三次喫煙をご存じですか?

三次喫煙のリスクとは?~受動喫煙対策だけでは不十分~

喫煙者が吐き出した煙や、タバコから立ちのぼる煙を吸った場合の、いわゆる「受動喫煙」の危険性は、健康意識の高い人たちを中心にそれなりに浸透しているように感じます。しかし、最近ではタバコに火がついていなくても、周囲に付着した残留タバコ成分によって生じる健康被害が問題になっているのをご存知でしょうか。「三次喫煙」と呼ばれる、喫煙のさらなる悪影響について考えてみました。

三次喫煙とはどういうもの?

喫煙者が自分の肺にタバコの煙を吸い込むことを「一次喫煙」、喫煙者が吐き出した煙やタバコから直接立ちのぼる煙を他者が吸入することを「二次喫煙」といいます。二次喫煙は、自分ではタバコを吸っていない受け身の喫煙ということから「受動喫煙」とも呼ばれます。

英語では、一次喫煙をファーストハンドスモーク(first-hand smoke)、二次喫煙をセカンドハンドスモーク(second-hand smoke)といいますが、新たに問題になっているのが、アメリカ国立がん研究所が提唱するサードハンドスモーク(third-hand smoke)、日本語で「三次喫煙」または「残留受動喫煙」と呼ばれる概念です。

その場に喫煙者がいないのに、喫煙が繰り返されたカラオケボックスに入ったときや、新幹線の喫煙車両、ヘビースモーカーが所有する車に乗ったときなどにタバコ臭を感じた経験がある方も多いと思います。それは、タバコに含まれている成分が壁紙や布、家具などにしみ込んでしまうからですが、そういった残留タバコ成分によって健康被害を受けることを「三次喫煙」と言います。

乳幼児に注意!換気を行っても有害物質は除去できない

臭いがこびりつくだけなら健康に問題がないのではないか?と考える方もいると思いますが、そうではないところが三次喫煙の怖いところです。

家具やソファ、カーテン、カーペットなど、周囲のものすべてにタバコの煙の残留物質は付着します。その残留物質はオゾンや亜硝酸といった空気中の化学物質と反応して揮発(きはつ)し、発がん性が指摘されている成分を含む有害物質となり、第三者を巻き込む汚染源となる可能性が研究によって明らかになりつつあるのです。

米国科学アカデミーの機関紙「PNAS」では、車内に残量するタバコのニコチンが大気中の亜硝酸と反応して発がん性物質ニトロソアミンをつくったという研究結果が発表されています(2010年米国ローレンス・バークレー国立研究所発表)。同記事によると、喫煙者の車内にセルローススポンジを 3時間放置したところ、なんとニトロソアミンが約10倍も増加したと言うのです。
物の表面について揮発する有害物質は、換気を行ってもそのリスクを排除できないのがやっかいなところです。

さらに、タバコの煙の残留物質は喫煙者の衣服や髪の毛にも付着します。
また、タバコを吸った人の呼気(吐く息)には大量のガス状物質が含まれ、喫煙の影響がなくなるまでに45分は必要とされています。ベランダなど屋外に出て喫煙しても、その後すぐに家に入って子どもを抱けば呼気からの二次喫煙、衣服や髪の毛に付着した残留物質が化学変化して揮発してからの三次喫煙と、ダブルの被害を受ける危険性も考えられます。

特に注意をしたいのは、乳幼児がいる家庭です。有害物質はおもちゃなどを含め、いたるところに付着します。乳幼児はただでさえ絨毯の上をハイハイし、ソファで眠り、何でも口に入れようとします。
成長段階にある子どもの身体への影響は、決して無視できるものではないはずです。

米国のダナ・ファーバー癌研究所は三次喫煙について乳幼児への被害についても言及しています。乳幼児の場合、呼吸速度が大人より速いことや床などとの接触が多いことから三次喫煙のリスクは大人より高く、「親や事業主は三次喫煙によるリスクを認識し、喫煙の排除こそがタバコの煙汚染を防ぐ唯一の方法だ」と述べています。

厚生労働省が受動喫煙による年間死亡者数は15,000人と推計

タバコの煙には、約4000種類の化学物質、約200種類の有害物質、60種類以上の発がん物質が含まれています。喫煙者本人の肺にこれらの有害物質が入るのは当然ですが、実際にはフィルターを介しているため、少しは軽減されています。しかし、周囲にいる第三者は直接煙を吸い込むことになり、その分発がん性物質を多く吸い込む危険性があるのです。つまり、タバコを吸う本人よりも周囲の人達の方が有害だということになります。

2016年の報道によると、厚生労働省の研究班は「受動喫煙が原因での死亡者数は推計年間15000人」と発表。2010年の推計6800人(後に脳卒中による死亡約8千人が加算された)から大幅に増加しています。これは受動喫煙と因果関係があるとされる肺がん、虚血性心疾患(心筋梗塞など)、脳卒中、乳幼児突然死症候群に関する非喫煙者とのリスクの比較や職場・家庭における受動喫煙の割合などの調査から割り出した結果ですが、男女比では、男性が4,523人、女性が10,434人となっており、受動喫煙率が高い女性が男性の2倍以上になっています。

現在、受動喫煙による研究は進んでいます。受動喫煙で肺がんのリスクは20~30%上昇、虚血性心疾患においては25%~30%上昇とされています。さらに受動喫煙は、子どもの呼吸器疾患や中耳炎を引き起こすことが指摘され、乳幼児がはっきりした理由もなく突然亡くなってしまう乳幼児突然死症候群(SIDS)についても、タバコが危険因子と考えられているのです。

三次喫煙も意識しながら家族の安全を考えたい

アメリカの査読つき科学雑誌「PLOS ONE」に掲載された、カルフォルニア大学リバーサイド校におけるマウスを使った実験結果によると、三次喫煙に汚染された環境に置かれたマウスは、肝臓には脂肪の蓄積、肺には肺胞壁の破壊が多く見られ、また皮膚の治療に時間がかかったり、また行動の多動性などが認められたと報告されています。

三次喫煙は近年の研究によってようやく明らかになりつつあります。
換気による排除が難しいことや、空気中の物質と反応して発がん性物質に変化した有害物質は、その影響が長期にわたって持続するため、受動喫煙(二次喫煙)以上に毒性が高いという報告もあります。

受動喫煙や三次喫煙のリスクを始めて知った方も、すでに受動喫煙防止に取り組んでいる方も、家族や周囲の健康を考え、今何ができるのか考えてみるのはいかがでしょうか?