紫外線・日焼けと漢方薬

はじめに

梅雨が明けて夏の陽射しが強まる季節、気になってくるのが「日焼け」や「くすみ」など、肌への紫外線ダメージではないでしょうか。
特に近年の日本は、まるで亜熱帯のような猛暑が続き、紫外線の強さも年々増してるように感じます。

紫外線対策として日焼け止めを使う方が多いと思いますが、
「塗り直しが面倒…」
「肌荒れや乾燥が気になる…」
そんなお悩みを抱えている方も少なくありません。

日焼け止めのデメリットを補いつつ、内面から紫外線を守る「中医式 紫外線対策」で日焼けやくすみの対策をしてみませんか?

紫外線について

日光(紫外線)を浴びることは、骨密度や免疫力の維持、体内時計のリセットなどのメリットがある一方で、紫外線を浴びすぎると肌の日焼けやシミ、たるみの原因となります。

☀️紫外線には種類がある
紫外線にはUV-A、UV-B、UV-Cがありますが、地上に届くのは主に「UV-A」「UV-B」の2種類です。

◆UV-A:シワ、タルミの原因となる
波長の長いUV-Aは、肌のより深く(真皮)まで侵入し、皮膚を構成するコラーゲンやエラスチンなどにダメージを与えます。このダメージが蓄積されると、肌は弾力を失いシワやタルミを引き起こす原因となります。また、日差しを浴びた後にすぐ黒くなるのはUV-Aの影響といわれています。

◆UV-B:シミ、ソバカスの原因となる
UV-BはUV-Aより波長が短いため肌の奥深くには届きませんが、その分ダメージが強く、肌の炎症を引き起こすため、肌が赤くなったり、メラニン色素が沈着してシミやソバカスの原因になります。

日焼け止めのPA、SPFって?

◆PA:Protection Grade of UVA
UV-Aを防ぐ指標。「+」「++」「+++」「++++」の4段階で表示され、「+」の数が多いほど、UV-Aに対する防止効果が高いです。
 
◆SPF:Sun Protection Factor
UV-Bを防ぐ指標。1~50(50を超える場合は50+)で表示され、数値が高いほど、UV-Bに対する防止効果が高いです。

中医学で考える紫外線対策

1.💧補陰=潤いを補う
 夏の強い日差しや紫外線を浴びると、お肌はたっぷりの水分を失ってしまいます。イメージとしては、まるで干物のお魚のように…中がカラカラに乾いていると、ちょっとした熱でもすぐに焦げてしまう状態です。

スキンケアで保湿クリームを使っている方も多いと思いますが、これはあくまで肌の表面を守るものです。実は、クリームに含まれる成分の多くは皮膚の奥深くまで届かないため、本当の意味での「潤い補給」にはなりにくいです。

中医学には、「体の内側から潤いを補う=補陰」という考え方があります。
紫外線の対策には、外から守るケア+内から潤すケアの両方があるとベストです。

<潤いを補う漢方薬の例>
艶麗丹(哈士蟆油含有製剤)、亀鹿仙、婦宝当帰膠など

2.💪補気=バリアを作る
 「気」とは、体を守るエネルギー源のようなもの。
この「気」が不足していると、肌の表面にあるバリア(汗腺や毛穴をコントロールする働き=腠理〔そうり〕)がゆるみやすくなり、体内の水分が逃げやすくなります。その結果、日焼けしやすく、乾燥しやすいお肌になってしまいます。

<「気」が不足しているサイン>

✅風邪を引きやすい
✅汗をかきやすい
✅疲れやすい
✅すぐ息がきれる など

<「補気」に役立つ漢方薬の例>
西洋人参、衛益顆粒、補中益気湯など

3.🩸活血=血流を良くする
せっかく体の中に「潤い(陰血)」や「エネルギー(気)」を補っても、それをお肌までしっかり届ける血流が悪ければ意味がありません。
お肌に栄養が行き渡らないと、皮膚の新陳代謝や再生が低下し、健康でみずみずしく美しい状態に維持することが難しくなります。
また、中医学ではシミやクスミ、そばかすは血の滞りが原因と考えられているため、血流を整えることが美肌への近道となります。

<血流を良くする漢方薬>
紅棘沙(ホンサージ)、冠元顆粒、水快宝など

🌿棘沙(サージ)って?
中国では「美容の果実」「ビタミンの宝庫」とも呼ばれ、お肌の修復や美白、エイジングケアにうれしい栄養がぎっしり詰まった果実です。
✔ ビタミンE:皮膚や粘膜の修復、抗酸化作用
✔ ビタミンA:シワの改善や肌のハリUP
✔ ビタミンC:メラニン生成を抑え、シミ予防にも◎

最後に

中医学では「皮膚は内臓の鏡」とされており、お肌の状態は身体内部のバランスを映し出すものと考えられています。
いくら高価な日焼け止めやスキンケア商品を使っていても、身体内部の状態が良くなければ健康で綺麗なお肌を維持することは困難です。
漢方薬をはじめ、生活習慣や食事内容を見直しながら、お一人おひとり内面のをケアするお手伝いを出来たらと思います。

紫外線対策はもちろんのこと、皮膚の乾燥・痒み・シミ・くすみなどでお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
中医学の視点から、あなたにとって最適な「内側からの美容ケア」をご提案させていただきます。

薬剤師 / 国際中医専門員  中目 健祐

高血圧と漢方薬

はじめに

高血圧は、別名「サイレントキラー」とも呼ばれ、血圧が高い状態のままでいると、脳卒中や心筋梗塞、腎不全など重大な合併症を引き起こす可能性が高くなります。
実際に日本人の死因で上位を占める「心疾患(第2位)」「脳血管疾患(第4位)は高血圧と関連があり、血管に大きな負荷をかけないことが非常に重要になります。

中医学には、病気の発症や病状が悪化する前に未然に防ぐ「未病先防(みびょうせんぼう)」という考え方があります。
高血圧を診断された段階では、まだはっきりとした症状を感じないことも多いですが、この“未病”の時点でしっかりと対処していくことで、将来的な合併症のリスクを抑えることができます。

血圧の基礎知識

血圧とは?
血圧とは、心臓から送り出された血流が血管(動脈)の内壁を押す力(圧力)を指し、心臓から拍出される血液量(心拍出量)と末梢血管での血液の流れにくさ(末梢血管抵抗)により決まります。

血圧の「上」と「下」って?
血圧を測定すると「上が130で下が80」といった数値が表示されますが、そもそも「上」と「下」の違いは何でしょうか?

・上=収縮期血圧(最高血圧)
心臓が収縮して血液を全身に送り出すときの血圧

・下=拡張期血圧(最低血圧)
心臓がポンプするために血液をためて膨らんでいる(拡張している)時の血圧

高血圧の診断基準
日本高血圧学会の「ガイドライン2019」によると、病院などの医療機関で測定した血圧(診察室血圧)では「収縮期血圧は140mmHg、拡張期血圧は90mmHg」以上を高血圧としています。
家庭で測定した「家庭血圧」は医療機関での測定より低い数値が出る傾向にあるため、それぞれ5mmHgを引いた数値となります。

また、降圧目標は下記のように設定されています。

中医学で考える高血圧

1.瘀血阻絡(おけつそらく)

「瘀血」とは、血管に溜まった汚れや血液がドロドロした血の巡りを悪い状態を指します。
一般的に血管というと、動脈や静脈といった太い血管をイメージされますが、太い血管は全体の1%程度で、その他は太さ6μm程の目に見えない毛細血管が99%を占めています。
この毛細血管の血液の流れが悪いと、血管の抵抗性が高まり血圧の上昇へとつながります。また、血液の流れが悪いことで心臓が血液を流そうと頑張ってポンプするため血圧が高くなります。

<🩸瘀血タイプの特徴>

✅頭痛・めまいがある
✅首や肩のこりがある
✅手足の静脈が浮き出ている
✅生理痛がある、生理に塊が混じる
✅舌裏の血管が青紫色に怒張している

血の巡りを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参など

2.湿熱内停(しつねつないてい)

血の巡りを悪くする原因は「瘀血」だけではありません。
中医学では、体に溜まった不要な水分や老廃物を「「痰湿」といい、この「痰湿」が体内に長く停滞すると、やがて熱を帯びて「湿熱」という状態へと変化します。

「湿熱」が血管内に溜まると、まるでヘドロで詰まった水道管のように、血管の流れが悪くなり、血圧が上がる原因となります。

<🗑️湿熱タイプの特徴>

✅脂っこいもの、味の濃いもの、お酒が好き
✅ぽっちゃり体型(メタボ体型)
✅身体が重だるい、胃がむかむかする
✅口が苦い、臭い、粘る
✅舌に苔がべっとりついてる

老廃物である「痰湿」や「湿熱」を解消する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:星火温胆湯、瀉火利湿顆粒(竜胆瀉肝湯)、黄連解毒湯など

3.肝陽上亢(かんようじょうこう)

「肝陽上亢」とは、体内の潤い(陰血)が減り、熱(陽気)が相対的に強まっている状態をいいます。

イメージとしては、やかんでお湯を沸かすときの状態。
水がたっぷりあるとバランスが取れてゆっくり沸きますが、水が少ないとすぐに煮え立って湯気が噴き出しますよね。
この”水”が少なく、湯気(熱)が上に昇るような状態がまさに「肝陽上亢」です。

<♨️肝陽上亢タイプの特徴>

✅のぼせて顔が赤くなる
✅頭痛、めまい、耳鳴りがする
✅足腰がだるい
✅寝汗をかく

上部へ上昇した「陽」を抑える漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:釣藤散、降圧丸など

また、上記に合わせてやかんの水の部分(中医学では「陰」といいます。)を補給するような漢方薬を使用するとより効果的です。
漢方薬の例:双料杞菊顆粒(杞菊地黄丸)、瀉火補腎丸(知柏地黄丸)、亀鹿仙など

4.その他:沙棘(サージ)製品

上記で述べたように、血圧が上がる原因の一つとして血管壁の弾性がなくなり血管が硬くなることで起きる場合があります。
このような時に血管を柔らかくしたり、微小循環の改善や抗酸化作用のある沙棘(サージ)製品を使用すると血圧が下がる場合があります。

最後に

漢方薬は、西洋薬のようにすぐに血圧をガクッと下げるものではありません。
しかし、中医学の大きな強みは「未病先防」——つまり、症状が本格的に現れる前の段階から体を整え、病気の予防や悪化の防止に役立てることができる点にあります。
自身の体質を理解し、漢方薬で病気になりにくい体を作りませんか。
血圧や血流に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

気象病と漢方薬

はじめに

「雨の日は頭痛や浮腫みがする」
「気圧の変化や台風の接近でめまいや古傷が痛みがでる」
「梅雨の時期になると、身体が重だるくなったり気分が落ち込む」

このように、気候や気圧、湿度の変化により心身にさまざまな不調が現れることがあります。近年では、これらの症状をまとめて「気象病(きしょうびょう)」と呼び、注目されるようになってきました。

<代表的な症状>
✅頭痛、めまい、耳鳴り
✅疲労、倦怠感、眠気
✅腹痛、下痢
✅関節痛、しびれ、古傷が痛む
✅気分の落ち込み、憂鬱感

これらの症状を自然の影響だからと諦めている方も多いのではないでしょうか?

中医学には「天人合一(てんじんごういつ)」という考えがあります。
これは、「人間は自然界の影響を受けて生活しているため、人体と自然界を分けて考えることはできない」というものです。

古くから自然との調和を一番に考えている中医学は、西洋医学とは異なり気候の移り変わりに対応できるような漢方薬が数多くあり、非常に得意な分野といえます。

これから迎える梅雨の季節は、「気象病」に苦しむ方が多くなる季節です。中医学の知恵を日々の生活に取り入ることで、自然と調和しながら心身を整えていくお手伝いができたらと思います。

中医学で考える気象病

「気象病」に関わらず、中医学では体内の「気・血・津液」のバランスを非常に重要と考え、これらが過不足なく、そして滞りなく巡っていることで健康な状態が保たれます。

1.津液(水)の滞りタイプ(痰湿タイプ)

梅雨の時期や雨の日など湿度が高い環境は、まるで除湿剤が水分を吸うように、体内にも余分な「湿(しつ)」が溜まりやすくなります。この“湿”の滞りがさまざまな不調を引き起こし、中医学では「痰湿タイプ」と呼びます。

<主な特徴>
✅頭や身体が重だるい
✅めまい、耳鳴りがする
✅むくみやすい
✅関節が痛む
✅軟便や下痢になりやすい

身体内にある余分な水分を解消する漢方薬が適しています。
漢方薬の例:勝湿顆粒、平胃散、五苓散など

⚠️日常の食生活が湿を生むことも…
普段から以下のような飲食を好む方は、身体に「湿」を溜めやすい傾向があります。

🟡冷たい飲み物、サラダ、お刺身、アイスクリームなどの生冷飲食
🟡脂っこい物、甘い物、味の濃い物などの肥甘厚味

このような食生活が続くと、体内に余分な水分が溜まりやすくなり、さらに外からの湿気の影響も受けやすくなります。中医学ではこれを「内湿が外湿を呼ぶ」と表現します。

湿度の変化による不調を生じやすいタイプは、日頃から身体内に余分な水を溜め込まないことが重要になります。

😩胃腸の弱りが「湿」を悪化させる
中医学では「脾は生痰の源」という言葉があり、脾胃(胃腸)の働きが弱ると、水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まりやすくなります。

✅疲れやすい
✅食欲がない
✅食後、お腹が張ったり、眠くなる
✅軟便気味、下痢しやすい

などがみられる方は、まずは脾胃(胃腸)の状態を改善させることや上記で述べた生冷飲食や肥甘厚味を控えるなどの生活習慣を見直すことから始めると良いかもしれません。

2.気の滞りタイプ(気滞タイプ)

自律神経には、「交感神経」と「副交感神経」があり、内臓の働きや代謝、体温、メンタルなど私たちの身体の様々な機能をコントロールしています。

自律神経が乱れる主な要因は、精神的/肉体的なストレスなどがありますが、気温や気圧、湿度の変動も私たちの身体にはストレスと感じ、自律神経がバランスを乱れる要因となります。

<主な特徴>
✅イライラしやすい、怒りっぽい
✅抑うつ、憂鬱感がある
✅ため息が多い、胸や脇腹が張る
✅生理前症候群(PMS)がある

気の巡りを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:逍遥顆粒、柴胡疏肝湯、開気丸など

3.血の滞りタイプ(瘀血タイプ)

中医学では、「水(津液)」や「気」が滞ると、その影響を受けて「血」の巡りも悪くなります。人間の身体は血液が運ぶ酸素や栄養によっていきいきと健康な状態が保たれますが、この大切な役割を担っている血液の流れが悪くなると酸欠や栄養不足となり様々な不調の原因になります。

🌧️気圧の変化と血流の関係
登山中にお菓子の袋がパンパンに膨らむように、気圧が下がると私たちの血管も膨張しやすくなります。これにより、血管が拡張し普段に比べ血の巡りが悪くなります。

<主な特徴>
✅首/肩こりがする
✅頭痛、関節が痛む、手足がしびれる
✅手足の末端が冷える
✅生理痛が酷い、経血に塊が混じる

「血」の流れを改善する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、芎帰調血飲第一加減など

最後に

中医学は「中和(調和)の医学」。ある先生の言葉です。
この言葉の通り「気象病への対処は、まさに“中和”の実践そのもの」といえるでしょう。
私たちは自然の一部であり、気候や環境の変化に逆らうのではなく、自然と身体を中和(調和)することが症状改善への近道です。

当薬局では、漢方薬や生活養生のアドバイスを通じて、お一人おひとりに合った「中和のヒント」をご提案しています。

雨の日の不調や季節の変わり目の辛さにお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください🌿

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

汗と漢方薬

はじめに

汗には、体内の不要な老廃物や毒素の排出(デトックス)、体温調節、皮膚の保湿など大切な役割があります。

しかし…
☑少し動いただけで汗がダラダラ
☑更年期に入り汗が気になる
☑寝汗が酷く、パジャマやシーツがびっしょり
☑手や足、脇の汗・臭いが気になる
☑緊張すると汗が止まらない
など、日常生活に支障が出るような”不快な汗”に悩んでいる方も多いと思います。

「病院に行くほどではないけど…」「他人にも相談しにくいし…」
そんな方へ、中医学の視点から汗の原因について考えたいと思います。

中医学で考える汗💦

中医学では次の5つのタイプで汗の異常を考えます。

1.🫁肺気不足(はいきふそく)
中医学における「肺」には、呼吸系の働き以外に体表にある汗腺の開閉をコントロールする役割を担っています。
そのため、「肺」の力が弱っている方は、汗腺(中医学では「腠理:そうり」)が緩んだ状態であるため、少しの動きで汗が漏れ出たり、邪気が入りやすく風邪を引きやすくなります。 

🔍 こんな方に多い

✅活動後に汗が出やすくなる
✅風邪を引きやすい、冷気(冷房)を嫌がる
✅疲れやすい
✅すぐ息が切れる

「肺」の働きを高める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:衛益顆粒(玉屛風散)、補中益気湯など

2.⚖️営衛不和(えいえいふわ)

「営衛不和」とは、「営気(えいき)」と「衛気(えき)」のバランスが崩れた状態をいいます。
🟡営気:「津液(水)」を「血」に作り変え、体に栄養や潤いを届ける
🟡衛気:皮膚の表面を守るバリアのような気で、汗腺の開閉もコントロール

この2つのバランスが崩れると、「衛気」が「営気」をとどめておくことができず、汗として外に出てしまいます。

🔍 こんな方に多い

✅発汗後、風に当たるとゾクゾクと嫌な感じがする
✅半身や局所的に汗がでる
✅カゼの様な症状を伴う(軽い発熱、悪寒、だるい)

「営衛」のバランスを整える漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:桂枝湯、桂枝加竜骨牡蛎湯など

3.🔥陰虚火旺(いんきょかおう)

中医学では「心」は火(陽)に、「腎」は水(陰)に属し体内の温度調節を行っていると考えられています。

「陰虚火旺」の状態では、体内を冷却する「水(陰)」が不足することで、相対的に「心」の力が増すため、「火(陽)」の亢進が起こり汗をかきやすくなります。

🔍 こんな方に多い

✅寝汗をかく
✅手足がほてる、微熱がある
✅口が渇く
✅便秘気味

冷却水(腎陰)を増やし、火を鎮める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:瀉火補腎丸(知柏地黄丸)、六味地黄丸など

4.♨️湿熱鬱蒸(しつねつうつじょう)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰湿」と呼び、この「痰湿」が長く停滞すると、やがて熱を帯び「湿熱」という状態へと変化します。
まるで、生ゴミが腐って熱を持つように、体内で熱を帯びた「湿熱」は汗となって噴き出します。

🔍 こんな方に多い

✅蒸すように汗が出る
✅口が苦い、臭い、粘る
✅舌に苔がべっとりついてる
✅脂っこい物、甘い物、味の濃い物やお酒が好き

余分な水分や老廃物を除去するとともに熱を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:瀉火利湿顆粒、茵蔯五苓散など

5.肝気鬱結(かんきうっけつ)

「大事な場面で汗が噴き出して止まらない…」
そんな経験はありませんか?😓

中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」の流れを調節し、精神面の安定に関与していると考えらています。
過度なストレスなどにより「肝」の働きが乱れると「気」の流れが滞り、「肝気鬱結」という状態になります。

🔍 こんな方に多い

✅精神的な負荷がかかった場面で汗が出る
✅普段からストレスを感じやすい
✅情緒が不安定になりやすい

「肝」の働き正常化し気の流れを良くする漢方薬を使用すると効果的です。
漢方薬の例:加味逍遥散、柴胡加竜骨牡蛎湯など

⚠️大量の発汗=健康とは限らない?

一般的に汗を大量にかくこと=デトックスだと考えられ、サウナやホットヨガなど不自然に大量の汗をかくことがブームになっていますが、これらは万人に合うものではありません。

特に「1.肺気不足」「2.営衛不和」「3.陰虚火旺」のタイプには、無理な発汗はオススメできません。

中医学では「汗(津)血同源:かん(しん)けつどうげん」という言葉があり、汗(津液≒水)と「血」は同じ源からできていると考えます。
つまり、汗を大量にかくことは、体内の水分量の減少だけでなく、血の消耗も意味し、血液の循環に関わる心臓への負担も大きくなります。このことから「汗は心の涙」ともいわれています。

サウナで「心が整う」感覚も、ひょっとしたら暑さに耐えた達成感からくるものであり、実際には「心はもうやめてくれー!」と悲鳴を上げているかもしれません。

最後に

汗が出てしまう原因や体質は人それぞれです。
不快な汗の原因を中医学的に見極め、体質に合う漢方薬と食養生で整えていきましょう。

「つらいけど、どうしたらいいかわからない」
そんな時こそ、お気軽にご相談ください😊

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

下痢と漢方薬

日本人は胃腸が弱い!?

日本人は胃腸が弱い」と耳にすることはありませんか?
実際、多くの方が下痢や軟便、食欲不振などの胃腸トラブルに悩んでいます。
では、なぜ日本人はこのような症状を起こしやすいのでしょうか?

本題に入る前に、中医学的な視点からから紐解いてみましょう。

🌿 中医学の基本「天人合一(てんじんごういつ)」とは?

中医学には「天人合一:てんじんごういつ」という考えがあります。
これは、「人の体は自然と切り離せず、環境の影響を受けながら生きている」という考えで、自然界の変化(気候や湿度など)は、体の中にも影響を及ぼします。

日本の風土は“湿”が多い
日本は、海に囲まれた島国で雨が多く、特に梅雨から夏の終わりまでの数ヶ月間は高温多湿の環境が続きます。さらに、一年を通して湿度の高い日が多いのが特徴です。

また、日本人の食生活の特徴として、生物(刺身や生肉など)や冷水(暑さや寒さに関わらず、飲食店ではお冷がでますよね。)を好む人種でもあります。
こうした環境や食生活から、「天人合一」の考え方を踏まえる、日本人は他の人種に比べて身体内に「湿気(湿)」を溜め込みやすいと考えられます。

「脾胃(ひい)」と「湿」の関係

さて、中医学における胃腸(脾胃)の働きをみてみましょう。

「脾胃:ひい」の働きに1つ「運化」というものがあります。
運化の「運」は運送や輸送、「化」は消化吸収を意味しており、運化には2つの働きがあります。

1.精微物質の運化:気・血・津液(水)を作り、全身に届ける
2.水液の運化:水液を吸収して全身に輸送・散布する

水はけの悪いグランドだと、足が取られ体の動きが悪くなるように、エネルギーや水を運ぶ脾には「湿を嫌う」という特徴があります。

よって、「湿」が体内にあると「脾胃」の働きが低下してしまい…

1.精微物質の運化の失調:エネルギーを作り出すことができない
→ 疲れやすい、やる気がでない

2.水液の運化の失調:水液代謝が機能しない
→ 下痢や軟便、浮腫

という状態に陥りやすくなります。

上記の「天人合一」で述べたように、日本人は気候や食生活から「脾胃」が嫌う「湿」を溜めやすく、作りやすい環境下にいます。そのため、気付かない間に「脾胃」に負担がかかっており、徐々に胃腸が弱っていくことで下痢や軟便、腹部膨満感などの胃腸のトラブルが起こしやすい身体になっていきます。

💡中医学で考える下痢

中医学では下痢のことを泄瀉 (せっしゃ)と呼び、下記の5つタイプに分けて考えます。

1.外感泄瀉(がいかんせっしゃ)
~風邪やウイルスが原因の急な下痢~

カゼのように「外から邪気(悪い影響)」が体に侵入し、「脾胃」に影響を及ぼすことで起こります。いわゆる“胃腸風邪”のような症状です。

【「邪気」や「風邪」って何?】という方はこちらのブログも参考になります👇
カゼと漢方薬 – 日々の生活に漢方を

カゼ(外感表証)に加えて、「寒」や「熱」の邪が体内に侵入し、脾胃の働きを妨げることで下痢が起こるタイプです。そのため、 カゼ症状(表証)を和らげつつ、体内に侵入した“湿”をさばく(取り除く) 漢方薬を用います。

<🤧外感表証(カゼの症状)の主な症状>
✅悪寒
✅発熱
✅頭痛 など

このカゼ症状に加えて、以下のように「寒湿タイプ」「湿熱タイプ」に分かれる下痢の症状が現れます。

<❄️寒湿タイプ>
✅下痢(水様便、臭いが少ない)
✅腹痛、お腹が張る
✅お腹がゴロゴロとなる
✅食欲不振
漢方薬の例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散、胃苓湯など

<🔥湿熱タイプ>
✅下痢(悪臭が強い、便器にこびりつく、急に激しい下痢)
✅肛門の灼熱感
✅口の渇き
✅尿の色が濃い
漢方薬の例:葛根黄芩黄連湯、黄連解毒湯、五行草(馬歯莧)など

⚠️ 外感表証がない場合でも…
カゼ症状が見られない場合でも、急性の下痢であれば「寒湿」か「湿熱」かを見極め、それぞれに適した漢方薬を使用することが大切です。

2.食傷泄瀉 (しょくしょうせっしゃ)
~食べ過ぎ・飲み過ぎにより生じる下痢~

脂っこいものや味の濃いもの、お酒のとりすぎなどで「脾胃」に負担がかかることで起こります。

<🍶主な特徴>
✅便に未消化物が混じり悪臭がする
✅悪心・嘔吐がする
✅胃がもたれる
✅腐臭のあるゲップをする
「脾胃」に溜まっている食積の消化を促すような漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:晶三仙(山査子、麦芽、神曲)など

3.肝鬱泄瀉 (かんうつせっしゃ)
~ストレスや緊張でお腹を下すタイプ~

緊張する場面(テストや面接、プレゼンの前など)やちょっとした不安(電車に乗った時や学校、会社に行く前)でお腹を下したことはないでしょうか?

中医学では自律神経を主る「肝」の気が高ぶることで「脾胃」が攻撃され、その影響により引き起こされると考えます。

<主な特徴>
✅下痢(精神が緊張状態の時)
✅ストレスを抱えやすい、緊張に弱い
✅脇腹が張る、お腹が張る
✅ゲップをする
「肝」の気の流れを良くしながら、脾胃を守る漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:逍遥顆粒(逍遥散)、四逆散、柴苓湯など

4.気虚泄瀉 (脾胃虚弱)(ききょせっしゃ(ひいきょじゃく))
~胃腸がもともと弱い体質タイプ~

「幼少期から胃腸のトラブルが多い」
「食後すぐに下痢をする」
「お腹を下すから脂物は食べない」など
一般的に胃腸が弱いと言われる方に多いタイプです。

「脾胃」の働きが低下すると水液代謝が低下するため、腸で吸収されなかった水分が便と混じることで下痢を引き起こします。

【脾胃」の詳しい解説は👇】
五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

<主な特徴>
✅下痢、軟便、便秘と様々なタイプに変化する
✅便中に未消化物が混じる
✅食後にお腹が張る、眠くなる
✅疲れやすい、やる気がでない
✅食べても太れない(痩せやすい)

「脾胃」の働きを補いながら、下痢の原因である「湿」をさばく(水分代謝を改善する)漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:健脾散(参苓白朮散)、健胃顆粒(香砂六君子湯)など

5.陽虚泄瀉 (ようきょせっしゃ)
一般的に胃腸が働きやすい温度は、人間の体温(36~37℃)に近い温度と言われており、お腹が常に冷えてる方や慢性的に冷えが強い方は胃腸の機能が低下しやすくなります。

特に高齢の方や生まれつき虚弱体質の方は、全身の臓腑を温める「腎陽」の働きが低下していることが多く、その結果「脾」を温めることができないため、胃腸機能の低下することがあります。

<主な特徴>
✅下痢、水様便(特に明け方に下痢をすることが多い)
✅便に未消化物が混じる
✅手足や腰、お腹の冷え
✅足腰がだるい
✅排尿困難・浮腫み

「腎陽」を補いつつ、「脾」を温めながら働きを建て直す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:人参湯+真武湯、参馬補腎丸など

最後に

中国の古典には「無湿不成瀉:湿がなければ下痢はない」という言葉があります。つまり、「湿」を体内に溜めないことが下痢を防ぐカギとなります。

<「湿💦」を溜めやすい+「胃腸」に負担をかける食事>
🟡甘い物(チョコレート、菓子パン、コンビニスイーツ)

🟡脂物(お肉、揚げ物、ポテトチップス)

🟡乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)

🟡冷たい飲食物(ジュース、お酒、刺身、アイスクリーム)

巷では身体に良いと言われているものが、実は胃腸に負担をかけていることもあります。身体に良いものを積極的に摂るよりも、自身の生活を見直し、身体に不要なものを1つ1つ取り除く方が症状改善の近道かもしれません。

体質に合う漢方薬と食養生を通し症状を改善しませんか?
ご興味がある方は、いつでも当店にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

五月病と漢方薬

はじめに

新年度が始まり1ヶ月。4月から進学や就職、昇給などで環境が変わった方は、心や体に疲れが出やすい時期ではないでしょうか。
「ゴールデンウイークは心と体をしっかり休めて、連休明けからまた頑張ろう!」と思っても、学校や職場のことを考えると、「何だかやる気がでない」「眠れない」「食欲が湧かない」など、そんな“なんとなく不調”を感じている方、ひょっとしたら五月病かもしれません。
とは言え、病院に行くほどでもないし、精神安定剤や睡眠薬を使うことに少し抵抗があるという方も多いと思います。

実は「こころ」の不調も、体質のバランスが影響しています。
自身の体質を知ることが、不調から抜け出す第一歩。中医学の視点を取り入れて、自分を見つめ直してみませんか?

五月病の主な症状

五月病の主な症状として身体的、精神的、行動的症状の3つに分類されます。

また、五月病になりやすい人の特徴として次のような性格が挙げられます。
🟡真面目で几帳面、優等生タイプ
🟡完璧主義
🟡周囲への気を遣いすぎる
🟡我慢強く、無理をしがち

中医学で考える五月病

◆イライラ・モヤモヤ型👉肝気鬱結(かんきうっけつ)
✅気分が優れない
✅何だかイライラする
✅ため息がでちゃう など

このようなタイプは、中医学では「肝気鬱結(かんきうっけつ)」タイプといいます。

中医学における「肝」は、「疏泄(そせつ)」という働きを担っており、全身の気の流れをコントロールしています。この「疏泄」機能は、現代医学の「自律神経」の働きに近く、ストレスや憤りを強く感じたり、憂鬱な状態など精神的な負荷がかかると肝の「疏泄」機能が失調し、「気」の巡りが停滞します。この状態を「肝気鬱結」といいます。

⚠️このタイプに多い症状
✅神経質で細かいことが気になる
✅情緒が不安定になりやすい
✅PMSが酷い(胸や脇腹が張る、頭痛、過食気味になるなど)
✅月経不順

イライラ・モヤモヤ型には、「肝」の働きを改善させ「気」の流れを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:加味逍遥散、柴胡疏肝湯、四逆散など

⚠️「肝」は他にも…
「肝」は他の臓腑にも影響を及ぼし様々な症状の原因にもなります。
例えば、自律神経の乱れが「脾胃(胃腸)」にまで影響を及ぶと、精神的な刺激により下痢や腹痛を起こすことがあります。
また、胃腸の働きの低下から「痰湿(余分な水分)」が作られ、それが喉を塞ぎ「※梅核気」という症状を引き起こすことがあります。
※梅核気:炎症や異物がないのに、喉が詰まったような感じがする症状。中医学では、その症状が喉に梅の種(核)が詰まった感じと考え「梅核気」と呼んでます。

◆くよくよ型👉心脾両虚(しんぴりょうきょ)
✅仕事や学校での失敗を引きずりやすい
✅嫌なことを考えるとやる気がでない、不安感が増す
✅寝る前にあれこれ考えてしまい寝れない など
このようなタイプは、中医学では「心の血」が不足し、「脾」の働きが低下している「心脾両虚(しんぴりょうきょ)」の状態といいます。

🩸心血虚(しんけっきょ)
中医学における「心」は、一般的な心臓の機能である循環器系のポンプの働きに加え、精神的な働きである「こころ」としての役割も担っています。
特に「こころ」の状態と睡眠はダイレクトに関係していると考えられ、普段の生活で考え事をしていたり、悩み事がある時は、中々眠れないことがありますが、これも「心=こころ」の弱りが原因にあります。

🪫脾気虚(ひききょ)
脾は現代医学で言う胃腸を指しており、私たちが普段から摂っている食事や飲み物から栄養素(気や血)を生み出し各臓腑へと運ぶ働きがあります。
そのため、「脾」の働きが低下している「脾気虚」の状態だと、気(エネルギー)や血(栄養)が生み出されないので、疲れやすくなったり、気力ややる気の低下へとつながります。「ご飯を食べると元気になる!」「人間の体は食べたもので出来ている!」とよく言われますが、「胃腸」の働きを理解すると、この言葉はあながち間違いではありません。

<主な特徴>
✅動悸がする
✅眠りが浅い、夢を多く見る
✅食欲がない
✅食後すぐ眠くなる
✅下痢、軟便気味

くよくよ型のタイプには、「心」の血を補い、「脾」を立て直す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:心脾顆粒(帰脾湯)、人参養栄湯など

◆ヘトヘト・くたくた型👉肝気虚(かんききょ)

✅もともと疲れやすい
✅ストレスや緊張に弱い
✅周りの目を気にしちゃう 

などのタイプでありながら、みんなに必死に追いつこうと無理をしてしまう頑張り屋さんは、中医学では「肝気虚(かんききょ)」タイプといいます。

「肝」の「疏泄(≒自律神経)」が問題なく機能している場合は、精神的な負荷がかかっても一定の耐性があり、受け流すことができますが、「疏泄」の働きが低下している「肝気虚」タイプは、少しの精神的な負荷で自律神経のバランスを大きく乱れてしまいます。

<主な特徴>
✅ストレスや緊張する場面が嫌い
✅嫌なことから逃げがち
✅休みの日だと身体が軽く元気で活動的

「肝」の気を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:シベリア人参、逍遥顆粒+補中益気湯など

最後に

中医学には「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉があり、”心”と”身体”は切り離せないものと考えられています。「気持ちの問題だから」と我慢するのではなく、体の内側からバランスを整えてみましょう。

「何となくつらい」「前のように頑張れない」など、五月病や心の不調でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

五臓六腑:腎の働き / 補腎のすすめ

はじめに

最も重要なことを「肝心要(かんじんかなめ)」と言いますが、この「肝心」は本来「肝腎」と書いていたそうです。
中医学における「腎」は、現代医学の「腎臓」の働きに加え、成長や発育、老化、免疫など幅広い役割を担っており、「腎」の働きの充実さが、その人の身体全体の健康と深く関わります。そのため、「腎」の働きが弱ると、発育が遅れたり、不妊症や更年期障害、骨粗鬆症、脱毛など様々な不調や老化現象の原因にも…。このことからも、「腎」は、まさしく人間の「要(かなめ)」の臓器と言えます。
「腎」の働きを補い、高める「補腎(ほじん)」。西洋医学にはない、中医学特有の「腎」の考えと「補腎」の魅力を少しでもお伝えできればと思います。

古来から伝わる人体のリズム

中国では、古くから「女性は7の倍数、男性は8の倍数」で身体の変化があると言われています。女性は28歳、男性は32歳で腎が最も充実して身体や生殖機能がピークを迎え、その後は徐々に腎の働きが弱くなり、様々な不調や老化現象が現れやすくなります。

■女性は7の倍数で変化する

■男性は8の倍数で変化する

「腎」の働き

 ①精を蔵する

「精(せい)」とは、人間の生命力の源であり、生命活動を維持する基本物質と考えらています。「腎精(じんせい)」は、生まれたときに両親から受け継いだ「先天の精(せんてんのせい)」と、日々の飲食物から得られる「後天の精(こうてんのせい)」の2つから作られます。

それぞれの働きについて

①生長・発育、生殖に関係する

「腎精」は生長・発育の基本物質であり、人間の一生をあらわす”生(生まれる)・長(成長する)・壮(盛りを迎える)・老(老いる)”と深い関係にあります。
そのため、「腎精」が不足すると、発育不良や老化に伴う症状が出やすくなります。
また、「腎精」は生殖器官の発達と生殖能力にも関係しているため、生理の不調や不妊、精力の減退にもつながります。

②髄を生みだし、骨や脳を栄養し管理する

「腎精」は髄(脳髄、脊髄、骨髄)を作り出します。
髄は骨を形成し、髄が集まって脳を形成し、また、骨髄とも関係があることから血液の生成にも関係します。高齢になるほど、骨がもろくなったり、記憶力が低下するのは、年齢を重ねるごとに「腎精」が減っていくためです。

③水と関係する

現代医学の「腎臓」の役割に近く、水分の代謝と排泄に関わり、身体の水分をコントロールしています。この働きが弱くなると、尿量の増えたり、減ったり、むくみの症状が生じやすくなります。

④気を納める

中医学には「肺は気の主、腎は気の根」という言葉があり、呼吸機能は主に「肺」が二枚ますが、息を深く吸い込むには「腎」の働きが必要になります。
呼吸が浅く、動くとすぐ呼吸困難になる方は、「腎」の力が低下している可能性があります

「腎」と五行の関係

⑤腎は耳及び二陰と関係がある

耳は「腎精」により養われることで、正常な聴覚が保たれます。老化の症状により耳が遠くなったり、耳鳴りがするのは、年齢とともに「腎精」が減ることが原因です。
また、二陰とは前陰(尿道や生殖器)、後陰(肛門)のことを指し、「腎」が弱ることで尿や便の不調、生殖系のトラブルが起こりやすくなります。

⑥腎の華は髪にある

美しい花を咲かせるためには、まず根がどっしり張っており、土からしっかり栄養分を吸収し、花に届ける必要があります。中医学では、この「根」にあたるのが「腎」、そして吸い上げられる「栄養分」が「精(せい)」です。「腎」がしっかりしていて、「精」がたっぷりと蓄えられていれば、髪は栄養を受けて、いつまでも若々しく、元気に保たれます。髪の健康は、腎の充実度を映す鏡とも言えるのです。

⑦腎と関係がある季節は冬である

動物たちが冬眠をして活動を控え、エネルギーを蓄えるように、年齢とともに自然に衰えていく「腎」は、冬に無駄な消耗を避け、しっかりと養う必要があります。
冬の時期に無理をしたり、過労や睡眠不足が続いたり、身体が冷えたりすると「腎」の働きは衰えやすくなります。

「補腎」とは?

先述のように「腎」は、私たちの生命活動において非常に重要な働きを担っています。「腎精」、燃えているロウソクのようなもので、加齢や過労などで少しずつ減っていき、新たに増やすことはできません。
また、その蝋(「腎精」)から立ちのぼる炎が「腎気」であり、蝋が減れば炎も小さくなってしまいます。つまり、「腎気」も年齢を重ねるごとに弱くなっていきます。

蝋そのものは増やすことはできませんが、蝋に油を足すことで、消費を抑えることはできます。この油を足す行為が「補腎」にあたり、「補腎」をすることで「腎」の衰えによる老化現象(更年期障害、物忘れ、耳が遠くなるなど)を予防・緩和したり、生殖機能の向上にもつながるため、妊活のサポートとしても有効とされています。

補腎薬について

「腎」には「腎陰(じんいん)」と「腎陽(じんよう)」が存在します。
💧腎陰:身体を潤し、冷ます役割
🔥腎陽:身体を動かし、温める役割

温泉に例えると、温泉の水源である地下水が「腎陰」、熱の根源であるマグマが「腎陽」に相当します。心地良い湯加減になるには、水と熱のバランスがとえれていなければなりませんが、中医学でも「腎陰」と「腎陽」のバランスを保つことが重要になります。
💧腎陰を補う漢方薬の例
→六味地黄丸、杞菊地黄丸、瀉火補腎丸(知柏地黄丸)など
🔥腎陽を補う漢方薬の例
→八味地黄丸、参茸補血丸、参馬補腎丸など

最後に

これまでお伝えしてきたように、「人生」を健康で豊かに過ごすには、「腎精」が豊富に充実していることが非常に重要になります。つまり、”人生”とは「腎精」そのものとも言えます。

以下のような症状に心当たりはありませんか?

✅足腰が痛い、だるい
✅若い頃に比べ疲れやすくなった 
✅頻尿・尿漏れが気になる
✅耳が遠くなった 
✅肌のシミ・シワが増えた 
✅更年期障害 
✅生理不順、不妊 
✅精力低下 など
これらは、もしかすると「腎」の働きが弱くなってきているサインかもしれません。

若々しさを保ち、いつまでも健康に過ごすためには「腎」を労わり、日々の生活の中でその働きを補うことが大切です。

漢方薬局では、植物性より効果が高いと言われている「鹿の角」や「亀板」、「スッポン」などの動物性の生薬が配合された補腎薬を多く取り扱っています。
⚠️動物性生薬を含む漢方薬は、ほとんどが保険適用外のため、病院では処方できないことが多いです。

お一人おひとりの体質に合わせた「補腎薬」のご提案をしておりますので、気になる方はぜひお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

頭痛と漢方薬

はじめに

誰もが経験したことのある「頭痛」。
実は日本人の4人に1人は慢性的な頭痛に悩まされているとされており、鎮痛剤をなかなか手放せない「頭痛もち」の方も少なくありません。

当薬局においても、「少しでも鎮痛剤の量を減らしたい」、「薬に頼らない生活を送りたい」といったご相談が日々寄せられています。

頭痛とは?

頭痛は、下記のタイプに分類されます。その中でも、慢性的な頭痛で苦しんでいる方(頭痛持ち)の多くは「一次性頭痛」に該当します。

中医学における痛みの考え方

中医学では、頭痛や腰痛、生理痛など様々な痛みの原因を下記2つに分けて考えます。
🌀不通則痛(ふつうそくつう):通じざれば則ち痛む
気や血、津液の流れが悪くなり体内に詰まりが生じることで痛みが発生する。

🌀不栄則痛(ふえいそくつう):栄えざれば則ち痛む
気や血(栄養)の不足により、臓腑や経絡、組織、器官が滋養されず、痛みが発生する。

中医学で考える頭痛

中医学では、頭痛の起こる原因により大きく2つに分けて考えます。
①外感頭痛:外部の影響を受けて痛みが発生する。 (急性の痛み)
②内傷頭痛:臓腑の機能失調により痛みが現れる。(慢性的に続く痛み)

①外感頭痛

自然界の影響(風・寒・暑/熱・湿)により引き起こされる頭痛です。
外感頭痛の原因となる邪気については、別記事👇も参考にしてみてください。
カゼと漢方薬 – 日々の生活に漢方を

1.風寒頭痛(ふうかんずつう)

カゼの引き始めに悪寒とともに頭痛や首~後頭部のこわばりを感じたことはありませんか?
これは、寒さによって体の中の「気(エネルギー)」や「血(栄養)」の流れが滞り、痛みとして現れている状態です。ちょうど、気温が下がると川の水が凍って流れが悪くなるようなイメージです。

<🧊主なサイン>
✅頭痛(ゾクゾクする、こわばる)
✅首から後頭部のこわばり
✅カゼの症状(悪寒、発熱、鼻水など)

痛みの原因である「風寒」の邪気を発散させる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:頂調顆粒(川芎茶調散)、葛根湯、麻黄附子細辛湯など

💊川芎茶調散
「川芎茶調散」は頭痛の専門薬とも呼ばれ、後述する様々な頭痛のタイプに併用して使用することができます。

2.風熱頭痛(ふうねつずつう)

暖房を使用すると温かい空気が上へと上がっていきますよね。
これと同じように、「熱邪」も身体内の上部である頭部に影響を及ぼし、熱感を伴った頭痛へとつながります。
特に体温が高いと、心拍数が上がって血流が増えるため、ズキンズキンと拍動するような痛みを感じることがあります。

<🔥主なサイン>
✅ズキンズキン・ジンジンするような痛み
✅顔が熱い、口や喉が渇く
✅カゼの症状(発熱、咽頭痛)

頭部の「熱」を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:涼解楽(銀翹散)、銀翹解毒散、荊芥連翹湯など

3.風湿頭痛(ふうしつずつう)

「雨の前になると頭が重い…」「梅雨の時期や低気圧の日に頭が痛い」
こんな経験、ありませんか?

このような頭痛は、”自然界の湿気”=「湿邪(しつじゃ)」の影響が原因と考えられます。湿度の高い日に除湿器を使用すると、タンク内に水がたくさん溜まりまるように、身体の中にも余分な水=「湿」が溜まり、それが頭部にこもることで頭が重く痛い、体が重だるいといった症状がでます。

<☁️主なサイン>
✅頭痛(重く包み込まれる感じ、ドーンとする)
✅身体が重だるい
✅食欲不振、軟便

頭部に溜まった「湿」を追い出す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散など

💡ちなみに…
以前のブログ「五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を」でも触れましたが、脾胃(胃腸)の働きが弱い方は、体内に「湿」を溜めやすく、外界の「湿邪」の影響も受けやすいとされています。中医学では、これを「内湿が外湿を呼ぶ」と言います。
したがって、脾胃の働きが低下している方は、「湿」を処理しつつ、「脾胃」の機能を立て直すことも大切になります。(詳しくは、②内傷頭痛の「痰濁頭痛」を参照ください。)

②内傷頭痛

1.気虚頭痛(ききょずつう)/ 血虚頭痛(けっきょずつう)

中医学では、頭部を「清陽の府」といい、全身の陽気(エネルギーや栄養素)が集まる場所とされています。
そのため、エネルギーが不足している「気虚タイプ」や身体内の栄養や潤いに関わる「血」が不足している「血虚タイプ」は、頭部に十分な栄養が届かず、頭痛やふらつきといった症状を引き起こします。
食事を取らない時間が続いたり、空腹を我慢すると、「頭がぼーっとする」「フラフラする」することがありますが、「気虚」や「血虚」の頭痛はこの状態に近いと言えます。

🪫気虚頭痛
<主なサイン>
✅頭痛(疲れた時に酷くなる)
✅倦怠感、疲れやすい
✅食欲がない
✅下痢、軟便気味

「気」を補い、「気」の生成に関わる脾胃(胃腸)の働きを高める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:補中丸(補中益気湯)、健胃顆粒(香砂六君子湯)など
頭痛症状が強い時は、上記で述べた「頂調顆粒(川芎茶調散)」を併用するとより効果的です。

🩸血虚頭痛
<主なサイン>
✅頭がふらつく、ボーっとする、シクシク痛む
✅生理後の頭痛
✅顔が白い、青白い
✅動悸や不眠がある

不足している「血」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:婦宝当帰膠、心脾顆粒(帰脾湯)、人参養栄湯など

2.痰濁頭痛(たんだくずつう)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰濁」と呼びます。
水道管にヘドロが詰まって水の流れが悪くなるように、体内に「痰濁」がたまると「気」や「血」の巡りが滞り、頭痛やめまい、吐き気などの不調があらわれるのです。

<💧主なサイン>
✅頭が重く痛む、ズーンとする痛み
✅めまい
✅吐き気や嘔吐
✅身体が重く感じる
✅ 雨の日や気圧の変化に弱い

身体内にある「痰濁」を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、星火温胆湯など

💡ちょっと補足…
中医学では、「脾は生痰の源」という言葉があります。
これは、脾胃(胃腸)が弱いと、水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まり痰が生じやすくなるという考え方です。
つまり、「痰濁」が原因の頭痛では、単に「痰」を取るだけでなく、胃腸の働きを整えることが根本改善への第一歩。日々の食生活や生活リズムを見直すとより効果的かもしれません。

3.肝火頭痛(かんかずつう)

中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」や「血」の流れを調節し、精神面の安定に関与していると考えらています。
しかし、ストレスや精神的な負荷がかかり自律神経が乱れると、「肝」の働きが低下し、「気」や「血」が渋滞を引き起こし、イライラやのぼせ、拍動性の頭痛など、まるで「オーバーヒート」したような症状が現れます。

<🔥主なサイン>
✅ 頭痛(キリキリ、ズキンズキンと痛む)
✅耳鳴り、めまい
✅目の充血、赤ら顔、のぼせ
✅ストレスや緊張を感じやすい
✅生理前の頭痛

高ぶっている「肝火」を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:瀉火利湿顆粒(竜胆瀉肝湯)、釣藤散など

「肝火」になる要因としては、上記で説明した「気」の滞りがあるため、「気」の流れを良くする「加味逍遥散」や「大柴胡湯」などを併用することもあります。

5.瘀血頭痛(おけつずつう)

「瘀血」とは、血の巡りが滞ってドロドロとした状態を指します。
この状態になると、、血流がスムーズに流れず、まるで交通渋滞のように詰まり、「不通則痛」の原則により痛みを引き起こします。

<🌀主なサイン>
✅針で刺されたような痛み、ズキンとする
✅肩・首こり
✅生理痛が酷い
✅舌裏の血管が青紫色に浮き出ている

「血」の滞りを解消する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参、など

最後に

ひと口に「頭痛」と言っても、実はその原因や体質はさまざまです。
漢方薬は、西洋薬ほど痛みに対しシャープに効きませんが、痛みの原因や体質に対しアプローチすることができ、頭痛を引き起こさない身体作りをを目指すお手伝いができます。

ご自身の体質や頭痛の傾向を知ることは、セルフケアの第一歩。
「ただ痛みを止める」のではなく、頭痛が起きにくい身体を内側から整えていきましょう。頭痛でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

胃痛と漢方薬

胃痛のメカニズム

私たちの胃は、胃の粘膜を守る「防御因子」と胃酸などの「攻撃因子」のバランスが保たれていることで、正常に働いています。しかし、何らかの原因で「攻撃因子」の働きが強まったり、「防御因子」が弱まり、相対的に「攻撃因子」の比重が高くなると胃痛が発生します。

バランスを崩す原因としては、以下のような生活習慣や心理的ストレスが挙げられます。
🟡脂っこい物/辛い物/甘い物の過食
🟡アルコールの過飲
🟡寝不足
🟡精神的なストレスや疲労
🟡喫煙

機能性ディスペプシアとは?

最近では、病院で検査を行っても炎症や潰瘍などの異常見つからないにも関わらず、胃の不調(胃の痛み、胃もたれ、胸やけなど)が続いている方が増えているようです。このような状態を「機能性ディスペプシア:Functional Dyspepsia : FD)」と言い、下記の通り定義されています。

1.症状

機能性ディスペプシア(FD)の診断基準(RomeⅣ基準)
下記の症状のいずれかが診断の少なくとも6か月以上前に始まり、かつ直近の3か月間に上記症状がある。
1.つらいと感じる心窩部痛(みぞおちの痛み)
2.つらいと感じる心窩部灼熱感(みぞおち辺りが焼けるような感じがする)
3.つらいと感じる食後のもたれ感
4.つらいと感じる早期飽満感(食べ始めてすぐに満腹感、膨満感を感じる)
及び症状を説明しうる器質的疾患はない。

食後愁訴症候群(PDS)の診断基準
少なくとも週に3日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。
1.つらいと感じる食後のもたれ感
2.つらいと感じる早期飽満感

心窩部痛症候群(EPS)の診断基準
少なくとも週に1日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。
1.つらいと感じる心窩部痛
2.つらいと感じる心窩部灼熱感

2.原因

機能性ディスペプシアを引き起こす詳しい原因は明らかになっていませんが、
・胃の運動機能が正常に働いてない
・胃酸が過剰に出ている
・胃腸の知覚過敏(胃酸の刺激に敏感になっている)
・ストレスによる自律神経の乱れ
・生活習慣や食生活の変化
・ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)への感染
などが考えられています。

中医学における胃腸(脾胃)の働きについて

「脾胃」の詳しい働きは👇から
五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を

中医学で考える胃痛

1.❄️胃寒(いかん)
~冷えによる胃の痛み~

お酒の席などで、冷たいビールやお刺身などをたくさん摂った後に、急にお腹が痛くなった経験はありませんか?

胃腸は、体温と同程度の温度で正常に機能すると考えられています。
そのため、冷たい飲食物を摂りすぎると、胃腸が急激に冷やされて働きが低下し、痛みを引き起こすことがあります。

この冷えの影響を「寒邪(かんじゃ)」と呼び、寒邪により気血の流れが滞ると、「不通則痛(ふつうそくつう)」=“流れなければ痛む”という状態になります。

さらに、今回の痛みの原因である「寒邪」には「凝滞(ぎょうたい)」と「収斂(しゅうれん)」という特徴あるため、痛み方はギューッと引きつるような激しい痛みになります。

<主な特徴>
✅冷たい物の過食・過飲により引き起こされる痛み
✅痛みは激しく、絞られるような痛み
✅温めると痛みが和らぐ

胃を温めながら痛みを抑える漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:安中散、勝湿顆粒(藿香正気散)/香蘇散+芍薬甘草湯など

💊大正漢方胃腸薬
漢方の胃腸薬として有名な「大正漢方胃腸薬」は、上記の安中散と芍薬甘草湯を組み合わせた漢方薬になります。したがって、「寒邪」が原因の胃痛に対しては、非常に効果的といえるでしょう。
ただし、後述するような「熱」や「ストレス」、「胃の潤い不足」など、別の要因による胃の痛みには、異なるアプローチが必要です。症状の特徴に応じて、適切な漢方薬を選ぶことが大切です。

2.🔥胃熱(いねつ)
~食べ過ぎ・ストレスで胃に熱がこもる~

「食べたばかりなのに、すぐにお腹が空いてしまう」「しっかり食べたのに満足できない」「満腹になるまで食べないと落ち着かない」――そんな経験はありませんか?

中医学では、このような状態を「胃」に熱がこもり、働きが亢進している状態と考え、辛い物・脂っこい物・甘い物などの過食や精神的なストレスにより引き起こされると考えます。

<主な特徴>
✅胃が焼けるように痛む
✅胸やけがする
✅酸っぱい水や苦い胃液が出る
✅口臭が酷い
✅食べてもすぐお腹がする

「胃」に停滞している熱を清ましてあげる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:三黄瀉心湯、黄連解毒湯など

3.💢肝気犯胃(かんきはんい)
~ストレスや緊張が胃に影響~

緊張する場面(テストや面接、プレゼンの前など)やちょっとした不安(電車に乗った時や学校、会社に行く前)でお腹(胃)が痛くなったことはないでしょうか?

中医学では自律神経を主る「肝」の気が高ぶることで「脾胃」が攻撃され、その影響により胃の痛みが引き起こされると考えます。

<主な特徴>
✅精神が緊張状態の時に痛みがでる
✅ストレスを抱えやすい、緊張に弱い
✅お腹(胃)が張ったような痛み
✅よく脇腹が張る、ゲップをする

「肝」の気の流れを良くしながら、「脾胃」を守る漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:開気丸、四逆散、逍遥顆粒など

4.🩸瘀血阻絡(おけつそらく)
~血の巡りが悪くて痛む~

上記で述べた「寒邪」や「気滞」などが長期間続くと血の流れが停滞し「瘀血」が生じます。瘀血により「気血」の流れが塞がれ、「不通則痛」という状態を引き起こすため胃痛が生じます。

<主な特徴>
✅差し込むような痛み(針で刺されたような痛み)
✅痛みの箇所が固定している(瘀血は1か所に留まる)
✅お腹を擦ったり、触れたりすると痛みが増す(拒按)
✅吐血、便血がみられる

「気」と「血」の巡りを良くすると漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:加味逍遥散、桂枝茯苓丸など

5.💧胃陰不足(いいんぶそく)
~潤い不足による胃の不快感~

胃には、上記で述べたように胃粘液などの「防御因子」がありますが、この胃を守る粘液が不足している状態を「胃陰不足」と言います。(地面に潤いがなく、干からびてひび割れているような状態です。)
上記2で述べた「胃熱」が慢性的に続くと、胃内にある潤いが蒸発し「胃陰不足」へとつながります。また、長年胃の不調に苦しんでおり、胃酸を止める薬を飲んでも症状が一向に改善しない方にもこのタイプが多く見られます。

<主な特徴>
✅胃が焼けるように痛む
✅胸やけがする、上腹部の不快感
✅満腹感を感じやすい
口や舌が乾燥する
✅便秘気味でコロコロしている

「胃」に潤いを与えてくれる漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:麦門冬湯、艶麗丹、百潤露など

6. 🥶脾胃虚寒(ひいきょかん)
~体質的な胃腸虚弱~

物心ついた時から胃腸が弱い、慢性的に胃痛が続いている場合は、このタイプにあたります。「脾胃」を温めるエネルギーが不足するとお腹の冷えを感じやすくなり、先に紹介した「胃寒」とは異なり、慢性的にシクシクという痛みが続きます。
「脾胃」が弱い方は、下記の特徴に加え、疲れやすかったり、下痢・軟便、食後にお腹が張る・眠くなるという症状を伴うことが多いです。

<主な特徴>
✅シクシクとお腹(胃)が痛む
✅お腹を擦ったり、おさえると痛みが和らぐ(気持ちが良い)
✅食後に痛みが緩和する
✅食欲があまりない、食事量が少ない

胃腸の働きを高めながら、お腹を温める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:小建中湯、人参湯、四君子湯類など

また、「脾胃」の機能が弱ると、水分代謝がうまくいかずに胃腸に余分な水分(湿)がたまります。その結果、胃痛だけでなく、胃のむかつきや吐き気(悪心)などの症状を伴うことがあります。このような場合は、半夏瀉心湯や黄連湯などの使用も考えられます。

最後に

以前「下痢と漢方薬 – 日々の生活に漢方を」の記事でもお話ししたように、日本人は胃腸が弱い体質の方が多い傾向があります。

しかし、胃の不調を「たまたま調子が悪いだけ」と軽く捉えてしまっていませんか?
中医学では、「脾胃(胃腸)」の健康の土台と考えます。「人間の体は食べたもので出来ている」とよく言いますが、健康への第一歩は「脾胃」の働きを良くすることが非常に重要になります。

長年続く胃の不調や、胃酸を止める薬(ファモチジンやオメプラゾールなど)を飲んでも症状が改善しない。あるいは、機能性ディスペプシアのように原因がはっきりせず西洋薬を飲んでも効果がいまひとつという場合は、漢方薬を選択肢にいれてみてはいかがでしょうか😌

漢方薬は、上記で述べたようにその症状のタイプに合わせて様々な漢方薬があります。ご自身の胃腸症状に合う漢方薬をお探しの方は、ぜひ一度ご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐

五臓六腑:脾胃の働き

はじめに

中医学を勉強し始め約2年が経ちました。当時を思い返すと、日本人は外見や表面的な清潔さ・美しさには敏感でも、体の内側、つまり「内臓の健康」にはあまり目を向けていない傾向があると感じます。
最近では、テレビやCM、本などで、「腸内細菌」や「腸内フローラ」という言葉をよく聞くようになり、身体の内部にスポットが集まるようになってきました。しかし、中医学では2000年前も昔から「胃腸の健康=身体の健康」という考え方が重視されてきました。
「ご飯を食べると元気になる!」「人間の体は食べたもので出来ている!」という言葉があるように、胃腸の状態の良さがその人の身体の元気や健康へとつながります。言わば、胃腸が私たちの身体を作っているのです。

身体の根本とも言える胃腸(脾胃)の働きを理解し、健康的な生活の第一歩を歩み始めませんか。

「脾胃:ひい」の働き

「脾胃:ひい」は、現代医学の胃腸の働きに近く、私たちが摂取した飲食物を消化吸収し、身体に必要な栄養素(気・血・津液)を全身に届ける働きをしています。

「脾」と「胃」のそれぞれの詳しい働きは下記に記載してますので、気になる方はご参照ください。

「脾:ひ」の働き

■「脾」の生理機能
①運化(うんか)を主る
運化の「運」は運送や輸送、「化」は消化吸収を意味しており、運化には2つの働きがあります。

1.精微物質の運化:飲食物から人間の生命活動に必要な気(エネルギー)・血(血液)・津液(水)を作り出し、心肺に運び全身に届ける働きをしています。
そのため、「脾」は「気と血を生む源」と言われています。

2.水液の運化:水液を吸収して心肺に運び、全身に送り出します。

「脾」の働きが弱まり運化機能が失調すると、
1.精微物質の運化の失調:エネルギーを作り出すことができない
👉疲れやすい、やる気がでない

2.水液の運化の失調:水液代謝が機能しない
👉下痢や軟便、浮腫

という症状に陥りやすくなります。

②統血(とうけつ)を主る
「脾」は、血液を血管の中にとどめておく働きもあります。
中国の古典には「五臓六腑の血は全て脾気の統摂に頼る」と記されており、「脾」の働きが弱まると、血液が漏れ出しやすくなり、女性の不正出血や皮下出血(青あざができやすい)、鼻血、血便などの症状が現れやすくなります。

「胃:い」の働き

■「胃」の生理機能
「胃」の働きは、現代医学の機能と近いとされており、以下の働きがあります。
①受納(じゅのう):飲食物を受け入れる

②腐熟(ふじゅく):飲食物を消化しやすい状態にする

③降濁(こうだく):消化した飲食物を小腸へ降ろす

胃の働きが弱まると、上記の①→③の流れが機能しないため、食欲が減退したり、飲食物が小腸へ送ることができず逆流し悪心や嘔吐、ゲップ、お腹(胃)が張って痛むというような症状が出やすくなります。

「脾」と「胃」の関係

「脾」と「胃」は表裏関係にあり、お互いに協力しながら消化・吸収を担っています。
「胃」が食べ物を受け取り下へ送る「下降」の働きを担い、「脾」は栄養を吸収し上に運ぶ「上昇」の働きをします。この“上昇”と“下降”のバランスが崩れると、消化吸収全体の流れが滞り、体調不良へとつながります。

「脾」と五行の関係性


①脾は口に開竅(かいきょう)し、その華は唇にある
口と唇は「脾」と深い関係にあり、脾の働きが弱まると以下の症状が出やすくなります。

✅味覚が変化する(口が淡く味を感じない)
✅口が粘つく
✅唇が乾燥する、唇の色が薄くなる
✅口やその周辺にできものができる

②脾は肌肉(きにく)を主り、四肢を主る
肌肉とは、私たちの筋肉や脂肪、皮下組織を指します。
「脾」の運化機能が正常に働くと、生成された「気」や「血」が身体のすみずみ(四肢)まで巡らせ、筋肉や脂肪に届き運動の原動力となります。そのため、「脾」が弱ると、肌肉や四肢に栄養がいかず、筋肉が落ちる、痩せる、倦怠無力といった症状へと繋がります。

③脾の志は思である
中医学では、「思(考え事をしたり、何かを深く考え込んだり)」という感情は、「脾」と関連性が深いとされ、思慮過多(深く考え過ぎると)になると、「脾」が傷つけられ、その働きが低下します。また、「心」は精神・メンタルと関係があるため、「思は心脾から発する」とも言われています。
考え事や悩み事が続くと、食欲が低下したり、眠れない日々が続くのは、「脾」が損傷され、「気・血」が生み出されず、同時に「血」が消耗されることが原因になります。この時に使用される代表的な漢方薬が帰脾湯になります。

④脾の液は涎(よだれ)である
涎は、唾液中の希薄な液体を指します。働きは唾液と同様で、口腔粘膜の保護や消化の補助をしています。唾液が何だか粘つく、話している最中に唾液が溢れるなどの症状がみられる場合は、「脾」が弱っている可能性があります

⑤脾は燥を喜び、湿を悪む / 胃は湿を好む
~「脾胃」の働きは、家を建てる工程に似ている?~

家を建てる時の工程を想像してみてください。

まず、山から木を伐り出し、それを建築用の木材として加工し、それらの加工された木材を使って家を組み立てていきます。この一連の流れは、中医学でいう「脾胃(ひい)」の働きにとてもよく似ています。

たとえば、「胃」は、飲食物を受け入れて、消化しやすいように分解する役割を担います。これは、伐り出された木を整えるために加工される工程と似ています。
木材を加工する際、完全に乾いてしまっていると割れや反りが生じて使いにくくなります。そのため、木材にはある程度の「潤い」が必要です。同じように、胃も消化のためには「湿(しめり)」、つまり胃液のような体液が必要となります。

一方、「脾」は、胃で消化されたものを栄養として吸収し、それを身体全体に運ぶ働きをします。これは、大工が加工した木材を使って家を建てていく作業にあたります。
しかし、大工の仕事も、雨の日や地面がぬかるんでいる状況では、作業がはかどらないように、脾も「湿(しめり)」が多い環境ではその機能が鈍ってしまいます。「脾」は「乾燥を好み、湿を嫌う」臓器なのです。

つまり、「脾」と「胃」はともに「湿」と関わりがありますが、「胃」は適度な湿潤を必要とし、「脾」は過剰な湿を嫌う。このバランスが崩れると、脾胃の働きに支障が出てしまいます。

最後に

健康への第一歩は「脾胃」の状態から始まると言っても過言ではありません。

「毎日しっかり食べているから大丈夫」「サプリも摂ってるし安心」と思っている方も多いかもしれません。しかし、「脾胃」が正常に機能しなければ、栄養を吸収することも全身に届けることもできません。
✅何だか疲れやすい
✅やる気がでない
✅食後の眠気が気になる など

その不調の裏には、「脾胃」の弱りが隠れているかもしれません。
毎日を健康で快適に暮らすためにも自身の生活を見直し、少しでも「脾胃」に思いやりのある暮らしを心掛けましょう。

<脾胃を守る養生法😌>
🟡冷たい物を避ける
→冷たい物は脾胃を傷つけます。

🟡肥甘厚味を避ける
→肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物は脾胃に負担をかけます。

🟡腹八分を心掛ける
→胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事が良いとされています。

🟡一口30回を目安に噛む
→食べ過ぎ防止、消化を助けることにつながります。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐