物の排泄を担っているのが「腸」です。腸は大きく「小腸」と「大腸」に分かれていて、それぞれ次のような働きをしています。

🔶 小腸

①栄養の吸収
胃や十二指腸で消化された食べ物は小腸に送られ、約5~8時間かけてさらに細かく分解されます。ここで、体に必要な水分と栄養の約80%を吸収します。
ちなみに、小腸は体の中で一番長い臓器で、全長は6~7メートルの長さにもなり、さらに内側の粘膜を広げると、テニスコート1面くらいになるとも言われています。

②不要物を大腸へ
必要な栄養素を吸収し、残った不要物(カス)を大腸へ送ります。

🔶大腸

①水分やミネラルの吸収
小腸から送られてきた内容物から、さらに水分やミネラルを吸収し、便としての形を整えていきます。

②便を体の外へ
最終的に、排出された便を体の外に排出します。

💡「腸」の7つの働き

「腸内細菌」って何?

私たちの腸内には、およそ100兆個以上、500〜1000種類もの腸内細菌が住んでおり、総重量はおよそ1kg程度になると言われています。
これらの細菌は、種類ごとにまとまって腸内に分布しており、その様子がまるでお花畑(flora)のように見えることから、「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれています。

腸内細菌は大きく3つのグループに分類されます。

🔴善玉菌:乳酸菌、ビフィズス菌など
<主な働き>
・身体に必要な栄養素を効率よく吸収する
・ビタミン、たんぱく、体内酵素を産生する
・腸内を酸性に近づけ悪玉菌が増殖しにくい環境にする
・腸の蠕動運動が活発になり老廃物をいち早く体外へ排出する
・免疫機能を高める

🟣悪玉菌:大腸菌(毒性株)、ウェルシュ菌、ブドウ球菌など
<主な働き>
・腸内を腐敗させる
・有害物質(毒素や発がん物質)を作り出す
・有害物質が腸管から吸収され、血管を通って全身をめぐる

🟡日和見菌:バクテロイデス、大腸菌(無毒株)、連鎖球菌など
「善玉菌」「悪玉菌」のどちらにも加勢する中立的な菌。
善玉菌が多ければ善い働きをし、悪玉菌が優勢になると一緒になって悪影響を及ぼすため、常に善玉菌を優位に保つことが腸内環境のカギとなります。

腸内細菌の黄金比

食生活の乱れや運動不足、ストレス、老化などで腸内の環境が乱れると、悪玉菌が作り出した有害物質が増えたり、病原菌が臓器に侵入して様々な病気を引き起こす原因となります。

「腸」は人体最大の免疫器官管?

私たちの消化管は、口から肛門までが一本の管のようにつながった構造をしており、食べ物だけでなく、ウイルスや細菌など外界からの異物にも常にさらされています。つまり、「腸」は外部からの刺激を最も受けやすい臓器の一つと言えます。

このような環境から体を守るために、腸には免疫機能が集中しており、全身の約70%の免疫細胞が腸に存在しているとも言われています。まさに腸は、“最大の免疫器官”とも呼べる存在です。

そのため、腸内環境を良好な状態に保つことは、免疫力の維持・強化に直結する大切な要素。腸の調子が整えば、体全体の健康バランスも自然と整いやすくなるります。

中医学で考える「腸活」

腸内環境を整えるためには、善玉菌そのものを摂取する「プロバイオティクス」と、その善玉菌のエサとなって腸内での定着や増殖を助ける「プレバイオティクス」の2つのアプローチが重要とされています。

ただし、腸内にはすでに100兆個以上の細菌が存在しているため、いくら善玉菌(プロバイオティクス)を摂っても、それらが腸内に定着するのは難しいという見解もあります。そのため、より重要とされているのが”腸内の土台を整える「プレバイオティクス」”です。

中医学では、消化吸収の働きは「脾胃(ひい)」が主ると考え、中でも「脾」は、五行のうち“土”に属する臓腑です。栄養豊富な土壌が植物を育てるように、「脾」が健やかであれば、腸内の菌たち(腸内フローラ)も良いバランスで保たれます。

つまり、中医学的に見ると、

  • プロバイオティクス=種(乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌)
  • プレバイオティクス=土(「脾」の働きを整えること)

と捉えることができます。

いくら良い種をまいても、土壌がやせ細っていては芽は出ません。中医学では古くから「脾こそが万物の生みの親」とされており、腸内環境の改善にも「脾」の健やかさが欠かせません。

「脾」の詳しい解説は👉五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

タイプ別の「腸活」

①胃腸の弱り=脾虚たタイプ

✅疲れやすい、やる気が出ない
✅食欲がない
✅食後にお腹が張る、眠くなる
✅下痢・軟便気味

これらのサインは、中医学でいう「脾虚(ひきょ)=脾の弱り」の状態と考えられます。「脾」の働きを補うことで、胃腸の機能を底上げし、腸内フローラが整いやすくなります。
漢方薬の例:健脾散(参苓白朮散)、人参湯、小建中湯など

💡「膠飴(こうい)」が腸を整える!?
小建中湯に含まれる「膠飴(麦芽糖)」は、オリゴ糖の一種で、腸内の善玉菌のエサとなる”プレバイオティクス”としての働きがあります。中医学では、「脾」の働きを高める漢方薬として古くから使われてきましたが、現代の栄養学的観点から見ても、腸内環境を整える作用が期待できる、まさに伝統と科学が重なる”漢方の知恵”の一つといえるでしょう。

②老廃物の停滞=痰湿・湿熱タイプ

✅脂っこい物、甘い物、味の濃い物やお酒が好き
✅口が苦い、臭い、粘る
✅メタボ体型
✅舌に苔がべっとりついてる

このような状態は、中医学では「痰湿(たんしつ)」や「湿熱(しつねつ)」と呼ばれる、体内の老廃物や余分な水分・熱が滞っている状態と捉えられます。

悪玉菌の原因となる老廃物を取り除くことで、腸内環境のバランスも整いやすくなります。
漢方薬の例:平胃散、温胆湯、五行草(馬歯莧)など

💡老廃物が溜まると…

中医学では「脾は湿を嫌う」と言われています。
たとえば、水はけの悪いグランドでは、足が取られ体の動きが悪くなりますよね?「脾」も同じで、体の中に「湿(老廃物)」がたまると「脾」の機能は低下し、腸内環境のバランスが乱れてしまいます。

③暴飲暴食=食積タイプ

✅お腹いっぱいじゃないと満足できない
✅胃がもたれる・げっぷやガスが多い
✅排便してもスッキリしない
✅便やおならのにおいがきつい

このような状態は、中医学では「食積(しょくせき)」と呼ばれ、食べすぎ・飲みすぎによる消化不良が起きている状態です。

「脾胃」の消化容量を超えた食べ物は、胃腸に負担をかけ、「痰湿」や「湿熱」といった老廃物の原因となります。漢方薬の例:晶三仙、加味平胃散など

💡発酵食品の入った漢方!?

晶三仙に含まれている「神曲」は、フスマや大麦などを発酵させた生薬です。発酵食品は、腸内の善玉菌を増やす“プロバイオティクス”としても注目されており、消化を助けながら腸内環境を整えるという、「神曲」には一石二鳥の働きがあります。

最後に

<脾胃を守る養生法😌>

🟡冷たい物を避ける
→冷たい物は脾胃を傷つけます。

🟡肥甘厚味を避ける
→肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物は脾胃に負担をかけます。

🟡腹八分を心掛ける
→胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事が良いとされています。

🟡一口30回を目安に噛む
→食べ過ぎ防止、消化を助けることにつながります。

現代では、「腸活」が一大ブームとなっていますが、中医学では、はるか昔から胃腸=「脾胃」を整えることが健康のカギとされてきました。

乳酸菌や整腸剤などの現代的アプローチも、こうした先人の知恵と組み合わせることで、より理想的な腸=*「栄養豊富でバランスの良い“土壌”」へと近づけるかもしれません。

体質や症状に合わせた中医学的「腸活」にご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐