はじめに
現代では、小さな子から年配の方までスマホやタブレット、パソコンの使用が日常の一部になっています。ある調査によると、日本人が1日に画面を見ている時間は7〜10時間といわれ、1日の1/3は何らかのデジタルデバイスの画面と向き合っている計算になります。
この「長時間の画面接触」が原因で、目の乾き・かすみ・疲れ・視力の低下といった“目の不調”を訴える人が年々増えています。
目のトラブルは単なる疲労だけではなく、頭痛や肩こり、集中力の低下、さらには睡眠の質の悪化など、さまざまな不調を引き起こす引き金にもなります。
「目」の仕組み

・水晶体:角膜を通して張ってきた光を屈折させて網膜に映し出す。
・前房:房水によって角膜や水晶体に酸素や栄養を供給し、眼圧を一定に保って眼球に張りを持たせる。
・硝子体:コラーゲンと水でできたゼリー状の組織。内側から適度な圧力をかけて眼球の形状を保つ。
・網膜:角膜から入ってきた光が像を結ぶ場所。
(「読む目ぐすり」参照)
中医学で考える「目」
中医学では、目は五臓の働きや精気の状態が現れる場所であり、五臓や精気が充実していれば、物がよく見えると考えられています。
<目と五臓の関係:五輪学説>
・肉輪(上下の眼瞼):「脾」は筋肉(肌肉)と関係があることから、眼瞼は「脾」に属します。まぶたがたるむ(眼瞼下垂)や眼瞼の浮腫みは、「脾」が弱っているサインかもしれません。
漢方の例:補中益気湯、五苓散など
・血輪(目頭、目尻):「心」は血液(血脈)と関係があり、眼角の充血には「心」が原因とされることがあります。
漢方薬の例:黄連解毒湯や三黄瀉心湯など
・気輪(結膜):肺は白色と関係があることから、白目の部分(結膜)は「肺」と関係があります。細菌やウイルス、花粉などによる急性結膜炎は、「肺熱(はいねつ)」と呼ばれる状態で、肺に熱がこもっているときに起こりやすいです。
漢方薬の例:銀翹散、越婢加朮湯など
・風輪(角膜):黒目の部分である角膜は「肝」と深く関係しています。中医学では「肝は目に開竅(かいきょう)する」といわれ、目のトラブル=肝の働きと直結すると考えられています。詳しくは下記で説明します。
・水輪(瞳孔):中医学における「腎」は「生命力の源」であることから、加齢や老化とも関係が深いとされます。白内障や緑内障など、加齢による目の症状は「腎」の弱りと結びついて考えられています。
漢方薬の例:杞菊地黄丸、亀鹿仙など

「肝」と「目」は深い関係
上記で述べたように「肝」と「目」には、非常に深い関係があります。
中医学の古い書物には、目は「肝」に属する器官であり、目の機能は「肝」の働きが調和し正常であれば良く見える状態が保たれ、五色を見分けることができると記されています。

1.肝血虚
昔から、貧血の人にはレバーが良いと言われるように、「肝」には「血」を貯蔵する働きがあり、この「血」が十分に貯蔵されていることで「肝」の働きは正常に保たれます。また、中医学には「久しく視れば血を傷る」という言葉もあり、現代のように長時間スマホやPCを見る生活は「肝」の栄養源である「血」を著しく消耗させます。
<主な特徴>
✅目がかすむ、ぼんやり見える
✅目が乾燥する
✅目、瞼が痙攣する
「肝血」を補う漢方薬の例:婦宝当帰膠、心脾顆粒、十全大補湯など
2.肝腎陰虚
中医学には、「肝腎同源(精血同源)」という考えがあり、「肝」が「血」を蓄えて全身の血液量を調節し、「腎」はその「血」のもととなる「精」を生み出します。「肝」と「腎」、そして「精」と「血」は、それぞれが支え合いながらバランスを保ち、私たちの生命活動を支えています。
そのため、目の酷使により「血」が消耗すると、「血」や「生命の根源」である「精」も徐々に枯渇していき、目の不調だけでなく、体力が低下したり、疲れが取れにくくなったりと老化現象のような症状を生じやすくなります。
<主な特徴>
✅ドライアイ、目薬が手ばせない
✅視力が落ちてピントが合わない
✅加齢に伴う目の不調(老眼、緑内障、白内障、加齢黄斑変性症)
「肝腎」を強化し「精血陰液」を補う漢方薬の例:杞菊地黄丸、亀鹿仙、二至丹など
3.瘀血
目の健康を保つには、上記で述べたように「肝」に「血」が豊富にあること、そして「血」が滞ることなくスムーズに目まで行き届けることが重要となります。
「血」の巡りを改善する漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、桂枝茯苓丸など
4.目の不調によく使われる生薬
中医学特有の表現に「明目」という言葉があります。字の如く、目を明るくはっきり見せるという意味で、目の機能を高め、疲れやかすみを改善することを指します。
<代表的な生薬>
🟡菊花(きくか):爽やかな香りから「気」の巡りを良くし、ストレスや目の酷使により高ぶった「肝気」を鎮めます。中国では、目の疲れた時にお茶としてよく飲まれています。」
🟡枸杞子(くこし):スーパーフードの「ゴジベリー」。古来より補腎の生薬として知られ、精を補い視力を改善する働きがあります。漢方薬の杞菊地黄丸にも入ってます。
🟡決明子(けつめいし):目の炎症を抑え良く見えるようになることから「決明」と名付けられました。日本では、よく便通の改善にも使われます。
🟡石決明(せっけつめい):アワビの貝殻の生薬。別名「千眼光」よ呼ばれ、「肝」の高ぶりを抑え、目の酷使による頭痛や飛蚊症などに使われます。
最後に
<質の良い睡眠が目を守る!💤>
中学では、午前1~3時は「肝」が活発に働く時間帯とされています。
この時間にきちんと熟睡できてると、全身の「血」が「肝」に集まり、老廃物を解毒・浄化し、栄養豊富な「血」へと生まれ変わります。
「目が疲れやすい」「視力が落ちてきた」「寝ても疲れが取れない」
そんな方は、寝る前のスマホやタブレットを手放して、質の良い睡眠を意識してみましょう。
「目を使ことが増えた」「最近、見えにくくなってきたかも」
そんな時、中医学の視点で体の内側を見直してみると、良い効果が得られるかもしれません。目のトラブルは、単なる疲労ではなく、「肝」「腎」など五臓からの悲鳴のサインかもしれません。体質に合わせた漢方薬や食事、生活習慣を整えることで、目だけでなく、全身のバランスも整っていきます。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐