気象病と漢方薬

はじめに

・雨の日は頭痛や浮腫みがする

・気圧が下がったり、台風が近づくとめまいや古傷が痛む

・梅雨の時期は身体が重だるくなったり、気分が落ち込む

など気候や気圧、湿度などの変化により生じる不調を「気象病」といいます。

「気象病」の代表的な症状として以下のものがありますが、自然の影響により生じる不調だからと諦めている方も多いのではないでしょうか。

□頭痛、めまい、耳鳴り

□疲労、倦怠感、眠気

□腹痛、下痢

□関節痛、しびれ、古傷が痛む

□気分の落ち込み、憂鬱感

中医学には「天人合一:てんじんごういつ」という考えがあります。
「天人合一」とは、人間は自然界の影響を受けて生活しているため、人体と自然界を分けて考えることはできないという考えをいいます。
このように古くから自然との調和を一番に考えている中医学は、西洋医学とは異なり気候の移り変わりに対応できるような漢方薬が数多くあり、非常に得意な分野といえます。

これから梅雨に入り1年の中でも「気象病」に苦しむ方が多くなる季節。中医学の考えを取り入ることで、少しでも不調から抜け出すきっかけを作ることができたらと思います。

中医学で考える気象病

「気象病」に関わらず、中医学では体内の「気・血・津液」のバランスを非常に重要と考え、これらが過不足なく、そして滞りなく巡っていることで健康な状態が保たれます。

1.津液(水)の滞りタイプ(痰湿タイプ)

梅雨の時期や雨の日など湿度が高い日は、水を吸った除湿剤のように身体内の水が増え、水の滞りによる不調が生じます。

このタイプの特徴は
□頭や身体が重だるい

□めまい、耳鳴りがする

□むくみやすい

□関節が痛む

□軟便や下痢になりやすい

身体内にある余分な水分を解消する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:勝湿顆粒、平胃散、五苓散など

普段から生冷飲食(冷たい飲み物やサラダ、お刺身、アイスクリームなど)や肥甘厚味(脂っこい物、甘い物、味の濃い物)を多く摂るような方は、身体内に余分な水分を溜めやすくなります。

身体内に湿(水)が溜まっている人は、外の湿の影響を受けやすいと言われ、中医学ではこれを「内湿が外湿を呼ぶ」といいます。

湿度の変化による不調を生じやすいタイプは、日頃から身体内に余分な水を溜め込まないことが重要になります。

また、中医学では「脾は生痰の源」という言葉があり、脾胃(胃腸)の働きが低下していると水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まりやすくなると考えます。

□疲れやすい

□食欲がない

□食後、お腹が張ったり、眠くなる

□軟便気味、下痢しやすい

などがみられる方は、まずは脾胃(胃腸)の状態を改善させることや上記で述べた生冷飲食や肥甘厚味を控えるなどの生活習慣を見直すことから始めると良いかもしれません。

2.気の滞りタイプ(気滞タイプ)

自律神経には、交感神経と副交感神経があり、内臓の働きや代謝、体温、メンタルなど私たちの身体の様々な機能をコントロールしています。

自律神経が乱れる主な要因は、精神的/肉体的なストレスなどがありますが、気温や気圧、湿度の変動も私たちの身体にはストレスと感じ、自律神経がバランスを乱れる要因となります。

このタイプの特徴は
□イライラしやすい、怒りっぽい

□抑うつ、憂鬱感がある

□ため息が多い、胸や脇腹が張る

□生理前症候群(PMS)がある

気の巡りを良くする漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:逍遥顆粒、柴胡疏肝湯、開気丸など

3.血の滞りタイプ(瘀血タイプ)

上記で述べた「水(津液)」や「気」が滞ると、血管内の「血」の巡りも悪くなります。人間の身体は血液が運ぶ酸素や栄養によっていきいきと健康な状態が保たれますが、この大切な役割を担っている血液の流れが悪くなると酸欠や栄養不足となり様々な不調の原因になります。

また、気圧の変化も「血流」に大きく影響します。山に登るとお菓子の袋がパンパンに膨らむように、私たちの血管も低血圧の時は血管が拡張し、普段に比べ血の巡りが悪くなります。

このタイプの特徴は
□首/肩こりがする

□頭痛、関節が痛む、手足がしびれる

□手足の末端が冷える

□生理痛が酷い、経血に塊が混じる

「血」の流れを改善する漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:冠元顆粒、血府逐瘀丸、芎帰調血飲第一加減など

最後に

中医学は「中和(調和)の医学」。
ある先生の言葉ですが、気象病への対処はまさにこの通りだと思います。
自然に対し無理に抗うのではなく、自然と身体を中和(調和)することが症状改善への近道です。
漢方薬や養生など通しお客様一人一人に合った中和(調和)のヒントをお伝えできればと思います。気象病でお悩みの方はお気軽にお越しください。

薬剤師 中目 健祐

めまいと漢方薬

日常生活に大きな影響を及ぼしかねないめまい。
目がグルグルする、フワフワする、またいつどこで起こるか分からないめまいは、ストレスに繋がったり、気持ちが憂鬱になるなど、日々のQOL(生活の質)を低下させる症状の1つかと思います。

・症状がなかなか改善しない、検査しても異常が見つからない
・雨の日や気圧が下がるとめまいを引き起こす
・毎年、春になると何だかめまいやふらつきが気になる
など、めまいに関する悩みを抱えてる方は非常に多い印象です。

めまいの分類

一口に「めまい」といっても、様々な種類に分類されます。

■めまいの自覚症状

■末梢性めまいの特徴

中医学で考えるめまい

中医学では、古くから”めまい”について以下のような言葉があります。
①無虚不作眩:身体に必要なものが不足していなければ、めまいは起きない
②無痰不作眩:痰(余分な水分)がなければ、めまいは起きない
③諸風掉眩、皆属於肝:風によって生じる、めまいやふるえは、みな肝と関係がある

①無虚不作眩:身体に必要なものが不足していなければ、めまいは起きない
 

1.気血不足(きけつぶそく)

中医学では、頭部を「清陽の府」と言い、全身の陽気(エネルギーや栄養素)が集まる場所とされています。
エネルギーが不足している「気虚タイプ」や身体内の栄養や潤いに関わる「血」が不足している「血虚タイプ」は、頭部に必要な「清陽(陽気=栄養素)」を脳に届けられず、栄養不足を起こすことでめまいを引き起こします。

このタイプの特徴は
□動くとめまいが酷くなる
□疲れやすい、倦怠感
□食欲不振
□動悸・不眠
不足している「気」や「血」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:婦宝当帰膠、十全大補湯、補中益気湯など

2.腎精不足(じんせいぶそく)

中医学での「腎」は、「髄(骨)」を生み出し、その「髄」が集まることで脳を形成すると考えます。そのため、脳は「髄の海」といわれ、髄が満たされていれば、脳は正常に活動を維持することができますが、「腎精」が不足し「髄海(脳)」が空虚になると、めまいや物忘れ、耳鳴りといった症状がでやすくなります。

このタイプの特徴は、加齢とともに現れる以下のような症状を伴うことが多いです。
□物忘れが酷い
□足腰がだるく、力が入らない
□耳鳴り
□精力の減退
□更年期に伴う不調
「腎精」を補う漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:六味地黄丸、八味地黄丸、海馬補腎丸など

②無痰不作眩:痰(余分な水分)がなければ、めまいは起きない
 

●痰濁中阻(たんだくちゅうそ)

本来代謝・排泄されるべきドロドロとした余分な老廃物を中医学では「痰濁」と呼びます。水道管がヘドロまみれだと水詰まりを起こすように、「痰濁」が頭部や身体内に溜まると、気や血が脳に十分に届かずめまいを生じます。

このタイプの特徴は
□頭・身体が重だるい
□胸がムカムカする
□浮腫む、下痢・軟便気味
□食欲不振

身体内に溜まった余分な水分を取り除く漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:半夏白朮天麻湯、苓桂朮甘湯、星火温胆湯など

中医学では、「脾は生痰の源」という言葉があり、脾胃(胃腸)が弱いと水分代謝がうまく働かず、体内に余分な水分が溜まり痰が生じやすくなると考えます。「痰」が原因による症状の場合は、まずは脾胃(胃腸)の状態や生活習慣を見直すことから始めると良いかもしれません。

③諸風掉眩、皆属於肝:風によって生じる、めまいやふるえは、みな肝と関係がある

●肝陽上亢(かんようじょうこう)

五行学説では、「肝」は「風」や「木」と関連がありますが、木々が風にあたるとゆらゆらと揺れるように、身体内に「風」が生じると、めまいやふらつきの症状がでやすくなります。

身体内に「風」が生じる原因としては、以下のようなものがあります。
・慢性的なストレスや心配事を抱えている:「肝」は自律神経の働きと関係があります。
・体内の潤い(陰血)が減り、エネルギー(陽気)が相対的に強まっている:自然界では周囲が乾燥すると木々が燃えやすくなり、炎が燃え上がると風を生じます。

春先にめまいやふらつきなどを訴える方が多いのは、春は「春一番」と言われるように、冬から春へ季節の変わり目で強い風が吹くことで「風」の影響を受けやすくなるためです。風により草木が揺れるように、身体内が風の影響を受けることで体内も揺れ、めまいやふらつきなどの症状へとつながりやすくなります。

このタイプの特徴は
□耳鳴り、頭痛
□怒りっぽい、赤ら顔、目が充血しやすい
□血圧が高い
□不眠、夢をよくみる
身体内で生じた「風」を鎮める漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:釣藤散、抑肝散、星火睛明丹(石決明、白僵蚕含有食品)など

④その他

上記以外にも血の滞りが原因の「瘀血(おけつ)タイプ」や冷えが原因の「陽虚(ようきょ)タイプ」などもあります。

最後に

漢方薬に頼ることも大事ですが、それ以上に日々の養生が症状改善の近道となります。日頃の食事や運動、睡眠、ストレスなども合わせて見直してみましょう。

<おすすめ食養生>
●気血不足タイプ
・気の不足:米類、芋類、豆類、肉類
・血の不足:レバー、鶏肉、小松菜、ほうれん草

●腎精不足タイプ:山芋、長芋、枸杞の実、黒豆、黒ゴマ

●痰濁中阻タイプ:キノコ類、海藻類、はと麦、はるさめ

●肝陽上亢タイプ
・ストレス過多:セロリ、春菊、柑橘類、酢の物
・潤い不足:れんこん、きゅうり、トマト、豆乳、豚肉

原因がなかなか特定しづらい「めまい」は漢方が得意とする分野です。
めまいの治療で悩んでいる、症状が改善しない、体質に合わせた漢方薬を服用してみたいという方は、お気軽にご相談ください。

薬剤師 中目 健祐