汗と漢方薬

はじめに

汗には、体内の不要な老廃物や毒素の排出(デトックス)や体温調節、皮膚の保湿など様々なメリットがありますが、

・少し動いただけで汗がダラダラ
・更年期に入り汗が気になるようになった
・寝汗が酷く、パジャマやシーツがびっしょり
・手や足、脇の下の汗・臭いが気になる
・緊張すると汗が止まらない

などの不快な汗は、悩んでいる人にとってはただの汗っかきでは済まされない辛い症状かと思います。
病院に行くほどではないけど、他人にも相談できないし、どう対処すべきか良いかお困りの方は多いのではないでしょうか。

中医学で考える汗

中医学では次の5つのタイプで汗の異常を考えます。

1.肺気不足(はいきふそく)
中医学における「肺」には、呼吸系の働き以外に体表にある汗腺の開閉をコントロールする役割を担っています。
そのため、肺の力が弱っている方は、汗腺(中医学では「腠理:そうり」)が緩んだ状態のため、少しの動きで汗が漏れ出たり、邪気が入りやすく頻繁に風邪を発症します。 

このタイプの特徴は

□活動後に汗が出やすくなる
□風邪を引きやすい、冷気(冷房)を嫌がる
□疲れやすい
□すぐ息が切れる

「肺」の働きを高める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:衛益顆粒(玉屛風散)、補中益気湯など

2.営衛不和(えいえいふわ)

「営衛不和」とは、「営気:えいき」と「衛気:えき」のバランスが崩れた状態をいいます。
●営気:血管中にある気で津液(水)を血に作り変え、全身を栄養し潤す働きをしています。
●衛気:名前の通り「防衛の気」であり、身体に悪影響を与える邪気から身体を守るバリア的な役割をしています。邪気の侵入口である皮膚や汗腺の開閉に関わります。
営気と衛気のバランスが崩れた状態だと、衛気が営気をとどめておくことができず営気が漏れ出し、汗となり外に出ます。

このタイプの特徴は

□発汗後、風に当たるとゾクゾクと嫌な感じがする
□半身や局所的に汗がでる
□カゼの様な症状を伴う(軽い発熱、悪寒、だるい)

「営衛」のバランスを整える漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:桂枝湯、桂枝加竜骨牡蛎湯など

3.陰虚火旺(いんきょかおう)

中医学では「心」は火(陽)に、「腎」は水(陰)に属し体内の温度調節を行っていると考えます。

「陰虚火旺」の状態では、体内を冷却する水(陰)が不足することで、相対的に心の力が増すため、火(陽)の亢進が起こり汗をかきやすくなります。

このタイプの特徴は

□寝汗をかく
□手の平や足の裏がほてる、微熱
□口が渇く
□便秘気味

冷却水(腎陰)を増やし、火を鎮める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:瀉火補腎丸(知柏地黄丸)、六味地黄丸など

4.湿熱鬱蒸(しつねつうつじょう)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰湿」と呼び、この「痰湿」が長く停滞すると、熱を帯び「湿熱」という状態へと変わります。
生ゴミを放置すると腐敗し蒸されるように、身体の中で熱を帯びた「湿熱」は汗の原因となります。

このタイプの特徴は

□蒸すように汗が出る
□口が苦い、臭い、粘る
□舌に苔がべっとりついてる
□飲食の不摂生(脂もの、甘いもの、味の濃いもの、お酒など)

余分な水分や老廃物を除去するとともに熱を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:瀉火利湿顆粒、茵蔯五苓散など

5.肝気鬱結(かんきうっけつ)

面接や大事なプレゼンなどの精神的な緊張やストレスがかかる場面で額や脇、手の平などから汗が噴き出してしまうことはないでしょうか。
中医学における「肝」は自律神経全般を主ると考えられており、全身の「気」の流れを調節し、精神面の安定に関与していると考えらています。過度なストレスなどにより「肝」の働きが乱れると「気」の流れが滞り、「肝気鬱結」という状態になります。

このタイプの特徴は

□精神的な負荷がかかった場面で汗が出る
□普段からストレスを感じやすい
□情緒が不安定になりやすい

「肝」の働き正常化し気の流れを良くする漢方薬を使用すると効果的です。
漢方薬の例:加味逍遥散、柴胡加竜骨牡蛎湯など

最後に

一般的に汗を大量にかくこと=デトックスだと考えられ、サウナやホットヨガなど不自然に大量の汗をかくことがブームになっていますが、これらは万人に合うものではなく、特に上記「1.肺気不足」「2.営衛不和」「3.陰虚火旺」のタイプにはあまりオススメできない発汗方法になります。

中医学では「汗(津)血同源:かん(しん)けつどうげん」という言葉があり、汗(津液≒水)と血は同じ源からできていると考えます。つまり、汗を大量にかくことは、体内の水分量の減少だけでなく、血の消耗も意味し、血液の循環に関わる心臓への負担も大きくなります。このことから「汗は心の涙」ともいわれています。
サウナで「心が整う」はひょっとしたら暑さに耐えた達成感からくるものであり、実際には「心はもうやめてくれー!」と悲鳴を上げているかもしれません。

上記で述べたように汗が出てしまう原因は人それぞれです。体質に合う漢方薬と食養生を通し症状を改善しませんか?不快な汗の症状でお悩みの方は、ぜひ当店までお越しください。

薬剤師 中目 健祐