便秘と漢方薬

快便は、快食、快眠と並び健康的な生活を支える三原則の一つとされていますが、2022年(令和4年)の国民生活基礎調査によると男性が約28%(65歳以上:約68%)、女性が約43.7%(65歳以上:約74%)と女性や高齢者の多くが便秘に悩まれています。

便秘は直接的に大きな病気へは繋がりませんが、「便秘は万病の元」や「一日一便、乃ち常度なり(中国古典の言葉)」という言葉があるように健康的に暮らすためには、日々の快便が非常に重要になります。

便秘とは?

便秘の定義

慢性便秘症診療ガイドライン2017では次のように定義されています。
「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」
また、便秘症とは「便秘による症状が現れ、検査や治療を必要とする状態」であり、診断基準は以下の通り定められています。

1.「便秘症」の診断基準

以下の6項目のうち、2項目以上を満たす。
a. 排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある。
b. 排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便(※BSFSでタイプ1か2)である。
c. 排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる。
d. 排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある。
e. 排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など)。
f. 自発的な排便回数が、週に3回未満である。

2.「慢性」の診断基準
・6ヵ月以上前から症状があり、最近3ヵ月間は上記の基準を満たしていること。

便の状態は、下記の※BSFS(ブリストルスケール)を参考にすると良いでしょう。

上記の通り、毎日排便があったとしても排便までに時間がかかる、排便後もスッキリしない等の違和感を感じる場合は便秘にあたります。逆に2~3日に1回のペースの排便でもお腹の不調や排便の苦痛などを感じなければ便秘ではありません。

中医学で考える便秘

中医学では体質や症状の特徴に合わせて次の通りに考えます。

1.熱結便秘(ねっけつべんぴ)

大腸に熱がこもることで排便を促す腸内の潤いが蒸発し、乾燥することで起こる便秘です。

このタイプの特徴は
・便が乾燥して硬い
・暑がり、汗っかき
・尿の量が少なく、色が濃い
・口が渇く
・口臭や体臭が気になる
・顔が赤い、ニキビや吹き出物ができやすい
・普段からお酒をよく飲む、脂っこい物や辛い物を好む

このタイプには、腸内の乾燥の原因である熱を冷ましながら便を促す漢方薬を使用します。
漢方薬の例:大黄甘草湯、承気湯類(大承気湯、小承気湯、調胃承気湯、桃核承気湯)、防風通聖散など

桃核承気湯は、以下のような瘀血(血の滞り)症状を伴う便秘に適しています。
・生理痛(出血に塊が混じる)
・腹痛、頭痛、肩こり
・舌が暗く紫色で舌の裏の血管が怒張している(青紫色の血管が見える)

便秘の代表的な生薬として「センナ」がありますが、便が出ないからと言ってこの生薬を慢性的に使用することはお勧めできません。
「センナ(生薬名:番瀉葉)」は、苦・寒の性質で排便を促す力が非常に強いという特徴を持っているので、そもそもが熱結便秘のタイプ向きであり、長期間の服用を目的とした生薬ではありません。長期間使用することにより胃腸を冷やし、嘔吐・悪心・腹痛・消化機能の減退へと繋がる可能性があるので注意が必要となります。

2.気滞便秘(きたいべんぴ)

体内の「気」の巡りが滞る(気滞)ことで胃腸の動きが低下し生じる便秘です。

精神的なストレスや緊張、憂鬱・不安感を感じやすい方、運動不足の方は「気滞」を生じやすくなります。

このタイプの特徴は
・排便に時間がかかる
・便秘と軟便をくり返す
・お腹が張り膨満感がある
・ゲップが多い
・イライラしやすい、憂鬱感を感じる

このタイプには、気の巡りを良くしながら排便を促す漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:通導散、大柴胡湯、開気丸+通便薬など
PMS(生理前症候群)の症状で便秘になる方もこの「気滞」によるものですので、「気」の流れを良くする漢方薬を使うと良いでしょう。

3.気虚便秘(ききょべんぴ)

便を推し出すために必要な「気」が不足(気虚)することで起こる便秘です。
主に「脾」や「肺」による気虚が考えられます。
①脾気虚(ひききょ)
「脾」は現代医学で言う胃腸を指します。脾の気(エネルギー)が不足することで腸の蠕動運動が低下し、便を推し出すことができないために便秘へと繋がります。

②肺気虚(はいききょ)
「肺」は津液(身体に必要な水)を全身に散布する体内のスプリンクラー的な役割を担っています。「肺気虚」の状態では、全身に津液を巡らすことができず、肺と表裏関係にある腸の潤いが失われることで便秘が起こります。

このタイプの特徴は
・排便に時間がかかる
・排便後に残便感がある(スッキリしない)
・排便後の疲労感

+①脾気虚の場合
疲れやすい、食欲がない、食後に眠くなる、お腹が張る等
慢性疾患や術後・産後の方は、脾気を消耗するので気虚による便秘が起こりやすいです。

+②肺気虚の場合
呼吸器症状(咳、息切れ)、汗をかきやすい、風邪を引きやすい等

このタイプには、脾や肺の働きを立て直しつつ、気を補う漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:補中益気湯、六君子湯、衛益顆粒など
お腹が慢性的に冷えて腸管の動きが悪い場合は、人参湯や附子理中湯などお腹を温める漢方薬を使う場合もあります。

4.血虚便秘(けっきょべんぴ)、陰虚便秘(いんきょべんぴ)

全身に栄養や潤いを与える「陰血」が不足することで腸内が乾燥し生じる便秘です。

このタイプの特徴は
<血虚>
・便が乾燥して出にくい、コロコロしている
・顔が青白い、唇や爪の色が薄い
・動悸、めまいがする
・不眠
・月経量が少ない

<陰虚>
・便が乾燥して出にくい、コロコロしている
・痩せ型
・口や喉が乾燥する
・手足がほてる
・寝汗をかく

このタイプには、「血」を補い排便を促す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:潤腸湯、麻子仁丸、婦宝当帰膠など

女性は毎月の生理出血があるため、男性に比べてどうしても血が不足しやすく血虚タイプの便秘になりやすいです。また、年齢を重ねるほど陰血が少なくなる傾向にあるため、高齢者は上記の気虚便秘に加えてこのタイプの便秘が多くみられます。

最後に

便秘は日頃の生活習慣が原因になってる場合が多くあります。上記で述べた体質に合う漢方薬を服用されるのも良いですが、食事や運動などの生活面を見直すことで便秘が改善する場合もあります。

<快便のポイント>
・肥甘厚味や暴飲暴食を避ける(肥:脂っこいもの、甘:甘い物、厚:味が濃い物、身体に余分な熱が生じます。)
・十分な睡眠をとる(気虚、血虚の原因になります。)
・起床後に白湯を飲む(冷水や常温では胃腸に負担がかかるので白湯が良いです。)
・空腹感を感じ食事する(腸が刺激され快便へと繋がります。)
・ストレスを溜めない(気の滞りの原因になります。)
・適度に運動をする(腸の動きが活性化されます。)
・食物繊維や発酵食品を摂る(便の状態や上記のタイプにより適している食物繊維(水溶性/不溶性)が異なるので注意が必要です。)

生活習慣を見直してもなかなか改善されない場合や慢性的な便秘に悩んでいる、身体に合う漢方薬を試してみたい方は、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐