ダイエットと漢方薬

はじめに

誰でも一度は「ダイエット」のことで悩んだことがあるのではないでしょうか?

・健康や美容のためにダイエットをしようかな
・ダイエット⇔リバウンドを繰り返してしまう
・色々な○○ダイエットを試したけど、思うような効果が得られなかった
・今年こそは痩せる!が口癖になっている

巷では、簡単!すぐに痩せられる!と謳い様々な〇〇ダイエット法がありふれてますが、体質や体のバランスを無視した方法では、十分な効果が得られないばかりか、逆に体調を崩してしまうこともあります。

無理な食事制限や過度な運動により、たしかに体重は減ったけれど、疲れやすくなったり、便秘・貧血・肌荒れなどの不調が出てしまったという声も少なくありません。

中医ダイエットとは?

「中医ダイエット」とは、中医学の理論に基づくダイエット方法です。
単に体重を減らすことを目的とするのではなく、「太りやすい体質」の原因を考え、身体で起きている細かな不調を整えながら、健康的に「痩せやすい体質」へと導くことを目標にしています。

体質を改善しながら進めるため、肥満の解消や体重を落とすことと同時に肩こりや頭痛、疲れやすい、浮腫みなどの身近な不調を改善できるのが魅力の一つです。
中医ダイエットで自身の体質を理解しながら、無理のないダイエットで身体の中から”痩せる”身体づくりを目指しませんか?

中医学で考えるダイエット

中医学では、太りやすくなる体質や肥満になる原因として下記の4つのタイプに分けて考えます。

1.🪫脾胃虚弱(ひいきょじゃく)

「脾胃」は現代医学で言う「胃腸」に相当します。
私たちが食事から得た栄養をもとに、生命活動に必要なエネルギー(気)や、血液・体液のもとになる「血」や「津液(しんえき)」を生成する重要な働きを担っています。

「脾胃虚弱」の状態では、胃腸機能の低下により下記の状態へと陥りやすくなり、太りやすい体質へと繋がります。

🔍 脾胃虚弱によって起こる主な問題
1.気や血を作り出すことができない
→ 基礎代謝の低下、疲れやすい、やる気の低下

2.水分代謝が機能せず、体内に余分な水分が溜まる
→ 浮腫、下痢や軟便

<主な特徴>
✅疲れやすい、やる気がでない
✅食欲不振
✅汗をかきやすい、風邪を引きやすい
✅下痢・軟便気味
✅身体が重い

「脾胃」の働きを高めながら、「気」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:健胃顆粒(香砂六君子湯)、健脾散(参苓白朮散)、防己黄耆湯など

2.🗑️痰湿/湿熱内蘊(たんしつ/しつねつないうん) 
本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰湿」と呼び、この「痰湿」が長期的に体内にとどまると、次第に“熱”を帯び「湿熱」という状態へと変化します。

🌱 痰湿・湿熱が溜まる背景とは?
「痰湿」や「湿熱」は食生活と深い関係があり、肥甘厚味(肥:脂っこい物、甘:甘い物、厚:味の濃い物)の多い食事を摂り過ぎると、胃腸に負担がかかり身体に余分な老廃物が蓄積されやすくなります。

<主な特徴>
✅悪心、胸やけ
✅下痢・軟便気味
✅身体が重い、浮腫む
✅肥甘厚味の過食、アルコールの多飲
✅肌が荒れやすい
✅口が苦い、粘つく

余分な水分や老廃物を除去する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:星火温胆湯、胃苓湯、茵蔯五苓散など

食べ過ぎや夜遅い食事が習慣になっている方は、食べ物を消化を促す「晶三仙(山査子、麦芽、神曲)」を併用するとより効果的です。

🔁 脾胃虚弱タイプとの関係性
「脾胃虚弱」の体質がベースにある方は、飲食物の消化吸収や水分代謝の機能が低下しているため、老廃物である「痰湿」や「湿熱」が溜め込みやすい傾向んいあります。また、中医学では「脾は湿を嫌う」という言葉があり、「湿」が溜まることで「脾」の機能が低下し、さらに「湿」が発生しやすくなります。

3.🌀肝気鬱結(かんきうっけつ)
 中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」や「血」の流れを調節しているとともに精神面の安定にも関与していると考えらています。

通常、「肝」が正常に機能している場合では、精神的な負荷に対して一定の耐性があり、受け流すことができますが、ストレス負荷が強い場合や長期間ストレスを受けている場合は、自身の「肝」の閾値を超えてしまい自律神経のバランスが大きく乱れへます。
このような状態を中医学では「肝鬱」と呼び、発散することのできないストレスが鬱々と蓄積し、「気」や「血」の滞り(気滞、瘀血)を引き起こします。

<主な特徴>
✅イライラしやすい
✅脇腹や胸が張る
✅ストレスが原因で食べ過ぎる
✅PMS(月経前症候群)がある
✅月経不順
✅下痢と便秘を繰り返す

「肝」の働きを整え、「気」の巡りを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:逍遥顆粒、開気丸、大柴胡湯など

「気」の巡りが良くなると基礎代謝も上がるため、上記症状の改善とともに体重の減少へとつながります。

4.🩸瘀血(おけつ)
 「瘀血」とは、血の巡りが悪くなり、血液がドロドロとした状態を指します。このドロドロとした血液には、中性脂肪やコレステロールが含まれており、体内に「瘀血」が蓄積されると内臓脂肪や皮下脂肪がつきやすくなるため、メタボ体系のような肥満の身体へとつながります。

🌊 川の流れにたとえる「瘀血」の原因

瘀血の形成にはいくつかの原因が複雑に関与しており、これを川の流れに例えると以下のように説明できます:

①痰湿や湿熱:川に土砂やゴミが溜まり、水の流れが阻害される状態
②肝気鬱結(気滞):岩が多く、水の流れがせき止めらている状態
③気血不足:水の流れに勢いがなく、石や土砂が溜まりやすい状態
④冷え:川の水が凍り、流れが悪い状態

このように、「瘀血」の改善には単に巡りを良くするだけではなく、その流れを妨げている根本原因にもアプローチする必要があります。

<主な特徴>
✅肌くすみやシミ、そばかすが気になる
✅肩こりや首こり、頭痛が酷い
✅月経不順
✅生理痛がある(出血時にレバー状の塊が出る)
✅舌裏の血管が太く怒張している

漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参など

5.その他(防風通聖散)
ダイエットの漢方薬として非常に有名な「防風通聖散」。
その高い有効性と速効性から肥満症に使われることが多いですが、そもそもはダイエットの目的の薬ではなく、カゼを引いたときに使用する漢方薬です。

🔍 防風通聖散の主な働き

✔体表の邪気を汗とともに発散させる
→カゼ症状(悪寒、発熱、頭痛など)の軽減

✔体内にこもった熱を便や尿とともに出す
→口渇、便秘、尿黄短少の改善

⚠️ 注意すべき体質
無理やり発汗させ、身体(特に胃腸)を冷やし便通や排尿を促すため、気が不足しているタイプや脾胃虚弱タイプ、冷え体質の方は向いていない漢方薬となります。

最後に

中国では、昔から「養生七分、治三分」という言葉があり、健康で暮らす上では日々の養生(生活習慣)が何よりも重要と考えます。
逆に言えば、効果のあるお薬を飲んだところで養生を疎かにしていたら、一向に症状は良くならないということです。(一時的に症状が改善しても、すぐに再燃する方が多いのは、養生の影響かもしれません。)

太る一番の原因は、”食事の内容”とよく言われますが、太りにくい体質を作るには、食事内容の見直しに加え、脾胃(胃腸)に負担をかけず、身体内に老廃物を溜めないような習慣が重要になります。
また、漢方薬を吸収する臓腑は脾胃のため、胃腸の状態を健康に保つことは、漢方薬の吸収を高めることにもがつなります。

📝 毎日の生活に取り入れたい習慣

✅食事の比率は「穀類4~5割、野菜4割、動物性食品1~2割」を目安に
→穀類:米、小麦、大豆など / 野菜:葉物野菜を中心に旬のもの / 動物性の食品:肉、魚介類、卵、乳製品など

✅腹八分を心掛ける(胃がもたれない・苦しくならない、身体が重くだるくならない、眠くならない程度の食事)

✅一口30回を目安に噛む

✅生のもの、冷たい飲食物を控える

✅脂っこい物、甘い物、味の濃い物を控える

✅20時以降に食事をしない

当店では、漢方相談に加えて、薬局併設の施設にて運動機器を用いたフィジカルサポートも行っております。

漢方薬による体質改善と、適切な運動・ストレッチを組み合わせることで、ダイエットはもちろん、病気になりにくい「健康な身体づくり」をトータルでサポートいたします。

ご興味がある方は、ぜひ当店までご連絡ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐


 

高血圧と漢方薬

はじめに

高血圧は、別名「サイレントキラー」とも呼ばれ、血圧が高い状態のままでいると、脳卒中や心筋梗塞、腎不全など重大な合併症を引き起こす可能性が高くなります。
実際に日本人の死因で上位を占める「心疾患(第2位)」「脳血管疾患(第4位)は高血圧と関連があり、血管に大きな負荷をかけないことが非常に重要になります。

中医学には、病気の発症や病状が悪化する前に未然に防ぐ「未病先防(みびょうせんぼう)」という考え方があります。
高血圧を診断された段階では、まだはっきりとした症状を感じないことも多いですが、この“未病”の時点でしっかりと対処していくことで、将来的な合併症のリスクを抑えることができます。

血圧の基礎知識

血圧とは?
血圧とは、心臓から送り出された血流が血管(動脈)の内壁を押す力(圧力)を指し、心臓から拍出される血液量(心拍出量)と末梢血管での血液の流れにくさ(末梢血管抵抗)により決まります。

血圧の「上」と「下」って?
血圧を測定すると「上が130で下が80」といった数値が表示されますが、そもそも「上」と「下」の違いは何でしょうか?

・上=収縮期血圧(最高血圧)
心臓が収縮して血液を全身に送り出すときの血圧

・下=拡張期血圧(最低血圧)
心臓がポンプするために血液をためて膨らんでいる(拡張している)時の血圧

高血圧の診断基準
日本高血圧学会の「ガイドライン2019」によると、病院などの医療機関で測定した血圧(診察室血圧)では「収縮期血圧は140mmHg、拡張期血圧は90mmHg」以上を高血圧としています。
家庭で測定した「家庭血圧」は医療機関での測定より低い数値が出る傾向にあるため、それぞれ5mmHgを引いた数値となります。

また、降圧目標は下記のように設定されています。

中医学で考える高血圧

1.瘀血阻絡(おけつそらく)

「瘀血」とは、血管に溜まった汚れや血液がドロドロした血の巡りを悪い状態を指します。
一般的に血管というと、動脈や静脈といった太い血管をイメージされますが、太い血管は全体の1%程度で、その他は太さ6μm程の目に見えない毛細血管が99%を占めています。
この毛細血管の血液の流れが悪いと、血管の抵抗性が高まり血圧の上昇へとつながります。また、血液の流れが悪いことで心臓が血液を流そうと頑張ってポンプするため血圧が高くなります。

<🩸瘀血タイプの特徴>

✅頭痛・めまいがある
✅首や肩のこりがある
✅手足の静脈が浮き出ている
✅生理痛がある、生理に塊が混じる
✅舌裏の血管が青紫色に怒張している

血の巡りを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、田七人参など

2.湿熱内停(しつねつないてい)

血の巡りを悪くする原因は「瘀血」だけではありません。
中医学では、体に溜まった不要な水分や老廃物を「「痰湿」といい、この「痰湿」が体内に長く停滞すると、やがて熱を帯びて「湿熱」という状態へと変化します。

「湿熱」が血管内に溜まると、まるでヘドロで詰まった水道管のように、血管の流れが悪くなり、血圧が上がる原因となります。

<🗑️湿熱タイプの特徴>

✅脂っこいもの、味の濃いもの、お酒が好き
✅ぽっちゃり体型(メタボ体型)
✅身体が重だるい、胃がむかむかする
✅口が苦い、臭い、粘る
✅舌に苔がべっとりついてる

老廃物である「痰湿」や「湿熱」を解消する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:星火温胆湯、瀉火利湿顆粒(竜胆瀉肝湯)、黄連解毒湯など

3.肝陽上亢(かんようじょうこう)

「肝陽上亢」とは、体内の潤い(陰血)が減り、熱(陽気)が相対的に強まっている状態をいいます。

イメージとしては、やかんでお湯を沸かすときの状態。
水がたっぷりあるとバランスが取れてゆっくり沸きますが、水が少ないとすぐに煮え立って湯気が噴き出しますよね。
この”水”が少なく、湯気(熱)が上に昇るような状態がまさに「肝陽上亢」です。

<♨️肝陽上亢タイプの特徴>

✅のぼせて顔が赤くなる
✅頭痛、めまい、耳鳴りがする
✅足腰がだるい
✅寝汗をかく

上部へ上昇した「陽」を抑える漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:釣藤散、降圧丸など

また、上記に合わせてやかんの水の部分(中医学では「陰」といいます。)を補給するような漢方薬を使用するとより効果的です。
漢方薬の例:双料杞菊顆粒(杞菊地黄丸)、瀉火補腎丸(知柏地黄丸)、亀鹿仙など

4.その他:沙棘(サージ)製品

上記で述べたように、血圧が上がる原因の一つとして血管壁の弾性がなくなり血管が硬くなることで起きる場合があります。
このような時に血管を柔らかくしたり、微小循環の改善や抗酸化作用のある沙棘(サージ)製品を使用すると血圧が下がる場合があります。

最後に

漢方薬は、西洋薬のようにすぐに血圧をガクッと下げるものではありません。
しかし、中医学の大きな強みは「未病先防」——つまり、症状が本格的に現れる前の段階から体を整え、病気の予防や悪化の防止に役立てることができる点にあります。
自身の体質を理解し、漢方薬で病気になりにくい体を作りませんか。
血圧や血流に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐