めまいと漢方薬


日常生活に大きな影響を及ぼしかねないめまい。
目がグルグルする、フワフワする、またいつどこで起こるか分からないめまいは、ストレスに繋がったり、気持ちが憂鬱になるなど、日々のQOL(生活の質)を低下させる症状の1つかと思います。

・症状がなかなか改善しない、検査しても異常が見つからない
・雨の日や気圧が下がるとめまいを引き起こす
・毎年、春になると何だかめまいやふらつきが気になる
など、めまいに関する悩みを抱えてる方は非常に多い印象です。

めまいの分類

一口に「めまい」といっても、様々な種類に分類されます。

■めまいの自覚症状

■末梢性めまいの特徴

中医学で考えるめまい

中医学では、古くから”めまい”について以下のような言葉があります。
①無虚不作眩:身体に必要なものが不足していなければ、めまいは起きない
②無痰不作眩:痰(余分な水分)がなければ、めまいは起きない
③諸風掉眩、皆属於肝:風によって生じる、めまいやふるえは、みな肝と関係がある

①無虚不作眩:身体に必要なものが不足していなければ、めまいは起きない
 

1.気血不足(きけつぶそく)

中医学では、頭部を「清陽の府」と言い、全身の陽気(エネルギーや栄養素)が集まる場所とされています。
エネルギーが不足している「気虚タイプ」や身体内の栄養や潤いに関わる「血」が不足している「血虚タイプ」は、頭部に必要な「清陽(陽気=栄養素)」を脳に届けられず、栄養不足を起こすことでめまいを引き起こします。

このタイプの特徴は
□動くとめまいが酷くなる
□疲れやすい、倦怠感
□食欲不振
□動悸・不眠
不足している「気」や「血」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:婦宝当帰膠、十全大補湯、補中益気湯など

2.腎精不足(じんせいぶそく)

中医学での「腎」は、「髄(骨)」を生み出し、その「髄」が集まることで脳を形成すると考えます。そのため、脳は「髄の海」といわれ、髄が満たされていれば、脳は正常に活動を維持することができますが、「腎精」が不足し「髄海(脳)」が空虚になると、めまいや物忘れ、耳鳴りといった症状がでやすくなります。

このタイプの特徴は、加齢とともに現れる以下のような症状を伴うことが多いです。
□物忘れが酷い
□足腰がだるく、力が入らない
□耳鳴り
□精力の減退
□更年期に伴う不調
「腎精」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:六味地黄丸、八味地黄丸、海馬補腎丸など

②無痰不作眩:痰(余分な水分)がなければ、めまいは起きない
 

●痰濁中阻(たんだくちゅうそ)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰濁」と呼びます。水道管がヘドロまみれだと水詰まりを起こすように、「痰濁」が頭部や身体内に溜まると、気や血が脳に十分に届かずめまいを生じます。

このタイプの特徴は
□頭・身体が重だるい
□胸がムカムカする
□浮腫む、下痢・軟便気味
□食欲不振

身体内に溜まった余分な水分を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、星火温胆湯など

中医学では、「脾は生痰の源」という言葉があり、脾胃(胃腸)が弱いと水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まり痰が生じやすくなると考えます。「痰」が原因による症状の場合は、まずは脾胃(胃腸)の状態や生活習慣を見直すことから始めると良いかもしれません。

③諸風掉眩、皆属於肝:風によって生じる、めまいやふるえは、みな肝と関係がある

●肝陽上亢(かんようじょうこう)

五行学説では、「肝」は「風」や「木」と関連がありますが、木々が風にあたるとゆらゆらと揺れるように、身体内に「風」が生じると、めまいやふらつきの症状がでやすくなります。

身体内に「風」が生じる原因としては、以下のようなものがあります。
・慢性的なストレスや心配事を抱えている:「肝」は自律神経の働きと関係があります。
・体内の潤い(陰血)が減り、エネルギー(陽気)が相対的に強まっている:自然界では周囲が乾燥すると木々が燃えやすくなり、炎が燃え上がると風を生じます。

春先にめまいやふらつきなどを訴える方が多いのは、春は「春一番」と言われるように、冬から春へ季節の変わり目で強い風が吹くことで「風」の影響を受けやすくなるためです。風により草木が揺れるように、身体内が風の影響を受けることで体内も揺れ、めまいやふらつきなどの症状へとつながりやすくなります。

このタイプの特徴は
□耳鳴り、頭痛
□怒りっぽい、赤ら顔、目が充血しやすい
□血圧が高い
□不眠、夢をよくみる
身体内で生じた「風」を鎮める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:釣藤散、抑肝散、星火睛明丹(石決明、白僵蚕含有食品)など

④その他

上記以外にも血の滞りが原因の「瘀血(おけつ)タイプ」や冷えが原因の「陽虚(ようきょ)タイプ」などもあります。

最後に

漢方薬に頼ることも大事ですが、それ以上に日々の養生が症状改善の近道となります。日頃の食事や運動、睡眠、ストレスなども合わせて見直してみましょう。

<おすすめ食養生>
●気血不足タイプ
・気の不足:米類、芋類、豆類、肉類
・血の不足:レバー、鶏肉、小松菜、ほうれん草

●腎精不足タイプ:山芋、長芋、枸杞の実、黒豆、黒ゴマ

●痰濁中阻タイプ:キノコ類、海藻類、はと麦、はるさめ

●肝陽上亢タイプ
・ストレス過多:セロリ、春菊、柑橘類、酢の物
・潤い不足:れんこん、きゅうり、トマト、豆乳、豚肉

原因がなかなか特定しづらい「めまい」は漢方が得意とする分野です。
めまいの治療で悩んでいる、症状が改善しない、体質に合わせた漢方薬を服用してみたいという方は、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐