高血圧と漢方薬

はじめに

高血圧は、別名「サイレントキラー」とも呼ばれ、血圧が高い状態のままでいると、脳卒中や心筋梗塞、腎不全など重大な合併症を引き起こす可能性が高くなります。実際に日本人の死因の第2位:心疾患と第4位:脳血管疾患は高血圧と関連があり、血管に大きな負荷をかけないことが非常に重要になります。

中医学には、病気の発症や病状が悪化する前に未然に防ぐ「未病先防:みびょうせんぼう」という考え方があります。高血圧を指摘された時点では、自覚症状はあまりないかもしれませんが、事態が大きくなる未病の段階でケアすることが合併症の予防へとつながります。

血圧の基礎知識

血圧とは?
血圧とは、心臓から送り出された血流が血管(動脈)の内壁を押す力(圧力)を指し、心臓から拍出される血液量(心拍出量)と末梢血管での血液の流れにくさ(末梢血管抵抗)により決まります。

血圧の「上」と「下」って?
血圧を測定すると上が130で下が80と表示されますが、そもそも「上」と「下」の違いは何でしょうか。

・上=収縮期血圧(最高血圧)
心臓が収縮して血液を全身に送り出すときの血圧

・下=拡張期血圧(最低血圧)
心臓がポンプするために血液をためて膨らんでいる(拡張している)時の血圧

高血圧の診断基準
日本高血圧学会の「ガイドライン2019」によると、病院などの医療機関で測定した血圧(診察室血圧)では「収縮期血圧は140mmHg、拡張期血圧は90mmHg」以上を高血圧としています。
家庭で測定した「家庭血圧」は医療機関での測定より低い数値が出る傾向にあるため、それぞれ5mmHgを引いた数値となります。

また、降圧目標は下記のように設定されています。

中医学で考える高血圧

1.瘀血阻絡(おけつそらく)

「瘀血」とは、血管に溜まった汚れや血液がドロドロした血の巡りを悪い状態を指します。
一般に血管というと、動脈や静脈といった太い血管をイメージされますが、太い血管は全体の1%程度で、その他は太さ6μm程の目に見えない毛細血管が99%を占めています。
身体のほとんどを占める毛細血管の血液の流れが悪いと、血管の抵抗性が高まり血圧の上昇へとつながります。また、血液の流れが悪いことで心臓が血液を流そうと頑張ってポンプするため血圧が高くなります。

このタイプの特徴は
□頭痛・めまいがある

□首や肩のこりがある

□手足の静脈が浮き出ている

□生理痛がある、生理に塊が混じる

□舌裏の血管が青紫色に怒張している

血の巡りを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参など

2.湿熱内停(しつねつないてい)

血の巡りを悪くする要因は上記の「瘀血」だけではありません。
本来代謝・排泄されるべき余分な水分を中医学では「痰湿」といい、「痰湿」が体内に長く停滞するとやがて熱を帯びた老廃物のような「湿熱」という状態へと変化します。

「湿熱」が血管内に溜まると、ヘドロまみれの水道管が水詰まりを起こすように血管内の血流の流れが悪くなり高血圧の原因となります。

このタイプの特徴は
□脂っこいもの、味の濃いもの、お酒が好き

□ぽっちゃり体型(メタボ体型)

□身体が重だるい、胃がむかむかする

□口が苦い、臭い、粘る

□舌に苔がべっとりついてる

余分な老廃物である「痰湿」や「湿熱」を解消する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:星火温胆湯、瀉火利湿顆粒(竜胆瀉肝湯)、黄連解毒湯など

3.肝陽上亢(かんようじょうこう)

「肝陽上亢」とは、体内の潤い(陰血)が減り、熱(陽気)が相対的に強まっている状態をいいます。

やかんでお湯を沸かす時に水が十分にあるとすぐには沸騰せず水と熱のバランスが保たれますが、水が少ない状態だとすぐに沸騰し湯気が噴き出します。
この水が少なく湯気(熱)が上に昇るような状態がまさに「肝陽上亢」です。

このタイプの特徴は
□のぼせて顔が赤くなる

□頭痛、めまい、耳鳴りがする

□足腰がだるい

□寝汗をかく

上部へ上昇した「陽」を抑える漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:釣藤散、降圧丸など

また、上記に合わせてやかんの水の部分(中医学では「陰」といいます。)を補給するような漢方薬を使用するとより効果的です。
漢方薬の例:双料杞菊顆粒(杞菊地黄丸)、瀉火補腎丸(知柏地黄丸)、亀鹿仙など

4.その他:沙棘(サージ)製品

上記で述べたように血圧が上がる要因の一つとして血管壁の弾性がなくなり血管が硬くなることで起きる場合があります。
このような時に血管を柔らかくしたり、微小循環の改善や抗酸化作用のある沙棘(サージ)製品を使用すると血圧が下がる場合があります。

最後に

漢方薬は、西洋薬のように薬を服用したらガクッと血圧を下げるものではありませんが、冒頭で述べた様に未病の段階でケアできることや高血圧の原因に対しアプローチできることが強みです。
自身の体質を理解し、漢方薬で病気になりにくい体を作りませんか。血圧や血流に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐