日本人は胃腸が弱い!?
日本人は胃腸が弱い」と耳にすることはありませんか?
実際、多くの方が下痢や軟便、食欲不振などの胃腸トラブルに悩んでいます。
では、なぜ日本人はこのような症状を起こしやすいのでしょうか?
本題に入る前に、中医学的な視点からから紐解いてみましょう。
🌿 中医学の基本「天人合一(てんじんごういつ)」とは?
中医学には「天人合一:てんじんごういつ」という考えがあります。
これは、「人の体は自然と切り離せず、環境の影響を受けながら生きている」という考えで、自然界の変化(気候や湿度など)は、体の中にも影響を及ぼします。
☔日本の風土は“湿”が多い
日本は、海に囲まれた島国で雨が多く、特に梅雨から夏の終わりまでの数ヶ月間は高温多湿の環境が続きます。さらに、一年を通して湿度の高い日が多いのが特徴です。
また、日本人の食生活の特徴として、生物(刺身や生肉など)や冷水(暑さや寒さに関わらず、飲食店ではお冷がでますよね。)を好む人種でもあります。
こうした環境や食生活から、「天人合一」の考え方を踏まえる、日本人は他の人種に比べて身体内に「湿気(湿)」を溜め込みやすいと考えられます。

「脾胃(ひい)」と「湿」の関係
さて、中医学における胃腸(脾胃)の働きをみてみましょう。
「脾胃:ひい」の働きに1つ「運化」というものがあります。
運化の「運」は運送や輸送、「化」は消化吸収を意味しており、運化には2つの働きがあります。
1.精微物質の運化:気・血・津液(水)を作り、全身に届ける
2.水液の運化:水液を吸収して全身に輸送・散布する
水はけの悪いグランドだと、足が取られ体の動きが悪くなるように、エネルギーや水を運ぶ脾には「湿を嫌う」という特徴があります。
よって、「湿」が体内にあると「脾胃」の働きが低下してしまい…
1.精微物質の運化の失調:エネルギーを作り出すことができない
→ 疲れやすい、やる気がでない
2.水液の運化の失調:水液代謝が機能しない
→ 下痢や軟便、浮腫
という状態に陥りやすくなります。
上記の「天人合一」で述べたように、日本人は気候や食生活から「脾胃」が嫌う「湿」を溜めやすく、作りやすい環境下にいます。そのため、気付かない間に「脾胃」に負担がかかっており、徐々に胃腸が弱っていくことで下痢や軟便、腹部膨満感などの胃腸のトラブルが起こしやすい身体になっていきます。
💡中医学で考える下痢
中医学では下痢のことを泄瀉 (せっしゃ)と呼び、下記の5つタイプに分けて考えます。
1.外感泄瀉(がいかんせっしゃ)
~風邪やウイルスが原因の急な下痢~
カゼのように「外から邪気(悪い影響)」が体に侵入し、「脾胃」に影響を及ぼすことで起こります。いわゆる“胃腸風邪”のような症状です。
【「邪気」や「風邪」って何?】という方はこちらのブログも参考になります👇
「カゼと漢方薬 – 日々の生活に漢方を」
カゼ(外感表証)に加えて、「寒」や「熱」の邪が体内に侵入し、脾胃の働きを妨げることで下痢が起こるタイプです。そのため、 カゼ症状(表証)を和らげつつ、体内に侵入した“湿”をさばく(取り除く) 漢方薬を用います。
<🤧外感表証(カゼの症状)の主な症状>
✅悪寒
✅発熱
✅頭痛 など
このカゼ症状に加えて、以下のように「寒湿タイプ」「湿熱タイプ」に分かれる下痢の症状が現れます。
<❄️寒湿タイプ>
✅下痢(水様便、臭いが少ない)
✅腹痛、お腹が張る
✅お腹がゴロゴロとなる
✅食欲不振
漢方薬の例:勝湿顆粒(藿香正気散)、香蘇散、胃苓湯など
<🔥湿熱タイプ>
✅下痢(悪臭が強い、便器にこびりつく、急に激しい下痢)
✅肛門の灼熱感
✅口の渇き
✅尿の色が濃い
漢方薬の例:葛根黄芩黄連湯、黄連解毒湯、五行草(馬歯莧)など
⚠️ 外感表証がない場合でも…
カゼ症状が見られない場合でも、急性の下痢であれば「寒湿」か「湿熱」かを見極め、それぞれに適した漢方薬を使用することが大切です。
2.食傷泄瀉 (しょくしょうせっしゃ)
~食べ過ぎ・飲み過ぎにより生じる下痢~
脂っこいものや味の濃いもの、お酒のとりすぎなどで「脾胃」に負担がかかることで起こります。
<🍶主な特徴>
✅便に未消化物が混じり悪臭がする
✅悪心・嘔吐がする
✅胃がもたれる
✅腐臭のあるゲップをする
「脾胃」に溜まっている食積の消化を促すような漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:晶三仙(山査子、麦芽、神曲)など
3.肝鬱泄瀉 (かんうつせっしゃ)
~ストレスや緊張でお腹を下すタイプ~
緊張する場面(テストや面接、プレゼンの前など)やちょっとした不安(電車に乗った時や学校、会社に行く前)でお腹を下したことはないでしょうか?
中医学では自律神経を主る「肝」の気が高ぶることで「脾胃」が攻撃され、その影響により引き起こされると考えます。

<主な特徴>
✅下痢(精神が緊張状態の時)
✅ストレスを抱えやすい、緊張に弱い
✅脇腹が張る、お腹が張る
✅ゲップをする
「肝」の気の流れを良くしながら、脾胃を守る漢方薬を使うと良いでしょう。
漢方薬の例:逍遥顆粒(逍遥散)、四逆散、柴苓湯など
4.気虚泄瀉 (脾胃虚弱)(ききょせっしゃ(ひいきょじゃく))
~胃腸がもともと弱い体質タイプ~
「幼少期から胃腸のトラブルが多い」
「食後すぐに下痢をする」
「お腹を下すから脂物は食べない」など
一般的に胃腸が弱いと言われる方に多いタイプです。
「脾胃」の働きが低下すると水液代謝が低下するため、腸で吸収されなかった水分が便と混じることで下痢を引き起こします。
【脾胃」の詳しい解説は👇】
「五臓六腑:脾胃の働き – 日々の生活に漢方を」
<主な特徴>
✅下痢、軟便、便秘と様々なタイプに変化する
✅便中に未消化物が混じる
✅食後にお腹が張る、眠くなる
✅疲れやすい、やる気がでない
✅食べても太れない(痩せやすい)
「脾胃」の働きを補いながら、下痢の原因である「湿」をさばく(水分代謝を改善する)漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:健脾散(参苓白朮散)、健胃顆粒(香砂六君子湯)など
5.陽虚泄瀉 (ようきょせっしゃ)
一般的に胃腸が働きやすい温度は、人間の体温(36~37℃)に近い温度と言われており、お腹が常に冷えてる方や慢性的に冷えが強い方は胃腸の機能が低下しやすくなります。
特に高齢の方や生まれつき虚弱体質の方は、全身の臓腑を温める「腎陽」の働きが低下していることが多く、その結果「脾」を温めることができないため、胃腸機能の低下することがあります。

<主な特徴>
✅下痢、水様便(特に明け方に下痢をすることが多い)
✅便に未消化物が混じる
✅手足や腰、お腹の冷え
✅足腰がだるい
✅排尿困難・浮腫み
「腎陽」を補いつつ、「脾」を温めながら働きを建て直す漢方薬を使用すると良いでしょう。
漢方薬の例:人参湯+真武湯、参馬補腎丸など
最後に
中国の古典には「無湿不成瀉:湿がなければ下痢はない」という言葉があります。つまり、「湿」を体内に溜めないことが下痢を防ぐカギとなります。
<「湿💦」を溜めやすい+「胃腸」に負担をかける食事>
🟡甘い物(チョコレート、菓子パン、コンビニスイーツ)
🟡脂物(お肉、揚げ物、ポテトチップス)
🟡乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)
🟡冷たい飲食物(ジュース、お酒、刺身、アイスクリーム)
巷では身体に良いと言われているものが、実は胃腸に負担をかけていることもあります。身体に良いものを積極的に摂るよりも、自身の生活を見直し、身体に不要なものを1つ1つ取り除く方が症状改善の近道かもしれません。
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薬剤師 / 国際中医専門員 中目 健祐