頭痛と漢方薬

はじめに

誰もが経験したことのある「頭痛」。
実は日本人の4人に1人は慢性的な頭痛に悩まされているとされており、鎮痛剤をなかなか手放せない「頭痛もち」の方も少なくありません。

当薬局においても、「少しでも鎮痛剤の量を減らしたい」、「薬に頼らない生活を送りたい」といったご相談が日々寄せられています。

頭痛とは?

頭痛は、下記のタイプに分類されます。その中でも、慢性的な頭痛で苦しんでいる方(頭痛持ち)の多くは「一次性頭痛」に該当します。

中医学における痛みの考え方

中医学では、頭痛や腰痛、生理痛など様々な痛みの原因を下記2つに分けて考えます。
🌀不通則痛(ふつうそくつう):通じざれば則ち痛む
気や血、津液の流れが悪くなり体内に詰まりが生じることで痛みが発生する。

🌀不栄則痛(ふえいそくつう):栄えざれば則ち痛む
気や血(栄養)の不足により、臓腑や経絡、組織、器官が滋養されず、痛みが発生する。

中医学で考える頭痛

中医学では、頭痛の起こる原因により大きく2つに分けて考えます。
①外感頭痛:外部の影響を受けて痛みが発生する。 (急性の痛み)
②内傷頭痛:臓腑の機能失調により痛みが現れる。(慢性的に続く痛み)

①外感頭痛

自然界の影響(風・寒・暑/熱・湿)により引き起こされる頭痛です。
外感頭痛の原因となる邪気については、別記事👇も参考にしてみてください。
カゼと漢方薬 – 日々の生活に漢方を

1.風寒頭痛(ふうかんずつう)

カゼの引き始めに悪寒とともに頭痛や首~後頭部のこわばりを感じたことはありませんか?
これは、寒さによって体の中の「気(エネルギー)」や「血(栄養)」の流れが滞り、痛みとして現れている状態です。ちょうど、気温が下がると川の水が凍って流れが悪くなるようなイメージです。

<🧊主なサイン>
✅頭痛(ゾクゾクする、こわばる)
✅首から後頭部のこわばり
✅カゼの症状(悪寒、発熱、鼻水など)

痛みの原因である「風寒」の邪気を発散させる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:頂調顆粒(川芎茶調散)、葛根湯、麻黄附子細辛湯など

💊川芎茶調散
「川芎茶調散」は頭痛の専門薬とも呼ばれ、後述する様々な頭痛のタイプに併用して使用することができます。

2.風熱頭痛(ふうねつずつう)

暖房を使用すると温かい空気が上へと上がっていきますよね。
これと同じように、「熱邪」も身体内の上部である頭部に影響を及ぼし、熱感を伴った頭痛へとつながります。
特に体温が高いと、心拍数が上がって血流が増えるため、ズキンズキンと拍動するような痛みを感じることがあります。

<🔥主なサイン>
✅ズキンズキン・ジンジンするような痛み
✅顔が熱い、口や喉が渇く
✅カゼの症状(発熱、咽頭痛)

頭部の「熱」を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:涼解楽(銀翹散)、銀翹解毒散、荊芥連翹湯など

3.風湿頭痛(ふうしつずつう)

「雨の前になると頭が重い…」「梅雨の時期や低気圧の日に頭が痛い」
こんな経験、ありませんか?

このような頭痛は、”自然界の湿気”=「湿邪(しつじゃ)」の影響が原因と考えられます。湿度の高い日に除湿器を使用すると、タンク内に水がたくさん溜まりまるように、身体の中にも余分な水=「湿」が溜まり、それが頭部にこもることで頭が重く痛い、体が重だるいといった症状がでます。

<☁️主なサイン>
✅頭痛(重く包み込まれる感じ、ドーンとする)
✅身体が重だるい
✅食欲不振、軟便

頭部に溜まった「湿」を追い出す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散など

💡ちなみに…
以前のブログ「五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を」でも触れましたが、脾胃(胃腸)の働きが弱い方は、体内に「湿」を溜めやすく、外界の「湿邪」の影響も受けやすいとされています。中医学では、これを「内湿が外湿を呼ぶ」と言います。
したがって、脾胃の働きが低下している方は、「湿」を処理しつつ、「脾胃」の機能を立て直すことも大切になります。(詳しくは、②内傷頭痛の「痰濁頭痛」を参照ください。)

②内傷頭痛

1.気虚頭痛(ききょずつう)/ 血虚頭痛(けっきょずつう)

中医学では、頭部を「清陽の府」といい、全身の陽気(エネルギーや栄養素)が集まる場所とされています。
そのため、エネルギーが不足している「気虚タイプ」や身体内の栄養や潤いに関わる「血」が不足している「血虚タイプ」は、頭部に十分な栄養が届かず、頭痛やふらつきといった症状を引き起こします。
食事を取らない時間が続いたり、空腹を我慢すると、「頭がぼーっとする」「フラフラする」することがありますが、「気虚」や「血虚」の頭痛はこの状態に近いと言えます。

🪫気虚頭痛
<主なサイン>
✅頭痛(疲れた時に酷くなる)
✅倦怠感、疲れやすい
✅食欲がない
✅下痢、軟便気味

「気」を補い、「気」の生成に関わる脾胃(胃腸)の働きを高める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:補中丸(補中益気湯)、健胃顆粒(香砂六君子湯)など
頭痛症状が強い時は、上記で述べた「頂調顆粒(川芎茶調散)」を併用するとより効果的です。

🩸血虚頭痛
<主なサイン>
✅頭がふらつく、ボーっとする、シクシク痛む
✅生理後の頭痛
✅顔が白い、青白い
✅動悸や不眠がある

不足している「血」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:婦宝当帰膠、心脾顆粒(帰脾湯)、人参養栄湯など

2.痰濁頭痛(たんだくずつう)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰濁」と呼びます。
水道管にヘドロが詰まって水の流れが悪くなるように、体内に「痰濁」がたまると「気」や「血」の巡りが滞り、頭痛やめまい、吐き気などの不調があらわれるのです。

<💧主なサイン>
✅頭が重く痛む、ズーンとする痛み
✅めまい
✅吐き気や嘔吐
✅身体が重く感じる
✅ 雨の日や気圧の変化に弱い

身体内にある「痰濁」を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、星火温胆湯など

💡ちょっと補足…
中医学では、「脾は生痰の源」という言葉があります。
これは、脾胃(胃腸)が弱いと、水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まり痰が生じやすくなるという考え方です。
つまり、「痰濁」が原因の頭痛では、単に「痰」を取るだけでなく、胃腸の働きを整えることが根本改善への第一歩。日々の食生活や生活リズムを見直すとより効果的かもしれません。

3.肝火頭痛(かんかずつう)

中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」や「血」の流れを調節し、精神面の安定に関与していると考えらています。
しかし、ストレスや精神的な負荷がかかり自律神経が乱れると、「肝」の働きが低下し、「気」や「血」が渋滞を引き起こし、イライラやのぼせ、拍動性の頭痛など、まるで「オーバーヒート」したような症状が現れます。

<🔥主なサイン>
✅ 頭痛(キリキリ、ズキンズキンと痛む)
✅耳鳴り、めまい
✅目の充血、赤ら顔、のぼせ
✅ストレスや緊張を感じやすい
✅生理前の頭痛

高ぶっている「肝火」を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:瀉火利湿顆粒(竜胆瀉肝湯)、釣藤散など

「肝火」になる要因としては、上記で説明した「気」の滞りがあるため、「気」の流れを良くする「加味逍遥散」や「大柴胡湯」などを併用することもあります。

5.瘀血頭痛(おけつずつう)

「瘀血」とは、血の巡りが滞ってドロドロとした状態を指します。
この状態になると、、血流がスムーズに流れず、まるで交通渋滞のように詰まり、「不通則痛」の原則により痛みを引き起こします。

<🌀主なサイン>
✅針で刺されたような痛み、ズキンとする
✅肩・首こり
✅生理痛が酷い
✅舌裏の血管が青紫色に浮き出ている

「血」の滞りを解消する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参、など

最後に

ひと口に「頭痛」と言っても、実はその原因や体質はさまざまです。
漢方薬は、西洋薬ほど痛みに対しシャープに効きませんが、痛みの原因や体質に対しアプローチすることができ、頭痛を引き起こさない身体作りをを目指すお手伝いができます。

ご自身の体質や頭痛の傾向を知ることは、セルフケアの第一歩。
「ただ痛みを止める」のではなく、頭痛が起きにくい身体を内側から整えていきましょう。頭痛でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

胃痛と漢方薬

胃痛のメカニズム

私たちの胃は、胃の粘膜を守る「防御因子」と胃酸などの「攻撃因子」のバランスが保たれていることで、正常に働いています。しかし、何らかの原因で「攻撃因子」の働きが強まったり、「防御因子」が弱まり、相対的に「攻撃因子」の比重が高くなると胃痛が発生します。

バランスを崩す原因としては、以下のような生活習慣や心理的ストレスが挙げられます。
🟡脂っこい物/辛い物/甘い物の過食
🟡アルコールの過飲
🟡寝不足
🟡精神的なストレスや疲労
🟡喫煙

機能性ディスペプシアとは?

最近では、病院で検査を行っても炎症や潰瘍などの異常見つからないにも関わらず、胃の不調(胃の痛み、胃もたれ、胸やけなど)が続いている方が増えているようです。このような状態を「機能性ディスペプシア:Functional Dyspepsia : FD)」と言い、下記の通り定義されています。

1.症状

機能性ディスペプシア(FD)の診断基準(RomeⅣ基準)
下記の症状のいずれかが診断の少なくとも6か月以上前に始まり、かつ直近の3か月間に上記症状がある。
1.つらいと感じる心窩部痛(みぞおちの痛み)
2.つらいと感じる心窩部灼熱感(みぞおち辺りが焼けるような感じがする)
3.つらいと感じる食後のもたれ感
4.つらいと感じる早期飽満感(食べ始めてすぐに満腹感、膨満感を感じる)
及び症状を説明しうる器質的疾患はない。

食後愁訴症候群(PDS)の診断基準
少なくとも週に3日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。
1.つらいと感じる食後のもたれ感
2.つらいと感じる早期飽満感

心窩部痛症候群(EPS)の診断基準
少なくとも週に1日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。
1.つらいと感じる心窩部痛
2.つらいと感じる心窩部灼熱感

2.原因

機能性ディスペプシアを引き起こす詳しい原因は明らかになっていませんが、
・胃の運動機能が正常に働いてない
・胃酸が過剰に出ている
・胃腸の知覚過敏(胃酸の刺激に敏感になっている)
・ストレスによる自律神経の乱れ
・生活習慣や食生活の変化
・ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)への感染
などが考えられています。

中医学における胃腸(脾胃)の働きについて

「脾胃」の詳しい働きは👇から
五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

中医学で考える胃痛

1.❄️胃寒(いかん)
~冷えによる胃の痛み~

お酒の席などで、冷たいビールやお刺身などをたくさん摂った後に、急にお腹が痛くなった経験はありませんか?

胃腸は、体温と同程度の温度で正常に機能すると考えられています。
そのため、冷たい飲食物を摂りすぎると、胃腸が急激に冷やされて働きが低下し、痛みを引き起こすことがあります。

この冷えの影響を「寒邪(かんじゃ)」と呼び、寒邪により気血の流れが滞ると、「不通則痛(ふつうそくつう)」=“流れなければ痛む”という状態になります。

さらに、今回の痛みの原因である「寒邪」には「凝滞(ぎょうたい)」と「収斂(しゅうれん)」という特徴あるため、痛み方はギューッと引きつるような激しい痛みになります。

<主な特徴>
✅冷たい物の過食・過飲により引き起こされる痛み
✅痛みは激しく、絞られるような痛み
✅温めると痛みが和らぐ

胃を温めながら痛みを抑える漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:安中散、勝湿顆粒(藿香正気散)/香蘇散+芍薬甘草湯など

💊大正漢方胃腸薬
漢方の胃腸薬として有名な「大正漢方胃腸薬」は、上記の安中散と芍薬甘草湯を組み合わせた漢方薬になります。したがって、「寒邪」が原因の胃痛に対しては、非常に効果的といえるでしょう。
ただし、後述するような「熱」や「ストレス」、「胃の潤い不足」など、別の要因による胃の痛みには、異なるアプローチが必要です。症状の特徴に応じて、適切な漢方薬を選ぶことが大切です。

2.🔥胃熱(いねつ)
~食べ過ぎ・ストレスで胃に熱がこもる~

「食べたばかりなのに、すぐにお腹が空いてしまう」「しっかり食べたのに満足できない」「満腹になるまで食べないと落ち着かない」――そんな経験はありませんか?

中医学では、このような状態を「胃」に熱がこもり、働きが亢進している状態と考え、辛い物・脂っこい物・甘い物などの過食や精神的なストレスにより引き起こされると考えます。

<主な特徴>
✅胃が焼けるように痛む
✅胸やけがする
✅酸っぱい水や苦い胃液が出る
✅口臭が酷い
✅食べてもすぐお腹がする

「胃」に停滞している熱を清ましてあげる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:三黄瀉心湯、黄連解毒湯など

3.💢肝気犯胃(かんきはんい)
~ストレスや緊張が胃に影響~

緊張する場面(テストや面接、プレゼンの前など)やちょっとした不安(電車に乗った時や学校、会社に行く前)でお腹(胃)が痛くなったことはないでしょうか?

中医学では自律神経を主る「肝」の気が高ぶることで「脾胃」が攻撃され、その影響により胃の痛みが引き起こされると考えます。

<主な特徴>
✅精神が緊張状態の時に痛みがでる
✅ストレスを抱えやすい、緊張に弱い
✅お腹(胃)が張ったような痛み
✅よく脇腹が張る、ゲップをする

「肝」の気の流れを良くしながら、「脾胃」を守る漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:開気丸、四逆散、逍遥顆粒など

4.🩸瘀血阻絡(おけつそらく)
~血の巡りが悪くて痛む~

上記で述べた「寒邪」や「気滞」などが長期間続くと血の流れが停滞し「瘀血」が生じます。瘀血により「気血」の流れが塞がれ、「不通則痛」という状態を引き起こすため胃痛が生じます。

<主な特徴>
✅差し込むような痛み(針で刺されたような痛み)
✅痛みの箇所が固定している(瘀血は1か所に留まる)
✅お腹を擦ったり、触れたりすると痛みが増す(拒按)
✅吐血、便血がみられる

「気」と「血」の巡りを良くすると漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:加味逍遥散、桂枝茯苓丸など

5.💧胃陰不足(いいんぶそく)
~潤い不足による胃の不快感~

胃には、上記で述べたように胃粘液などの「防御因子」がありますが、この胃を守る粘液が不足している状態を「胃陰不足」と言います。(地面に潤いがなく、干からびてひび割れているような状態です。)
上記2で述べた「胃熱」が慢性的に続くと、胃内にある潤いが蒸発し「胃陰不足」へとつながります。また、長年胃の不調に苦しんでおり、胃酸を止める薬を飲んでも症状が一向に改善しない方にもこのタイプが多く見られます。

<主な特徴>
✅胃が焼けるように痛む
✅胸やけがする、上腹部の不快感
✅満腹感を感じやすい
口や舌が乾燥する
✅便秘気味でコロコロしている

「胃」に潤いを与えてくれる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:麦門冬湯、艶麗丹、百潤露など

6. 🥶脾胃虚寒(ひいきょかん)
~体質的な胃腸虚弱~

物心ついた時から胃腸が弱い、慢性的に胃痛が続いている場合は、このタイプにあたります。「脾胃」を温めるエネルギーが不足するとお腹の冷えを感じやすくなり、先に紹介した「胃寒」とは異なり、慢性的にシクシクという痛みが続きます。
「脾胃」が弱い方は、下記の特徴に加え、疲れやすかったり、下痢・軟便、食後にお腹が張る・眠くなるという症状を伴うことが多いです。

<主な特徴>
✅シクシクとお腹(胃)が痛む
✅お腹を擦ったり、おさえると痛みが和らぐ(気持ちが良い)
✅食後に痛みが緩和する
✅食欲があまりない、食事量が少ない

胃腸の働きを高めながら、お腹を温める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:小建中湯、人参湯、四君子湯類など

また、「脾胃」の機能が弱ると、水分代謝がうまくいかずに胃腸に余分な水分(湿)がたまります。その結果、胃痛だけでなく、胃のむかつきや吐き気(悪心)などの症状を伴うことがあります。このような場合は、半夏瀉心湯や黄連湯などの使用も考えられます。

最後に

以前「下痢と漢方薬 – 日々の生活に漢方を」の記事でもお話ししたように、日本人は胃腸が弱い体質の方が多い傾向があります。

しかし、胃の不調を「たまたま調子が悪いだけ」と軽く捉えてしまっていませんか?
中医学では、「脾胃(胃腸)」の健康の土台と考えます。「人間の体は食べたもので出来ている」とよく言いますが、健康への第一歩は「脾胃」の働きを良くすることが非常に重要になります。

長年続く胃の不調や、胃酸を止める薬(ファモチジンやオメプラゾールなど)を飲んでも症状が改善しない。あるいは、機能性ディスペプシアのように原因がはっきりせず西洋薬を飲んでも効果がいまひとつという場合は、漢方薬を選択肢にいれてみてはいかがでしょうか😌

漢方薬は、上記で述べたようにその症状のタイプに合わせて様々な漢方薬があります。ご自身の胃腸症状に合う漢方薬をお探しの方は、ぜひ一度ご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

五臓六腑:脾胃の働き

はじめに

中医学を勉強し始め約2年が経ちました。当時を思い返すと、日本人は外見や表面的な清潔さ・美しさには敏感でも、体の内側、つまり「内臓の健康」にはあまり目を向けていない傾向があると感じます。
最近では、テレビやCM、本などで、「腸内細菌」や「腸内フローラ」という言葉をよく聞くようになり、身体の内部にスポットが集まるようになってきました。しかし、中医学では2000年前も昔から「胃腸の健康=身体の健康」という考え方が重視されてきました。
「ご飯を食べると元気になる!」「人間の体は食べたもので出来ている!」という言葉があるように、胃腸の状態の良さがその人の身体の元気や健康へとつながります。言わば、胃腸が私たちの身体を作っているのです。

身体の根本とも言える胃腸(脾胃)の働きを理解し、健康的な生活の第一歩を歩み始めませんか。

「脾胃:ひい」の働き

「脾胃:ひい」は、現代医学の胃腸の働きに近く、私たちが摂取した飲食物を消化吸収し、身体に必要な栄養素(気・血・津液)を全身に届ける働きをしています。

「脾」と「胃」のそれぞれの詳しい働きは下記に記載してますので、気になる方はご参照ください。

「脾:ひ」の働き

■「脾」の生理機能
①運化(うんか)を主る
運化の「運」は運送や輸送、「化」は消化吸収を意味しており、運化には2つの働きがあります。

1.精微物質の運化:飲食物から人間の生命活動に必要な気(エネルギー)・血(血液)・津液(水)を作り出し、心肺に運び全身に届ける働きをしています。
そのため、「脾」は「気と血を生む源」と言われています。

2.水液の運化:水液を吸収して心肺に運び、全身に送り出します。

「脾」の働きが弱まり運化機能が失調すると、
1.精微物質の運化の失調:エネルギーを作り出すことができない
👉疲れやすい、やる気がでない

2.水液の運化の失調:水液代謝が機能しない
👉下痢や軟便、浮腫

という症状に陥りやすくなります。

②統血(とうけつ)を主る
「脾」は、血液を血管の中にとどめておく働きもあります。
中国の古典には「五臓六腑の血は全て脾気の統摂に頼る」と記されており、「脾」の働きが弱まると、血液が漏れ出しやすくなり、女性の不正出血や皮下出血(青あざができやすい)、鼻血、血便などの症状が現れやすくなります。

「胃:い」の働き

■「胃」の生理機能
「胃」の働きは、現代医学の機能と近いとされており、以下の働きがあります。
①受納(じゅのう):飲食物を受け入れる

②腐熟(ふじゅく):飲食物を消化しやすい状態にする

③降濁(こうだく):消化した飲食物を小腸へ降ろす

胃の働きが弱まると、上記の①→③の流れが機能しないため、食欲が減退したり、飲食物が小腸へ送ることができず逆流し悪心や嘔吐、ゲップ、お腹(胃)が張って痛むというような症状が出やすくなります。

「脾」と「胃」の関係

「脾」と「胃」は表裏関係にあり、お互いに協力しながら消化・吸収を担っています。
「胃」が食べ物を受け取り下へ送る「下降」の働きを担い、「脾」は栄養を吸収し上に運ぶ「上昇」の働きをします。この“上昇”と“下降”のバランスが崩れると、消化吸収全体の流れが滞り、体調不良へとつながります。

「脾」と五行の関係性


①脾は口に開竅(かいきょう)し、その華は唇にある
口と唇は「脾」と深い関係にあり、脾の働きが弱まると以下の症状が出やすくなります。

✅味覚が変化する(口が淡く味を感じない)
✅口が粘つく
✅唇が乾燥する、唇の色が薄くなる
✅口やその周辺にできものができる

②脾は肌肉(きにく)を主り、四肢を主る
肌肉とは、私たちの筋肉や脂肪、皮下組織を指します。
「脾」の運化機能が正常に働くと、生成された「気」や「血」が身体のすみずみ(四肢)まで巡らせ、筋肉や脂肪に届き運動の原動力となります。そのため、「脾」が弱ると、肌肉や四肢に栄養がいかず、筋肉が落ちる、痩せる、倦怠無力といった症状へと繋がります。

③脾の志は思である
中医学では、「思(考え事をしたり、何かを深く考え込んだり)」という感情は、「脾」と関連性が深いとされ、思慮過多(深く考え過ぎると)になると、「脾」が傷つけられ、その働きが低下します。また、「心」は精神・メンタルと関係があるため、「思は心脾から発する」とも言われています。
考え事や悩み事が続くと、食欲が低下したり、眠れない日々が続くのは、「脾」が損傷され、「気・血」が生み出されず、同時に「血」が消耗されることが原因になります。この時に使用される代表的な漢方薬が帰脾湯になります。

④脾の液は涎(よだれ)である
涎は、唾液中の希薄な液体を指します。働きは唾液と同様で、口腔粘膜の保護や消化の補助をしています。唾液が何だか粘つく、話している最中に唾液が溢れるなどの症状がみられる場合は、「脾」が弱っている可能性があります

⑤脾は燥を喜び、湿を悪む / 胃は湿を好む
~「脾胃」の働きは、家を建てる工程に似ている?~

家を建てる時の工程を想像してみてください。

まず、山から木を伐り出し、それを建築用の木材として加工し、それらの加工された木材を使って家を組み立てていきます。この一連の流れは、中医学でいう「脾胃(ひい)」の働きにとてもよく似ています。

たとえば、「胃」は、飲食物を受け入れて、消化しやすいように分解する役割を担います。これは、伐り出された木を整えるために加工される工程と似ています。
木材を加工する際、完全に乾いてしまっていると割れや反りが生じて使いにくくなります。そのため、木材にはある程度の「潤い」が必要です。同じように、胃も消化のためには「湿(しめり)」、つまり胃液のような体液が必要となります。

一方、「脾」は、胃で消化されたものを栄養として吸収し、それを身体全体に運ぶ働きをします。これは、大工が加工した木材を使って家を建てていく作業にあたります。
しかし、大工の仕事も、雨の日や地面がぬかるんでいる状況では、作業がはかどらないように、脾も「湿(しめり)」が多い環境ではその機能が鈍ってしまいます。「脾」は「乾燥を好み、湿を嫌う」臓器なのです。

つまり、「脾」と「胃」はともに「湿」と関わりがありますが、「胃」は適度な湿潤を必要とし、「脾」は過剰な湿を嫌う。このバランスが崩れると、脾胃の働きに支障が出てしまいます。

最後に

健康への第一歩は「脾胃」の状態から始まると言っても過言ではありません。

「毎日しっかり食べているから大丈夫」「サプリも摂ってるし安心」と思っている方も多いかもしれません。しかし、「脾胃」が正常に機能しなければ、栄養を吸収することも全身に届けることもできません。
✅何だか疲れやすい
✅やる気がでない
✅食後の眠気が気になる など

その不調の裏には、「脾胃」の弱りが隠れているかもしれません。
毎日を健康で快適に暮らすためにも自身の生活を見直し、少しでも「脾胃」に思いやりのある暮らしを心掛けましょう。

<脾胃を守る養生法😌>
🟡冷たい物を避ける
→冷たい物は脾胃を傷つけます。

🟡肥甘厚味を避ける
→肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物は脾胃に負担をかけます。

🟡腹八分を心掛ける
→胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事が良いとされています。

🟡一口30回を目安に噛む
→食べ過ぎ防止、消化を助けることにつながります。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

カゼに使う漢方薬

「カゼのときには葛根湯!」
そう思っている方も多いのではないでしょうか。実際、病院で処方されることも多く、ドラッグストアでは「カゼの初期に」「予防に」といった宣伝も目にします。

しかし、すべてのカゼに葛根湯が適しているわけではありません。
漢方では、症状だけでなく「体質」や「発症のきっかけ」なども含めて総合的に判断し、個々に合った処方を選びます。

では、カゼにはどのようなタイプがあり、それぞれにどんな漢方薬が使われるのでしょうか。

中医学における「カゼ」の考え方

中医学では、カゼは「邪気」が体内に侵入することで発症すると考えます。この邪気とは、私達の身体にとって悪いもの、現代医学で言うウイルスや細菌などを指します。

特にカゼは、自然界の「風(ふう)」に乗って体内へ侵入すると考えられていたため、「風邪(ふうじゃ)」と呼ばれます。これは、風のように突然やってくることから名付けられました。

風邪には寒や熱、湿気や乾燥といった性質が加わることで、以下の4つのタイプに分類されます。

  1. 風寒(ふうかん)
  2. 風熱(ふうねつ)
  3. 風湿(ふうしつ)
  4. 風湿(ふうしつ)
  5. 風燥(ふうそう)

1.風寒❄️

<症状の特徴>
✅悪寒が強い
✅発熱が軽い
✅汗がでない
✅口や喉が渇かない
✅その他:頭痛・身体の痛み / 鼻水(透明)・鼻づまり / 咳や痰(白い)  

身体を温めて汗をかかせ、汗とともに風寒の邪気を追い払う漢方薬を使います。
漢方薬の例:麻黄湯、葛根湯など
既に汗がしっとり出ている場合は、上記の漢方薬よりも発汗の作用が弱い「桂枝湯」を使います。鼻水や咳の症状が酷い時は「小青竜湯」を使うのも良いでしょう。

⚠️注意点:麻黄を含む処方を複数併用すると、発汗過多・動悸・脱力感などの副作用が出る可能性があるため、併用には注意が必要です。

2.風熱☀️

<症状の特徴>
✅悪寒が軽い
✅熱が高い
✅汗がでる
✅口や喉が渇く
✅その他:喉の痛み / 鼻水(黄色)・鼻づまり / 咳・痰(黄色く粘り気がある)

身体内に熱(炎症)を冷やしつつ邪気を追い払う漢方薬を使用します。
例:涼解楽(銀翹散)、銀翹解毒散など

熱が高い:+「白虎加人参湯」
喉の痛みが強い:+「板藍茶」や「五味消毒飲」
咳症状が酷い:+「麻杏甘石湯」や「五虎湯」 との併用も効果的です。

3.風湿💦

<症状の特徴>
✅寒気、微熱
✅体が重だるい、頭が重く痛い
✅胃腸症状(食欲不振、下痢・軟便)
✅その他:痰の多い咳、胸が重苦しい

余分な水分(湿邪)を乾燥させ、邪気を追い払う漢方薬を使います。
例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散など

💡湿邪をもっと詳しく💡
湿邪には「重く濁り、粘着して停滞する」という性質があります。

この湿邪と体の関係をイメージするには、「除湿機」を思い浮かべてみてください。
梅雨や夏のジメジメした時期、空気中の湿気を吸い取ってタンクに水を溜めていくのが除湿機ですよね。実は、これと似たようなことが体の中でも起こり、湿気が体内にたまると、水が溜まったように重くなり、体がだるく感じたり、頭が重く痛んだりします。

さらに、中医学では「脾(=胃腸)」は「乾いた状態を好み、湿った状態を嫌う」という言葉があり、湿邪の影響がが脾に及ぶと、食欲がなくなったり、下痢や軟便といった胃腸の不調へとつながります。

4.風燥🍂

<症状の特徴>
✅微熱
✅空咳
✅痰の切れにくい咳

肺には「燥を悪み、潤を喜ぶ」という性質があるため、風燥の邪気が体内に侵入すると肺に影響が及び、呼吸器系を中心に症状がでます。

肺を潤し咳を鎮める漢方薬を使用します。
例:麦門冬湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、白龍散など
熱感が強ければ、竹葉石膏湯や清肺湯を使用しても良いでしょう。

最後に

「なかなか治らないカゼ」
「何度も風邪を繰り返してしまう」
「コロナ後遺症のような症状が続いている」

こうしたケースでは、体質的な弱りやバランスの乱れが背景にあることが少なくありません。

漢方では、単に「病名」や「症状」に応じて薬を出すのではなく、その症状がどんな背景で起きているか、どんな体質と関係しているかを総合的に考えたうえで処方を決めます。

カゼ一つをとっても、人によって原因や現れ方は異なります。だからこそ「葛根湯だけ」に頼るのではなく、ご自身に合った漢方薬を選ぶことが大切です。

風邪の症状でお困りの方、また体質改善を含めたご相談をご希望の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐