起立性調節障害と漢方薬

はじめに

「学校に行きたいのに、行けない」
「どうして朝、体が動かないんだろう…」
「普通の生活がしたいだけなのに」

思春期の子どもたちに多く見られる「起立性調節障害」。
ある調査によると、中学生のおよそ10人に1人が経験すると言われ、不登校の背景にこの症状が関係しているケースも少なくありません。

最近では少しずつ認知されるようになってきましたが、それでもまだ「サボっているだけ」「甘えているんじゃないの?」といった誤解や心ない言葉に傷つく子も多くいます。

病院で検査をしても「異常なし」。薬を飲んでもあまり変化がない。
そんな状況に、どうしたらいいのか分からず、ただ時間が過ぎるのを待つしかない。そんな声もよく耳にします。

中医学(漢方)の視点から、少しでもこの症状に対する理解とサポートの糸口をご紹介できればと思います。

起立性調節障害とは?

💡どんな症状があるの?

起立性調節障害(OD)では、以下のような症状が見られます:

  • 朝、どうしても起きられない
  • 頭が痛い、立ちくらみやめまいがする
  • 体がだるくて、食欲もわかない
  • 時には失神してしまうことも…

このような症状は、
・午前中に強く、午後になると少し楽になる
・立ったり座ったりすると悪化し、横になると楽になる
・気圧の変化(特に雨の前など)にも敏感で、体調を崩しやすい
のも特徴です。

さらに、夜になると目が冴えてなかなか寝つけず、そのような生活が続き、だんだん昼夜が逆転してしまうこともあります。

🤔起立性調節障害の4つのタイプ

💊病院での治療は?

1.薬を使わない治療(非薬物療法)

  • 起きるときは頭を下げて、ゆっくり立ち上がる
  • 立ちっぱなしを避け、1〜2分以上の起立は控える
  • 水分を1.5~2L、塩分は普段+3gを目安に
  • 毎日30分程度のウォーキングで筋力を保つ
  • 早寝早起きで生活リズムを整える

(出典:日本小児心身医学会)

2. 薬を使った治療(薬物療法)

生活習慣の見直しを行ったうえで、必要に応じて血圧上昇作用のあるメトリジン(ミトドリン)やリズミック(アメジニウム)などが使われることがあります。

中医学で考える「起立性調節障害」

中医学では、「起立性調節障害(OD)」の背景に、昇降失調(しょうこうしっちょう)という状態があると考えます。

本来、私たちの体内では――

  • 清気(せいき):エネルギーや栄養は上へと昇り
  • 濁陰(だくいん):不要な水分や老廃物は下へと降りていく

という流れがうまく保たれていることで、心も体も健やかに働いています。

しかし、この上下のバランスが乱れてしまうと、本来届くはずの清気が頭部に行き渡らず、脳が“栄養不足”のような状態に。すると、

  • 頭がぼーっとする
  • めまいや立ちくらみ
  • 朝起きられない
  • 失神してしまうこともある

といった症状が現れます。

この「昇降の流れの乱れ」こそが、中医学で捉える起立性調節障害の根本原因とされています。

1.脾胃虚弱(ひいきょじゃく)

中医学でいう「脾(ひ)」と「胃(い)」は、現代医学でいうところの消化器系。つまり胃腸の働きにあたります。

「脾胃」は、食べたものを消化・吸収し、体に必要なエネルギー(=気)や栄養(=血)を生み出す役割を担っています。さらに、体内の水分代謝を整える働きもあり、「脾胃」がしっかりしていないと、余分な水分が体にたまりやすくなります。

「脾」と「胃」は表裏の関係にあり、お互いに協力しながら働いています:

  • 「脾」は、栄養をしっかり吸収し上へと運ぶ(上昇)
  • 「胃」は、食べ物を受け取り下へ送る(下降)

この“上昇”と“下降”のバランスが崩れる、いわゆる「昇降失調」の状態だと、本来上に届くはずの栄養が頭まで届かず、めまい・ふらつき・朝起きられない・疲れやすいといった「起立性調節障害」のような症状が現れます。

<主な特徴>
✅空腹感を感じない(特に朝)
✅食事量が少なく、すぐお腹いっぱいになる
✅元気がなく疲れやすい など

「脾胃」の働きを整える補中益気湯や黄耆建中湯、半夏白朮天麻湯などが使用されます。また、血虚(栄養不足)の傾向が見られる場合は、「脾胃」の状態を見ながら、婦宝当帰膠や十全大補湯などを使用することもあります。

「脾胃」の詳しい働きは👉五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

2.肝気鬱結(かんきうっけつ)

起立性調節障害の方に多く見られるのが、朝、体が動かない・目覚めてもスイッチが入らないという症状です。これは、医学的には「副交感神経から交感神経への切り替えがうまくいかない」と説明されますが、中医学ではこのような自律神経の調節を「肝(かん)」が担っていると考えます。

精神的なストレスやプレッシャー、不安が続くと、「肝」が我慢の限界を迎え、「気」の滞りを生じます。すると、体や心にさまざまな不調が現れ、この状態を中医学では「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と呼びます。

また、「ストレスを抱えると食欲がなくなる」「緊張するとお腹が痛くなる」といったように「肝」と「脾胃」は密接に関係しており、「肝気鬱結」が起きると、「脾胃」の働きも乱れてしまい、
🔼清気を上へ
🔽濁陰を下へ
という本来の昇降の流れも乱れてしまいます。

<主な特徴>
✅精神的ストレスを抱えている
✅緊張に弱い
✅イライラしやすい など

「肝」の働きを整え「気」の流れを良くする逍遥顆粒や四逆散、開気丸などが使用されます。

「肝」の詳しい働きは👉五臓六腑:肝の働きについて – 日々の生活に漢方を

3.痰飲(たんいん)

「痰飲」とは、体の中に停滞した余分な水分を指します。
体内の水分は、「肺」や「脾」、「腎」の働きによって巡回し、必要な分は吸収され、不要なものは尿や汗として排出されますが、「脾胃」が弱っていたり、水分代謝のバランスが崩れると、余分な水が溜まりやすくなり「痰飲」が形成されます。

この「痰飲」があることで、「気」の流れを妨げられ、身体の“通り道”をふさいでしまうため、清気(栄養やエネルギー)が頭部に届かなくなります。

<主な特徴>
✅体が重だるく、すっきりしない
✅頭が重く、時にはめまいがする
✅ 雨の日や湿度の高い日に体調が悪化する など

余分な水分(痰飲)を処理する苓桂朮甘湯や五苓散、温胆湯などが使用されます。

🦉フクロウ体質って?

「フクロウ」は夜に活動し、昼間は眠っている夜行性の鳥ですね。
そんなフクロウのように…

  • 朝はどうしても起きられない
  • 起きても頭がぼーっとして働かない
  • 朝食も食べる気がしない
  • 午前中は全体的にスローペース
  • でも午後になるとだんだん調子が上がってきて
  • 夜になると頭も体も冴えてくる!

そんな特徴を持つ人を、山本巌先生は「フクロウ体質」と表現しました。

このタイプは、上記でも述べたように、「起立性調節障害」によく見られる体質パターンでもあります。夜になると元気になる一方で、朝に弱く、生活リズムが乱れやすい。まさに「体内時計のズレ」が根っこにあるような状態です。
山本巌先生は、このような「フクロウ体質」に、よく”苓桂朮甘湯”という漢方薬を使用していました。

養生

🍭控えたい栄養素

血糖値を急激に上昇させる食品は、できるだけ控えたいものです。
脳はブドウ糖を唯一のエネルギー源としていますが、血糖が急激に上下すると、エネルギーの供給が不安定になり、集中力や気分の安定に影響を及ぼします。

特に以下のような食品は注意が必要です。

  • ケーキやクッキーなどの砂糖たっぷりのお菓子
  • 炭酸飲料や清涼飲料水などのジュース類
  • 白い小麦粉でできたパンやパスタ(菓子パン・白パン・うどん など)

これらは「高GI食品」とも呼ばれ、食後すぐに血糖値を急上昇させます。

すると、体は血糖を下げるために大量のインスリンを分泌しますが、これが効きすぎると血糖が急降下することもあります。この状態を「反応性低血糖」といい、血糖の乱高下は、脳にとって大きなストレスになります。

🧠摂取すべき栄養素

上記で述べたように、脳の唯一のエネルギー源は「ブドウ糖」ですが、それだけでは脳は正常に働きません。
脳の健やかな働きを支えるためには、ブドウ糖に加えて、ミネラル(マグネシウム・亜鉛・鉄など)も欠かせません。

脳は「電気信号」によって情報を伝え合っています。
たとえば、

  • 何かを見たとき
  • 考えたとき
  • 感情が動いたとき

このような瞬間、神経細胞(ニューロン)同士が微細な電気信号を送り合っているのです。この電気信号のやりとりをスムーズに行うためには、ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムといったミネラル(電解質)が必要不可欠です。

また、鉄は脳へ酸素を運ぶ役割を、亜鉛は記憶や感情に関わる神経伝達物質の合成を助けています。

食材の例
・鉄:黒ゴマ、黒豆、なつめ、ほうれん草
・亜鉛:牡蛎、牛肉、枸杞の実
・カルシウム:小魚、干しエビ、昆布
・マグネシウム:海藻類(昆布、わかめ、ひじき)

最後に

今回ご紹介した3つのタイプ(脾胃虚弱・肝気鬱結・痰飲)は、あくまで中医学的に見た一例にすぎません。
実際には、体温調節が苦手なタイプや、発育や成長過程に起因するタイプなど、さまざまな要因が複雑に絡み合って、現在の症状が現れていることがほとんどです。

「◯◯を飲んだら元気になったらしいから自分も…」
「SNSで話題の漢方がいいと聞いたから試してみよう…」

そんな気持ちもよくわかります。ですが、顔立ちが人それぞれ異なるように、体の内側=体質は十人十色です。同じような症状でも、原因や体質は全く異なるということも珍しくありません。

だからこそ、悩みを抱えている方には、自分自身の体質に合ったケアや漢方薬を見つけていただきたいと思っています。

僕のような存在が、少しでもそのお手伝いができたら何より嬉しいです。
「起立性調節障害」でお悩みがありましたら、お気軽にぜひご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐