五臓六腑:肝の働きについて

はじめに

厳しい寒さもようやく落ち着き、段々と春の訪れを感じる季節になりました。
春の暖かさや桜の開花で心が躍る一方、春は気候(寒暖差、春一番)や環境(新年度、新生活、新学期)の変化が大きく、心身ともに疲弊する方が多い時期でもあります。

中医学では、春は「肝」との関連が深い時期とされ、春に不調が出やすい方は出来るだけ「肝」への負担を減らしてあげることがポイントとなります。春の変化にスムーズに適応できるように中医学における「肝」の働きを理解し、気持ちよく春を迎えましょう。

「肝」の働き

①疏泄(そせつ)を主る

お互いの考えや意見を理解し、気持ちが通じ合うことを意思疏通(疎通)と言いますが、この「疏」には塞がっているものを滞りなく通じさせる、そして「泄」には排泄の言葉から連想されるように何かを押し出す、流すという意味があります。つまり、「疏泄」とは、何かを滞りなくスムーズに流れるということを指し、中医学における“その何か”とは全身の「気」の流れを意味します。

中医学では、人間の身体は「気」「血」「津液」などで構成されていると考え、その中でも「気」は生命活動を支えるエネルギー的な存在であるとともに、情報を伝え身体全体のバランスを整える情報伝達物質でもあります。

・情志を調節する
伝達物質としての「気」は主に「肝」の「疏泄」機能によりコントロールされますが、ストレスや憤りを強く感じたり、憂鬱な状態が続いたりなど精神的な負荷がかかると「疏泄」機能が失調し、「気」の流れが停滞することにより精神活動に影響を及ぼします。

気持ちを落ち着ける時に深呼吸をしたり、嫌なことがある時に溜め息をつくのは、ストレスによって生じた気の滞りを散らすという本能的な反応なのかもしれません。

・消化吸収を促進する
飲食物の消化吸収は「脾胃(胃腸)」で中心的に行われますが、肝の「疏泄」機能は「脾胃」の気の流れも調節しており、胃腸における正常な消化吸収をサポートしています。
普段は何も問題がないのに、プレゼン発表や面接、試験前などある特定の場面になると、食欲が無くなる、下痢をする、お腹が痛むなどを訴える方がいますが、これは肝の「疏泄」機能が失調したことで「気」の流れが停滞し、胃腸の働きをコントロールすることができなくなったことが原因といえます。

・血液運行を維持する / 水液代謝を調節する
中医学には「気は血を行(めぐ)らす」「気は津液を行らす」という言葉がありますが、「気」は内臓や組織・器官などを活発にする働き以外にも、身体中の「血」と「津液(水・潤い)」の循環をスムーズに巡らす働きも担っています。
そのため、「疏泄」機能が低下し「気」の流れが悪くなると、「血」が停滞した「瘀血」の状態や余分な水分が滞った「痰湿」の状態へとつながり、頭痛や肩凝り、生理痛、浮腫みなどが生じやすくなります。

上記のように「疏泄」の働きは、現代医学の脳からの指令(視床下部)や自律神経(交感神経⇆副交感神経)の働きに近いとされ、身体の様々な働きに影響を与えます。

②蔵血(ぞうけつ)を主る

貧血にはお肉のレバーを食べると良いと言われるように、「肝」には「血」を貯蔵する働きがあります。また「肝」は血を貯蔵するだけではなく、血液量の調節も行っており、各組織器官、特に目や筋、爪、子宮(詳細は下記参照)などの組織を養い正常な生理活動を維持する働きがあります。

「肝」と五行の関係

③肝は筋を主り、その華は爪にある
「筋」とは筋肉と骨、関節を連結する組織を指し、現代医学の腱や靭帯、筋膜などの働きに近いといわれています。この「筋」は肝の「血」(肝血)により養れ、もし「肝血」が不足すれば筋には栄養がいかず、こむら返りや瞼が痙攣するなど筋の収縮や弛緩に問題が生じます。
また、中医学では「爪は筋の余り」という言葉があり、爪も筋と同様に「肝血」により養われます。「肝血」が十分にあれば硬く丈夫な爪となりますが、「肝血」が不足すれば爪は柔らかく脆くなり、爪が割れたり、筋が入りやすくなります。

④肝は目に開竅する / 肝の液は涙である
目には多数の血管が通っていることからも分かるように、目を使うことは多くの「血」の消耗へとつながり、その栄養源は「肝」に貯蔵されている「血」となります。中医学の古典にも「肝受血、而能視」とあり、「肝血」が十分にあることで視力が保たれます。目が霞む、眼精疲労、ドライアイなど目の症状でお悩みの方は、もしかしたら「肝血」不足が原因かもしれません。

⑤肝の志は怒
中医学では「怒りは肝を傷る。怒れば則ち気上る。」という言葉があり、怒りやイライラ、強い憤りなどの感情は「肝」に影響を与え、「気」の停滞へとつながります。また、怒った時に頭に血が上るという表現がありますが、激しい怒りによる興奮は「気」を上昇させ、顔が赤くなったり、頭痛を引き起こしたり、目の充血へとつながります。

⑥肝と関係がある季節は春である
「肝」は五行の木の分類に属すことから、その働きをよく植物に例えられます。植物は冬の寒い間、土の中で幹や根に栄養を蓄え、春になり暖かくなると新芽が顔を出し始め、太陽に向かって上へ上へと成長します。この流れは、人間の体内も同様で、冬に蓄えていた「エネルギー:陽気」が春の訪れとともに活溌になり始めます。また、芽を出した植物(木)たちが、のびのびと成長することを好むように、私たちの身体に流れる「気」も停滞することなく、のびやかに流れることで私たち身体全体の活動が安定します。
つまり、「春」と「肝」は「のびのびと成長し、活動的になる」という共通の性質を持ち、「肝」の働きが活溌になりやすい「春」は、上記で述べた「疏泄」機能が失調し「気」の乱れを生じ自律神経のバランスを崩しやすくなります。

最後に

「肝」に負担がかかりやすい春は、心も体も「自由気ままにのびのび過ごす」ことが養生のポイントになります。新年度を迎えるからと何か新しいことを始めよう!と意気込む方もいますが、春に不調を感じやすい方は周囲の流れに惑わされずに、自分のペースを保つことを心掛けてみてください。

<オススメ養生>
①お散歩
「気」の巡りを良くする代表的な漢方に「逍遙散:しょうようさん、加味逍遙散:かみしょうようさん」がありますが、この「逍遥」とは、元々は「気ままに散歩する」という意味があります。気分転換が苦手な方は、心地よい春の陽気を感じながら、自由気ままにのびのびとお散歩してみてください。

②「香味、補血、苦味」の食材を摂る
・香味:春菊、三つ葉、紫蘇、みょうが など
→香りの良い食べ物は「気」を巡らせます。

・補血:なつめ、クコの実、ほうれん草、小松菜、黒ごま など
→「血」を補うことで正常な肝の働きをサポートします。

・苦味:ふきのとう、タラの芽、わらび、たけのこ など
→冬にため込んだ老廃物を排出します。


薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐