口臭と漢方薬

はじめに

あれ?もしかして口臭いかも…。
自分ではなかなか気付きにくい口の臭い。誰かと話す前に手で口を覆って臭いを確認したり、マスクで口元を隠したり、話しながら相手の顔色を伺ったりと、もしかして口臭いのかな?大丈夫かな?と気にされている方も多いのではないでしょうか。
口臭で悩んでいる方の多くは、歯磨きや舌掃除、ガム/タブレットなど一通りの口腔ケアをしても一向に良くならない、一時的に落ち着いてもすぐに臭ってきてしまうという方がほとんどだと思います。
中医学における口腔ケアは上記の様なその場しのぎの対処ではなく、臭いの元となる体内で発生した「熱(詳しくは下記を参照)」をケアし根本的な解決を目指します。体質に合った漢方薬で臭いや他人の目を気にしない生活を送りませんか?

口臭の原因

口臭の原因は①生理的原因と②病的原因、そして③飲食物や嗜好品による外因的要因の3つに分類されます。

中医学で考える口臭

上記でも述べたように中医学では、臭いの原因を体内で発生した「熱」によるものと考え主に以下の3つ分類されます。

1.胃熱(いねつ)

中医学における「胃」の働きは、現代医学の機能と近いとされており以下の働きがあります。

①受納(じゅのう):飲食物を受け入れる

②腐熟(ふじゅく):飲食物を消化しやすい状態にする

③降濁(こうだく):消化した飲食物を小腸へ降ろす

「胃熱」とは、読んで字の如く胃がオーバーヒートを起こしている状態です。「胃熱」の状態では上記①〜③の働きが活発となり、食べても食べてもどんどん空腹感を感じるようになります。処理(腐熟)能力を超えた胃の中は、消化されずに残った飲食物が蓄積し悪臭を漂わせるようになります。まさにゴミ収集車に回収されず残ったゴミが悪臭を放つイメージです。

このタイプの特徴は
・食べてもすぐ空腹になる
・冷たい飲み物を好む、口・喉が渇く
・便秘
・舌全体が紅い

「胃」の熱を清ます漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:黄連解毒湯、三黄瀉心湯、半夏瀉心湯など

「胃」に熱がこもる原因としては以下のようなことが考えられます。
・食生活の問題
→肥甘厚味(肥:脂っこいもの、甘:甘いもの、厚:味の濃いもの)やアルコールを過食過飲すると徐々に「胃」に熱が帯び始めます。

・ストレスの問題
→精神的なストレスを受けると自律神経を主る「肝」の働きが乱れ、隣の臓腑である「胃」に影響を及ぼします。「肝」より攻撃を受けた「胃」は上記①〜③の働きが亢進し「胃熱」の状態へと変化していきます。ストレスを感じたり、生理前(PMS)になると過食気味になる人は、このような「肝」から「胃」への攻撃が原因とされています。

2.湿熱(しつねつ)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰湿」と呼び、この「痰湿」が長く停滞すると、熱を帯び「湿熱」という状態へと変わります。上記の「胃熱」と同様で、胃内に蓄積された飲食物が腐敗し蒸されることで口臭の原因となります。

このタイプの特徴は
・口が粘る
・暑がりで汗っかき
・胸焼けがする、胃酸が逆流する
・舌に苔がべっとりついてる

口臭の原因でる「湿熱」を除去する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:星火温胆湯、黄連解毒湯、瀉火利湿顆粒など

舌の掃除しても無駄…?
口臭対策の代表的なものに舌掃除がありますが、舌に苔がつく理由は上記で述べたように余分な水分や老廃物である「痰湿」や「湿熱」が胃腸に停滞することが原因です。逆に言えば、胃腸に「痰湿」や「湿熱」が存在する限り苔は永遠に発生し続けるということです。そう考えると、舌掃除は一時的な効果はありますが、苔を完全に綺麗にするには体内の環境を変えるしか方法はないと言えます。

3.虚熱(きょねつ)

「虚熱」とは身体の潤い(冷却水)が不足し相対的に熱が発生している状態をいいます。
口の中の潤いである唾液には様々な働きがありますが、その中には食べ物の消化を促したり、食べかすや汚れを洗い流し口内を清潔に保つ働きがあります。また、胃内の潤いである胃液は、食べ物の消化や栄養の吸収に関わっています。したがって、これらの潤いが不足すると、口内や胃内が乾燥し消化されずに残った飲食物と体内の冷却水の減少から発生した「虚熱」が口内にこもり口臭へとつながります。

このタイプの特徴は
・ドライマウス
・空腹感はあるが食欲はない
・胃の灼熱痛、痞え
・舌の苔が少ない

身体に潤いを補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:甘露飲、麦門冬湯/百潤露+清熱剤など

最後に

上記で述べたように口臭は普段の食生活と密接に関わっています。特にお悩みの方は和食中心のヘルシーな食事を心掛け以下の食材を取り入れるとより効果的です。

▪️胃熱/湿熱タイプ
・野菜:苦瓜、きゅうり、チンゲンサイ、ゴボウ
・お肉:豚肉
・果実:スイカ、キウイフルーツ、バナナ
・その他:緑茶、お蕎麦、海藻類

▪️虚熱タイプ
・野菜:レンコン、ゆり根、大根、トマト
・お肉:豚肉
・果実:梨、ブドウ、マスカット
・その他:豆乳、蜂蜜、白キクラゲ

また、口臭のお悩みの中には、実際は全く臭いがしていないのに自分の口臭や体臭が酷いと思い込んでいる場合(自臭症)もあります。この場合は、上記で述べた「熱」による問題ではなく「こころ=精神面」へのアプローチが必要となります。

漢方薬や養生を通じて口臭を気にせず少しでも笑顔で過ごせる時間が増やせたらと思います。口臭や体臭などの臭いでお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐