カゼに使う漢方薬


「カゼの漢方薬=葛根湯」と思っている方が多いのではないでしょうか。
病院でもよく処方される漢方薬の代表ですし、ドラッグストアでもカゼの「予防や初期症状に!」という宣伝をよく目にします。
しかし、全てのカゼの症状に「葛根湯」が使えるわけではありません。
ご自身の体調や症状の特徴に合わせ適切な漢方薬を使いましょう。

カゼの考え方

カゼは「邪気」が体内に侵入したことが原因です。邪気とは私達の身体にとって悪いもの、現代医学で言うウイルスや細菌などを指します。
中医学では、カゼは自然界の「風邪(ふうじゃ)」が体内に侵入することで起こると考え、寒や熱などの性質から以下の4つのタイプに分けられます。
(昔はウイルスや細菌などの具体的な病原菌は分からなかったため、風のように襲来する邪気を風邪と呼びました。)

  1. 風寒(ふうかん)
  2. 風熱(ふうねつ)
  3. 風湿(ふうしつ)
  4. 風燥(ふうそう)

1.風寒

症状の特徴は
・悪寒が強い
・発熱が軽い
・汗がでない
・口や喉が渇かない
・その他:頭痛・身体の痛み / 鼻水(透明)・鼻づまり / 咳や痰(白い)  

このタイプは身体を温めて汗をかかせ、汗とともに風寒の邪気を追い払う漢方薬を使います。
漢方薬の例:麻黄湯、葛根湯

既に汗がしっとり出ている場合は、上記の漢方薬よりも発汗の作用が弱い「桂枝湯」を使います。
鼻水や咳の症状が酷い時は「小青竜湯」を使うのも良いでしょう。
ただし、麻黄湯・葛根湯+小青竜湯の併用は、麻黄の摂取量が増え発汗過多や動悸、全身の脱力感に繋がる可能性があるので飲み合わせには注意しましょう。

2.風熱

症状の特徴は
・悪寒が軽い
・熱が高い
・汗がでる
・口や喉が渇く
・その他:喉の痛み / 鼻水(黄色)・鼻づまり / 咳・痰(黄色く粘り気がある)

このタイプは身体内に熱(炎症)が発生している状態なので、熱を冷やしつつ邪気を追い払う漢方薬を使用します。
漢方薬の例:涼解楽(銀翹散)、銀翹解毒散

熱が高い:+「白虎加人参湯」
喉の痛みが強い:+「板藍茶」や「五味消毒飲」
咳症状が酷い:+「麻杏甘石湯」や「五虎湯」 との併用も効果的です。

3.風湿

症状の特徴は
・寒気、微熱
・体が重だるい、頭が重く痛い
・胃腸症状(食欲不振、下痢・軟便)・その他:痰の多い咳、胸が重苦しい

湿邪は「重く濁り、粘着して停滞する」という性質がありますが、
湿と身体内の関係を理解するには、除湿機をイメージしてみてください。
梅雨や夏場のジメジメとした湿度が高い時期に活躍する除湿機ですが、空気中の湿気を吸うことでタンク内に水が溜まります。
この水(湿気)の溜まりが身体内で起きているため、体が重だるく感じたり、頭が重く痛むという症状がでます。

また、中医学における胃腸である「脾」には「燥を好み、湿を嫌う」という言葉があります。そのため、湿邪が体内の脾(胃腸)に影響を及ぼすと、食欲がなくなったり、下痢や軟便などの症状がでます。

このタイプには、余分な水分(湿邪)を乾燥させ、邪気を追い払う漢方薬を使います。
漢方薬の例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散
湿度が高い梅雨時期や雨の日、低気圧の際に体調が悪くなる方は、上記の漢方薬を飲むと症状が楽になることもあります。

痰が多くでたり、咳が伴う場合は「二陳湯」や「平喘顆粒(蘇子降気湯)」
胸が重苦しい場合は「半夏厚朴湯」 などを使用すると効果的です。

4.風燥

症状の特徴は
・微熱
・空咳
・痰の切れにくい咳

肺は「燥を悪み、潤を喜ぶ」という特徴があるため、風燥の邪気が体内に侵入すると肺に影響が及び、呼吸器系を中心に症状がでます。

このタイプは肺を潤し咳を鎮める漢方薬を使用します。
漢方薬の例:麦門冬湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、白龍散など
熱感が強ければ、竹葉石膏湯や清肺湯を使用しても良いでしょう。

最後に

上記以外にも
・カゼが治りにくい方
・カゼを頻繁に引かれる方
・コロナの後遺症によりカゼの様な症状が続いている方
など様々なタイプがあるかと思います。

漢方薬は病名に対しお出しするものではありません。
お客様の症状の特徴や症状に至った経緯、体質などを伺い、お客様に合った適切な漢方薬を提案させていただきます。
カゼに限らず何か症状でお困りのことがありましたら、いつでもご相談ください。

薬剤師 中目 健祐